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2045年には人間がたずさわってきた仕事の99%がAI・ロボットに奪われる? 鈴木氏が今回の講演でこだわったのは、AI(人口知能)やロボットが人間の仕事を代替していくことへの単純な科学未来予測という話ではなかった。何故、非正規労働者がどんどん増え、生き生きと未来を語る若者が少なくなっていくのか?といった人間と仕事の本来的なあり方への問いかけであった。 とはいうもの、AI・ロボットが加速度的に人間の携わる職種を奪っていくという近未来的現実も否定出来ない。鈴木氏も、この分野の議論の「定説」となっている「2035年あたりで人間の仕事の半分がAI・ロボットで代替され、2045年頃には、その99%をAI・ロボットが担ってしまうことになる」という予測を敢えて持ち出しながら、自らの問題意識を語った。 どんな仕事がなくなるのか? この「定説」の中では、例えば、以下のような職種は2035年時点で、AIが人間の能力の95%以上を代替カバーしてしまうという。 銀行融資担当者/不動産ブローカー/工場マシンオペレーター/カメラ修理工/苦情処理担当者/測量技術者/弁護士助手/秘書/テレマーケター/会計士・税理士/経理事務員/ネイリスト/購買担当者/保険審査担当者/レンタカー営業所員/ホテルフロント/歯科技師工/建設機械オペレーター/スポーツ審判/ブリーダー しかし、抵抗勢力の存在も無視できない 仕事がなくなる。つまり失業者が増大することを国や社会は許容できるのか?日本の政策担当者は「失業率が二桁になったら政権はもたない」と言う。例えば、完全自動操縦車が2025年には普及可能 となるが、タクシーやトラックの運転手達は政治家・役所に免許保持者の同乗義務の制度化を求めて来るかもしれない。AIやロボット技術の見通しだけでは読みきれない政治・社会面の混乱・調整も、この「仕事消滅」問題は抱えている。 恐るべきは「汎用型人口知能(AI)」 とは言うもの、AIの進化には恐るべきものがある。「汎用型AI」の登場である。囲碁のAIが人間の名人を負かすとか、AIによる完全自動操縦が実現されるということは、人間にとってそれほどの脅威ではない。これらは個々専門分野でのAIの勝利に過ぎない。恐るべしは、人間の赤ちゃんの知能進化の如く、AIの知識習得が汎用的かつ総合的な、まさに人間的な活動対象全体への広がりを持ち始めることだ。2045年のAI95%代替説は、この「汎用型AI」が可能となるという前提に立った予測であると鈴木氏は言う。その時、AIは気配りも、忖度も、責任感までも学習実践しているであろう。 仕事が楽になって来たら、「仕事消滅」が近づく 完全自動操縦化達成直前のタクシードライバーにとって、運転業務は驚くほど楽になる。だが、その先には失業が待っている。AIの人間サポート機能には要注意だ。すなわち、サポートを享受するのは自分だけではなく、その仕事についている全ての人間であるとすれば、その仕事機能の「標準化」が進むことになり、従来の給料は上がらないどころか、差別化が薄まることで賃金低下に向かうことになる。従業員についても代替可能な非正規社員のウェイトが高まり、労働者の貧困化とAIの進化・普及が同時進行するという世界が現れて来ることになる。 AI・ロボット繁栄時代の影 この辺から鈴木氏はAI・ロボット繁栄時代の影の部分を鋭く突いて来る。AI・ロボットが付加価値の高い中身の濃い仕事機能を学習獲得してしまい、人間たちは、パワードスーツ(※人体に装着される電動アクチュエーターや人工筋肉などの動力を用いた外骨格型、あるいは衣服型の装置)を着装した兵士の如く、オールマイティ感覚をもって仕事をこなして行くが、その基本能力は自分のものではない。いつでも他の人間にとって代わられるものでしかない。つまり非正規社員型労働が主流となっていく。AI・ロボットによる、このパワードスーツ型サポート機能が増大すればするほど、人間の労働価値は低下し賃金水準も低下していくと共に、人間の働ける機会が少なくなっていくという“みじめな未来”が見えて来る。 ワークシェアとAI・ロボット税でAI革命に立ち向かえ ではどうするか。鈴木氏のおもしろいところは、個々の企業の利益追求をアドバイスする経営戦略コンサルタントであるにもかかわらず、AI・ロボット革命がもたらすだろう資本主義社会の大きな歪みに対して、まさに「国家・社会戦略コンサルタント」の如き視野から2つの提案を試みる。 先ず賃金低下に対しては、AI・ロボットの導入で生まれた企業の余剰利益に課税して、国民に対する「ベーシックインカム」(※政府が国民の生活を最低限保障するため、年齢・性別等に関係なく、一律で現金を給付する仕組み)型所得支援の原資にする。労働機会の縮小に対しては、ずばりワークシェアで分け合う。 ・・・・・・こんなタッチの講演であった。鈴木氏はボストンコンサルティンググループ出身の極めて有能な経営コンサルタントであるが、彼が主催するコンサル会社の社名『百年コンサルティング』が象徴するように、鈴木氏には、ある種、ど太い歴史観、大局観、何よりも正義感のようなものが漂っている。滅多に講演なぞは受けない「希少生物」を自認しているが、今回は「布教活動」の思いでやって来たという。この講演報告では納得しかねる方は、鈴木氏の最新著書『仕事消滅』(講談社α新書)のご一読をお勧めします。 (文責:一橋総研 市川周)
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