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鈴木壮治の【言いたい放題】

第39回 日本よ、デフレ脱却のモデルとなれ

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

デフレ脱却への政治の意志

6月26日、民主・自民そして公明の「大連立」で、消費増税関連法案は、衆議院を通った。多くの国民は、デフレに苦しむ時に、なぜ、消費税率を上げるのか、理解に苦しんでいる。

1997年、橋本政権は、消費税率を2%(5兆円相当の増税)上げ、さらには、公共事業を4兆円も削減した。その財政構造改革が、株価そして不動産価格を急落させ、山一證券、日本信用銀行などが倒産に追い込まれた。

そして、今に至るデフレを生み出してしまった橋本政権は、金融危機の中、退陣に追い込まれた。

その経緯を知る政治家は、自らの政治生命をかけてまで、なぜ、消費増税に突っ走ったのか。国民の考えに反し、国民の生活を揺るがす消費増税が、なぜ必要なのかを、明確に国民に説明する義務を為政者は持つ。

国民が政治に期待するのは、内外からのデフレ圧力に立ち向かい、日本をデフレから脱却させる意志と、それを実現する戦略の実行である。

1985年9月のプラザ合意で、日本は米国の圧力に屈し、その後、今に至るまで、円高を容認してきた。

ここ十数年のデフレにも拘わらず、実質実効為替レート(物価調整後)は、安定して推移してきた。つまり、名目実効為替レート(物価調整前)の円高を、物価の下落(デフレ)で調整してきたことを、それは示している。

スイスも、長年に渡り、超低金利政策をとってきたが、デフレ対策として、2012年の3月より、対ユーロで、スイスフランが絶対に高くならないようにする金融政策を取り始めた。そこに、デフレと闘うスイス政府の意志を見出すことができる。

政府は、短期証券を発行して、それを引き受けた日銀から得た円資金により、日本企業が輸出で稼いだドルを買い上げ、そのドルで、米国債を購入し、ドルを米国に還流させてきた。その結果、日本は、100兆円程の米国債を所有しており、絶えずデフレ懸念(円高・ドル安)に苛まされてきた。

そして、日銀は、政府短期証券を市場で売り、円資金を民間から回収(不胎化)し、マネタリー・ベースを増やすことに、余り熱意を示さないできた。

為替介入の際、日銀が政府短期証券を引き受けたまま(非不胎化)であれば、潤沢な円資金が、日本経済を潤し、デフレから脱却する牽引力になったと思われる。

しかし、金融政策だけでは、経済の活性化は困難である。よって、その非不胎化に加え、さらに重要なのは、金融緩和により生じた資金をリスクマネー化し、ベンチャー企業、インフラ事業そして新規開発プロジェクトなどへの投資を促進することである。

例えば、欧米のように、技術が将来生み出すキャッシュ・フローの期待値から、技術価値を算出する技術評価システムを、日本も持つべきである。その技術評価があれば、優れた技術価値を持つ企業への投資が促される(リスクマネーの増大)。

また、凍結されたままの米国債(約100兆円)を、何とか解かし、日本経済活性化のために使わなくてはいけない。例えば、米国債を所有することにより生じるドル安・円高リスクをヘッジするためにも、米国債を担保に、ドルを借りることが有効である。ドルを借りることは、償還時に、ドル安・円高になっていれば、借り手(日本)にとって、有利になり、米国債所有リスク(ドル安・円高)をヘッジすることができる。

既に、緊急の為替介入(ドル買い・円売り)の際、政府は、補正予算を組まず、米国債を担保に、日銀より、資金調達ができるようになっており、政治意志があれば、米国債担保によるドル資金調達も可能であろう。

そして、調達したドルを使い、中国の国営投資ファンドが行っているように、世界の天然資源の権益をおさえたり、優れた技術を持つ企業やグローバルに展開する将来性豊かな企業の買収、さらには、日本企業が参画する海外のインフラ事業への投資を行うべきである。

