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鈴木壮治の【言いたい放題】

第30回 オバマ・アメリカに対して

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

 後の先という言葉がある。空手などの武道の試合において、まず、相手に攻撃をさせ、その際生じた隙をついて反撃するものである。これは、横綱相撲とでも言うべきで、力が劣るものにとっては、不利な闘いの戦略である。

 米国は、金融破綻に苦しんではいるが、未だ、他国を圧する総合力を維持している。その超大国に対して、後の先を取れる国など無い。先の先、すなわち、果敢に先手を取ることでしか、米国と丁々発止の駆け引きを行なうことはできない。核開発をカードに、米国を交渉の場に引き出した北朝鮮は、そのことを良く知っている。 国際会議において、英米は、表面的には、世界のためであるとの論理構成で主導権を握り、自国に有利な国際的規約を決める。一方、日本は、国際会議においても、先の先を取らず、受身に徹し、他国が決めた国際的規約を受け入れるケースが多い。そして、決められた規約の中に、何とかして、抜け道を見出し、国益を守ろうとする。そこには、国際的な視野と戦略性が感じられない。そのような受身で矮小な日本の姿勢に、国民の多くは、悔しい思いをしている。

 日本の政治は、その国民の悔しい思いを払拭すべきである。オバマ新大統領は、就任後、通常行なわれる「100日会議」を前倒してでも、国家戦略を発動させてくるに違いない。日本は、その動きに対し、先の先、すなわち、米国の機先を制する戦略をもって、米国を動かすべきである。

  しかし、日本の利益のみを追求する戦略では、米国を揺るがすようなことはできない。まず、米国の弱みと問題点を鋭く抉り、それをグローバルな視野で解決するような戦略こそ、オバマ政権の機先を制することになる。

  オバマは、まさしく、時流に乗ったがゆえに、大統領の椅子を確かなものにした。上院議員の4年間で、目だった実績も戦略性も感じられなかったオバマは、けっして、一人の力で伸びてきたわけがない。やはり、オバマの能力、性格、中道的な思想、そして、生まれ育った環境などが、米国を通じて世界を動かそうとするグループの御目がねに適ったのであろう。

 時流の多くは、時の権力に対する反発であり、社会構造への不平不満によりつくられる。新自由主義経済が生んだ所得格差は、米国の中産階級を没落させ、回りまわって、経済大国としての米国の立場を危うくさせている。そして、アフガンとイラクとの戦争に米国を引きずりこんだ「力の論理」は、新自由主義経済を動かす「資本の論理」と底流でつながっていることを、米国民は感じ取った。

  イラク戦争に疲弊し、金融破綻から実体経済劣化へと、米国はその国力を衰えさせつつある。米国を動かすグループは、米国を機能国家してとらえ、その政治力、軍事力、金融力などを最大限に使い、「私益の極大化」につとめてきた。その彼らが恐れるのは、虐げられてきた弱者としての多くの米国民が、それに気づき、新自由主義経済によるグローバリゼーションにより同じ苦しみを味わっている世界の人々と連携し、自らに歯向かってくることである。

 インターネットを選挙戦に有効に使い、大統領選挙に勝利したオバマは、その力と怖さを知っている。2003年の2月15日に、ヨーロッパの反戦運動家達のインターネットなどによる呼びかけで、アメリカ、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、日本、スペインなどで、史上最大の反戦デモが繰り広げられた。

 そして、米国の権力中枢は、米国民が、イスラム過激派などのようなテロリストグループと連携し、米国を内部崩壊させるようなテロ行為に走ることを、最も恐れている。

 それは、まず、金融資本主義経済の恩恵に浴してきたユダヤ系アメリカ人への攻撃から始まる恐れがある。それを回避するには、人種、宗教、性別などを超えた一つのアメリカに、米国民を向かわせなくてはいけない。

 人種差別の無いアメリカを象徴し、米国に協調性を取り戻す役割を果たすのがオバマ大統領である。父親に生後間もなく捨てられ、母親とアジアを転々としてオバマ大統領は、自立心を養い、その強き心は、米国における差別への憎しみを、変革へのエネルギーとして蓄えてきた。そのエネルギーは、私欲にかたまった連中に利用させてはいけない。

 まず、日本が、なぜ、黒人大統領の誕生をある感慨を持って喜んだかを、オバマ大統領に伝えるべきである。

 第一次世界大戦の後始末をするパリ講和会議で、日本政府代表は、人種差別撤廃法案を提出した。その背景には、米国で日本人移民が差別を受けていた事実があった。その時、差別・抑圧に苦しんでいた米国の黒人も、パリ講和会議で、人種差別を撤廃することを訴えようとした。しかし、米国政府は、それを阻止し、結局、米国の黒人の代表は、パリ講和会議に来ていた日本使節団に、嘆願書を提出するのが精一杯であった。

