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鈴木壮治の【言いたい放題】

第45回 尖閣諸島・北方領土に繋がるウクライナ危機

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

咲かなかった五輪の北米大陸の輪

 ソチの冬季オリンピック開会式。光の文様が五輪の輪を咲かせようとしたが、北米大陸の輪だけが開かなかった。まるで、それは、ウクライナを巡って対峙する米国とロシアの現在の緊迫を予見したかのようであった。

 そして、ソチ冬季オリンピック終了を待っていたがごとく、ウクライナでの反政府運動が過激化し、親ロシアのヤヌコビッチ政権が崩壊し、親欧米の暫定政権が樹立された。それに対抗し、プーチン大統領は、ロシアにとって地政学的に重要なクリミアを電光石火のごとく併合した。その結果、ウクライナを巡っての欧米とロシアの対峙は緊張を高めつつある。その動きは、「遠い国のできごと」ではなく、日本の安全保障を左右する「身近なもの」である。

 ウクライナを巡っての欧米とロシアの対峙の背後に、中国の大きな影が見て取れる。「日米の離反」そして「日本のロシアへの接近阻止」こそが、中国の北東アジア戦略の要である。よって、今回のウクライナ政変を、その中国の戦略眼で見ることができれば、日本を取り巻く厳しい安全保障環境が浮かび上がり、日本のなすべき戦略的対応が明らかになる。

 中国は、核心的利益としての尖閣諸島への侵攻時期を探っており、そのために注視しているのが、○尖閣諸島を巡っての日中の紛争・軍事的衝突への米国の軍事介入の可能性。○その米国の軍事介入に関する米国世論。○米国の財政問題とその影響を受ける軍事予算の少なくとも三つである。

 オバマ大統領は、自らが軍事介入のレッドラインとした「化学兵器の使用」がシリアであったが、アサド政権への軍事攻撃に踏み切れなかった。

 知己の外国人で中東・欧州に強い情報筋は、以前から「ウクライナに反ロシア政権が生まれる可能性があり、その場合、プーチン大統領は、間違いなくクリミア半島を死守する」と断言していた。オバマ大統領は、ウクライナへのロシアへの介入を牽制したが。プーチン大統領はそれを無視し、戦略的要衝であるクリミア半島をロシアに併合した。友人の予想通りの展開になった。

 シリアでの軍事行為の断念、そして、ウクライナ危機においても、オバマ大統領は、軍事攻撃はしないと明言し、そのかわりにロシアに対する経済制裁を可能にする大統領令に署名した。このような腰の引けたオバマ大統領を見て、中国は、尖閣諸島に侵攻しても、米国は軍事力を投入してこないという確信を強め始めたと思われる。

 さらに注目すべきは、ウクライナにおける米国とロシアの離反に、漁夫の利を見出そうとする中国の戦略である。その中国は、欧米によるロシアへの経済制裁に反対はしているが、ロシアのウクライナ介入・クリミア併合に関しては、賛成も反対もしていない。やはり、クリミアにおけるロシア民族自決の動きを中国が支持すると、国内に抱えた少数民族問題 (チベット、新疆ウイグルにおける独立への動き)への悪影響を恐れているのであろう。

 ウクライナが、中国にホーバークラフト型揚陸艦を輸出したほど、中国とロシアのヤヌコビッチ政権は親密であった。中国の海洋覇権への野心を危惧する日本は、昨年の8月26日、岸田文雄外相が、ウクライナのゴジャラ外相に会った際、中国への武器輸出に懸念を表明した。

 また、昨年の12月5日、中国を訪問したウクライナのヤヌコビッチ大統領は、周近平国家主席と会談し、中国・ウクライナ友好協力条約を調印した。

 そのヤヌコビッチ政権が崩壊し、中国は落胆すると思いきや、ウクライナを巡っての米国とロシアとの対峙につけ込むように、米国への接近を図り、米ロの仲介役を狙っている。

 一方、日本は、ウクライナにおける親欧米暫定政権の誕生、そしてクリミア半島を巡っての米ロの対峙により、苦しい境遇に追いやられている。安倍首相は、就任後、多くの各国首脳に会ったが、プーチン大統領とは、最も回数が多く、5回も会っている。理由としては、北方領土問題の解決に加え、中国への対抗である。しかし、ウクライナに関する欧米のロシアへの対決姿勢により、今後のロシアとの関係親密化は、難しくなった。

 日本政府が、駐ウクライナ大使に「クリミア半島の実行支配を強めるロシアは、国際的な約束を破り、世界の安定秩序を脅かしている」との発言を許したのも、政府としては、熟慮の上での決断であろう。

米国社会の欠陥を突く中国

 中国は、米国社会の欠陥を熟知している。その欠陥とは、極端なポピュリズム(大衆の支持のもと、政治や社会を動かす)である。一部の扇動グループ(外国代理人などのロビイストをも活用する)が、米国政府・議会さらにはメディアに働きかけ、事実の正否にかかわらず、一気に燃え上がる米国民を扇動することにより、ある意図を達成しやすいのが、米国社会である。

