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鈴木壮治の【言いたい放題】

第28回 「NOと言える日本」からの脱却とグローバル経済安全保障

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

中国への実需投資と、米国の大消費により支えられてきたグローバル経済が、プライムローン問題に端を発した米国景気の停滞により、危機を迎えている。その動きの中で、政治の捻れもあり、方向が定まらない日本は、世界最大級の株価の下落という鉄槌を下された。

リスクを、世界にバラ撒き、リスク管理能力により、自国の優位性を保ってきた「リスク帝国」とも言うべき米国の限界が見え始めた。そして、グローバル経済で、米国の相方を務める中国の経済破綻は、「弱い中国」がもたらす脅威である。

その米中が倒れれば、日本はその下敷きになる。今こそ、ゼロサムゲームを超えるグローバル経済安全保障戦略の構築と実行が望まれる。

グローバル経済の実態

サブプライムローン危機で、ついに、米国の住宅着工件数は、16年7ヶ月ぶりの低水準に、落ち込んだ。そして、株価が急落、FRBは、政策誘導金利であるFF金利を、慌てて、0.75%下げた。

しかし、サブプライムローン債権を集めた証券化商品の残高は、1400兆円にも達する。底が見えない損失への恐れは、米国経済の土台を揺さぶる。

グローバル経済は、米国の消費と、中国の実需への投資により、回ってきた。中国は、エネルギーコストの上昇と、エネルギー使用効率の悪さを、低賃金と弱い人民元で賄い、輸出で稼ぎ、また、巨額の建設・設備投資で、5年連続で、GDPを、10%以上も伸ばしてきた。

中国の昨年の不動産開発投資は、前年度に比べ、30%を超える伸びを示した。バブル経済を恐れる中国政府は、必死に引き締め策を取ろうとしているが、分権国家の中国の地方政府は、言うことを聞かない。

そのような米国と中国の経済の脆弱性は、グローバル経済にとって、最大の脅威である。サブプライムローン危機で、世界最大の外貨準備(1兆5000億ドル)を持つ中国は、米国金融機関に資金注入を行い、米国と疎遠になりつつあった中東産油国も、慌てて、ドル離れの議論を撤回した。彼らは、グローバル経済の危機を感じ取ったのである。

その危機感を、日本政府は持っているであろうか。

リスクをバラ撒く米国

米国民は、過去六年間で、住宅価格上昇を担保に、毎年、8500億ドルから、9000億ドルもの借金を重ねた。米国の貿易赤字は、2005年以来、毎年、8000億ドルを記録してきた。まさしく、米国民のハウジングローンの金額に、ほぼ匹敵する額が、貿易赤字額であったのである。その数字により、直感的に、米国の景気は、住宅バブル頼りであったことが分かる。

サブプライムローンは、信用リスク(債務者の支払遅延・不能)を生み出した。その信用リスクに、レバレッジを効かせ、ハイリスク・ハイリターンに作りかえられた投資商品を、世界の金融機関投資家が買った。すなわち、米国の個人消費者の信用リスクが、世界にばら撒かれたことになる。グローバル経済を支えてきた米国への資金の流入は、欧米そして中国の金融機関が、ハウジングローンにおける米国民の信用リスクを取ることによって、成り立ってきたのである。

さらに、米国は、外貨準備が潤沢な中国、日本などに、米国債を買ってもらっている。米国債はドル建てであり、所有者は、自国通貨に対するドルの下落リスクを背負い込んでいる。

すなわち、日中両国は、モノを米国に輸出し、その代わりに、ドルの下落リスクと、ドル建て米国債の下落リスク(金利上昇)を「輸入」していることになる。

このように、米国は、マネーを流入させ、その代わりに、信用リスク、通貨変動リスクそして金利変動リスクを、世界に流出させてきたのである。

「投資銀行」としての米国

現在のグローバル経済は、「虚の数字」を梃子に回っている虚経済でもある。その例が、企業価値を示す時価総額である。総発行株式数が、1億株あったとしても、証券市場で、30万株だけ取引されても、その時価で、1億株を対象に、企業の時価総額が計算される。流動株が少ない企業の株価は、変動しやすく、「虚の数字」である時価総額も、揺れ動く。

