実施レポート
第13回 一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー [2020年9月14日オンライン開催]
『「極端気象」と地球温暖化』
By 東京大学大気海洋研究所教授 木本 昌秀 氏
『「極端気象」と地球温暖化』
By 東京大学大気海洋研究所教授 木本 昌秀 氏
1980年、京都大学理学部地球物理学科卒業後、気象庁入庁。同庁予報部、気象研究所を経て1994年に東京大学気候システム研究センター助教授、2001年同教授。専門分野は気象学、気候力学。研究テーマは異常気象や地球温暖化などの気候変動、気候のコンピュータモデルの開発。気象庁異常気象分析検討会会長等を務める。
「異常気象」ではなく「極端気象」と見るべき。 2018年7月には230名が西日本豪雨でなくなり、41度に達した猛暑による熱中症の死亡者は1000名を越え、さらに風速50メートル級の台風が2つ日本列島を直撃した。この年ひと夏の保険会社の支払金は1兆円を越え、東日本大震災の保険金支払額1兆2千億円に迫った。2019年には台風15号が千葉市内の一角をブルーシートの街に変え、続く19号は北陸新幹線長野車両基地を浸水させ全車両が廃車となった。今年の夏も熊本豪雨を始め気象災害の恐怖・不安は続いている。しかし、これを「異常気象」と呼ぶのは正しくない。気象現象自体には「異常」も「正常」もなく将に気象メカニズムの中で動いており、その現象が「極端化」した時に「災害」となる。この「極端化」の背景にあるのが地球温暖化である。 地球温暖化はゆっくり徐々に進んでおり、地球全体の平均ではこの100年間に0.7度の上昇だが、東京では約3度上昇。このうち地球温暖化によるものが1度で、残り2度は都市化が原因。これから100年後にはどうなるか?IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)は、このままCO2の排出に制限がかからなければ、さらに4度上昇すると発表、もし世界全体で「脱炭素・ゼロ炭素」(ゼロエミッション)に向けて動き始めれば1.5度から2度までの上昇に抑制出来るとした。 温暖化現象は短期ではつかめない。ゼロエミッションを手遅れにするな。 地球温暖化が気象現象としての気圧配置に対して、かさ上げ的な影響を与えることを“イベントアトリビューション”といい、これが「極端気象」を招来する。従来と同じ気圧配置による台風でも温暖化の影響を受けた場合、雨量は7~8%位までかさ上げされることがある。2018年の台風・豪雨は将にその典型例であり、気象自体の異常性よりも温暖化による極端化現象と見るべきである。 温暖化は去年暑かったが、今年は涼しいという短期的感覚で捉えるものではなく、極めて長期的な視野からつかむもの。日々流れるニュースではなく、長期間のデータを重ねていく中でわかって来る。只、ここ数年、「極端気象」が頻繁に話題になることで人々の危機感・不安が高まっている。「極端気象」の制御・危機回避の王道は人間活動から排出されるCO2の量をひたすら抑制していくゼロエミッションへの注力することしかなく、その実行が遅くなればなるほど抑えるべき水準はどんどん高くなる。 温暖化を放置すれば次の氷河期は来ないかもしれない。 CO2による地球温暖化に対して、10万年周期で交替する地球自体の氷河期(温度低下)と間氷期(温度上昇)のサイクルを指摘し、20世紀後半から間氷期に入ったことが温暖化の原因であるとという議論が存在する。これは否定しない。只、温暖化のスピードが過去の間氷期の温度上昇記録を遥かに上回っており、人間活動によるCO2増大を無視することは出来ない。極論ではあるが人類がCO2削減に失敗すれば10万年先に氷河期はやって来ないかもしれない。 気象情報を上手に利用し、「極端気象」危機をサバイブせよ。 気象庁出身の学者として断言するわけではないが、これから温暖化に伴い極端気象が増加する。気温はますます高く、豪雨は激しく、台風も巨大化する。気象庁は狼少年にはなれないが、「よりよい予測は命を救う」を信念に気象情報技術の向上に注力しながら、時には「空振り」も恐れず大胆な事前予測に踏み込んでいくことになろう。 気象災害リスクのレベルは自然環境の変化と人間社会の対応で決まるが、基本的に災害は「想定外」時に発生する。気象情報に対してはこれまでの経験に頼らず真摯に向き合い、積極的に活用し「最後は自分で判断する」ことが肝要。 (文責:一橋総研 市川周) |