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鈴木壮治の【言いたい放題】

第36回 東日本復興の理念「フクシマ・コンセンサス」

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

ワシントン・コンセンサスを超える「フクシマ・コンセンサス」

福島原発事故制御のため、身を挺して働く東京電力の作業員、決死の覚悟で原子炉への放水・注水を行う消防庁と陸上自衛隊の精鋭に、何かを感じた国民は多い。己の命を顧みずに、与えられた責任を全うする彼らに、自らの職への誇りと他人を護る強い意志を強く感じる。

新自由主義経済の跋扈による私益の追求は、リーマン・ショックにより、その正体が暴露された。また、公益事業を民間が担うことにより、公の精神が失われ、私益が追い求められる。上場企業にとっての至上価値は株主利益とされる。利潤極大化のため、予想される危機を「想定外」として、危機回避のためへの経営資源と資金の投入を減らす傾向が強くなる。それは、廃炉を恐れ、海水の原子炉への注入に逡巡した東京電力に見て取れる。

格付機関、会計事務所、IMFそしてFRBなどが作り上げたワシントン・コンセンサスは米国主導の構造的権力として、市場原理・民営化などを各国に広めてきた。

それは私益の拡大につながり、前述のようにリーマン・ショックを引き起こした。我々は、経済合理性のみを追求する新自由主義経済ではなく、企業と地域社会との共生に価値を置き、企業評価において、社会貢献や環境への配慮を重視すべきであると考える。

大震災という国難を乗り越えようする日本へ、112もの国・地域より支援の申し出があった。そのような国際的な協力の渦が起こっている今こそ、地域社会、国、企業、公的機関そしてNGOなどの民間人グループなどが様々なレベルで連携をはかり、私と公のバランスを取る「フクシマ・コンセンサス」を提唱したい。

日米中関係と地方分権に影響する復興資金

一時、復興支援債を日銀に直接引き受けされる案が検討された。しかし、それは財政規律を脆弱にし、また、国債への不信を高めるとして、政府・民主党はあきらめた。

震災復旧・復興のためには、4月の第一次補正予算の3兆円程では、とても足らない。結局は、税金と国債発行により、国民と企業の貯蓄から資金を融通してもらうしかない。これは、巨大な財政赤字と経常赤字を抱え、ジャパンマネー頼りの米国にとって看過できない資金の流れである。日本の米国債投資が縮小する動きの中で、米国の中国マネーへの依存度(中国は約250兆円の米国債を所有)はさらに高まる。それは、当然、日米中の地政学的な関係に多大な影響を与え、日本の国益を損ねることにつながる。その流れを食い止めるためにも、震災復興のための資金は、グローバルマーケットから調達すべきである。300兆円を超えるSWF(国営ファンド)は、中長期の投資戦略を持ち、インフラプロジェクトへの投資意欲が強い存在である。

東日本復興のため、道路・港湾・上下水道・エコタウン化・防災機能そして情報通信インフラなどのプロジェクト初期段階から、SWFを巻き込み、民間と地方自治体が協力して行うPPP(パブリック・プライベイト・パートナーシップ)におけるリスクマネー(出資)を補ってもらうための道筋をつけるのがよい。また、復元なった公益事業の収益から支払うレベニュー債も地方財政への影響を防ぐためにも有効である。被災した地方自治体が、復興資金を全て国に依存することは、地方分権への流れに逆行する。何とか歯を食いしばり、叡智を結集して、自らグローバルマーケットから復興資金を集めるべきである。そして、東北諸県に支えられてきた東京が、その先導をつとめてもらいたい。

日本を守るには

国と国民を繋ぐものが、日本と日本人を守る安全保障である。国家主権者としての国民は、自国を守る主体のはずだが、「国民保護法」と「武力攻撃事態対処法」には、国民の協力義務は定められていない。私を捨て、公のために献身的な業務を続ける東電の作業員、消防庁・警察そして自衛隊の精鋭の活躍を目にしている今こそ、日本を守る法的体系に、国民の協力義務を入れることを真剣に議論する時だと思う。

福島県は日本のエネルギー安全保障のために、原発リスクを引き受け、沖縄県は軍事的安全保障のため、軍事基地リスクを受け入れてきた。それらのリスクを、特定地域だけに押し付けるのではなく、日本全体で担うべきである。そのためにも、安全保障に関する国民の義務は大事である。有事以外の緊急事態に対して、「大規模地震対策特別措置法」・「災害対策基本法」・「原子力災害対策特別措置法」がある。しかし、それらを統括する「緊急事態基本法」は未だ整備されていない。その法を早急に整備し、国と国民が一体となって日本を守れる法体系を構築したい。

米国はFEMA(連邦緊急事態管理庁)を持ち、自然災害から、テロ行為を含む人為災害まですべての危害に対して、包括的に対処している。そして、現在、FEMAは、9.11テロ後に設立された国土安全保障省に組み込まれ、機能している。関東大震災の直後、時の内務大臣であった後藤新平は、勅令という超法規的手段により、「帝都復興院」を創設し、その総裁を兼務し、復興に尽力した。それを参考に、立法・司法・行政の三権分立に加え、「第四の権力」として、緊急時に最高指揮権を持つ平成版の「復興院」を実現したい。

米国は、CNN、ブルンバーグなどのメディアを持ち、米国に不利益となるような風評には敢然と立ち向かい、被害化を食い止めている。一方、日本はグローバルに発信するメディアを持たず、福島県産の農産物などへの国際的風評被害には無力である。情報安全保障上から、日本もグローバルに影響力を持つメディアを早急に持ちたい。

原子力プラントへの危惧が大きくなっているが、化石燃料の有限性と新興国の旺盛なエネルギー需要より、原子力の平和利用は今後も重要になってくる。そのためにも、日本はどこの国でも安全に使える「超小型安全型原子炉」の開発を、政府主導で行うべきである。構想されている小型原子炉は、発電量が、1万−8万キロワット、炉心の直径は1メートル(通常の1/6)そして敷地面積は200坪で足りるものである。

大型原子炉は、炉心を大きくすることで、中性子を漏れにくくして、臨界(核分裂連鎖)状態を続ける設計である。そのために、熱がこもり、事故が起こった時は、緊急炉心冷却装置を作動させて冷やすしかない。しかし、小型原子炉は、これと逆の発想で、炉心は普通の状態では臨界に達しないようにしてある。また、小さな炉心の特性で、高温になると連鎖反応を継続できず、確実に自己停止、停止後も自然冷却されるため、緊急停止系統、非常用炉心冷却系統、非常用ディーゼル電源不要となる。

最後に

大震災の試練を乗り越えるためには、「想定外」の発想と実行力に加え、国際的協力を引き出すことが必要不可欠である。そのためにも、まず、日本が安全保障鎖国から脱却し、エネルギー・国際金融・情報・技術・軍事分野を含む総合的な協力的安全保障の輪に加わることが望まれる。

4月4日、2011年 記

(2011年5月11日号の「財界」に掲載)

( 2011年05月01日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
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■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
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■第18回 郵政民営化と国家安全保障
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