 その講和会議で、日本は、国際連盟の盟約として、人種平等の原則が固守されるべきことを提案した。投票の結果は、賛成17で、反対10であったが、委員長をつとめていた米国のウィルソン大統領が、「このような重要案件は、全会一致でなければいけない」として、勝手に、この日本の提案を葬った。オバマ新大統領には、是非とも、この歴史的事実を噛み締めてもらい、日本の新たなる戦略的提言に耳を傾けて欲しい。

 米国の身勝手で、自国の利益しか考えない戦略の矮小性は、代々の政権に引き継がれてきた。ブッシュ政権は、米国の単独主義路線を踏まえ、地球環境にとって大事な京都気候会議議定書から脱退し、ABM条約(弾道弾迎撃ミサイル禁止)を廃棄した。

 今のままでは、米国は一つにはなれず、世界から尊敬を受ける国にもなれない。自由、民主などの普遍的イデオロギーで化粧した米国のグローバル覇権への野望は潰えても、また、他のグループが、超大国である米国の力を利用する「私欲の連鎖」は途絶えない。

 オバマ大統領は、選挙の資金面でお世話になったグループの利益を、うまく国益追求の戦略に紛れ込ませることに、力を尽くすであろう。それは、ブッシュ大統領を支えたエネルギー産業と軍需産業へのお返しとしてのアフガンとイラク戦争に見て取れる。

 オバマ政権は、ブッシュ政権よりもより巧妙に、彼等の利益を戦略に紛れ込ませるであろう。地球温暖化を避けるための二酸化炭素排出量削減、新エネルギーの開発プロジェクトは、米国の国益のためではなく、地球益のためであるというレトリックを使うであろう。それらに必要な技術力を持つ日本は、その動きを抑制しなくてはいけない。

 そのためにも、日本は、米国を、戦略的な日米対話に誘い込まなくてはいけない。それには、日本が独自の核抑止能力に関するオプション(選択権)を持っていることを、対米交渉で、有効に使うべきである。米国は、NPT(核不拡散)体制を離脱したインドの核兵器、そして、イスラエルの実戦核装備を容認するが、イランの核兵器開発は認めないというダブルスタンダード(二枚舌)の国である。また、ブッシュ政権時代の国防総省「核態勢レビュー」の中で、「敵が大量破壊兵器を持っている場合、米国が核兵器で対抗する可能性もある」と述べている。これは、明らかに、NPT体制における核保有国に対する規制である「核兵器非保有国には核攻撃はしない」を破るものであり、これを一つとっても、既に、NPT体制の崩壊は明白である。

 また、中国は、米国の核攻撃に対して第二撃能力を持ち、米国の日本への核の傘はその有効性を失っている。日本は、核攻撃に対して裸のままの状態である。

 日本政府は、オバマ政権に、独自の核抑止能力を持たない軍事上の脆弱性が、エネルギー、環境、食糧などを含む日本の安全保障に、致命的な欠陥を与えていることを、不退転の決意で伝えるべきである。それは、強大化する中国と超大国への回帰を目指すロシアに対抗するための日米間の戦略的対話を生み出す。

 そして、その対話の中で、日本・米国・中国による原子力発電所の増設を含む環境・省エネ技術開発機構の創設、NATOと日本の連携、イランの後ろ盾であるロシア、中国を取り込むようなアジア太平洋安全保障機構の創設などを、二国間で、徹底的に議論すべきである。

 また、日米間の戦略的対話の中で、国際金融において、IMF、世銀などを欧米勢が牛耳っていることを是正するため、日本はアジア諸国と協力して、具体的な国際金融戦略を構築し、その実現に邁進することを、米国に認めさせるべきである。

 日米の戦略的対話が、二国間の新たな総合安全保障条約を生み出し、それが、日米に加え、インド、オーストラリア、カナダなどの民主主義国家を取り込む総合的集団安全保障機構創設への道を開くことになる。

 世界との協調を表看板とするオバマ新政権こそ、日本を米国追従から脱却させ、真の世界貢献国家国へと脱皮させるチャンスである。そのためには、受身ではなく、機先を制する「先の先」の戦略で、その機会を活かすべきである。確固たる歴史、そして、優れた文化と伝統を持ち、そこに、国民が共通の価値を見出せる日本は、力と資本の論理のみに陥りやすい米国を善道し、米国のグローバル戦略を、力づくの各国撃破の民主化ではなく、世界のシステム自体の民主化に向けさせるべきである。それこそが、日本の歴史的使命である。

( 2009年01月06日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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