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鈴木壮治の【言いたい放題】

第16回 日本のエネルギー戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

四月中旬に、ワシントンで主要七カ国の財務省・中央銀行総裁会議(G7)が開催された。主要テーマの一つが、原油価格の高騰への対応策であった。原油指標価格のWTI価格が、一時にせよ、60ドル/バレルに近づき、世界経済のリスク要因とみなされたのである。

また、世界で最も高い経済成長率を誇る中国は、さらなるエネルギー資源の確保が至上課題であり、それが出来ない場合、中国共産党は、国民の信認を失う。その中国の死に物狂いのエネルギー資源確保とエネルギー・インフラの拡充が、世界の政治・経済に与える影響は大であり、そして、日本は、その波に翻弄され始めた。

ブッシュ政権は、「国家エネルギー政策」で、「米国の国家安全保障は、米国と世界の経済成長を支えるための、十分なエネルギー供給にかかっている」と、エネルギー資源確保への米国の強い意思を明確に述べている。エネルギー資源の取り合いこそが、今後の米中関係を決める。

しかし、エネルギー問題で対峙するリスクも高いが、エネルギー問題で協調せざるを得ない場合もある。それは、パワーゲームの落としどころを探し出し、安定した国際協調体制を生む可能性もある。このように、エネルギー問題は、国と国を対立させたり、融和させたりする「陰陽の妙」を持つ。

イラク侵攻の背景

米国政府の要人は、イラク侵攻は、エネルギー資源の確保のためではないと言う。しかし、イラクの原油を押さえることは、エネルギー地政学上、米国に、大きな戦略的優位性を与える。それは、石油の輸入国である日本、EU、中国そしてインドの生殺与奪の権を得たにも等しい。ブッシュ政権は、その三大優先課題である「米国外のエネルギー資源へのアクセス」、「グローバルテロへの対処」そして「戦力投入能力の向上」を統合した戦略を持ち、その発動が、イラクへの侵攻であったことは間違い無い。

また、エネルギーデリバティブ(原油先物・オプションなど)の活発なマーケットを持つ米国が、現物の原油の供給を握ることは、打ち出の小槌を得たと同然である。まず、原油先物あるいは原油価格スワップで、ロングポジション(買い持ちであり、原油価格が上がると儲かる)をつくる。その後で、原油の産出量を絞り込むことにより、価格を高騰させれば、巨額な利益を、そのロングポジションより得ることができる。さらに、デリバティブは、レバレッジ(信用取引)により、手持ち資金の何倍ものポジションを張り、ハイリスク・ハイリターンを狙うことができる。米国は、イラクの油田を押さえることにより、オイルマネーゲームで有利なプレイヤーの立場を、確保したことになる。

さらに、イラクへの米軍侵攻の理由として、イラクが,原油取引決済を、ドルからユーロにシフトしようとしたことが、挙げられる。1バレルあたり50ドルなどと表示される原油価格を、バレルという通貨として考えると、「通貨」バレルを押さえ、中東経済のユーロ化を邪魔したのが、米国のイラクへの侵攻であった。

サウジアラビアなどのOPEC諸国は、原油取引決済に、ユーロを使い始めている.そこで、ユーロへ、預貯金などの短期資金として流れ込むオイルマネーを、米国は、必死に取り込もうとしている。ユーロの短期金利は、2%であるが、グリーンスパンFRB議長は、米国の短期金利を、2.75%に誘導し、短期資金としてのオイルマネーを、米国(ドル)に向かわせている。

日本、中国などの貿易黒字国は、その稼いだカネで米国債を買い、貿易黒字の多くを、米国に還流させている。それに加え、米国の年間財政赤字額に匹敵するオイルマネーの多くを、米国に還流させたいのが、米国政府の通貨・金融戦略の狙いである。そのために、米国は、中東を民主化させ、自らの影響下に置きたいのである。

上述のように、米国は、安全保障戦略に、エネルギー戦略を、うまく取り込み、イラクのエネルギー資源を押さえると同時に、中東地域での軍事的プレゼンスを高め、さらに、下落リスクを持つドルを支えることに成功した。しかし、軍費の増大による財政赤字の垂れ流し、そして、人命を失った米国。その光と影を参考に、日本は、独自のエネルギー戦略を構築し、実行すべきである。さもなくば、エネルギー資源確保のため、明確な国家意思と戦略を持つ米国と中国の狭間で、日本の国力は衰えるのみであろう。

