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鈴木壮治の【言いたい放題】

第23回 日米FTA・日中FTAの可能性を問う

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

[本コラムは社団法人世界経済研究協会主催のシンポジーム「日米FTA・日中FTAの可能性を問う」に参加した際の、発言内容を編集して社団法人世界経済研究会の世界経済評論の2月号に掲載されたものです。]

 「日米FTAと日中FTA」は、なかなか、刺激的なテーマと思います。テーマの背景には、自由貿易だけの話ではなく、日本が、今後、どのように米国と中国と付き合っていくべきか、更には、日本のアジア太平洋構想につながる問題提起があると考えました。

 米国・中国との貿易・投資を考える前に、まず、未来戦略として、日本とアジア太平洋の国々との外交・安全保障戦略を考えるべきでしょう。この軸が無いかぎリ、日米FTAと日中FTAに対する日本の取り組み方も、議論できないと考えます。

 米国との関係を考えるにあたって、やはり、日本は、米国の軍事的保護国家であり、それが経済の分野においても、日本の立場を弱くしている事実を看過してはいけない。また、中国の国防費は、1989年より18年連続で二桁の伸びを示しており、中国の軍事力の増強は、否定のしようがありません。そして、北朝鮮は核兵器を開発し、東アジアにおける軍事的脅威は高まっており、中国さえも、「北朝鮮の核実験により、北東アジアの情勢は深刻化している」と認めています。北朝鮮に多くの同胞を拉致され、また、北朝鮮の核実験を許してしまった日本には、国民・国益を守るしっかりとした外交・安全保障戦略への渇望を持つ多くの国民がいます。

 北朝鮮の暴挙を許した反省と、中国の強まる軍事的脅威もあり、日本には、自らの命・財産を、米国の軍事力に守ってもらうのではなく、自らで守ろうという意志が、育ちつつあります。防衛庁の防衛省への昇格、自衛隊員の海外派遣が、本来の任務に組み込まれる自衛隊法第三条の改正などの動きは、集団自衛権の行使を可能ならしめる憲法改正へと突き進んで行くでしょう。イラクなどの中近東諸国との軋轢に、国力を割かなくてはいけない米国は、日本の軍事的自立を容認しつつも、なんとか、日本の軍事力を、グローバルな軍事戦略に取り込もうとしています。2006年の11月に、海上自衛隊と米海軍が、硫黄島近海で、共同演習を行なったことは、その一つと考えられます。

 しかし、自らの国を、自らの意志と力で守ろうと決めた日本は、外交・安全保障の分野で、米国からの自立を徐々に進めていくと思います。だが、日本と米国との緊密な関係は国是であり、今後とも、それを維持していくべきです。外交・安全保障においては、日本は米国より、その自立を深めていきますが、経済・金融・などの非軍事分野における日米の相互依存関係を深め、アジア太平洋の安定の機軸である緊密な日米関係を維持すべきです。その流れの中で、日米のFTAを考え、その戦略的な位置付けをしっかりとすべきです。

 中国は、ご存知のように、過去10年間で、毎年10%ものGDPの伸び率を誇り、また、前述の様に、軍事力を増強させつつあります。中国は認めないと思いますが、やはり、中国は、アジアにおける覇権国家に育ちつつあります。我々は、その拡大する中国に飲み込まれずに、日本の自立を守る対中国戦略を持つべきです。その中長期の戦略の中でこそ、日中FTAは議論されるべきであり、戦略として位置付けられるべきです。

 日本は、米国そして中国よりの自立を確かなものにするために、未来戦略を持たなくてはいけません。その戦略は、アジア太平洋構想無くしては、構築されず、その有効性もありえません。我々が持つべきアジア太平洋構想とは、具体的には、アジア太平洋総合安全保障機構の創設です。軍事問題に加え、金融・経済・投資、エネルギー、食糧そして環境などのグローバルイシューを総合的に捉え、個々の問題を協議し、多くが納得する結論を出す機構こそが、アジア太平洋総合安全保障機構となるべきです。その機構こそが、日本の自立と、アジア太平洋の平和と安定を確かにすると思います。

 では、その機構の実現に向けて、日本は、一体、何をすべきでしょうか。日本の強みの一つは、技術力です。日本の民生技術で、軍事用に使えるものも増えています。また、環境汚染を防ぐ技術、省エネルギー技術においても、日本は優れており、その力を梃子に、国際的な発言力を強めるべきです。そのためには、経済安全保障という切り口が必要です。過去において、FSXの開発、半導体において日米政府間に緊張が生じました。安全保障に技術が深く関わることを認識した米国政府が、経済安全保障の観点から、日米間の技術交流に一定の歯止めをかけたわけです。日本は、それから、技術と安全保障をつなげて国家戦略を構築・実行して、国益を守ることを放擲してきました。しかし、優れた環境汚染を防ぐ技術そして省エネルギー技術を、中国は必要としており、日本は、アジア太平洋安全保障機構実現に向けての対中国外交において、その技術力をバーゲニングパワーとして使うべきです。

