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第26回一橋総研・三田経済研ジョイントセミナーの報告
開催日時:2025年4月22日(火)午後6時30分~午後8時30分
<軽食20分・講演70分・Q&A30分>
開催日時:2025年4月22日(火)午後6時30分~午後8時30分
<軽食20分・講演70分・Q&A30分>
【細川氏は何を語ったか】
敵は本能寺(中国)、トランプ高関税騒動に目を奪われるな
細川氏は日米貿易摩擦が両国にとって深刻かつ差し迫った案件であった1990年代に通産官僚として交渉の最前線にいた。当時(1995年6月)カンターUSTR代表が交渉相手の剣道家でもある橋本通産相に竹刀をプレゼントした際、おどけて橋本氏の喉元にその切っ先を突き付けている写真がある。カンター代表は多分、半分本気であったろう。
日本はトランプの敵ではない
あの頃、アメリカの貿易赤字の6割以上が日本向けで占められていたが、この現実は今はない。日本の対米黒字はその後、ほぼ横ばいで推移、アメリカ貿易赤字の1割前後まで低下、その分、輸出より現地生産を優先、最大の対米投資国となった。一方、対照的なのが中国で昨年のアメリカの対中赤字は断トツで2954億ドルとトップに、日本はその2割強に過ぎない685億ドルと7番目まで低下している。従って、細川氏の今回講演からも現下の対米交渉に対する悲壮感はなく、彼がかつて通産省の米州課長として陣頭指揮に立っていた頃のような檄も飛んで来なかった。細川氏が警戒し、ある意味恐怖している日本の通商交渉相手はアメリカではなく中国だ。
レアアースというアメリカのアキレス腱
米中関税合戦には限界がある。アメリカの対中輸入額は中国の対米輸入額のほぼ3倍に達する。つまり中国の対米輸出における高関税被害は単純に言えばアメリカの3倍となる。一方、中国の対米高関税輸出品目は自ずから限定されており早晩、弾切れとなる。中国は高関税の壁でアメリカを追い詰められるとは考えてない。その代わりにここ数年中国が磨きをかけて来たのがレアアースに代表される重要鉱物資源の輸出規制・管理策だ。今、アメリカは徹底した輸入にかわる国産化路線を遮二無二(しゃにむに)走っているが、電気自動車、太陽光パネル、風力発電、半導体、さらに戦略軍需品に投入されるハイテク電子部品の原材料であるレアアース分野の将来的供給力では中国がアメリカを圧倒しており、アメリカには中国による兵糧攻めの不安がある。すなわち高関税でアメリカにおびき寄せられた外国メーカーがレアアース不足で生産ストップに陥るという悪夢が現実化する図式だ。
中国のサプライチェーン覇権戦略
細川氏はレアアースに象徴される中国の輸出規制・管理政策が極めて体系的な「サプライチェーン覇権戦略」に成長しつつあることを警告する。同戦略は3段階モードで形成されるという。最初が「誘致モード」で外国企業の欲するレアアースを輸出規制して、代わりに中国内での合弁事業を促し誘致企業からの技術習得を果たす。次に合弁生産される当該製品の輸入を禁止し、補助金等により国産化を徹底支援して「排除モード」段階に進む。国産化が軌道に乗り始めると敢えて過剰生産を誘導し、かつての合弁相手を蹴とばし国外マーケットへの単独進出を本格化させ「支配モード」に入る。
日本の前途
アメリカのWTO(旧GATT)秩序を根底からひっくり返す高関税政策も、中国の自己保有資源を威嚇材料にしながら狡猾に国際分業システムの覇権型再編を目論む戦略も、ある意味、ロシアのウクライナ侵略同様、第2次世界大戦後の世界秩序が崩壊過程に入った現象としてとらえられよう。さて、日本はどう立ち向かうか、かつて日米貿易戦争の渦中を走り抜けた元通産官僚の猛者、細川氏にとっても情勢は複雑かつ混とんそのもののようだ。
(文責:一橋総研 市川周)
細川氏は日米貿易摩擦が両国にとって深刻かつ差し迫った案件であった1990年代に通産官僚として交渉の最前線にいた。当時(1995年6月)カンターUSTR代表が交渉相手の剣道家でもある橋本通産相に竹刀をプレゼントした際、おどけて橋本氏の喉元にその切っ先を突き付けている写真がある。カンター代表は多分、半分本気であったろう。
日本はトランプの敵ではない
あの頃、アメリカの貿易赤字の6割以上が日本向けで占められていたが、この現実は今はない。日本の対米黒字はその後、ほぼ横ばいで推移、アメリカ貿易赤字の1割前後まで低下、その分、輸出より現地生産を優先、最大の対米投資国となった。一方、対照的なのが中国で昨年のアメリカの対中赤字は断トツで2954億ドルとトップに、日本はその2割強に過ぎない685億ドルと7番目まで低下している。従って、細川氏の今回講演からも現下の対米交渉に対する悲壮感はなく、彼がかつて通産省の米州課長として陣頭指揮に立っていた頃のような檄も飛んで来なかった。細川氏が警戒し、ある意味恐怖している日本の通商交渉相手はアメリカではなく中国だ。
