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鈴木壮治の【言いたい放題】

第43回 日米原子力協力協定更新と電力システム改革

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

二十数年に渡って、イランの原油を巧妙にイスラエルに融通してきた英国のユダヤ系の会社が、昨年、閉鎖に追い込まれた。核開発を進めるイランへの経済制裁が、それだけ厳しくなったことの証左でもある。イランが核装備に成功すれば、サウジアラビアそしてトルコなども黙ってはいないであろう。特に、サウジアラビアは、パキスタンとの間で、イランが核装備をすれば、即座に核兵器を購入できる合意に達していると言われている。

弾道ミサイルと核兵器開発で、イランと協力関係にある北朝鮮は、米国を直接交渉の場に誘いだすため、瀬戸際作戦を取り、今年の2月に核実験を強行した。それに対して、3月7日、国連安保理は、全会一致(中国とロシアを含む)で経済制裁決議をした。

しかし、北朝鮮は、4月2日に、2007年の六ヵ国合意に基づいて稼働が停止されていた寧辺の黒鉛減速型原子炉を再稼働すること明らかにした。それは、黒鉛減速炉の発電により生じる使用済み核燃料を再処理し、核兵器用のプルトニウムを抽出することを意味する。

日本の「核を持てる」カード

核兵器が世界の地政学的な権力構造を左右することを熟知する米国が、今年の3月に、米韓で合同軍事演習を行った。それに、米軍はB52戦略爆撃機、B2ステルス戦略爆撃機、F22ステルス戦闘機そして原子力潜水艦を投入した。それらは、全て核攻撃が可能なものである。

米国が憂慮するのは、日本と韓国が、中国と北朝鮮の核脅威に危機感を抱き、核装備を望むことである。それを阻止するために、米国の核の拡大抑止力(核の傘)が、日本と韓国にとって有効であることを示したかったのである。

その米国が、日米原子力協力協定により、NPT体制下にある国の中で、唯一、日本だけに、核兵器開発につながる、使用済み核燃料の再処理・プルトニウム抽出を認めている。

日本は、その「核を持てるカード」に加え、探査機「はやぶさ」による小惑星・イトカワへの往復60億kmもの旅を成功させ、米国の有人月探査に匹敵する技術を有する。さらに、人工衛星打ち上げ用液体燃料ロケット・H-2Aで、情報収集衛星を地球軌道に乗せることに成功しており、日本のミサイル技術は世界に冠たるものである。

1969年、日本の外務省は「わが国の外交政策大綱」で、NPTに参画するかどうかとは関係無く、当面は核兵器を保有しない政策を取るが、核兵器製造のための経済的・技術的な潜在能力は常に保持するとともに、これに対する掣肘は受けないようにするとして、「核を持てる能力」を外交カードとしてきた。

米国が、それを知らないわけがなく、それでも、日本と合意したのが、日米原子力協力協定である。米国は、その協定の中には「安全保障条項」を入れ、米国が、安全保障上問題ありと見做した場合、関連施設そしてプルトニウムを、米国の判断で接収できるようにしている。つまり、日本の「核を持てるカード」は、米国の手中にある。

それを担保するのが、日米原子力協力協定の第12条であり、その前半で、「いずれか一方の当事国政府機関との保障措置(査察)協定を終了させ、もしくは、これに対する重大な違反をする場合には、他方の当事国政府は、この協定の下でのその後の協力を修正し、この協定を終了させて、この協定に基づいて移転された資材、設備もしくは構成部分またはこれらの資材、核物質、設備もしくは構成部分の使用を通じて生産された特殊核分裂性物質のいずれの返還を要求する権利を有する」と述べられている。

2018年7月に更新予定の日米原子力協力協定は包括事前同意方式であり、日本は、一定の枠内で、核燃料サイクルに関して、自由を許されている。それは、NPT下の非核国では、日本だけに許された特権である。

原子力協定を巡る日米韓の思惑

福島第一原発事故により原子力エネルギーの平和利用で腰が引けている日本に替わって、韓国は、原発ビジネス、核不拡散において、米国と緊密に連携していこうとしている。原発23基を持つ韓国は、その使用済み核燃料の処理に困っており、また、北朝鮮と中国の核に対して、「核のカード」を持つべきと提唱する声も、韓国で大きくなりつつある。

そのような動きの中、韓国政府は、米国に対して、日米原子力協力協定により日本に許されている使用済み燃料の再処理とプルトニウム抽出の権利を韓国にも与えよと、米国に迫った。しかし、結局、4月24日、両国は、2014年3月で期限切れになる米韓原子力協定を、改定無しで2年間延長することで合意した。

