実施レポート
第16回 一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー [2021年6月29日オンライン開催]
「大地変動の時代」に入った日本列島でどう生きるか?
講 師:鎌田浩毅氏 京都大学 レジリエンス実践ユニット 特任教授・名誉教授
「大地変動の時代」に入った日本列島でどう生きるか?
講 師:鎌田浩毅氏 京都大学 レジリエンス実践ユニット 特任教授・名誉教授
鎌田浩毅氏 京都大学 レジリエンス実践ユニット
特任教授・名誉教授 1979年東京大学理学部地質鉱物学科卒業。通商産業省地質調査所主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所客員研究員などを経て1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。2021年より現職。専門は火山学・地球科学。難解な理論を明快に解説。富士山噴火危機でテレ朝出演。著著:『首都直下地震と南海トラフ』『地震はなぜ起きる?』他 |
―「大地変動の時代」が始まった
今の時代は千年余前に遡る9世紀の平安時代に似ている。9世紀には869年に東北地方で貞観(じょうがん)地震という丁度3.11と同じぐらいの大規模地震が起きた。その9年後に関東で直下型の大地震が起き、さらに9年後には太平洋側で南海地震という大地震が立て続けに発生した。実は貞観地震の5年前には富士山も噴火している。つまり、3.11をきっかけに9世紀と同じような「大地変動の時代」に日本列島が突入したと覚悟するしかない。 ―日本国が潰れてしまうかもしれない巨大地震がやって来る 日本列島には300年に1回は連動型の巨大地震が起きている。前回の3連動は1707年の宝永地震のM 8.6、実はM9と見られており、このM9クラスの地震が2030年代に起きるであろう。1995年の阪神・淡路大震災から日本列島は陸の地震の活動期に入り、2030年代に海の巨大地震が起きて終止符を打つだろと考えられている。つまり東日本大震災の後にもっと巨大な「西日本大震災」がやって来る。 西日本、つまり東京から九州の海側には、「南海トラフ」という地震の巣がある。トラフとは凹んだ海の盆地のこと。何故凹んでいるかというと太平洋の海の底にある分厚い岩板(プレート)が日本列島に沈み込む時に大陸側のプレートを引きずりこんでいるからで、その場所では100年に1回くらいの間隔で「東海地震」(静岡沖)、「東南海地震」(名古屋沖)、「南海地震」(紀伊半島沖)の3つの地震が起きている。しかも過去の歴史を見ると、おおよそ3回に1回はこの3つの地震が連動して起きる「三連動地震」で、その次のタイミングが1930年代と予測されている。 この「南海トラフ」地域は人口密度も高く人的被害試算は最大32万人で東日本大震災の15倍以上の犠牲者が想定される。また、経済被害想定額はGDP規模4割相当の200~300兆円と試算され、原子力被害を除いた東日本大震災被害約20兆円の10倍以上。下手をしたら日本国が潰れてしまうかもしれない。 ―日本列島はいつどこで地震が起きても不思議でない「ロシアンルーレット」 南海トラフという海の巨大地震だけではなく、日本人は阪神・淡路大震災のような「直下型地震」という陸で起きるM 7クラスの地震の発生も覚悟せねばならない。「活断層」とは地面に力が加わると地下30~50kmあたりの岩石が耐え切れなくなって割れて出来る断層で「直下型地震」の発生源となる。この活断層が日本列島には2000本以上もあり日本列島のどこで「直下型地震」が起きても不思議ではない。 謂わば「直下型地震」の予測というのはロシアルーレットのようなもので、いつか当るが、いつ、誰に(何処に)当るかわからない。そこが原発立地場所であれば計りしれない恐怖となる。政府中央防災会議は首都直下地震が東京でいつ起きてもおかしくない状態にあると指摘、冬の夕方M 7の揺れが東京を襲った場合、全壊・消失建物が61万棟にのぼり、死者が2万3000人(内火災犠牲者が1万6000人)に及ぶと試算する。経済被害は東日本大震災を遥かに上回る95兆円。 ―富士山噴火はスタンバイ状態 3.11以降、日本列島にある110の活火山のうち、富士山を始め20の火山の下で地震が起き始めた。これは日本列島がアメリカ寄りに約5mずれたことによってマグマが揺すられ動きだしたためであり、この20火山は噴火スタンバイ状態にあると言ってよい。 富士山が噴火すると流出する溶岩が東海道新幹線や東名高速道路を寸断し、東西の流通が止まる。火山灰は上空3万メートル近く吹き上げ、偏西風で首都圏に流れる。都市部では火力発電所のフィルターが目詰まりし発電停止、送電線への付着による漏電、浄水場への混入で上水道麻痺などライフラインに致命的障害を起こす。火山灰として降るガラス片が1ヶ月にわたり東京を舞い、目や呼吸器の炎症も起こす。下水道を詰まらせるため下水処理もスコップで集めて袋詰めするしかない等々、現代人が今まで目にしたことのない惨状が広がる。 ―巨大自然災害は当たり前の現象 「必ず来る大災害」に対しては個人や周囲の身近なコミュニティの中で自ら身を守るしかない。先ず救援や供給は途絶えるものと覚悟し、自宅や勤務先にしばらく滞在するしかない。役所は既に「在宅避難」という形容矛盾のような言い回しを当然の如く使い始めている。そのためには水や食料、医薬品、生活用品を個人でも職場でも確保すべきである。さらに今後の国土経営の観点からは3大都市圏が被害を受けた場合、北陸や山陰地方が頼みになる。各種データ管理や首都機能の分散のほか、日本海側と太平洋側を結ぶ道路網の整備等も急ぐべきだ。 日本人は約10万年間この土地に住んでいる。その間、繰り返し地震や噴火は起きていたが、日本民族は絶滅していない。我々の祖先は生き延びてきた。日本人には揺れる大地、変化する大地で生き延びるDNAがあるのではないか、またそのDNAを継承すべきではないか。地球科学的な視点で見れば日本列島で大変なことが起きるのは当たり前のことで、その変化を我々は乗り切ることができるはずだ。 以 上 (文責:一橋総研 市川周) |