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鈴木壮治の【言いたい放題】

第17回 日本の都市革命

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

幕末の日本を救った雄藩

地方の権力が弱く、中央政府に権力が集中する日本。その「一極集中」は、日本の未来を脆弱にする。日本の経済力・軍事力の利用を、アジア太平洋戦略の要とする米国にとって、国のみを懐柔すれば良い「権力の一極集中」は、好都合である。

幕末、欧米列強の圧力に負けなかったのは、薩摩、長州などの雄藩が、独自の軍事力・財政基盤を持っていたことによる。日本の都市は、東京にあろうが、沖縄にあろうが、その本質は、中央政府に従属する地方である。日本政府が、米国に追従すれば、都市は、米国の日本支配の手先となってしまう。「それを甘受していいのか」、地方の首長は、国民たる住民に問うべきである。実現すべき地方分権は、国の総合力を弱めるものではなく、日本の外交・総合安全保障・経済力に、強靭さを与えるものでなくてはいけない。

米国に対抗して、EUを創りあげた欧州に加え、米国の単独行動主義を嫌い、それを、阻止せんとしている国は多い。他と隔絶した軍事力を持つ米国は、金融・経済のマーケットに、米国有利の規範を押し付けるという狡猾さを身につけ、今や、手が付けられない存在になりつつある。

そして、アジアでの覇権を狙う中国は、大胆かつ果敢に、日本の国益に、挑戦し始めている。国と権力を分かち合う地方は、そのような政治・軍事大国の動きを視野に置き、日本の未来戦略を構想・実行すべき立場にある。

国家官僚は、省益への配慮はするが、国民・国益重視の発想・意思が弱い。よって、総合的な安全保障の戦略は、憲法上の制約もあり、国からは、生まれにくい。その国に替わり、日本の未来の担い手になるのは、地方自治体と民の連携による新たなパワーである。

石原都知事は、外交・安全保障の分野でも、積極的に国家戦略を語り、沖ノ鳥島周辺で、海水の温度差利用のエネルギー開発プロジェクトへの道をつけた。そこには、地方の先鋭としての東京の自覚と、国益を守らんとする強い意思があり、現代の雄藩の役割を果たしている。

都市革命

シンガポールは、琵琶湖と同じ面積、そして、人口は、ようやく400万を超える「都市国家」である。しかし、優れた国家経営により、アジアの一角で、その存在感を高めている。シンガポールよりも、多くの人口と工業生産能力・商業施設を有しながら、長い不況で、のたうち回っている日本の地方都市。おかしいと思うべきである。地方を代表する都市に、独自の金融・経済戦略を持つ自由と、それを具体化する勇気と力があれば、現在の惨状は起こり得なかった。多くの都市を、中央政府の頚木から解き放ち、個性豊かな「都市国家群のポートフォリオ」を創りだすのが「都市革命」である。そして、そのパワーは、地方自治体と民との連携により、生まれる。

価格変動の相関係数が小さな投資対象の組み合わせ(ポートフォリオ)は、最適なリスクとリターンの組み合わせを生む。ある地域経済が、独自の金融・経済政策により、元気であれば、他の地域経済が低迷しても、日本経済は、持ち堪えることができる。地域経済同士が補い合う関係は、日本経済の安定成長を支える。幾つか都市連合は、アジアなどの諸国と、「国同士」のような付き合いもできるはずであり、それは、日本外交の懐を深くする。

国主導の地方分権に身を任す地方自治体には、日本を革新する鮮烈なエネルギーは期待できない。地方自治体の首長そして官僚のみで、「都市革命」は起こせず、民との連携に、その活路を見出すべきである。地方自治体は、住民のための福祉、零細・中小企業の支援など、日々の生活に密着した地方行政を誇ってきた。それは、それで、素晴らしいことである。しかし、資金援助に加え、厳しい競争社会で勝ち抜くための術を、零細・中小企業に与えることはできなかった。国の財政により救われてきた地方自治体には、教えるようなノウハウも経験も無かったとも言える。自らを厳しい環境に追いやり、自立の道を探らずして、民のみに、競争原理を押し付けるのでは、誰も納得しない。