 その一例が、2009年の秋から1年間、米国民のトヨタへのブーイングを巧みに使った「トヨタ叩き」(電子制御装置の欠陥による急加速が事故を起こしたとする濡れ衣をトヨタに着せたが、2011の2月8日に、運輸省はトヨタ車の電子制御装置には欠陥は無かったとした)である。当時は、GMが経営不振により国有化され、トヨタが世界の売り上げでGMを抜いた時であり、ある意図が働いたと憶測できる。

 そのような米国社会の欠陥に働きかけることにより、日米を離反させようと中国が思っても、何の不思議もない。日米を離反させれば、日米安保も形骸化し、中国は大胆不敵に尖閣諸島に攻め入ることができる。

 現在の日本は、国際協調を旨とし、国際的な貢献も大で、その自由・民主主義体制は誇り得る。よって、中国が、今の日本にけちをつけるのは困難であり、過去を持ち出して、米国民における日本の評価を下げ、日米同盟を崩壊させようと画策している。

 その一例が「慰安婦問題」である。1993年の河野談話(第二次世界大戦中、朝鮮半島などでの慰安所設置に「旧日本軍が直接あるいは間接に関与した」と認め、「生活は強制的な状況の下での痛ましい」ものとして慰安婦狩りのようなものに限らず全体としての強制性を認め、「心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ち」を示したもの)の後、1994年に米国で結成されたのが、中国政府の息のかかったロビー組織「抗日連合会」である。

 彼らは、慰安婦問題に加え、靖国神社への総理参拝なども、その戦略的道具として駆使しており、その中国の戦略を熟知し、米国民の短絡さ危惧する米国政府は、あえて、Disappointed(失望した)の表現で、その胸の内を明かしたのであろう。

 無論、安倍首相はそんなことは百も承知であり、「地球儀を俯瞰する外交」と「多角的外交」を積極的に行うにあたって、いつまでも米国追従では相手にされず、国家意志を持つことの表現として靖国神社参拝に踏み切ったと思われる。

情報安全保障と特定秘密保護

 中国のロビイストを活用した安全保障戦略に対処する必要がある。3月4日に発表された米国国防総省の「4年毎の国防計画の見直し」(QDR)の中には、○中国が尖閣諸島を含む東シナ海の上空に防空識別圏を設定。○中国による南シナ海における実効支配拡大の動きは含まれず、かなり、中国へ配慮した内容となっている。

 中国が識別圏を設定する数日前に、米国のスーザン・ライス大統領補佐官が講演で「中国との新型大国関係(米国と中国でアジアと太平洋を仕切る)を構築する」と話した内容と平仄が合う。中国のロビイストなどを駆使した戦略が功を奏していると考えるべきである。

 日本の安全保障にかかわる情報戦略(海外のメディア・大衆・政府・議会などに対して)は、創設された日本版NSC(国家安全保障戦略会議)が担うべきである。そして、日本版NSCは、先の国会で成立した特定秘密保護法とセットで機能する。その特定秘密保護法は、米国との情報共有に必要な「機密情報の管理」を厳格にするために生まれた。

 しかし、この法案によると「行政機関の長が、日本の安全保障に支障を及ぼす恐れが無いと認めた場合に限り、特定秘密を提供する」となっており、官僚は特定情報・秘密を独占できるが、国家安全保障を担う国会議員への報告義務が無いと理解できる。これでは、各国政府が秘密情報を懐にして、国益をかけて戦う「外交の場」に日本政府は入っていけない。

 ポピュリズムに走りやすい米国の社会的欠陥を突く中国の強かな対米情報戦略に対抗するためにも、国家総合安全保障戦略の下、日本政府が機密情報も縦横無尽に使いこなすような体制に持っていくべきである。

真価が問われる安倍外交

 前述のように、中国が、ウクライナ問題での欧米対ロシアの対立構造の中で、漁夫の利を狙っている。それに対して、日本も存在感を示す必要がある。冷戦後の国際秩序の多極化・流動化に対応しての「地球儀を俯瞰する外交」そして「多角的外交」が安倍政権の外交理念である。今こそ、その理念に基づき、日本が主導して、ウクライナ問題、特にクリミア半島におけるロシア民族の立場を、グローバルかつ多角的な視点で、世界の叡智が議論する場を設け、その動きの中で、安倍首相は米国とロシアの間を取り持つべきである。

 本来ならば、今回のウクライナ危機を解決するために機能するのがG8である。安倍首相はロシアを入れたG8開催実現に動くべきである。それが叶わぬならば、ロシアに乗り込み、グローバルな視野にウクライナ危機そして北方領土問題も置き、それらの解決への具体策を、地政学的バランス感覚に富むプーチン大統領と話し合うべきである。

(雑誌「財界」平成26年4月22日号掲載)

( 2014年04月14日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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