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鈴木壮治の【言いたい放題】

第46回 地方創生と脱国家時代のナショナリズム

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

左右のバランスがとれた「地方創生」

 昨年の12月の総選挙で、自民党が「圧勝」した。正直な印象は、政府・自民党には「知恵者がいる」であった。

 従来、ナショナリズムは、国同士の軋轢において発揮されてきたが、現在では、グローバリゼーションが、右派ナショナリズムと左派ナショナリズムの共通の敵となっている。但し、右派は、文化伝統を破壊せんとするグローバリゼーションを憎み、左派には、所得格差を広げ、地球環境を破壊するグローバル企業・金融資本への反対意識が強い。

 その左派の思想潮流に沿うように、フランスの経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」が、欧米を中心にベストセラーになっている。1月30日の日仏会館での同氏の講演会へのインターネットでの参加申し込みは、数分で締切りとなる程、日本でも注目を集めている。

 20カ国以上を対象に、18世紀から現在に至る経済データを分析し、富と所得の相関を抉り出したピケティの論旨は「長期的には、資本収益率は経済成長率を超え、富の偏在が発生する。所得・資産の格差拡大により、社会や経済が不安定となる。この富の偏在を正すために、富裕税を、世界的に導入すべきである」と明確である。

 前述の右派と左派のナショナリスト双方の琴線に触れるのが「地方創生」である。地方の人材・企業の底力に加え、郷土が育んできた文化伝統、匠の技そして自然を「資源」として、地域経済(中小企業と小規模事業者)創生のために活用し、所得と企業における格差の拡大を防ごうという成長戦略が「地方創生」である。

 昨年12月の総選挙で、自民党は、その「地方創生」を巧みに使った。一方、「真のナショナリズム」を自負する次世代の党は、前述の左派と右派のナショナリズムを抱え、その重みに耐えかね、不本意な結果になってしまった。

 フランスでのイスラム過激派によるテロ年明け早々のフランス、風刺週刊誌を発行する「シャルリー・エブド」本社が、イスラム過激派により襲われ、12名もの痛ましい犠牲者がでてしまった。

 また、「イスラム国」を名乗る過激派集団が、日本政府に対し「身代金2億ドルを払わないと、拘束している日本人二人を殺害する」とのビデオを、インターネット上で公開したあげく、二人を残虐無比に殺したことも耳目に新しい。

 フランス革命により身分制度から解放された民は、個として、国家と社会契約を交わし、国民となった。その革命で掲げられた概念が、自由、平等そして博愛である。しかし、博愛という共同体の相互依存性を表すものは軽視され、フランスへの移民層をも包括する新たなフランス・ナショナリズムは育たなかった。

 ニクラス・ルーマン(ドイツの社会学者、著書は「社会システム理論」他)は、近代社会の構造的特質として「機能的分化の優位性」を挙げ、近代社会は、経済、科学、宗教そして芸術により分化されているとした。

 そして、幾つかの機能に分かれた社会の中で、その属性による差別そして不平等な扱いに怒り、独自の文化伝統そして宗教に丸ごと身を委ね、過激な行動に走ったものが、フランスにおけるイスラム原理主義過激派によるテロ行為であった。

グローバリゼーションとナショナリズム

 グローバリゼーションの波は、共同体としての国家の土台である「独自性」そして「主体性」を崩そうとしている。

 機能分化した近代社会にあり、外交・防衛という機能を米国に依存しながら、何とか、日本人が、誇りを保ち、国民として結集してきたのは、他の機能である経済、科学技術などにおいて、他国を凌駕してきたことによる。

 優位性を保ってきたそれらの機能が、グローバル巨大資本により浸食され、国民経済が脆弱になり、優れた科学技術を持つ企業が外資の支配下に入る状況が続くと、国民が拠って立つものが弱体化する。その結果、我々は、国家の自己包括性を失う恐れがある。

 失いつつある国家共同体を取り戻し、我々の身、生活そして伝統文化などを守っていくために、また、自由(経済)と民主(政治)という相矛盾する概念のバランスを取るためにも、国家という共同体が必要であり、それを支えるナショナリズムを再構築すべきである。

