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鈴木壮治の【言いたい放題】

第48回 安保法制そしてアベノミクスで日本を守る!

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

安保法制に必要な「大戦略」

オバマ政権は、グローバルに展開してきた軍事力を縮小化しつつある。その結果、世界は多極化の道を歩み始め、中東における力の秩序崩壊は、IS(イスラム国)を生み出し、中東の地政学的リスクが高まっている。

イランへの融和策(イランに対する制裁解除)により、中東を安定させ、アジアシフトを加速するのが、オバマ政権の戦略的意図である。

中東の安定は予断を許さないが、ドイツが率いるEUは米国と袂を分かちつつあり、今後の世界経済はアジア諸国が牽引していくことを、オバマ政権は冷徹に捉え、アジアへと、舵を切ったのである。

その戦略は、TPPの推進、米軍への自衛隊の協力体制(米国のアジア太平洋地域のリバランス戦略に自衛隊が組み込まれる)構築などに、見出すことができる。

米国のアジアシフトに沿った安倍政権の戦略が、集団的自衛権行使容認による安保法制化そしてTPPへの参画である。

戦後の日本の安全は、個別的自衛権と、米国の武力行使(在日米軍基地も含む)を受け入れる集団的自衛権の「消極的行使」の組合せによる体制(1959年12月の砂川事件最高裁判決で合憲とされた)で守られてきた。

安倍首相は、イスラム原理主義者によるグローバルテロの過激化、中国の軍事的脅威に危機感を抱き、前述の体制では日本の安全は守りきれないと判断した。そして、憲法を柔軟に解釈、集団的自衛権の限定的行使を可能とし、日本の安全保障を確かなものにする不退転の決意を示し、9月19日未明、参院本会議で安全保障関連法案の採決が行われ、自民・公明・次世代などの多数で可決・成立した。しかし、残念ながら、安倍首相は、自らの真意を国民に充分に理解してもらえないでいる。

日本は、戦後、それなりの経済規模を達成し、技術立国としての評価も得てきた。しかし、その民主主義的体制はナショナリズムを欠いたものであった。その結果、生存共同体である国家に価値を見出す志向性が育たず、外交・安全保障そして経済などの国の存立に深く関わる分野を統合し、日本を守る「大戦略」を描けないでいる。

「大戦略」を欠いた安保法制は、「枝葉」の安保論議の対象となってしまい、国民に不安を抱かせた。

安全保障を支える経済力

世界の多極化が進む中で、日本は世界に占めるGDPの割合を、15%から8%に落としてしまった。高度成長時代から、成熟社会へシフトする過程において、日本は制度、法律を変えることができず、イノベーションが促進されず、企業の新陳代謝も進まず、名目GDPは過去20年間でゼロ成長となり、その結果、「国力」が衰退し、日本の安全保障を脆弱なものにしている。

経済力が増した国家が既存秩序に挑戦することは、歴史が教えている。1871年の時点で、独仏のGDPは716億ドル(1990年価値で計算)で並んでいた。しかし、その後、ドイツは急速に経済力を伸ばし、軍事力を強化した。それに恐れをなしたフランスは、1904年に英国との長年の対立関係を解消し、英仏協商を締結した。

ドイツ・オーストリア・イタリアの三国同盟とイギリス・フランス・ロシアの三国協商の対立を抑えこんでいた「国際秩序」は、1914年の第一次大戦勃発により壊された。

その前年の1913年には、ドイツのGDPは2370億ドル(1990年価値)となり、フランスの1440億ドルを大きく凌駕していた。

2010年に、中国はGDPにおいて、日本を抜き去った。そして、中国は「中国経済のバブル崩壊阻止に役立ちそうなAIIBアジアインフラ銀行(2014年10月24日創立、現在57カ国が加盟)を、米国は黙認せざるを得ない」と読み、AIIB創設を実現した。

