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鈴木壮治の【言いたい放題】

第19回 日本の情報通信戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

情報戦

戦国時代の武将は、知略・謀略無くして、生き残れなかった。嘘の情報を流し、敵を撹乱し、戦を有利にもっていく情報戦。それに長けた織田信長は、桶狭間の戦いで、今川義元の命を奪い、勝利した。信長が最高の褒美を与えた者は、今川義元の首を取った者ではなく、「今川軍が田楽狭間で休んでいる」という情報をもたらした者である。「情報こそが命」、それを、織田軍勢に徹底させるための、計算された褒美の与え方であった。

生き馬の目を抜く程の、国益をかけた諸国間のせめぎ合い。情報戦の重要性は、今も変わらない。グロ-バリゼ-ションの波の中、金融・経済の動きは、大きく素早い。国同士の関係も、一瞬一瞬も止まることなく流動する。ある日突然、米国と中国が安全保障条約を締結し、米中が、アジアを仕切る可能性も否定はできない。他国の動きを迅速に察知し、それに戦略的に対応しなくては、日本には未来は無い。得られた情報を、的確に判断・評価し、迅速に対応する「情報力」こそが、国の競争力を高め、次の情報戦で有利な立場を得ることができる。1.指揮系統戦争 2.情報基盤戦争 3.電子戦 4.心理戦 5.ハッカ-戦争 6.経済情報戦争 7.サイバ-戦争(米国国防大学戦略研究所による情報戦争の分類)。

中国の反日運動は、日本の国連安全保障理事会・常任理事国就任への動きに、揺さぶりをかけんとする情報戦の一つであろう。また、中国政府への不平不満のガス抜きに使おうとする「中国国民に対する情報戦」でもある。

戦略性を持つ軍事大国の動きは、ある程度察知はできても、テロリストグル-プのテロ行為の予測は困難である。その困難さを打破し、国益を守らんとする米国は、ある戦略を構築し、実行した。それが、テロ攻撃を封じ込めるための予防戦争としてのイラクへの先制攻撃であった。米国に、それを踏み切らせた危機感は、9.11委員会レポ-トの次の言葉で分かる。「雑多な情報であふれかえる世界にあって、密告者がもたらす情報から、相手の行動を事前に導き出すには、単にスキルだけではなく、考えられないような幸運が必要となる」。そこに情報不足による予測困難さを、「腕力」で補おうとするブッシュ政権の強い意志と危険さを感じる。

イラクへの米軍の侵攻は、フセイン政権の非民主的な独裁体制を倒し、大量破壊兵器を持つイラクの危険性を取り除くことを目的とした。しかし、イラク占拠後、大量破壊兵器は発見されなかった。米国は、事前に、大量破壊兵器は無いことを確認し、イラクへ「安心」して、侵攻したのであろう。米国の同盟国も欺く情報戦略が、イラク侵攻の裏側にあったことは間違いない。

イラクへの米軍侵攻理由の一つが、「大量破壊兵器の没収と処理」であった。よって、大量破壊兵器を持つ北朝鮮は、米軍の侵攻を受けても、何ら不思議ではない。しかし、北朝鮮を押さえることに、米国は経済的なメリットを見出さず、金正日を生かしておくことで、東アジアにおける軍事的緊張感を保ったほうが、米国の軍需産業にとって「美味しく」、軍事的優位性を持つ米国にとって、腕を揮いやすいのであろう。金正日は、そのブッシュ政権の真意を見抜き、東アジアを舞台にする日米中の三カ国のせめぎ合いの中に、存続の隘路を見出さんとしている。しかし、大量破壊兵器のみが、情報戦の唯一の切り札であるところに、金正日の限界と怖さがある。

軍事と情報通信

国の情報通信戦略は、軍事情報通信戦略とも言える。軍事衛星を持ち、その情報を独占することは、軍事的強さにつながる。米国の圧倒的軍事力は、その情報通信能力により支えられている。米軍の軍事偵察衛星は、各国の軍事拠点を監視し、新しい動きは、即座に、ペンタゴンに送られ、軍事的判断の材料になる。EUそして中国が独自の軍事衛星を持ち、軍事情報を持つことは、政治的な独立を目指す地域そして国家として、当然のことである。

