イベント情報
実施レポート
▶2018年12月12日(水)第8回一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー
「中華」の行方と日本の立ち位置を問う」
By 東京大学大学院総合文化研究科教授 川島 真 氏
▶2018年12月12日(水)第8回一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー
「中華」の行方と日本の立ち位置を問う」
By 東京大学大学院総合文化研究科教授 川島 真 氏
(1)
18世紀の中国清朝時代のアジアはとても豊かだったが、1800年代あたりから中国とインドのGDPが世界に占める割合が減少し、それに対して著しい伸びを見せたのがイギリスとアメリカなどの西側諸国であった。ところが、2000年代に入る前ぐらいから、アジア諸国が豊かになり始め、今後18世紀半ばのようなアジアの優位がまた戻って来るのではないかと思わせる勢いがある。地球の人口の半分近くを占める中国とインドを抱えるアジアが今後さらに成長して富が増えていく可能性がある。200年前のアジアのGDPは世界全体の59.4%であったと言われ、世界銀行やIMFも2030年にアジアのGDPは米国を抜き、世界の50%を超えることをすでに明らかにしている。 (2) 19世紀以前は、およそ人口の分布によってGDPの大きさが決まっていた。それを覆したのが18世半ばから19世紀にかけてイギリスを皮切りに西欧諸国に伝播した産業革命だ。技術革新によって、人口の多寡に関わりなく、富が欧米諸国に集まった。イギリスの蒸気機関から現在のスマートフォンや宇宙開発を含めてこれまでの技術開発はすべて先進国が主導、富も先進諸国が維持してきた。しかし、今後、もし技術革新を人口の多い国が主導したとしたら、その国の人口以上に富を集めることができる。事実2020年のサービスインに向け整備が着々と進んでいる、第5世代通信・5G(「IoTの普及に必須となるインフラ技術」)の通信特許の多くは中国ファーウェイ(華為技術)がもっているといわれる。 (3) このような歴史の流れのなかで「中国を何とかしなくてはいけない」という焦りがアメリカにとくに見られる。 昨年、一昨年あたりぐらいまでは、中国に対する姿勢は東京のほうがワシントンより強硬だった。しかし2018年の5月・6月位からアメリカの対中姿勢は急に大きく変わった。これはトランプ大統領の中間選挙対策などという一過性のものではない。共和党だけでなく民主党も、シンクタンクでは、ハドソンもCSISもランドも、大学の先生では、ハーバードもスタンフォードの先生も中国に強硬になって来ている。 (4) 中国は今、世界史における、ある種の常識を覆す試みをやっている。基本的に今までの先進国の発想では、「経済が発展すれば民主化が進み、民主主義の国が増えれば世界は平和になり安定する」というのが常識とされてきた。従って、日本がODAを実施する際にも必ず当事国に民主化を促してきた。しかし、今、世界では経済が発展しても民主化をしない国が増えている。それどころか、民主主義の国や地域は減りつつある。その先頭を走っているのが中国である。世界第2位の経済大国になっても民主化はしない。これは、善悪の問題でなく、経済発展して民主化していくG7やOECD型の方向性とまったく違う新しいモデルである。ロシアはこの方向性にあり、タイは今、この方向に急カーブを切った。また、「一帯一路」に関係する国々では、この方向性に舵を切る国が増えている。 (5) 2017年秋に習近平主席は、新しい世界秩序として「新型国際関係」を提唱した。新型国際関係とは国が経済関係を基にして、Win-Winの関係でパートナーシップをつくることによって、世界・人類が運命共同体になるという中国の世界平和・発展の維持に貢献する理念と手段である。「一帯一路」政策はその壮大な実験場と言われている。但し、そこには民主主義という言葉は一言も出てこない。 (6) 日本の立ち位置はどうすべきか?両国は永遠の隣国であり、引っ越しすることはできない。すなわち隣国との関係は、安定が何よりも重要である。経済貿易面では、中国は最も重要な国の1つになっている。すなわち中国経済が安定成長することは、日本にとっても重要である。今後、米中が激突に至れば、中国が日本に接近するというのが従来の方程式のようなものだった。しかし現在、従来と少し違う点は、GDP世界第2位の中国が2030年ごろにはアメリカを抜いて第1位になるということで、日本の対米、対中の戦略バランスには十分な熟慮が必要となる。 (文責:一橋総合研究所 市川周)
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