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実施レポート

第14回 一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー [2020年12月16日オンライン開催]
『トランプ後のアメリカと日米関係の行方』
BY 渡部恒雄 氏 笹川平和財団 上席研究員
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東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政治と政策、日米関係、アジアの安全保障の研究に携わる。2005年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て2009年4月より東京財団政策研究ディレクター兼上席研究員。2016年10月に笹川平和財団に転じ、2017年10月より現職。TV出演多数。最新著書『2021年以後の世界秩序―国際情勢を読む20のアングル―』(新潮新書)
​―何故、トランプはアメリカ国民の半分を惹きつけたのか?
 先般の大統領選挙はトランプとバイデンで得票数をほぼ二分する結果となり、依然アメリカ国民の半分はトランプ時代が続いている。少なくとも続くべきと思っている。トランプは何故そこまで彼らの心をつかんだのか?渡部氏は以下3つのキーワードから説明する。
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  • 「心の底の正直さ」
 トランプは確かに嘘が多いが、どこかで「心の底の正直さ」がある。それは彼が政治のアマチュアであるためだ。プロの政治家はどうしても途中で妥協してしまう。それに対してトランプは最初、選挙で約束したことには真っ直ぐに向かって行く。只、その過程ではいい加減なことをドンドン言ってしまう。しかし、それは支持者にとっては気にならない。なぜならトランプは約束したことを守ろうとするからだ。

  • 「ガスライティング効果」
 一方、トランプの非支持者から見れば、トランプ支持者は彼の「ガスライティング効果」によってマインドコントロールされていると見ている。「ガスライティング効果」 とは社会心理学用語で1940年代に制作された映画『ガス灯』に由来する。イングリッド・バーグマン扮する主人公が夫の嘘や仕掛けにマインドコントロールされ、本来自分が見ていること信じていることの方が間違っているという心理状態に陥っていくようになる。トランプの批判者からは支持者達がまんまとトランプの「ガスライティング効果」にのせられ正気を失っているように見える。 

  • 「ソシオパス(SOCIOPATH)」
ソシオパスとは、反社会的な行動や気質を特徴とする精神疾患(パーソナリティ障害)を抱えた人のことを言う。トランプファミリーの暴露本を書いた姪のメアリー・トランプによれば、トランプはこの気質を父フレッド・トランプの教育により引き継いでいる。フレッドは不動産業で財をなした典型的なソシオパス型人間で、息子トランプに対して社会的規範についてうるさく言わず、むしろ成功すること、弱さを見せないこと、勝つことが一番で、そのためには手段を問わないと教え込み、何よりも負けることを許さなかったという。

トランプはこの父親の気質を受け継いでおり、例えば共通のルールを守るという道徳的なところが希薄だ。また他者に対する共感を持ち得ないというような行動につながっている。従って、今回の大統領選敗北についても精神構造的には拒否し続けることになる
 
―トランプのパンドラの箱(「アメリカ・ファースト」)は依然開いたままである。
 アメリカ・ファーストはトランプのみならず、アメリカの本音だ。今までアメリカは世界にアメリカの価値を広め、それで世界の秩序を守ると言ってきたが、そのために70年以上、重い負担を背負って来たのだから「もういいや」と、アメリカ人は右も左も思っている。

グローバル経済というが結局、金持ちがどんどん金持ちになって下には降りてこないじゃないかとトランプ支持の労働者層もバーニー・サンダースを支持する民主党左派も思っている。対外的には現在の秩序から恩恵を受けている国はもっと負担すべきだ。日本、韓国、欧州はアメリカにフリーライドするな。もっと出せ。これは左右問わずアメリカ国民共通の感情だ。

 アメリカ・ファーストという発想は世界全体に広がった。その意味でトランプは21世紀初頭の世界史におけるヒーローかもしれない。先進各国にはもうアメリカに期待出来ないという意識が広がっている。日本も軍事面での過度な対米依存や経済面での過度な対中依存を見直し、新たなヘッジ構造を考えて行かねばならない。
 
―日本の活路は「自由で開かれたインド太平洋」にある。
 では日本は何をやるか?キーワードは「自由で開かれたインド太平洋構想」だ。インド、オーストラリア,ASEANそして,欧州、出来れば韓国も入れたミドルパワー国家群が外交・軍事で協力連携し、経済でもサプライチェーンで協力しあう。米中の狭間で一国のみでやるのは大変だから仲間を増やそうという考えだ。そもそも第2次世界大戦後これまで、アメリカの圧倒的な経済力と軍事力それに民主化イデオロギーで世界秩序が保たれたのは特殊現象であったと考えた方がいい。

 一方、米中間の摩擦が高まるほど日本にチャンスも訪れる。米中狭間で困っている国々の間に入って地域のコーディネーター(世話役)のような機能を目指す。中国の「一帯一路」のように自ら主導権を握るような独自構想は出さない。またアメリカのように周辺地域からの撤退もあり得ない。日本のリードでまとめあげたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)のように、たとえアメリカが当面不参加でも将来の参加に向けた地ならしをしていく。日米軍事同盟についても積極的にコスト負担に応じ、アメリカの信頼をつないでいく。

 要は中国と対峙するにあたり、逃げようとするアメリカを左手でつかんで逃がさず、もう一方の右手でインドやASEANやオーストラリアとしっかりスクラムを組んで、「我々はまとまってますよ」と中国に胸を張るようなスタンスが大事だ。こういうことをやれば勿論リスクもあるが日本のチャンスも生まれて来る。
                                                
(文責:一橋総研 市川周)
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