日本が既存秩序への挑戦の機会を失ってきたのを嘲るように、中国は米国主導のブレトンウッズ体制に風穴を開けることに、「取り敢えず」成功したことになる。

また、今年の7月に、BRICS, ユーラシア経済同盟そして上海協力機構によるサミット・ミーティングが開催され、ユーラシア経済同盟が中国の「一帯一路」(ユーラシアをカバーするインフラ構築プロジェクト)に協力することを確認し、多極化への動きは勢いを増している。

経済力向上のための具体策

アベノミクスを成功させ、経済力を強化し、日本の安全保障能力を高めなくてはいけない。現在の日本の潜在成長率は0-1%程度であり、それを高めるためには、企業の設備投資増加が重要である。

しかし、ここ数年の企業の設備投資は名目GDPの13%を占める程度で低迷し、その結果、大企業(資本金10億円以上)の内部留保が過去最高の285兆円(2014年12月)になった。

今年の4月-6月期の国内設備投資は前年同期の5.6%増の9兆385億円で、2008年9月のリーマンショック以降の4月-6月期では、最高の伸びを示した。しかし、経常利益は、前年同期比23.8%増の20兆2881億円増であったことを考えると、設備投資の伸びは物足らない。

民間の設備投資が伸びないのは、既存の制度、法律、商慣習が「壁」となって、投資によるイノベーションが期待できないのが一因である。特に、農業、医療、労働などの分野における既得権益グループは、手強い相手であり、新規参入が困難となっている。

国連が2013年に発表した「世界人口展望」によると、2025年には80億人を超えると予想されている。よって、企業のグローバル化とは、国内1億人の市場に縛られるのではなく、グローバルな市場である70億人を相手に企業活動を行うことである。そのためにも、グローバルマーケットで勝ち抜ける商品、サービスを生み出すためのイノベーションを促進する規制緩和が必至である。

アベノミクスの成長戦略は「新自由主義的な規制緩和と市場原理導入策(効率化策)」と「特定分野を対象とした補助金政策、官民連携ファンドなどの官主導策(再分配政策)」に大別される。

金利による金融政策の「ティラー・ルール」より、物価上昇目標をマネタリーベースの増加で実現しようとする「マッカラム・ルール」へシフトした日銀による第一の矢「異次元の金融緩和」、政府主導の第二の矢「機動的な財政政策」はデフレ脱却に、それなりの効果はあるが、第三の矢「成長戦略」において、新自由主義的な構造改革&市場原理の導入に「没頭」すると、デフレ基調を呼び戻す恐れがある。

しかし、その異なる二つをうまくバランスさせ、日本経済を安定成長軌道に乗せなくてはいけない。官僚主導(実態は各省庁がバラバラに行っている)だけでは、ダイナミックな政策のイノベーションは期待できない。よって、企業が得意とする「共創型のオープンイノベーション」を導入するなど、民間の知恵とノウハウを積極的に取り入れ、日本経済を安定成長させたい。

PFI事業(公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法)が導入されて、14年以上が経ち、プロジェクト数は400を超し、総額4兆円の規模に達した。

今後10年で、10-12兆円の事業を実施するのが、政府の目標である。省庁と地方自治体が民間と連携するPFI事業は、行政の財政健全化・コスト削減の目標に加え、エネルギー対策、地域コミュニティの活性化、防災そしてインフラ保全などの「社会的価値」の創出・向上への多大な貢献があり、アベノミクスの成長戦略を担うものであり、その積極的展開が望まれる。

現在の日本は、省庁による縦割型中央集権で統治されている「官治」であり、それに食い込み、「岩盤」に例えられる既得権益勢力を打破するためには、新自由主義経済的手法である「国家戦略特区」なども有効である。

しかし、それだけでは、抜本的な改革はできず、明治維新の際、維新政府を創り、そこが幕府権力を吸い上げたように、道州制を実現し、中央官僚の権力を各地域が取り込み、地域の文化、伝統、自然そして産業構造に合った独自の政策を実現していくべきある。

