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鈴木壮治の【言いたい放題】

第34回 WIKILEAKSの「国家機密漏洩」を考える

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

国家と個人の情報パワー

国家は、情報の秘匿・操作・統制などにより、その権力を保持してきた。また、近年、国家権力により、個人・企業などの情報の傍聴も行われており(例えば、エシュロンによる傍受)、国家と個人において、情報の非対称性が強まってきた。中国において、その非対称性は顕著である。それに不満な個人は、自らの存在と主張を、グローバルな「情報時空」に求め始めている。

情報通信技術の発展、情報コストの低減、情報の迅速性により、国を超えた多元的・複合的な情報時空が拡大しつつあり、国境という垂直分断の時代は、変革の洗礼を受けている。 まさしく、世界は、テリトリー(領域)の時代より、テレメトリー(情報伝達)の時代に移りつつあり、瞬時性・開放性・共有という情報属性を持ち始めている。情報の非対称性を克服したい個人にとって、インターネットなどの情報通信技術の発展は、多種多様な情報へのアクセスを容易にし、マスメディア依存からの脱却、情報発信機会の増大など、大きな恩恵を与えている。

公平、平等そして自由な広がりを持ち、瞬時にして個々がつながり、考えと情報を共有できる「情報時空」は、IT技術により可能となった個人間の融通無碍なつながり・コミュニケーションにより成立する。その融通無碍な個々の交流は、一人に情報を送るUNICAST、選択された多に送るMULITICAST、さらには不特定多数に送るBROADCASTに象徴される。また、インターネットにおける対話性、双方向性のコミュニケーションが、新たな「情報時空」をつくる。

情報は政治判断を伴うことにより、政治の力となりうる。前述の情報の奔流は、国家主権を弱め、政治的意思決定を個人まで還元させる勢いを持つ。しかし、権力が個人に分散されると、それをまとめる多数派による専横が始まり、かえって、個人の自由を蹂躙するリスクが生じることを忘れてはいけない。

WLの国家機密漏洩と脱国家への動き

国家機密の漏洩は、過去の時間におきた事柄を引出し、不特定多数へ瞬時に伝えることにより、現在と未来に影響を与える。まさしく、空間に「漏洩」という時間軸が突き刺さるのである。過去の不正義と思われる事実行為、すなわち「結果」を有効 に使う「魔法の時間軸」を手にしたのが、WLである。

一連のウィキリークス(WL)の政府機密漏洩行為は、安全保障・外交情報の国家独占への挑戦であり、その結果、WLは、歴史上初めて、国家の「共通の敵」となりえた。「情報時空」において、WLあるいはそれに続くものが、国家以上に、市民を引き付ける「情報重力」を持てるかどうかは、グローバリゼーションにおける個々の価値の多元性・多様性そして複合性を、脱国家の動きの中で、統合できるかによる。

イラクでの民間人が多数殺戮された事実に、一般大衆は過剰に反応した。それは、情報の政治的効果を如実に物語っている。例えば、ある国で、ジェノサイド(集団殺戮)が行われていることを、早く、人々が知れば、それは政治的な力となり、ジェノサイドをやめさせることが出来たかもしれない。一方、「結果」から、原因と責任の所在を推論、追求する「帰属過程」という社会心理学の視点から、情報の持つ力と危険性を理解し、「結果」に過剰に反応するのではなく、それを冷静に吟味、分析し、評価しなくてはいけない。

必要悪としての国家機能

インドのノーベル経済賞受賞者のシン氏は、リベラリズムのジレンマとして、民主主義政治の多数決と個人の自由が、両立しないことを挙げた。まさしく、そのジレンマを体現しているのが、国家機構である。選挙により選ばれた議員が、多数決で国家の意思決定を行い、その決定が国民の自由を抑制することになる。例えば、多数派の倫理・道徳が法となった場合、違う価値観を持った少数派が、それにより自由を制限される可能性が高まる。

その苦しいジレンマを抱えた国家を、必要悪として、我々は、持ち続けるのか、あるいは、国を超える新たな統治機構を創り出せるのか。殆ど全ての政府により「共通の敵」とされたWLの国家機密漏洩は、その問題提起をしたとも受け取れる。

