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鈴木壮治の【言いたい放題】

第38回 欧米危機から学ぶ「国家と企業の連携」

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

EUはトロイの木馬

今回のギリシャに端を発した欧州の財政・金融危機は、世界経済を奈落の底に落とし込まんとしている。しかし、欧州諸国は、EUそして共通通貨ユーロを崩壊させる引き金を、自ら引くことは有り得ない。

 グローバリゼーションと多極化が進む中、大国であろうが、弱小国家であろうが、その荒波に、単身で立ち向かうことはできない。それは、アセアン+3あるいは+6、上海協力機構、ユーラシア同盟、TPPそして広域アジア経済連携構想などの動きに、良く表れている。

 近代における国民国家形成のプロセスにおいて、政治権力と経済権力は、お互いに引き付け合い、国家権力に統合されてきた。よって、EUが、新たな「統一国家」を目指す以上、加盟各国から召し上げた通貨そして金融の国家主権に加え、財政主権を取り上げることは、EU、特にドイツにとって、既定路線であろう。よって、ドイツは、自国債よりも高めの金利になるユーロ共同債に難色を示しているが、最終的には受けざるを得ないであろう。

 また、ドイツは、財政規律を守らない加盟国を欧州司法裁判所に提訴するなどの「EUの条約改正」を提言し、EUの政治統合を進めようとしている。しかし、英国を含む非ユーロ圏の十カ国が、そのドイツの「思いのまま」に反対しており、EUの政治統合は、紆余曲折を経なくてはいけないであろう。

 「EUはトロイの木馬であり、グローバリゼーションと市場原理に門を開くものである」と言ったのは、フランスのミッテラン大統領の時の外務大臣をつとめたユベール・ヴェドリーヌである。欧州の現状は、彼の言ったようになり、現在、欧州の多くの人は、EUはグローバリゼーションに対抗するものではなく、その一部に転化したものと考えている。

 1980年代に、欧州の幾つかの国の弱い通貨が、ヘッジファンドの格好の標的になった。それを救わんとして創られたのがユーロであった。しかし、それは、欧州自体を、投機資本が跋扈するグローバルマーケットに投げ出すことになった。

 例えば、ユーロ加盟前、スペインは自国通貨の信用が劣り、通貨の度重なる切り下げによる国内のインフレ懸念が長期金利を押し上げていた。しかし、ユーロに参画することにより、身分不相応な通貨の強さを享受し、インフレ懸念が減り、長期金利が低下した。その結果、住宅ローンが借りやすくなり、不動産バブルが発生した。しかし、そのバブルも長くは続かず、2008年には破裂し、国内景気は冷え込んだ。そして、失業率は、EU平均の倍以上の22.6%となり、失業者の数は500万人にも達した。

 その挙句の国債格付けの切り下げ、長期金利の高騰と、スペインも、グローバル投機資本の格好の餌食となってしまっている。

 欧州は、成熟した社会であり、高齢化が進み、経済成長も低迷を続けるであろう。その点、日本と似ている。このままだと、欧州は、グローバル経済の周辺地域に陥る恐れがある。今回の欧州の財政・金融危機で、一儲けしたヘッジファンドは、次の標的として、中国ではなく、日本を狙ってくるであろう。

 2011年度の累積政府債務は、中国はGDPの17%であるが、日本はGDPの229%にも増えてしまう。少し前、CDSの保証料率は、中国は、0.84%で、日本は0.91%であった。それらの数字からも、中国よりも日本が狙い目であろう。

経済と政治が同じ土俵に

ブッシュ大統領時代(第一期)に、ネオコンは米国の他に隔絶する軍事力により、米国のグローバル覇権を狙った。しかし、挫折し、米国は、近々にイラクそしてアフガンから撤退する。それは、1956年に、スエズ戦争に負けた英国が、スエズ以東から撤退した歴史的事実を思い出させる。

 米国の失敗からも分かるように、今や、軍事力を駆使した強引な国益追求には無理があり、多極化し、それぞれの勢力が力を持つグローバル社会は、それを許さない。

 1930年代の世界的不況の中、各国は競って、通貨の切り下げ、地域経済ブロックに走った。そして、第二次世界大戦に突っ走ってしまった。しかし、現在は、東アジアサミットもあれば、G7もG20もあり、幾重にも張り巡らせたFTA・EPAなどの経済連携のネットワークも「安全ネット」として、機能するであろう。

 原油・天然ガス資源を豊富に持つ南沙諸島の領有権を巡って、中国はベトナムなどに対し、軍事力を背景にした力の外交を進めてきた。11月19日、インドネシアのバリ島で行われた東アジアサミットで、南沙諸島がある南シナ海の安全保障問題が協議された。「当事国間で協議すべき」とする中国は、結局、米国などの「参加国による協議を行い、海洋法などの国際規約に基づき、領有権問題を解決する」との意見に、押し切られる格好になった。