朝鮮半島の非核化を追求する米国にとって、核兵器開発につながりかねない、それらの権利を韓国に許すことは、東アジアの「核のドミノ」を引き起こすと考えたのである。

そのような流れの中、今のままの日本政府のはっきりしない原子力政策では、米国は、今後の韓国の動きを牽制するためにも、日米原子力協力協定更新に際して、現在の包括事前同意方式を個別同意方式にし、核燃料サイクル政策における日本の自由度を狭めてくることも予想される。

それに対処するためにも、日本は核エネルギーの平和利用に関する国家戦略を明らかにし、一刻も早く、MOX燃料専用のプルサーマル大間原発を完成させ、また、六ヶ所村の再処理工場の建設を進め、日本の再処理システムを軌道に乗せるべきである。さらに、アジアの環境のためにも、日本は、使用済み核燃料の処理に困る韓国と再処理に関して共同研究、連携を進めるべきである。

<電力システム改革と原子力発電

4月2日、閣議は「電力システム改革として、広域的系統管理機関の創設、小売りの全面自由化そして発送電分離を、この順番で、遅くとも2020年までには実現する」と決定した。

電力システム改革の目的は、競争原理の導入による電力事業の効率化により、電力料金の値下げ、電力事業への民間投資拡大を実現することである。しかし、総括原価方式と地域独占により安定収益を得るビジネスモデルが崩されると、企業経営リスクが高まり、投資家はより高い期待収益を求めることになる。

そのような投資家ニーズを満足させるためには、電力会社は、電力料金を上げざるを得なくなる場合もある。現に、米国の27州は発送電分離を行っていないが、それらの州の電気料金の増加率は、発送電分離を行った州より低いことが判明している。

また、タイ、インドネシアでは、発送電分離、市場原理導入を回避する方向で動き始めた。例えば、インドネシアの憲法裁判所は、国営電力会社の分割と市場原理導入を骨子とする新電力法を、憲法に規定する社会福祉条項に抵触するという違憲判決を下した。

日本の電力網は、欧米のようなmesh(網)になっておらず、地域独立性が強く、地域間の電力融通のための接続容量が乏しく、3・11で、その欠陥が露呈した。

今回の電力システム改革で、先ず、地域間の電力融通を迅速に効率良くするための「広域的系統運用機関」を創設 することは、危機管理の視点より、理解はできる。

但し、広域的系統運用機関が、近い将来、地域内の発電・送電・配電を分離し、地域を大括りにしたオープンインフラとしての送電網を実現し、それを管理するのか、もし、そうであるならば、どのように実現するのかを、明確にすべきである。

送配電インフラは、社会的公共財の色彩が強く、スケールメリットが明白であり、国が管理するのが合理的である。

今回の電力システム改革で問題なのは、原子力発電の位置づけがはっきりとしていないことである。

原子力発電による核エネルギーの活用は国家戦略の一環であり、市場原理とは相入れな い。例えば、使用済み核燃料の処理(再処理など)は、核の安全保障に関 わり、私企業のみで決められない。

前述のように、競争原理を導入することにより電力事業経営のリスクが高まり、投資家が電力事業への投資に慎重になる可能性がある。よって、災害・事故により発生する巨額な賠償リスクと国家安全保障への配慮が必要な原子力発電事業を私企業である電力会社が行うことには無理がある。やはり、原発による発電は国が責任を持って行うべきである。

米国の原子力発電における戦略性

そのような日本の原子力の平和利用におけるモタモタぶりを尻目に、オバマ大統領は、新たなエネルギー省長官に、マサチューセッツ工科大学のアーネスト・モニツ教授を選出した。その人事から、オバマ政権のエネルギー戦略が浮かび上がってくる。

モニツ氏は、低炭素社会を支えるのは原子力発電と考えている。発電の変動性に苦しむ太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー発電をバックアップするベース電源として、原発を活用しようと考えている。

そして、その低炭素社会への懸け橋として、今後の数十年に渡って天然ガスがエネルギー源として高い価値を持つとしている。また、環境に問題があるとして一部の環境団体から反対されている水圧破砕法によるシェールガスの開発を支持し、さらに、シェールガスの輸出を、安全保障上、意味のあることとしている。

米国は、固定電話を凌駕した携帯電話のような破壊的な技術イノベーションとして、超小型原発を捉えている。その分野で、米国は世界に先行している。例えば、米海軍のロナルド・レーガン空母に2基搭載されている小型軽量のA4W原子炉は、出力調整が可能であり、電力量の変動に応じて、出力を自由に変えられる。また、商機に敏なビル・ゲイツは、テラ・パワー社を設立し、30年間燃料交換不要の小型原子炉の開発を行っている。

2025−2030年までに、世界最大のエネルギー産出国となる米国ですら、エネルギーミックスの中に、原子力発電を戦略的に位置づけ、さらに、したたかに、ビジネスの機会を狙っている。

エネルギー自給率4%の日本は、その米国の戦略性を、真剣に受け止めるべきである。

<「財界」2013年7月23日号に掲載>

( 2013年07月24日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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