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鈴木壮治の【言いたい放題】

第26回 日米関係再構築と環境安全保障戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

米国の力に陰りが見え始め、軍事と経済の多極化が進み、世界の不確実性とリスクが高まりつつある。

国益追求というリアリズムに基づいた安全保障と、地球益を追及するグローバル環境戦略は、本来は、対峙するものである。しかし、その調和無くして、人類の存在を脅かす気候変動、原子力発電所事故そして核戦争による大気汚染のリスクを、軽減することはできない。

日本は、その人類史上最大の課題から、逃げることなく、堂々と取り組み、未来への扉を開けるべきである。

米国の安全保障と環境・エネルギー戦略

米国海軍は、2007年10月に、世界の多極化を視野に入れた、次の「海洋戦略」を発表した。

1.人道上と海洋における問題解決には、法の支配の確立が肝要である。
2.気候変動による旱魃、洪水、農業用土地の減少が、内乱を引き起こすリスクが高い。

法の支配の確立という言葉から、米国が、軍事力による単独行動主義より、ソフトパワーを重視した協調主義へと傾き始めたことが窺える。また、気候の大幅な変動が、水や農業用地の取り合いの争いを生み、それが、内圧となって、国内の治安悪化、安全保障上の問題を引きこすリスクがある。それを解決するためには、安全保障とグローバル環境戦略を包摂する「環境安全保障戦略」が必要不可欠である。

米国が、海洋戦略で、あえて、その環境安全保障戦略に触れたのは、その様な問題は、アフリカ諸国だけではなく、場合によっては、中国のような大国でも起こりうるとの危機感から出たものである。中国の環境劣化による内政面の問題に、バブル崩壊が重なれば、中国は崩壊の危機に瀕する。中国の軍事政権は、その活路を、「台湾併合」に見出す恐れがある。それは、日本にとって、看過できない安全保障上の大問題である。

ブッシュ政権は、地球環境無視の態度を一転させ、気候変動に対処する戦略的な取り組みを始めた。その目玉が、原油に替わる新エネルギー資源の確保である。

イラン、イラクそしてサウジのシーア派連合と中国が協力して、原油などの資源開発を行うことは、中近東のエネルギー地政学における、米国への挑戦であるとの認識を、ブッシュ政権は持つ。

さらに、民主主義・自由主義経済と同じ価値感を持つ欧州そして日本が、中近東リスクに曝されることへの危惧を、ブッシュ政権が持ったとしても、不思議ではない。

よって、米国は、原油の高値を容認し、化石燃料に替わる新エネルギーの開発促進を進めると同時に、化石燃料使用過多へのアンチテーゼとして地球温暖化への警鐘を鳴らし始めた。しかし、先述のように、その裏には、米国の冷徹なエネルギー地政学が隠れていることを忘れてはいけない。

危機感を持て、安全保障鎖国国家・日本

このように、米国は安全保障戦略の一大変革を進めているが、日本は、一国平和主義、すなわち、日本本土の防衛のみを行い、周辺国との集団的防衛体制の構築には関心を持たない、「安全保障の鎖国」を続けている。

その間、地球規模での環境劣化、エネルギー・食糧資源の枯渇、貧富の差の拡大などが、安全保障の脅威になりつつある。限られている牧草地を、多くの牛が食い尽くしてしまう「共有地の悲劇」は、まさしく、共有地であるグローバル空間で起こりつつあるのである。

そして、各国は、必死に、他国、国際機関そしてNGOなどと連携し、それらの脅威に対処しようとしている。インド洋における海上テロに対して、日本が何も貢献できない場合、中国海軍が、その代わりを務める可能性も浮上する。米国よりの自立を高めんとするオーストラリアの新政権、そして、インドなどが、中国を取り込んだ「インド洋・アラビア海域における海上安全保障機構」を構想する可能性もある。

グローバルな経済活動により、生きている日本が、「安全保障鎖国体制」に安住し、安全保障を、受身で捉えているのでは、先述のように、国際連携に遅れを取り、孤立化を、余儀なくされる。

グローバル空間である地球環境を犯す人類の敵として、「グローバルテロ」、「気候変動」そして「核による大気汚染」は共通する。それらに対処するのが、地球益のための「環境安全保障戦略」である。

流動化する日米関係

日米関係は、流動化しつつある。日本は、米艦などへのインド洋での燃料給油を休止し、また、米国は、日本が心血を注いだ京都議定書を、未だ批准していない。この様に、安全保障と環境において、日米関係はギクシャクし始めている。

一方、NATOにより、安全保障という基礎インフラを共有している米国とEUは、二酸化炭素の排出権制度創設に関して協力し、安全保障と環境での共同歩調をとりつつあり、日本は、置いてきぼりをくらう可能性もある。

欧州と米国の主導により、国際会計基準が創られ、日本が、受身に回ってしまったことを思い出す。1992年に、米国勢の圧力により、日本は、BIS規制(銀行の自己資本比率基準)を、邦銀に適用することになった。その結果、自己資本比率の低い銀行は、中小企業などへの融資を縮小した。金融への道を狭められた企業は、弱体化し、日本経済は停滞した。二酸化炭素排出権制度において、日本が、同じ愚を繰り返すことは許されない。

戦後の日本の米国への追従体制を、「戦後レジーム」と呼ぶ人も多い。そして、それからの脱却のために、中国との関係を密にし、チャイナカードを使えという意見もある。しかし、それは、いたずらに米国を刺激することになり、日米の離反につながる恐れがある。

レジームとは、主権国家同士の問題解決のための方法のルール化である。金融、エネルギー、情報通信、航空システムなどのグローバル権力の争奪戦を、現在、国家は行なっている。無益な国家間の争いを回避するためにも、金融、エネルギーなどの複合レジームを統合するグローバルガバナンスが、必要とされている。