 原油・天然ガスなどのエネルギーは、産業経済の根幹をなすものであり、政治的なコモデティでもある。原油・天然ガス田を巡っての南沙諸島問題が、東アジアサミットの協議の対象になったことは、結果において、経済と政治が、同じ土俵に上がったことになる。

 そして、エネルギー資源に関わる国際的な紛争が、軍事、外交・政治、環境問題、技術そして経済を包摂するエネルギー・セキュリティとして、東アジアサミットで論議されたことは、アジアに限らず、今後のグローバル社会の安全保障環境の安定化への道をつけたと思われる。

なぜ国家と資本の関係は歪になったのか

政治と経済がグローバル社会で密接に係わりあうようになった今は、国家と企業が緊張感を持って向かい合う時代でもある。

 国家主権のかなりを超国家組織・EUに上納までして、国民国家が守ろうとしたのは、一体何であったのか。それが国民の生活を守ることであったならば、その目的を達成できずにいるのが、今のギリシャ、スペイン、ポルトガルそしてイタリアなどである。

 欧州に中東・北アフリカの天然ガスを届けるパイプラインの要所に位置するギリシャは、1000を超える島々を有し、それらは、風力発電と太陽光発電に適している。また、イタリアはユーロ圏内で三番目の経済規模を誇り、累積政府債務はGDPの120%を超えるが、プライマリー・バランスは黒字である。このように、EU諸国は、国としての個性を持ち、多様性の中に生きてきた。しかし、今や、投機資本に怯える日々に追いやられてしまった。

 社会福祉への支出が膨らみ、国家財政が疲弊し、頼るのは国債を引き受けてくれる金融資本である。そして、国家財政が悪化すると、そこに付け込んでくるのも、金融資本である。国家は、金融資本に依存し、弄ばれる存在となり下がり、国家と資本の関係が歪んでしまった。

 このように、金融資本主義においては、本来は経済の安定成長に使われる「道具」である資本が、「主体」となってしまう逆転現象が起こる。

 金融資本に加え、資金面で、国家を支えるのは実体経済を支える企業である。国家は、税収によって運営されており、税収のもとは企業の収益であり、国が企業に依存していることになる。

 欧州経済は成熟しており、企業は、その資金を実物経済に投与する機会が乏しい、直接あるいは投資ファンド経由で、スペインそしてアイルランドの不動産への融資、そして、ギリシャ国債などへ、資金を投ぜざるを得なかった。

 グローバリゼーションと多極化により、国家間の競争は一段と厳しくなっていく。 企業の収益頼りの国は、企業に愛想を尽かされると、国の財政が立ち行かなくなる。一時、三角合併により、日本の企業が時価総額の多い米国企業により、株式交換で買収されることを、日本は恐れた。しかし、今や、三角合併の手法により、日本企業が、国外に本店機能を持つことも可能になり、このままだと、日本企業で、日本を捨て、企業に有利な国へ、本社を移すケースが増えてくる。

 市場原理と新自由主義経済の権化である米国は財政赤字に苦しみ、今後10年間で、2兆4000億ドルもの財政赤字を削減しなくてはいけない。そして、社会福祉の厚い社会民主主義の欧州諸国の公的債務も膨らみ、所得格差が拡大してきた。それは、公正さを求める民主政治と、自由を至上価値とする資本主義経済のジレンマにより、引き起こされたとも言える。

 金融資本は、自由に国境を超え、自由奔放に、その私益を追求してきた。それを容認してきたのが、グローバルな金融権力構造としてのドル基軸体制&ワシントン・コンセンサスである。

 ユーロとは、ドルの基軸体制に対抗するEUが創ったものである。そのEUは、2014年から、株・債券の取引には、0.1%そしてデリバティブ取引には、0.01%の取引税を課することにした。それは、ヘッジファンドなどの投機・投資資本に対する防衛戦略であり、ワシントン・コンセンサスを後ろ盾とする金融資本主義への宣戦布告でもある。

法人格に必要な倫理性

 米国憲法の第14修正条項は、「正当な法の手続き無しに、州はいかなる人からも、生命、自由及び財産を奪ってはならない」としている。そして、米国の法曹関係者は、「法廷は企業を法人として認めるべき」としている。企業は法人として、人以上に、優遇されている。自由に国を選ぶことができ、なおかつ、人には許されない内国待遇を受けている。