地方の自治と分権をベースとするが、国による財政支援システムを受け入れる「柔構造型分権制」は、今までの「柔構造型集権制」よりも、確かに進んだものとは思う。しかし、「国に食わせてもらう経済」ではなく、「自分で食べる経済」への転進のため、地方は、まず、地方分権を加速させる税制改革を、国と闘い、勝ち取るべきである。

現実はどうか。地方に対する4兆円の補助金を削り、3兆円の税源を地方に移すという改革は、いよいよ、3年目に入った。しかし、地方にとっての現実は厳しく、補助金の削減は4兆円を超したが、税源移譲は、3兆円に達していない。問題点としては、「補助金ごとに、政官業の権益が存在」、また、「個別の補助金の制度改正も予算編成も、政府・与党が最終的な決定権を持つ」などが挙げられる。

それに対抗して、地方自治法で、知事会などの地方団体に認められている「政府と国会に対する意見提出権」を、積極活用すべきであり、2007年度以降に、3兆6000億円の税源移譲などを求める「第二期改革」を、強く推し進めるべきである。そして、忘れてはいけないのは、都市革命のパートナーである民の存在であり、国に頼らなくても、財源を確保できる仕組みを、地方が持つことである。

近世において、農村に餓死者が出ても、都市部では餓死者が出ないという例が多かった。食糧を産する農村(地方)が、なぜ、食べるに困って餓死者が出るのか。都市に、地方を犠牲にする権力とシステムが備わっていたとしか考えようがない。現在の日本においては、近世における「農村と都市」の関係を、「地方と国」の関係として、捉えるべきである。過去30年間で、地方都市の人口が20%減少した事実が、それを裏付ける。地方の代表として、都市が、国と権力を分け合う「都市革命」を実現しないかぎり、地方に、「餓死者」が出る。

地方分権の動き

アジア諸国での地方分権の動きは強まり、強靭な都市が育ちつつある。中国も、10年程前に、地方が、独自に税を徴収、使えるようになった。その結果、地方の独立性は強まった。日本の公的金融機関が、中国でのインフラ・プロジェクトに関し、北京政府に接触しても、「それは、地方政府と、打ち合わせて下さい」との返事。また、欧州では、各主権国家が、自らを「地方」として、EUという超国家組織を創りあげた。動きが早く・大きなグローバリゼーションの波の中で、迅速に、グローバル戦略を構築・実行するためには、中央政府を「身軽」にする必要がある。国から外された「重石」の受け皿として、地方の存在感は高まる。

アジアそして欧州の「地方」は、中央政府と対峙するのではなく、協調しながら、地域経済の独立性を維持し、国・地域共同体のダイナミックスさを生み出している。それらの動きに比べ、日本の地方分権化への動きは鈍い。日本の再生は、眠れる地方を起こすことで始まる。

やはり、地方のリーダーは、東京である。情報通信・金融・空港などのグローバルハブ機能を、東京が持つことにより、地方は、東京経由でグローバルマーケットにリンクできる。また、東京都が主導して創設した「中小企業向けの債券市場」は、大阪府、福岡県などの他の地方自治体も参画し、全国的な規模に育ちつつある。国が牛耳ってきた金融に、新たな流れを、地方が創った意義は大である。

名古屋市を中心とする中京経済が、活況を呈しているのは、トヨタの抜群の収益力による。トヨタは、もはや、世界的な存在であり、グローバルマーケットに戦略的拠点を置くか、自らが位置する「地方」に、世界を引き付けるか、二者択一しかない。トヨタは、名古屋に、新空港を開き、グローバルハブ機能を持つことで、自らの「地方」を、グローバル化させる道を選んだ。それは、地方が、民の力により、国をも超えるパワーを持ちつつあることを示唆する。