個性豊かな「国」の集まりは、多様性に富む投資ポートフォリオにも似て、日本全体として、グローバルリスクに対応できる柔軟かつ強靭なものになる。

地方分権化と言えば、フランスが先達である。1980年代に採択された地方分権化法の一つとして、国と県を結ぶ「地域圏」の権限強化、地域圏議会の公選制が導入された。

この政策により、中央政府の承認無しで、地方行政の一部が地域圏単位で行われるようになった。市民と地域圏議会の連携による長年の努力が、2015年4月のフランス国会による「公共政策を法制化する際、生活の豊かさ指標を考慮すべきとする」法案に可決により報われた。日本も、このようなフランスの動きを参考にしたい。

政治と経済が織りなす「大戦略」

ウィーン生まれのユダヤ系経済学者カール・ポランニー(1886-1964)は、その著書「大転換」(1944)で「自由も民主主義も経済システムの従属関数であった。ファシズムを生み出し、第二次大戦を勃発させたのは、市場社会(経済が動かす社会)が、その乱暴狼藉により自滅したからである」と述べている。

新自由主義思想による金融資本主義が、金融を社会権力とし、国民社会を市場変動リスクに晒し、富の偏在を生み出し、国家を不安定なものにし、その生存に負荷を与えている今、その思想は蘇り、「反新自由主義経済派」を後押ししている。

しかし、中央集権的な計画経済が非効率であり、自由と民主主義を消滅させたことは歴史が証明している。よって、経済における自由を確保しつつ、民主的政治が、生存共同体である国家のために、経済を機能させることにより、政治(軍事を含む)と経済が協働する国家生存のための「大戦略」を構築し、実行しなくてはいけない。

グローバル覇権を念頭に置く米国は、自由、民主主義、人権などに普遍的価値を見出す「拡張型ナショナリズム」の国である。日本は、独自の文化伝統を大事にし、多様性を認め、共生の理念に価値をみいだす「収斂型のナショナリズム」が相応しく、それを反映した経済思想により、新自由主義経済を超えていくべきである。

ナショナリズムに基づいた国民のための経済思想が無いと、多くの国民は、強欲な資本の濁流に飲み込まれ、「周辺の民」の境遇に落とされる。経済合理性を追い求める価値観の普及、労働の変動コスト化、画一的な大衆消費の喧伝などにより、国民を優しく包んできたものを引き剥がし、日本人の精神・教養は衰退し、日本は独自の文化、伝統そして歴史認識を守れなくなってしまう。

現在のクロアチア出身の哲学者・ルドルフ・シュタイナー(1861年- 1925年)は、第一次世界大戦後の最中、戦争を初めとした社会問題の解決策として、「社会有機体三層化運動」を提唱した。

社会という有機体は、政治、経済そして倫理の三つの領域から成り、それぞれが独自に活性化することが、健全な社会を生むとした。そして、シュタイナーは、政治と経済が癒着すると倫理の領域が消滅するとの警告を発した。米国の政治権力が巨大資本と癒着し、中国共産党が国家経済を牛耳ることにより、社会における倫理性が失われつつある事実より、その警告は正鵠を得たものであった。

社会的価値のある事業(医療介護、公共交通機関、地産地消を目指す再生可能エネルギー発電事業など)が支える地域経済の活性化のために協働する、行政、企業、地域金融機関、専門家そして中間組織の動きの中に、新自由主義経済思想を超える「共生の経済思想」の萌芽を見出すことができる。

島国の国土に流れ着いた多様なものを包摂してきた日本文化は、異なるものに対しても寛容な神々の国である。多角化、多様性の中に安定を求めるべき21世紀の世界において、日本の存在はきわめて重要な意味を持つ。

日本は、国家共同体として、多様性に溢れる自らの文明と文化に根差した自らの政治と経済を協働させ、「世界の一色化」を抑え、多彩な色に染まる世界にしてゆく役割を果たさなければいけない。

雑誌「財界」平成27年10月20日号掲載

( 2015年10月08日 / 鈴木壮治 )

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鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
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■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
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■第18回 郵政民営化と国家安全保障
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■第47回 安保法制そしてアベノミクスで日本を守る!
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