 人には許されていない自由をも企業法人に与える以上、企業に何らかの倫理的な制約を課してもおかしくない。道徳性と倫理性を持たない企業は、私益のみを追求することになり、結局、合成の誤謬により、経済そのものが落ち込み、自分で自分の首を絞めることになってしまう。

 心を持たない企業は、国民と袂を分かち、民主主義の国内政体と共生することはない。マルクスは、「近代の市民革命による市民開放の本質は、政治的国家からの市民社会の解放であり、それは自然的欲望(物質主義と利己主義)であった」とした。その強欲は、資本を得て、縦横無尽にグローバルマーケットで私益を追求してきた。その結果が、各国における所得格差の拡大と、それによる社会の不安定化である。

 パリ大学の経済学部教授のジャン・マリー・シュヴァリエは、今後のグローバルな課題は、エネルギー、環境保全、途上国の経済成長と世界経済の持続的な発展であるとした。そのためにも、我々の存在さえも脅かすような、我欲を追求する投機資本に対抗し、国家そして国民を守らなくてはいけない。

 資本は、国家の生存、国民の生活を支える手段であり、けっして、我欲を担うものではない。資本は、格差の少ない経済の安定成長を担うものでなくてはいけない。

 中国学の学者であるレオン・ヴァンデルメールシュが、荀子の次の言葉に、儒教の持つ共同体主義の神髄を見出している。

 「水火には、気はあるが、生命がなく、草木には生命があるが、知覚がなく、禽獣には、知覚があるが、義すなわち社会正義がない。しかし、人間には気があり、生命があり、知覚があるうえに、さらに義もある。だから、この世界で最も高貴なものである」。ヴァンデルメールシュは、荀子の共同体思想より、人間を社会に参画する個別の主体としてみるのではなく、人間自体を社会的存在として、そこに、人間の尊さを探りあてている。

 人格とは、それ程価値のあるものである。企業は、法人格を与えられていることを謙虚に受け止め、それに似合う倫理性を身に着け、共同体である国家社会の一員として、その技術そして資金力などを活用して、国際社会の安定と経済成長に寄与すべきである。

 米国がつくった日本国憲法の第13条では、「すべての国民は個人として尊重される」とし、日本人が持っていた共同体精神をどこかに追いやった。そして、日本は米国の軍事的な庇護のもと、我欲の仇花を咲かせた。

 しかし、それは、米国から用意された甘い水の水耕栽培で育てられた花であった。その結果、日本は、国家としての自立性を失い、国際的な社会性を自らのものにすることができなかった。

 今こそ、企業が、その先陣となって、日本を立て直すべきである。

企業と国が一体となったアジア技術権力構造

最近、メディカル・ツアーの一員として日本を訪れた中国人観光客で、原子力プラントの炉心の溶接技術を持つ日本の中小企業に足を延ばした者がいたとの情報を得た。

 中国は、今後、少なくとも30基の原子力プラントを上海より北の地域に建設する予定である。もし、原子力プラントに事故が発生した場合、その放射能汚染を被るリスクを日本は持つ。その点からも、日本は、中国に対して、原子力プラントの輸出を行い、安全な維持管理に協力すべきである。

 そのような国家の安全保障に係わることは、企業任せにするのではなく、政府が前面に出て、国益を守るべきである。 日本には、優れた技術を持つ中小企業が多い。筆者が懇意にしている事業家は、そのような技術をその知的所有権を守りながら、世界の需要に結びつけようと、米国の特許庁、商務省などの政府機関と米国の大企業を巻き込み、獅子奮迅の努力を続けている。技術の中には、軍事目的にも使えるものがあり、そのような技術を日本政府が守らないと、他国の草刈り場になってしまう。

 日本の将来は、グローバル時代において、他国に先んじるグローバル秩序を構想し、その実現にリーダーシップを取っていくことでしかない。それには、国と企業が一体となった技術力の強化が必要である。また、その技術は、国益がぶつかり合うエネルギー分野において、最大限の「レバレッジ」が効き、グローバル社会の秩序安定化に大きく寄与できる。

 省エネ・環境保全技術における日本の競争的な優位性は大事であるが、核エネルギーの平和的な活用においても、日本はその技術力と維持管理機能を最大限に活用すべきである。

 その技術の活用の場は、これからのグローバル経済の中核になるアジアである。そこには、世界最大級のエネルギー消費国家である中国とインドが存在し、人口増加と生活レベルの向上は、さらなるエネルギーへのニーズを「爆発」させる。そのアジアに位置することは、日本にとって僥倖であり、その技術力を梃に、欧米主導のローバル金融権力構造を下にする技術権力構造を持つ実体経済を、アジアで花開かせるべきである。

<「「財界」平成24年1月24日号に掲載>

( 2012年01月16日 / 鈴木壮治 )

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鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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