レアアースというアメリカのアキレス腱
米中関税合戦には限界がある。アメリカの対中輸入額は中国の対米輸入額のほぼ3倍に達する。つまり中国の対米輸出における高関税被害は単純に言えばアメリカの3倍となる。一方、中国の対米高関税輸出品目は自ずから限定されており早晩、弾切れとなる。中国は高関税の壁でアメリカを追い詰められるとは考えてない。その代わりにここ数年中国が磨きをかけて来たのがレアアースに代表される重要鉱物資源の輸出規制・管理策だ。今、アメリカは徹底した輸入にかわる国産化路線を遮二無二(しゃにむに)走っているが、電気自動車、太陽光パネル、風力発電、半導体、さらに戦略軍需品に投入されるハイテク電子部品の原材料であるレアアース分野の将来的供給力では中国がアメリカを圧倒しており、アメリカには中国による兵糧攻めの不安がある。すなわち高関税でアメリカにおびき寄せられた外国メーカーがレアアース不足で生産ストップに陥るという悪夢が現実化する図式だ。
中国のサプライチェーン覇権戦略
細川氏はレアアースに象徴される中国の輸出規制・管理政策が極めて体系的な「サプライチェーン覇権戦略」に成長しつつあることを警告する。同戦略は3段階モードで形成されるという。最初が「誘致モード」で外国企業の欲するレアアースを輸出規制して、代わりに中国内での合弁事業を促し誘致企業からの技術習得を果たす。次に合弁生産される当該製品の輸入を禁止し、補助金等により国産化を徹底支援して「排除モード」段階に進む。国産化が軌道に乗り始めると敢えて過剰生産を誘導し、かつての合弁相手を蹴とばし国外マーケットへの単独進出を本格化させ「支配モード」に入る。
日本の前途
アメリカのWTO(旧GATT)秩序を根底からひっくり返す高関税政策も、中国の自己保有資源を威嚇材料にしながら狡猾に国際分業システムの覇権型再編を目論む戦略も、ある意味、ロシアのウクライナ侵略同様、第2次世界大戦後の世界秩序が崩壊過程に入った現象としてとらえられよう。さて、日本はどう立ち向かうか、かつて日米貿易戦争の渦中を走り抜けた元通産官僚の猛者、細川氏にとっても情勢は複雑かつ混とんそのもののようだ。
(文責:一橋総研 市川周)
【講師プロフィール】
細川 昌彦 氏
明星大学経営学部教授
東京大学法学部卒1977年通産省入省。貿易局安全保障貿易管理課長、通商政策局米州課長、貿易管理部長など対米通商交渉の最前線で活躍。在職中にスタンフォード大学客員研究員、ハーバード・ビジネススクールAMP修了。2020年9月より現職。著書に『メガ・リージョンの攻防』、『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かう?』『トランプ2.0 米中新冷戦 予測不能への備え方』等。
明星大学経営学部教授
東京大学法学部卒1977年通産省入省。貿易局安全保障貿易管理課長、通商政策局米州課長、貿易管理部長など対米通商交渉の最前線で活躍。在職中にスタンフォード大学客員研究員、ハーバード・ビジネススクールAMP修了。2020年9月より現職。著書に『メガ・リージョンの攻防』、『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かう?』『トランプ2.0 米中新冷戦 予測不能への備え方』等。
第25回一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー報告
実施:2024年12月19日(火) 午後6時30分~午後8時30分
【テーマ】浮遊するニッポン政治の行方を問う
【講師】 井手英策氏 慶應義塾大学教授 【論点】
アメリカ政治で共和党が大統領・上下両院のいずれも制す「トリプルレッド」を果たし、強固で明確な政権運営を確立したのに対して、ニッポン政治は10月の総選挙で自民党が過半数割れに追い込まれて以来、流動化・浮遊化が進行し、「対決より解決」「103万円の壁」の国民民主党に象徴される目先利益誘導型の政党間駆け引きが目立つ。この傾向に対して、戦前の政党政治崩壊プロセスと重ねて警告している井手英策氏を招きニッポン政治の今後の行方を徹底討議した。参考: 戦前と現在、野党の悲しい一致 | | 井手英策 | 毎日新聞「政治プレミア」 |