一昨年、米国の圧力もあり、日本が導入した株式交換制度は、その「虚の数字」・時価総額によるマジックを、可能にする。買収対象の日本企業より、時価総額の高い米企業は、有利な株式交換比率で、日本企業を買収し、傘下に、置くことができる。すなわち、債務大国・米国は、株式と言う、新たな「紙幣」を得たに等しい。

グローバリゼーションとは、米国の「投資銀行化」である。自らは資金を持たず、投資技法・リスク管理能力で、世界の余剰資金を引き付け、それを使っての証券・社債市場で運用・企業買収などで、収益をあげるのが、投資銀行である。米国債売却で得た資金で、米国は、証券投資を行なっており、その額は、一時、2300億ドルにも達した。しかし、サブプライム問題の表面化で、米国への資金の流入は、細まっていくであろう。

2005年度において、米国は、世界の株式取引占拠率において、45.5%を占め、収益支配率では、58.2%を誇った。日本は、取引占拠率で、10.6%、しかし、収益支配率では、3.8%と、日米間の投資リスク能力の差が顕著であった。

米国により、世界にバラ撒かれた通貨変動リスク、金利変動リスクそして信用リスクは、企業と国家を苦しめる。そして、米国の金融機関・投資銀行は、そのリスクを管理するノウハウを提供し、収益を得てきた。しかし、サブプライム問題をうまく切り抜けないと、その信用を失うことになる。

「弱い中国」の脅威

中国脅威論がある。国連安保理の常任理事国であり、核保有国である中国は、政治と軍事で、日本を陵駕している。また、中国が、このままのペースで、経済を伸ばしていくと、GDPで、2010年には、日本を抜く。そして、2015年には、GDPが、10兆ドル規模になり、米国に肉薄する。多くの日本人が、中国の拡大する経済と軍事力を脅威と考えても、当然である。

しかし、そのような強い中国の脅威に加え、弱い中国の脅威も考え、その対処策を準備しておくべきである。「日本のグランドデザイン・環境安全保障戦略」で述べたように、気候変動による天変地異、不動産・株のバブル破裂による中国経済の崩壊こそ、弱い中国の脅威である。

13億にもなる中国国民の7割が農業人口である。農民一人当たりの耕作地面積は、世界平均の40%程であり、水資源に至っては、30%を切る。中国政府は、農民(7億人)から、税金を取らず、土地も、ただで貸している。政府支出の20%は、農民へのシフトであり、中学生まで授業料免除、医療費もただ。税金は、産業界と都市部の不動産から得ている。

これらの農民へ手厚い保護は、逆に、都市部でバブルの恩恵を被っている者に比べ、農村部が財政的に悲惨な状況にあることが分かる。

中国の核攻撃能力の脅威に関しては、日米で、ばらつきが生じ、日本の安全保障上でのリスクがある。しかし、中国経済の崩壊は、日米共通のリスクである。そのリスクをヘッジするためにも、まず、日米間で、経済安全保障に関する対話を開始すべきである。

受身の日本経済

中国は、昨年の9月に、初の政府系投資ファンドとして、「中国投資有限責任公司」をスタートした。当初のファンド規模は、2000億ドルで、外貨投資は、その三分の一と言われている。そのかなりの部分が、今後、海外のエネルギー権益の取得に使われる可能性もあり、戦略的リスクマネーとして、インド、ブラジルなどへの投資を行ない、ドル離れの傾向を強めていくと思われる。

ロシアも、原油の決済通貨をルーブル建てにして、機軸通貨ドルへの挑戦を始めた。ロシアは、その通貨戦略の先に、米国、EU、中国そしてロシアによる4極体制を見据えている。

受身の日本の弱体化を、統計数字が物語る。世界のGDPに占める日本のGDPは、1994年に17.9%もあったが、現在では、9.1%へ低下した。そして円が世界の外貨準備に占める割合も、1995年の6.8%から、昨年は、2.8%に低下した。

