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鈴木壮治の【言いたい放題】

第33回 新自由主義を超える日本の心

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

アメリカ新自由主義の欠陥

自由を求め、新世界を切り開いたアメリカ人は、自由の証の私的所有権を守るために、国家を生み出した。そして、個々のアメリカ人が、国家権力を分かち合う、統治の私有化「民主主義」を国是とした。個人主義と国家主義が共存する自由民主主義国家・アメリカの誕生である。

自由アメリカは、リスクを取る進取の精神を持ち、軍事力、政治力そして金融経済戦略を縦横無尽に駆使し、アメリカに拠点を置く巨大資本のため、新たな「経済自由領域」を拡大してきた。

その「自由帝国アメリカ」の版図拡大の先兵が、アメリカの金融資本である。物流を伴う交易と異なり、デリバティブ(スワップ、オプションなどの金融派生商品)は、国境をいともたやすく通り抜け、金融マーケットをグローバル化させ、金融を国々の支配下から解き放った。

新自由主義は、国家の手中にあった公益事業を民営化(正確には、「私有化」)し、企業が持つ倫理性を奪い、市場原理という自由競争の場に放り込んだ。

市場原理による自由競争は、個人と企業に、所得による階層を生み出し、一握りの勝者による私的経済専制を跋扈させることになった。政治の専制とは、法律を無視する権力の行使を意味するが、経済の私的専制は、社会規範と倫理性を無視して、私欲を最大限まで増大させ、経済そのものを崩壊させる。今回のアメリカ発の金融破綻と、それが引き起こした大不況が、その一例である。

新自由主義の欠陥が明らかになった今、それを補い、グローバル時代の新経済秩序と企業のあり方を提言、具体化させるのは、アメリカの盟友たるべき日本の役割である。

日本の心が世界経済の新秩序を創る

新自由主義は、私的経済専制を許し、下層に追いやられた個人と中小・零細企業にとっての経済的自由は狭まった。

新自由主義に理念を与え、経済の正常なる安定成長と本来の倫理性に富む資本主義を取り戻すためには、日本が、その長い歴史の中で、培ってきた心を活かすべきである。

足るを知る

日本は、「足るを知る」精神を育み、「衣食足りて、礼節を知る」として、その精神が、相手を敬う礼節を生むとした。

グローバリゼーションの動きの中、開発国の経済力・消費力も高まり、天然資源の有限さと地球環境の脆弱さが明らかになった。世界の人々が、資源を分け合い、寄り添うように生きる「共生の時代」にとって、「足るを知る」は不可欠な精神である。

新自由主義の旗の下、金融機関は、市場が許す限り、巨大化が許されるものとされてきた。足るを知らない金融機関が、デリバティブ取引の想定元本を600兆ドルまで膨らめ、世界の政府、公的金融機関が、束になっても制御できないリスクを撒き散らした。そして自らも、そのリスクで、自家中毒になり、破綻の危機に瀕した。

デリバティブ取引を含む大手金融機関の巨大な損失処理に、グローバル金融システムと国家財政は耐えられない。よって、アメリカ政府は、大手金融機関の破綻を防ぐため、臭いものに蓋をするように、不良資産への時価主義会計適用を棚上げし、公的資本注入により、資本を増強した。

大手金融機関を、国民の税金で救うという「企業社会主義」は、市場原理主義の自己責任原則を、弱い存在の個人には課すが、大企業には課さないとするものである。それは、国民国家の枠を超える大きな自由の中、縦横無尽に私益を追求した大企業の失敗のツケを、国民国家内の自由のみに生きるアメリカ国民が払うものである。このまま、足るを知らない資本の論理を野放しにしておくと、アメリカの国是である「私有の自由」と「それを守る国家権力の共有」のバランスを崩し、アメリカを崩壊させる。

武士道の倫理性

グローバリゼーションの時代において、グローバル企業はグローバルガバナンス(地球協治)の一角を担う。私益を追求する企業が、主権国家、国際機関そしてNGOと、どのように協働できるかが、グローバルガバナンスにとって重要である。

また、先述のように、国外で自由奔放に私益を追求するグローバル企業を見て、国民国家内に閉じ込められた人々が、人権などのグローバルな普遍的価値に目覚め、グローバル市民としての連帯意識を持ち、国家を超える市民社会を生み出すと思われる。そして、大消費者である市民社会を、企業は無視することはできない。

私益追求のみに走る企業では、その市民社会そして従業員、顧客、取引先などのコーポレィトガバナンスの担い手を味方にできず、長期的な安定成長は望めない。

そのような企業環境において、企業が「私」として生き抜くためには、私が公と共生する「公共性」を、企業内に取り込まなくてはいけない。そのためにも、企業の社会的貢献、環境への配慮などの外部経済性を、企業価値を決める要因に加えるべきである。さらに大事なことは、競争により私益を追求することを美徳とし、私欲を抑制する倫理性のかけらも見出せない新自由主義に、武士道の「私欲を抑え、公に尽くす」の倫理性を、理念として持たせることである。

数値信仰による金融破綻と日本の美の心

プロテスタントの流れをくむカルヴァン派は、労働に励むことにより、神に許されるものとした。そして、労働により得た収穫物は、数値すなわち金額により客観的に評価されるものとした。その影響もあり、アメリカ人は、数値信仰に近いメンタリティを持つ。そのアメリカが生み出した金融資本主義の横暴さは、不動産担保証券の価格算出に見て取れる。

その際使われた住宅ローンの債務不履行リスクの計量化の前提は、「不動産価格は継続的に上昇する」というものであり、その欠陥は明らかである。しかし、米国の金融機関は、低所得者用の住宅ローン(サブプライム・ローン)の債務不履行リスクを、その公式を使って計量化し、不動産担保証券をつくり、販売した。

そのような金権主義を許したのは、金融数値を凌駕する権威と価値を、実体経済のチャンピオンである日本が、打ち出せなかったことによる。伊勢神宮の内宮、外宮にある玉砂利の参道、その純朴な様式美に、日本人は心を打たれる。その美の心を持つ日本人は、小さな、そして、清潔なものに美を見出す。その美意識は、巧みで緻密な工芸作品、さらには、近代産業における優れた多くの工業製品を生み出してきた。

しかし、日本は、そのような優れた技術と製品を持つが、世界をリードするような技術の価値評価基準を創りだせなかった。本来ならば、そのような技術評価能力を梃子に、優れた技術を持つ企業の価値をグローバルなものにして、技術力を背景とした実体経済戦略を推し進め、欧米勢による金融経済の膨張(実体経済の数倍以上)を、抑えるべきであった。

戦後の教育は、日本古来の伝統と様式にある美に権威を見出すことを許さなかった。今からでも遅くは無い、日本人は、美の心を取り戻し、金銭欲に塗れた新自由主義に、新たな価値観を植えつけ、その強欲さを抑制すべきである。

[財界11月24日号掲載]

( 2009年12月14日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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