実施レポート
第15回 一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー [2021年3月22日オンライン開催]
『インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか?』
BY 小谷 賢氏 日本大学危機管理学部教授
『インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか?』
BY 小谷 賢氏 日本大学危機管理学部教授
1973年生まれ。ロンドン大キングスカレッジ大学院、京都大大学院、英国王立統合軍防衛安全保障問題研究所、防衛大学校等を経て2016年から現職。専門はインテリジェンス研究で、著書は『日英インテリジェンス戦史』(早川書房)他。NHK「英雄たちの選択」レギュラーゲスト。
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ー拡散する出典不問情報
新型コロナウイルスの情報に関して、情報の真偽を見極めるのは「難しい」(59%)、しかし気になるニュースは「誰かに伝えた」(83%)【LINEリサーチ調べ2020.05】というように、フェイクニュースを含む真偽不明なままの情報が氾濫・拡散するインフォデミックな危険がまさに現実化している。スタンフォード大の報告では若者の間で出典を確認してその信頼性を評価するという基本動作が共有されていない。ツイッター等のSNS上でシェアされた情報を受け取る側の59%が当該情報の出典・出所をクリックせずただ鵜呑みにし、元記事を読まずにニュースを拡散している。 情報には自分自身で取りに行かねばつかめない情報:「PULL型情報」(新聞・雑誌・書籍・検索)と一方的に耳目に入って来る情報:「PUSH型情報」(テレビ・ラジオ・ユーチューブ・SNS・噂)があり、「PUSH型情報」がインフォデミックを将来する。 ーフェイクニュースに打ち克つ情報リテラシー 「ポスト真実の時代」とは正確な情報よりも、感情に訴えかける情報や共感できる情報がもてはやされフェイクによって人々が動かされる時代。2016年の米国大統領選挙や英国のブレグジット選挙がその典型。この時代には当該分野の事象や情報を正しく理解・分析・整理し、それを自分の言葉で表現したり、判断したりする「情報リテラシー」が求められる。 情報とは人間にとって判断の基礎となるものだが、雑音、噂、デマ、フェイクニュ―スといった「ノイズ」と真に重要な情報である「シグナル」とが存在する。また「誤情報(mis-information)」 と「偽情報(dis-information)」があり、「誤情報(mis-information)」が悪意のないただの誤った情報を意味するのに対して、「偽情報(dis-information)」は悪意のある情報で正誤が入り交じっている。一方、「フェイクニュース」という言葉は情報定義上曖昧な表現であり出来れば避けた方がいい。 ースパイはマスコミ関係者を利用しなくなった 影響力工作(インフルエンスオペレーション)で有名なのが1970年後半に東京でスパイ活動をしていたKGBのレフチェンコ。彼の任務は日本の政財界、マスコミに働きかけることで日米関係を悪化させると同時に、日ソ関係を好転させることにあった。 その手段としては、マスコミの操作や支配、文書もしくは口頭による逆情報の流布等で、日本のほとんどの新聞社内に協力者を抱えていた。だが今世紀に入ると、今度は影響力工作がサイバー空間で行われることになり、サイバー空間には国境もないため、もはや相手国のマスコミ関係者を抱え込む必要もなく、ネットに接続している全ての人々を直接の対象に出来ることになった。 その典型が2014年のロシアによるクリミア併合である。ウクライナの親ロシア派に対する「偽情報(dis-information)」発信が親ロシア派住民による反政府デモを誘導しウクライナ内政を揺さぶり、政情不安になったところで「所属不明の軍隊」が介入し、その後の住民投票でクリミアのロシア帰属が決定される。 ー相手国の国民を洗脳するインテリジェンス戦略 「リフレクティブ・コントロール」とは相手国の国民に対して大量の情報を流し混乱誘導し、結果政治家も誘導される国民の流れに追随せざるを得なくさせるもの。「シャープ・パワー戦略」とは、西欧流の「ソフト・パワー」とは真逆のもので、「偽情報」と恫喝によって相手国民の判断力を奪い国内世論をねじ曲げていくもの。現在豪州は中国の「シャープ・パワー戦略」の実験場と言われる。欧米民主主義国は「シャープ・パワー戦略」で使われる「偽情報」を法律で取締ことが出来ないのが弱点。一方、中露ではフェイクニュースの国内拡散は違法行為となっている。 ーIS(イスラム国)と米国の熾烈な情報戦争 IS躍進期に米国政府はISに入隊する若者が増大するのを阻止するためISに批判的な動画を作成するため70億ドルを投じたが、効果出ず。むしろIS側の発信情報をツイッター、グーグル(ユーチューブ)、フェイスブックから排除するプログラムを導入した方が効果的であった。 さらにサイバー技術とプロパガンダ工作に秀でたジュネド・フセインという英国出身のIS戦闘員がSNSを利用して世界中から賛同者を集める計画を推進していたが、米英はフセインを暗殺リストの3番目にリストアップし、英政府通信本部(GCHQ)がネット上のアクセス記録からフセインの位置情報を割り出してドローンで殺害。享年21歳であった。 ー我々はどうすべきなのか? ひるがえって「インフォミックでフェイクな時代」、我々はどうすべきなのか?先ずはファクトチェックの重要性を認識すべきだ。欧米諸国には「EU vs Disinformation」や「FactCheck.org」(米)のような団体があり、日本でもNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」という団体が活動している。但し、ファクトチェック自体が間違うこともあり、やはり個々人の「情報リテラシー」が最後の砦となることには変わりない。 検索サイトが本物かどうかのチェックポイントとしては以下の点に注目すべきである。 【見出し】関心を引くために本文と違う見出しをつけていないか。 【内 容】主観的か、客観的か。最後まで読む。 【出 典】ちゃんと出典にあたるべき。 【コメント】人間の書いた投稿なのか、ロボットによるものなのか。 【ロ ゴ】ねつ造やコピペで簡単に真似できる。 【筆 者】筆者名のない文章は要注意。 【写 真】オリジナルでなければ他のサイトでも要チェック。修正されていないか。 【URL】出来れば確認するに越したことはない。似たようなURLがないか。 以 上 (文責:一橋総研 市川周) |