対等で正常な日米関係は、両国間の複合レジームを統合化するための相互努力により生まれる。そして、日本が、地球益を後ろ盾に、迫力を持って、米国と渡り合うためには、まず、自国の「環境安全保障戦略」を持たなくてはいけない。

グローバルテロとしての拉致

金融、情報通信そして航空システムなどのグローバルな公共財を守るのは、日本の国益に適うものであり、それを侵すグローバルテロに対しては、今後も、国際協調をベースに戦っていくべきである。しかし、安全保障の鎖国状態にある日本の国民は、グローバル空間という国際的公共財の重要性と、それを侵すテロリストの危険性に、無神経過ぎる。

テロ特別措置法による、インド洋での米艦などへの燃料補給は、グローバルテロに対して、日本も、毅然と、他国と連携して戦うことを、世界に訴えるものである。それを無視して、「イラクへ向かう戦艦に燃料・水を供給している」と鬼の首を取った様な民主党の言い方は、「木を見て、森を見ず」である。政権奪取のために、自国のエネルギー確保のためのシーレーンを守るという国益を忘れ、また、大事な日米関係を、疎かにすることは、許されない。

エネルギー資源確保の道を、現憲法が閉ざすのであれば、憲法改正を、広く、国民間で議論し、国家としての意思決定として、憲法の改正を行なうべきである。

六ヶ国協議は、国民の目には、「拉致問題解決を優先させたい日本の頭越しに、米朝が動き、米国主導で朝鮮半島の利権が決定されていく」と映っている。核拡散を封じ込めることの大事さは分かるが、国家主権を侵害され、国民を拉致され、その命が危機に瀕している緊急事態であり、それを救えない日本は、国家の体をなしていない。

多くの国から、何の罪も無い人々を拉致した北朝鮮の行為は、「グローバルテロ」である。グローバルテロは、人間の安全保障を侵すものであり、気候変動と同様、国益を超えて、諸国が連帯し、対処すべきものである。拉致問題解決のため、日本が必死に取り組むことは、超国家活動における日本の存在感を示すものである。

日本の国家総合安全保障戦略

日本には、国力をまとめる総合安全保障戦略が無く、その結果、各省庁が、バラバラに省益を求める「省連邦国家」になっている。その結果、対外交渉において、日本は、その国力を活かせず、国益追求ゲームにおいて、他国の後塵を拝することになる。

先述のように、現在、国家間で、激烈なグローバル権力(国際金融、航空システム、情報通信など)の取り合いの競争が行なわれている。国際金融、軍事、エネルギーなどを包摂した総合安全保障戦略を持たない日本は、必然的に、そのグローバル権力闘争において、後手に回っている。

日本の未来は、外交・安全保障分野を中央政府が担い、生活・医療などの分野を地方政府が行ない、金融・経済は市場に任せることになる可能性が強い。しかし、集団的自衛権という国家主権を放擲し、外交・安全保障において、米国に追従する体制では、中央政府の役割が見あたらず、日本が道州制度を創っても、道州が、米国の「州政府」のごとくになる恐れがある。地方分権化の前に、戦後レジームから脱却し、真の自立した国家になるべきである。

そのためにも、軍事分野に加え、国際金融、エネルギー、食糧そして情報通信などを含む総合安全保障戦略を構築する際、グローバルな安全を侵す要因である地球環境の劣化、資源の枯渇、貧富の差の拡大を阻止するための地球益戦略を入れるべきである。

中国と米国の狭間で

中国を無視して、環境と安全保障を考えることはできない。その中国が、東アジア共同体構想を提唱している。

しかし、経済規模、価値観の異なるアジア諸国の連携において、国家主権を超国家組織に移譲するEU型は無理である。その点からしても、国家主権貫徹型の中国が主導する東アジア共同体は、無理があり、東アジアの権力秩序への挑戦と取られても、仕方がない。

アジアの秩序は、金融・情報通信・空港システムなどをベースにした「機能型連携」によりつくるべきである。中国崩壊のリスクも視野に置き、国際金融、航空システムそして情報通信などのグローバル機能を持ち、世界経済の安定に寄与しなくてはいけない。

例えば、沖縄の金融特区における国際金融センターの設立、 また、東京湾奥に4000メートル級の滑走路を四つ持つ大規模空港容量を持つハブ空港を建設し、敷地内に、データセンター、省エネ・環境維持に関するテクノロジーの開発センターも設置することも考えられる。

エネルギー需要国である日本・インド・中国と、供給国であるオーストラリア、インドネシアなどが、資源・エネルギー安全保障を協議する場をつくろうという意見も出始めている。

その様な動きの中で、昨年の4月に、中国の温家宝首相が来日し、エネルギー効率の向上、環境保護などにおける「日中間のエネルギー分野における協力強化に関する共同声明」が署名された。米国を蚊帳の外に置く、次のような日中間の協力が語られるようになった。

・アジア諸国向けの中東原油は、欧州向けよりも高く、アジアプレミアムと言われている。それを是正するために、日中などの原油需要国同士が協力して、産油国に対して、価格などの条件を交渉する。
・原子力発電所事故回避のための日中協力。

その前に、日本は、環境安全保障に関しての日米対話を集中して行なうべきである。そして、地球益を踏まえ、環境、軍事、金融そしてエネルギー分野などを含む日米間の複合レジームを統合化し、それを新日米安保として、結実させるべきである。

新たな日米関係構築に呼応するように、日本は、環境安全保障基本法制定と憲法改正に向けて、広く、国民の間に議論を巻き起こし、その実現を目差すべきである。

<雑誌『財界」1月29日号掲載>

( 2008年02月02日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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