 日米FTAを締結すれば、米国が、経済においても、日本を飲み込んでしまうのではないかと危惧する人々もいます。安全保障において、日本は、米国の懐に抱かれており、なかなか、経済において、米国に盾突くことは困難です。日本は、これを克服して、米国と対等の立場で、堂々と議論し、国益を追求していくことが、より緊密な日米の経済交流を生み出します。その際、忘れてはいけないことは、グローバルガバナンスです。世界を動かすパワーには、主権国家以外には、NGOそして多国籍企業などがあります。政府間同士の交渉だけでは、FTAの締結とその維持はできません。例えば、世界の貿易の三分の一は、多国籍企業の親会社と関連会社との内部取引であり、多国籍企業同士の取引も三分の一を占めます。つまり、世界貿易の三分の二は、多国籍企業絡みと言えます。多国籍企業こそが、FTAにおける最大の利害関係者であり、彼等の意向を無視したFTAは有り得ません。また、NGOとして組織化された市民グループは、多国籍企業によるグローバルな収益体制に反対し、大企業優先の経済・交易システムを許しません。

 安全保障の分野ですと、核拡散を防ぐNPT体制があり、地球環境においては、京都議定書の枠組みがあります。そういうグローバルガバナンスの力を使って、日本は、安全保障、環境そしてエネルギー分野において、米国と堂々と議論し、国益を追求していけば良いと思います。

 NAFTAとか、EUというのは、制度により、国境を超えた連携を図ろうと言うものです。東アジア諸国を見ますと、どちらかと言うと、機能的な連携が進んでいると思います。各国間での生産の分業体制もあり、制度的なアプローチに加え、機能を重視した市場的なアプローチも取り入れ、東アジアにおける経済・金融の相互依存体制を構築していくべきです。具体的には、航空システム、金融そして情報通信におけるグローバルハブ機能を、日本は持つべきです。そのグローバルハブ機能は、無論、アジアにおけるハブとしても機能し、アジア諸国間におけるヒト・モノ・マネー・情報の相互交流を高めるのに役立ちます。現在、東京湾奥に、3750メートル級の滑走路・4本を持つ空港を造ろうとする民間の運動があります。その運動の背景には、東京湾そして湾岸地域を、日本だけのものとして捉えるのではなく、海外諸国の金融・経済などの交流の場と活用しようとする考えが息づいています。そのような滑走路を持つ空港島を、24時間の運用体制にして、国際金融取引が行なわれるセンターとしても利用することができます。このような大胆な発想と実行こそが、グローバルマーケットにおける日本の存在価値を高め、グローバルエコノミーの安定成長に寄与すると思われます。

 日米FTAそして日中FTAを、国家戦略的に位置づける為には、諸々の戦略を、重要度により、順序付けるべきです。日本と米国の緊密な関係は非常に大事であることは、先に述べた通りです。日米安全保障条約の第二条に、明確に、日米間の経済的協力が述べられています。包括的FTAを議論する前に、日米安保を拡大して、その中で、金融、エネルギーそして食糧なども取り込み、二国間の国家戦略を総合的に取り扱えるようにすべきかどうかを、議論したら良いと思います。

 次に、どのような国とFTAを締結するかと考えた場合、やはり、価値観が同じの民主国家であり、経済レベルの余り差の無い国が対象となると思います。その基準で行きますと、韓国そして台湾などのとのFTA締結を先行させるべきです。日本が韓国そして台湾とのFTAを結んでいきますと、アセアン諸国は、それらのFTAにより、経済・交易面で不利益が発生します。よって、アセアン諸国は、日本とのFTA締結を急いでくると予想されます。その流れの中で、中国を入れたアセアンプラス3のFTAを締結し、それに台湾を加えたアジアのFTA体制を構築したら良いと思います。最終的には、その体制を、APECの包括的EPA体制の中核に持って行くべきです。

 冒頭で述べたアジア太平洋安全保障機構実現のためには、北朝鮮の核装備を何とか阻止しようと結成された六ヶ国協議が、非常に大事だと思います。上海協力機構にしても、そもそも、国境警備に関する話し合いの組織として、ロシア、中国などの五カ国により創られました。現在では、インド、パキスタン、イランなどが入り、安全保障に加え、金融・経済の分野での連携の場としても機能しています。現在の六ヶ国協議を常設の機関として、協議の対象を、安全保障から、金融・経済の分野まで拡大し、インドも、オブザーバーとして取り込んで行くべきと、考えます。そして、APECとドッキングすることにより、安全保障と経済もリンクし、アジア太平洋安全保障機構が実現されると思います。日米FTAと日中FTAは、その機構が実現される過程の一つのステップとして位置付けられるべきです。

( 2007年02月06日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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