 そのためには、グローバリゼーションの波に翻弄されているナショナリズムを、見つめ直す必要がある。

 ベネディクト・アンダーソン(米国の政治学者、著書は「想像の共同体」他)が「遠隔地ナショナリズム」という言葉を使って、ある国に住む移民の2世、3世が、1世の出身国に、自らのアイデンティティー(自らの存在の拠り所)を見出すことを抉り出した。

 それを裏付けるように、経済のグローバル化により、国を超えて、欧州に職を求めてやってきた移民の2世、3世が、イスラム過激主義者によるテロ行為・軍事行為に加担するケースが多くなっている。

 また、先述のルーマンは、前近代社会の「階層的分化の優位性」は、文化的にも統合された体系を可能とし、ナショナリズムを生み出すが、機能が分化した近代社会では、全国民を包括するようなナショナリズムは生まれにくいと述べている。

 「遠隔地ナショナリズム」そして「機能分化した近代社会」に加え、国家主権のかなりを欧州連合(EU)に差し出したフランスなどのEU諸国の国家共同体の骨組みは、かなり侵食されている。それに反発して、欧州諸国では極右勢力が勢力を伸ばしている。しかし、それは、かえって国家共同体の不安定さに拍車をかけてしまっている。

地方創生とナショナリズム

 機能分化した近代社会にあり、外交・防衛という機能を米国に依存しながら、何とか、日本人が、誇りを保ち、国民として結集してきたのは、他の機能である経済、科学技術などにおいて、他国を凌駕してきたことによる。

 優位性を保ってきたそれらの機能が、グローバル巨大資本により浸食され、国民経済が脆弱になり、優れた科学技術を持つ企業が外資の支配下に入る状況が続くと、国民が拠って立つものが崩されていく。

 新自由主義が牽引するグローバリゼーションによる脱国家化とは、脱政治化でもある。それは、国民経済が、グローバル金融経済に取り込まれ、国民経済の富分配に、国民の意思を反映する政治力が衰退しつつあることからも分かる。

 その脱国家・脱政治への動きが、国民に、自分の一票の無力感を感じさせ、前回の総選挙の投票率が史上最低2位となってしまった。そして、総選挙を戦った野党には、日本の具体的な未来像と、それを支える国家の再分配機能(課税と国民経済における再分配)を稼働させる政治的迫力に欠け、自民党に「勝利」をもぎ取られた。

 共同体は、「独自性」と「主体性(共同体としての自決権)」により成り立つ。そして、ナショナリズムは、ある特徴を有する文化伝統そして生活様式を共通化させ、共同体をつくるものである。要は、特殊性と普遍性のバランスを絶妙に取り、共同体の特質としての「独自性」そして「主体性」を確かなものにするものが、ナショナリズムである。

 明治維新が成功し、明治時代には、綿糸生産は600倍、鉱産物は30倍そして造船は500倍になった。農村共同体によく見られた人々を強くつなげる絆が、幾層にも重なり合い、結びつき、ナショナリズムになった。それが、日本という「想像の共同体」の土台をつくり、明治という輝かしい時代を築き上げた。

 よって、都市化にともない、希薄になった人間関係では、ナショナリズムによる国家の再生は難しいと考える。

 地方にパトリオティズム(郷土愛)を復活させ、地域に根付く日本の文化、伝統そして生活様式を大事にし、それらを守るために「助け合う」という倫理規範が、国民がまとまる国家共同体への道を切り拓く。

 新自由主義による競争原理を梃にした国主導の「地方創生」ではなく、「助け合う」という倫理性をもとに、民間が主導し、地域の社会・企業・農林水産業・金融機関・専門家そして地方自治体が協働できる体制をつくり、その稼働により、地域経済を活性化し、絆を深めていくべきである。

 そして、「助け合う」という倫理規範に加え、「自らで守る」という安全保障の普遍的論理で、多くの地域共同体を包括し、国家共同体を創るのが、グローバル化時代のナショナリズムである。

 長年に渡り、島国の国土に流れ着いた多様なものを包摂してきた日本文化は、異なるものに対しても寛容である。宗教そして人種・民族の苛烈な対立を乗り越え、多様性の中に安定を求めるべき21世紀の世界にとって、互いに助け合うという倫理規範を持ち、自らで立つ国家共同体としての日本の復活は、きわめて重要な意味を持つ。

 そして、その一歩は民間主導による「地方創生」にある。

雑誌「財界」(平成27年3月10日号掲載)

( 2015年02月25日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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