また、ミサイルによる攻撃そして迎撃を可能にさせるものは、情報通信の力、具体的には、コンピュ-タ制御の正確さに依存する。その情報通信技術は、社会のあるゆるもののインフラであり、それを破壊されることは、国の金融・経済そして社会生活へ大打撃を与える。ハッキングによる情報通信インフラへのサイバ-テロは、カネもかからず、大掛かりな組織も必要としない。民間ハッカ-による日本の公的機関のホ-ムペ-ジへの侵入の例も多く報じられている。そして、中国の潜水艦による日本の排他的経済水域への侵入は、2000年の中国人のハッカ-による日本の官庁・大企業のホ-ムペ-ジへのハッキング事件を想起させた。

グロ-バリゼ-ションは、金融、運輸そして情報通信の分野において顕著である。そして、それらの多くは民間の手にある。よって、グロ-バリゼ-ションの担い手である金融機能、輸送システムそして電気通信網へのテロ行為を防ぐ為には、民と官の協力体制が必要不可欠となる。グロ-バル機能をテロ行為から守るための国家安全保障戦略に、民と官の協力体制による防衛システムを組み込むべきである。その重要性に逸早く気がつき、実行したのが、米国のクリントン政権であった。米国全体を民と官の協力で、電子要塞化しようとする情報戦略・「情報システム防衛計画」を、2000年1月に、クリントン政権は発表し、実行した。

一方、ロシアのプ-ティン政権は、「情報安全保障ドクトリン」を有し、その中で、ロシアへの脅威として、「情報領域におけるロシアの利益に敵対する外国の政治・経済・軍事・諜報・情報組織の活動」・「諸外国の宇宙・空中・海洋・地上偵察技術その他の手段の活動」・「世界各国の情報領域に対する危険な作用手段の開発を前提とした情報戦争の構想を各国が研究すること」を挙げている。これにより、ロシアが、非常なる危機意識をもって、情報戦争に備えていることが分かる。

日本は「情報セキュリティポリシ-に関するガイドライン」を持ち、またサイバ-テロに対する民と官の協力体制を旨とする「重要インフラのサイバ-テロ対策に係わる特別行動計画」も有し、なんとか、米国の情報システム防衛計画に追随しようとはしている。しかし、致命的な欠陥は、統合された国全体としての情報戦略が欠如し、各省庁がバラバラに情報セキュリティ戦略を持っていることである。それでは、官民の協力を前提にした統合情報戦略を持つ米国との連携は困難であり、日米安保はうまく機能しないことになる。

ライブドアの功績

ライブドアの功績は二つある。一つは、日本の企業が余りにも敵対的買収に脆弱であることを満天下に知らしめたことである。危機感を持った政府は、来年の6月頃に予定された日米企業間の株式交換による企業買収を、1年先に延ばした。二番目が、外資による放送局買収への防御策を、政府に講じさせたことである。情報通信戦略を国家安全保障の一環として捉えきれていなかった小泉政権も、ライブドア・日本放送「騒動」で、外資により放送局が牛耳られるリスクに目覚めたに違い無い。その結果、地上放送局への外資の出資規制を厳しくした電波法と放送法の改正案が国会に提出された。いままでは、外資が直接放送局の株を20%以上押さえると、事業免許の取り消しとなる。それだけでは心配として、外資が一定以上の割合を出資する日本法人が、放送局株を所有する間接所有も含めて20%に達すると、規制の対象とすることにした。放送というメディアの国民に対する影響力は大きく、それを外資に握られ、ある意図で放送内容を決め、情報操作を行うリスクを恐れたのである。安全保障の中に、情報通信を取り込む発想を、日本が持ち始めたきっかけをつくったのは、ライブドアの「功績」である。

民主主義の基本は、民による情報の共有である。しかし、現在の日本人は国家運営に関する情報をどの程度知っているのであろうか。現状は寂しい限りである。また、我々は、国家機密に関する「秘密保護法」を持たない。国家の存続に関する機密情報を管理することは、国家として、必要最低限のことであり、機密情報管理がなされていない国に、他国が重要な機密情報を漏らしてくれる訳が無い。機密情報管理の弱さは、外資による日本のメディア買収に対する無防備さを生み出したに違いない。国益重視のメリハリの効いた情報戦略の必要性を痛感する。

日本の情報通信戦略

2004年11月の日本経済新聞社の調査によると、地方自治体の4割でコンピュ-タシステムのバックアップが不十分であり、大地震などが起こった場合、コンピュ-タ業務が普及できない可能性があることが判明した。大都市の情報化を促進する前に、コンピュ-タセキュリティ、すなわち、機密性、完全性そして可用性の三つを万全にすることは当然である。