新自由主義経済への回帰と国民の負担

日米で軌を一にするように、2009年に、大きな政府を目指す民主党が政権を握った。

しかし、社会福祉、医療費負担などの重荷を国が背負い続けることには無理がある。そして、その後のリーマンショックの後遺症の影響もあり、欧米諸国そして日本の政府は、累積債務の重荷に耐えかね、歳出削減、増税という「国家負債の民営化」に手を染め始め、新自由主義経済への回帰へと、一斉に舵を切り始めた。

その動きの中で、勢いを増しているのが、多くの新自由主義者をブレーンに抱え、橋下大阪市長が率いる大阪維新の会である。先日、関西電力の株主総会での橋下市長の発言、「関西電力は、市場原理に晒されていないから、ダメ」からも、新自由主義への傾倒が窺い知れる。

新自由主義者によれば、市場における自由な競争こそが、経済の効率性を生み出し、経済の安定した成長と秩序が実現されることになる。

新自由主義の提唱者であるノーベル経済学者のハイエクが、「新自由主義」に対峙するものとして、社会の秩序は政治権力が創るという「設計主義」紹介した。そして、「設計主義」は、全体主義につながるとし、警鐘を鳴らした。

しかし、米国そして英国政府が、破綻に瀕した金融機関を、国民の税金で救い、一時にせよ、それらを国有化したのは、破綻したものは退出するという新自由主義経済の規律を破ったことになる。

そもそも、金融システムは、社会的な経済インフラ(公共財)であり、新自由主義とは相性が悪いが、グローバル金融資本は、それを私益追求のシステムとして使ってきた。そして、実体経済の10倍以上にも達した金融経済のなか、金融資本はデリバティブ、証券化などの金融技法を駆使し、リスクテイクにより収益を追求してきた。

しかし、過剰なリスクを取り、金融資本は破綻の危機に瀕し、「人質」としてとってあった金融システムの公共性を盾にとり、政府に救済を求めた。

そして、国は、金融機関救済(例えば、ギリシャは、銀行救済のため、自国GDPの11.4%を使った)により陥った財政破綻から逃れるために、新自由主義経済の手法である「国家負債の民営化」により、国民に負担を強いることになった。

それは、本来の自由主義の思想を平気で踏みにじり、金融システムを守るという目的で、グローバルな金融秩序を「設計」する金融社会主義の体現とも言える。

そして、巨額な負債を抱え財政危機に陥っているギリシャなどの国々は、その金融秩序の「周辺の地」に追いやられている。

かなり前までは、リスク・フリー(倒産確率ゼロ)であった国債は、金融機関救済のために、そのリスク性を高めてしまった。それにも拘わらず、国債を担保として、グローバル金融システムが機能せざるを得ず、金融資本と国家のもたれ合いは、グローバル金融システムを脆弱にしている。

その中で、日本政府は、日本国債の信用を守り、日本の国債・債券への内外からの資金流入を維持することが、グローバル金融システムを守るとことにも繋がると考えたのであろう。

よって、国債を担保する徴税権が行使できることを示す必要があった。消費増税法案の衆議院採決は、そのためであったと思われる。

国民経済よ、資本を取り戻せ

世界がデフレに陥ろうとしている緊急事態にあって、日本がなすべきは、デフレを引き起こし、国民の負担を大きくする新自由主義経済の手法ではなく、経済を活性化する政策の実行である。

そのためにも、東日本大震災の復旧と被災地の新たな開発に用意された政府予算を、もたもたしないで、早く使えるようにし、さらには、老朽化した道路などのインフラを再整備するなど、100兆円の規模のケインズ主義的な財政出動に踏み込むべきである。

また、金融機関に死蔵されているマネーを、リスクマネー化して、ベンチャー企業、開発プロジェクト案件に、資金が流れるような資金循環システムを、官民連携で創るべきである。

今回発表になった東京都主導の官民連携インフラ・ファンド(火力発電、再生可能エネルギー発電へ投資を行う)は、その先鞭をつけるものである。

世界最大の250兆円にもなる対外純資産と100兆円もの米国債を持つ日本は、その資金と技術力を有効活用し、日本経済を活性化し、デフレ脱却のモデルを世界に示すべきである。

それは、グローバリゼーションの中、国民から離反しようとする資本にナショナリズムを甦らせ、国民経済に取り戻すことでもある。

<「「財界」平成24年8月21日号に掲載>

( 2012年08月07日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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