国家社会を、文化・伝統そして価値観を守る共同体とした場合、必要悪としての国家の機能を劣化させると、異なる価値観などを持つ大きな勢力により、統治主権を奪われ、国家主権の自由を束縛されるリスクがあることを忘れてはいけない。

主権国家による世界秩序の再編成

WLの戦略的矛盾は、乏しい国家間のコミュニケーションを、外交上の機密漏洩により、さらに狭めたことである。情報の閉鎖空間をつくる国家間の関係は、情報という「つなぎ」が弱まると、さらにぎくしゃくしたものになる可能性が強い。それは、世界の安全保障上のリスクを高めることにつながる。

無論、その矛盾を承知の上で、WLは国家機密の漏洩を行っている。WLは、国家こそが、戦争、紛争、人権蹂躙を引き起こす諸悪の根源であるとしている。政府が秘匿することにより価値のあった情報は、公にリークされることにより、その価値を低減さらには失うことになる。よって、情報に依存する政府の低質化が進むことになる。国家機密の漏洩による国家機能の低質化・不全化こそが、既存の主権国家による世界秩序を再編成する第一歩と、WLは考えていると思われる。

国家同士がつくる相対的な空間は、国単位で分かれ、国の間で序列がつくられ、国家は強制的な属性を持ち、民族、宗教、収入などにより階層化という分断を生み出している。その分断により成り立つ相対的な空間を、自由、平等、人権擁護という普遍性が遍く広まり、構成者の同意が力となる時空間に包摂しようというのがWLの野心であろう。

グローバル時空における未来戦略

我々がやらなくてはいけないことは、過去の国家機密を漏洩し、現在と未来を突き動かすWLの「時間軸上の綱渡り」に、グローバルな時空における未来戦略というヴィジョンを与えることである。

「グローバル市民社会」の考えがある。しかし、異なる価値観を持つ多くの共同体の集合であるグローバル市民社会をまとめるのは、個々の文化・伝統・歴史を超える普遍性しかない。それには、大きな共同体が、普遍性を錦の御旗にして、他の共同体を傘下におく抑圧された社会を許してしまうリスクがある。「グローバル市民社会」とは、抽象的な概念で、「乾いた空間」でしか過ぎない。我々は、乾いた「空間」に、歴史・伝統・文化という「時」を加え、自由で柔軟かつ強靭なものにすべきである。その時空で、「個」と「全体」との調整役を主権国家を含むグローバル企業、国際機関、NGOなどのグローバル・アクターに託すべきである。その調整の中から生まれるのが、グローバル時空の未来戦略であろう。

( 2010年12月15日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
 バックナンバー
■第1回 いまこそ改革に民の力を
■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
■第5回 イラク・フセイン政権崩壊に思う
■第6回 沖縄金融特区構想
■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
■第13回 日本経済再生戦略
■第14回 日本の安全保障戦略
■第15回 日本の外交戦略
■第16回 日本のエネルギー戦略
■第17回 日本の都市革命
■第18回 郵政民営化と国家安全保障
■第19回 日本の情報通信戦略
■第20回 未成熟な政治マーケット
■第21回 日本を守るのは国民
■第22回 今こそ議論すべき「日本の核抑止力」
■第23回 日米FTA・日中FTAの可能性を問う
■第24回 目覚めよ、日本国民!
■第25回 安倍首相の突然の辞任と日本の安全保障
■第26回 日米関係再構築と環境安全保障戦略
■第27回 グローバル時代の集団的自衛権構想
■第28回 「NOと言える日本」からの脱却とグローバル経済安全保障
■第29回 武士道の倫理は、米国の力と資本の論理を超える!
■第30回 オバマ・アメリカに対して
■第31回 政治を取り戻せ日本!
■第32回 安全保障問題と日本
■第33回 新自由主義を超える日本の心
■第34回 WIKILEAKSの「国家機密漏洩」を考える
■第35回 今望まれるインドとの戦略的連携
■第36回 東日本復興の理念「フクシマ・コンセンサス」
■第37回 日本の共同体思想が世界経済を救う
■第38回 欧米危機から学ぶ「国家と企業の連携」
■第39回 日本よ、デフレ脱却のモデルとなれ
■第40回 グローバル濁流へ対峙する「新国家主義」
■第41回 アルジェリアの悲劇 − 問われる日本国家の国民を守る力
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