日本経済の再生には、首都圏の個人・企業・公的組織を光ファイバ-でネットワ-クし、高速で大容量の情報コンテンツを送れるようにすることが有効である。その情報効率の良さが、経済の効率化を高め、知の交流を深め、新たなるビジネスを醸成し、花を開かせることになる。日本でのブロ-ドバンド加入者数は、昨年末1700万は超えており、多くの人々が効率良くネットワ-クで結びつき始めている。その動きを、戦略的に育てるのが、日本経済再生のための情報通信戦略であるべきである。

テレビを中心とする放送業界は、大変である。インタ-ネットのブロ-ドバンド化と家庭用ハ-ドディスクの普及が生のTVを見る機会を減らしている。その結果、TVのコマ-シャルは見てもらえなくなっている。TV視聴時間の60%は再生録画で、コマ-シャルを飛ばして見ている。よって、スポンサ-企業は、PR効果のある媒体を探し始めている。例えば、インタ-ネット広告は、昨年1800億円を超え、ラジオを抜き去った。インタ-ネットが、非常に身近な存在になっていることを如実に物語っている。

民の意思が、そのネットワ-クで醸成され、表に出てくるのは時間の問題であろう。国民の情報へのアクセス意欲が高まるなか、政治・行政に関する情報開示への要求も増してくるに違いない。それには、税金の使われ方も含まれる。その様な情報開示に、インタ-ネットは有効であり、情報民主主義の担い手になる。日本の情報通信戦略は、国民の利益を第一義として、構築されるべきである。そして、それは、世界に冠たる日本人の知性を結べ付け、知的エネルギ-を高めるものであるべきである。

日本の政策・法律の100%近くは、官僚が、実質的につくってきた。その結果、国民の利益よりも省庁の利益重視の法律を数多く生み出した。その最大の弊害は、あまりにも己の省益を考える結果、総合的な戦略、総合国家安全保障の戦略などが生まれなかったことである。総合安全保障戦略を持たない「日本の最大の欠陥」をもたらしたのは、政治の政策・戦略構築における官への過大な依存体質である。ようやく最近になって、国家情報組織の必要性を多くの日本人が気付き始めた。米国の大統領直属のNSC(国家安全保障会議)のような組織を持ち、統合された国家としての情報戦略を持たない限り、日本に未来は無い。

日本の情報通信戦略構築にあたって肝腎なことは、グロ-バリゼ-ションの波により、多くの国の経済社会システムが情報依存型になっている事実認識である。軍事、金融そして輸送システムは、情報通信のインフラ無くして、機能しない。金融機能を支える情報通信システムが破壊されれば、グロ-バルな金融の流れは止まり、その経済への悪影響は計り知れない。すなわち、情報通信インフラをいかに守るかの戦略無くして、総合的安全保障戦略は有り得ない。そして、そのインフラの大半は民間が有しており、情報セキュリティのための情報通信戦略の構築と実行に関して、民の理解と賛同が必要不可欠である。

米国と協力して、二カ国でグロ-バル機能を構築する意思と戦略こそが、日本の安全保障戦略としての情報通信戦略を支える。情報通信のグロ-バルハブ機能を二カ国が共有し、お互いに、そのバックアップを行うという相互依存体制が望ましい。例えば、デ-タセンタ-を複数持ち、一つがダウンしても、他のデ-タセンタ-が機能し、情報通信網が確保される。そのような備えを、日米で協力して行い、金融・運送システムなどのグロ-バルハブ機能をも共有すべきである。

日本の国益を守るために、情報通信戦略は、総合的安全保障戦略に組み込まれるべきである。そして、真の民主主義を育てるツ-ルとして、情報通信システムを捉え、公的な情報の開示を迅速に早く、民に伝えるべきである。そして、国民一人一人が、国益をかけた情報戦の大事さを理解し、官と協力してこそ、21世紀の情報戦で、日本は勝ち残ることができる。

( 2005年08月31日 / 鈴木壮治 )

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鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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■第1回 いまこそ改革に民の力を
■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
■第5回 イラク・フセイン政権崩壊に思う
■第6回 沖縄金融特区構想
■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
■第13回 日本経済再生戦略
■第14回 日本の安全保障戦略
■第15回 日本の外交戦略
■第16回 日本のエネルギー戦略
■第17回 日本の都市革命
■第18回 郵政民営化と国家安全保障
■第19回 日本の情報通信戦略
■第20回 未成熟な政治マーケット
■第21回 日本を守るのは国民
■第22回 今こそ議論すべき「日本の核抑止力」
■第23回 日米FTA・日中FTAの可能性を問う
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■第25回 安倍首相の突然の辞任と日本の安全保障
■第26回 日米関係再構築と環境安全保障戦略
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