日本再生は地方から

大企業の本社機能が集結する東京、そして、世界のトヨタが拠点を置く名古屋、二つの都市は、民間企業のニーズに合った都市機能を充実することで、その存在感を増す。「日本再生」は、地方自治体と民との連携により構築され、具体化されるべきである。

知り合いの米国の投資銀行家が、正直に、「日本のシステムは、そもそも民が得られる利益を、誰かが、理不尽に奪い取っているシステムである」と言い放った。その誰かとは、民の富を情け容赦も無く奪っている官である。民間企業と個人に、「リスクを取れ」と、官が言っても、空虚に聞こえる。リスクを取るためには、それなりの、資金が要る。今のように、国民の金融資産を、官が牛耳る仕組みでは、リスクバッファーになる資金を、民に、多く残すことはできない。それでは、民は、リスクを取りにくい。

その日本の旧来システムを崩すには、民との距離が近い地方が、その動きを創りだす必要がある。しかし、現在の地方の国への従属体制では、なかなか困難である。県という名前の由来自体が、中央政府への隷属を示す。県知事の多くを、国家官僚出身者が占めて来た事実が、それを裏付けている。いったん国が吸い上げた税金を、地方に流し込む権限を有した旧自治省(現総務省)は、県知事に、多くのOBを送り込んできた。そのような、地方都市の国への従属体制が、日本から、ダイナミックスさを失わせた。

地方分権一括法が施行され、形の上では、国と地方が対等になった。しかし、急には、一人立ちができず、しばらくは、国に依存せざるをえないのが現状であろう。よって、官僚出身の県知事が活躍できる局面は、暫くの間はある。しかし、グローバルな視野で、経済政策を立案し、地域経済を引っ張っていけない首長は、生き残れない。

日本の弱点は、民と官の間に壁があり、人的交流とノウハウの交流が無いことである。この壁を壊さない限り、日本の再生は無い。その壁は地方において薄い。その壁を取っ払い、日本に、幾つかの「都市ポートフォリオ」を創るべきである。それらを「州」と呼びたければ、呼べば良い。「州」でできないことだけを、国に頼めばよい。それにより、国を身軽にさせ、外交、安全保障、グローバルエコノミーの分野などで、国益を守るために、積極果敢かつに柔軟に動いてもらうべきである。

都市革命の理念

日本再生のための都市革命の担い手は、地方自治体と民であり、その二つのパワーを結び付ける理念が、必要不可欠である。

米国は、情け容赦も無い市場原理で、国の活力を高め、グローバルマーケットでの主導権を握らんとしている。一方、EUは、穏やかな安定経済成長を目指す。

日本は、中央政府の強力な指導により、「社会主義的な資本主義」で、経済を成長させてきた。しかし、ここ数年、米国の強い影響力により、「弱肉強食の市場原理」が、日本経済を席捲している。しかし、都市革命の理念は、そのどちらにも属さない。

地球規模の構造改革の中で、地域経済は空洞化する。地方は、グローバルマーケットと結びつくことにより、生き残るしかない。国への隷属から逃れるために、地方自治体も、資金調達をグローバルマーケットに求めざるを得ない。マーケットと共生するためには、毒にも薬にもなる市場原理と、うまく付き合わなくてはならない。

公財政に、市場原理を導入するということは、公のみが、財政を決めるのではなく、マーケットという民の意思を、公財政に取り入れることを意味する。それは、公財政に、風穴を開け、意図的に隠していた財務内容を、民に知らしめることにつながる。

市場原理とは、「自己責任ルール」と「情報開示」により成り立つ。地方自治体と民は、その市場原理を、武器(理念)として、グローバルマーケットの荒波に立ち向かい、そして、一般会計などに巣くう「国の非効率性」を壊すべきである。その破壊の後に、地方と国が補完し合う「再生日本の勇姿」が、眼に浮かぶ。

( 2005年08月05日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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