最近になって、中国に抜かれる前までは、世界最大の外貨準備を持つ債権大国であった日本。しかし、そのカネを、自らのグローバル金融・投資戦略で使いこなすことはできず、米国のいいなりに、ビッグバン、郵政の民営化などを行なってきた。郵貯・簡保の350兆円を、市場に放出する民営化は、虎視眈々と、ジャパンマネーを狙う米国金融資本にとって、してやったりである。

年が明け、日本の株価は下落し、世界の主要な株式市場に比べ、最大の下げ幅を記録した時もあった。サブプライム問題の顕在化による米国景気への懸念など幾つかの要因が考えられるが、やはり、経済大国であるにも係わらず、自立性のある金融・経済戦略を打ち出さず、方向性の見えない日本政治の不確実性が、主因であろう。

国債を永久債へ

日本国は、莫大な借金(2007年3月末で、国債・借金の合計額は、834兆円)を抱え、このままだと、その借金は、将来、国民の税金により賄われる。そして、日本は、財政赤字で破綻すると言う専門家がいる。しかし、どうも、増税路線の財務省のお先棒を担いでいる感じがする。

日本を、借金で、破綻させるわけにはいかず、また、税金を高くして、不況のどん底に追いやるわけにもいかない。しかし、この問題を解決しない限り、日本は、グローバル経済安全保障へ貢献する余裕は持てない。

一つの解決案として、国債の満期を「永久」にする永久債へ、60年満期の建設国債を換えてしまうことも、検討の価値がある。永久債は、元本の償還は無いが、それを所有している限り、金利の支払を受けられる国債である。

元本の償還が無いので、そのための大増税も無く、世代間の不公平さも解消される。

通貨変動リスクを減らせ

通貨変動リスクを軽減するのも、経済安全保障上、大事である。日米経済協力の動きの中で、日本が、ドルの桎梏から離れ、対米依存を減らすためにも、日本が買う米国債は、円建て、もしくか、円の割合が多い通貨バスケット建ての米国債にしてもらうべく、米国に頼めばよい。

原油高騰により、潤沢なオイルマネーは政府系ファンドを通じて、世界に逆流している。しかし、日本には、殆ど逆流してこない。原油・天然ガスの資源を大事にしたい産油国は、省エネ技術の重要性を認識している。よって、彼らが、省エネ技術を持つ日本企業へ投資するのは合理的である。

日本政府が動きにくいようであれば、民間主導で、オイルマネーを、日本に、流れ込ませればよい。そして、原油の決済通貨を円建てにすれば、中東諸国も、円資産への投資をしやすくなるし、日本も、通貨変動リスクを軽減することができる。

グローバル経済安全保障

中国経済破綻によるグローバル経済危機に対処するため、経済安全保障を、グローバルな視野で捉えなくてはいけない。

日米関係も、一時、技術と安全保障を切り離さずに、技術を守り、国益を守るという攻撃的経済安全保障の土俵で睨みあったこともある。しかし、多極化と多様化の進む世界において、軍事的思考に囚われ、ゼロサムゲームを追及する攻撃的経済安全保障は、行き場を失っている。

郵貯・簡保の資金を使って、数十兆円規模の「グローバルインフラ・投資ファンド」を組成し、その資金で、空港システム、情報通信システム、国際金融センターなどのグローバル機能を構築すれば、グローバル安全保障の能力を向上させることができる。

政府投資ファンドは、米国の投資銀行化に対抗し、また、政府主導の「旧来たる経済安全保障」の枠外にある企業を、主権国家の枠内に取り込むため、企業への投資を行なう。それは、グローバル経済安全保障への動きに、逆行する。

それよりも、日米の民間と政府の共同プロジェクトとして、両国の投資資金に加え、通貨・金利・商品価格の変動リスク管理能力に優れる米国の力と日本の技術力を、最大限に引き出す投資ファンドを組成し、環境・食糧・省エネなどへ投資し、グローバル経済の安定化を進めるべきである。

その動きが、金融、エネルギー等の経済分野における「諸国間の複合レジーム」を統合し、地球益を至上とする環境安全保障に包まれるグローバル経済安全保障を、実現していくものと信ずる。

<雑誌『財界」2月26日号掲載>

( 2008年02月29日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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