エネルギーとアジア

1970年代に、二度もあったオイルショックを、何とか切り抜けた日本経済は、当時に比べ、原油価格高騰に対する経済的な耐性を強めた。しかし、原油価格変動に対するリスクヘッジは必要であり、原油の供給確保、そして、枯渇が予想される原油に替わるエネルギー資源の確保を、国家戦略として、明確に位置づけるべきである。例えば、消費する原油の85%を中東に依存する日本にとって、中東の軍事的・政治的安定を目指すことが、その国家戦略の一部になる。そして、その視点から、米国のイラク侵攻と自衛隊のイラク派遣の戦略的価値を冷徹に計算すべきである。

日本は、原油・天然ガスの供給を100%近く、他国に依存し、原油を運ぶタンカーの航路(シーレーン)は、日本経済の命綱である。その命綱が、中国の海洋大国路線の前に、細くなりつつある。1969年に、国連アジア極東経済委員会は、東シナ海で海底油田の可能性を指摘した。それ以降、中国は、その海底油田に関心を示し始め、石油の純輸入国になった1993年頃から、海洋調査を本格化してきた。米国と同様、軍事戦略とエネルギー戦略を統合し、国益を追求する中国が、海底資源調査と軍事目的調査を、同時に行っていることは、容易に推測できる。

しかし、残念なことに、日本は、エネルギー戦略を取り込んだアジアの総合的安全保障戦略を持っていない。それを幸いに、中国は、日本の排他的経済水域に挑戦するような格好で、春暁ガス田の開発を行っている。日本も、それに対抗するような形で、同境界線に近いところでの石油・ガス田の開発を前提に、試掘権設定手続きを開始した。中国は、それに反発し、「中国の権益と国際ルールへの挑戦」と、日本政府を批判している。そして、同石油ガス田の日中共同開発を、日本政府に打診してきている。それに対して、日本政府は、春暁ガス田の日中協力無くしては、受け入れない態度を明らかにした。

エネルギー資源をめぐっての国同士の対立は避けることはできない。下手に、その問題で譲歩すると、他の戦略的分野での外交においても、足元を見られることになる。日本の排他的経済水域に挑戦してきた中国は、海軍力を高め、海洋資源を確保する戦略を持つ。それに対し、毅然とした戦略を、日本が持たない限り、エネルギー資源確保のためのシーレーンの維持は困難である。

日本は、戦後初めて、本格的な中国の戦略的挑戦を受けている。日本人は、その事実から、目を逸らすべきではない。尖閣諸島への中国の領有権の主張、中国潜水艦の日本の領海侵犯、反日運動と、日本は刃を突きつけられている。中国の本当の潜在的な敵であり最大の脅威は米国である。しかし、米国と対峙することは、現在の中国の軍事・経済力から無理である。よって、軍事力と経済力を結び付けないでいる「弱い」日本を、米国の代わりに、叩いているのである。

米国は、中東・中央アジアでの影響力を高め、さらに、NATOは、その東方拡大を進め、中央アジアに迫りつつある。アジア太平洋にあっては、日米同盟における日本の軍事的役割が強化されつつある。エネルギー資源の宝庫である中東・中央アジアを押さえられ、シーレーンを、日米軍事同盟が、がっちりと押さえている現実に、中国政府が焦燥感を抱いたとしても、不思議は無い。このように、潜在的な敵あるいは競合相手になる国を、冷徹なパワーゲームに引きずり出すのが、エネルギー戦略の本質である。例えば、北朝鮮を六カ国協議などの外交の舞台に引きずりだすのに、軍事的脅かしは必要無い、重油の供給をストップさせればよいのである。

インドは、現在、全エネルギー消費の70%を、海外からの原油・天然ガスの輸入により賄っている。2015年には、その海外依存度が80%まで増すと予想される。よって、米国、中国と同様に、インドも、安全保障と外交戦略において、エネルギー資源を確保することを、最重要視している。他のアジア諸国も例外ではない。それならば、アジア諸国が、力を合わせ、代替エネルギーシステムの共同開発を行ったり、シーレーンを確保すべきである。

欧州向けに比べ、アジア向けFOB中東原油価格が1ドルから2ドル程高めに設定されている(アジア・プレミアム)。それを是正するためには、アジア諸国が協調し、中東の原油産出国に圧力をかけ、エネルギーでのアジア協調の第一歩とすべきである

地球環境とエネルギー

情報通信、金融は、既に、国を超える公共空間で、その活動を活発化させている。そして、そのグローバリゼーションの鬼子として、国を超えたテロリストグループが、米国、ロシアなどで、猛威を振るっている。その結果として、グローバリゼーションの舞台とも言うべき公共空間を痛めつけ、多くの人々、企業体などの活動を制約し、また、脅威に曝している。

米国は、国に属さないテロリスト集団を、国と結びつけ、アフガニスタン、イラクなどの国を爆撃、自らの傘下に組み入れた。公共空間は、国々が連携し、守るべきものである。しかし、米国は、一人突出し、公共空間を犯したグローバルテロを、あえて、国・地域レベルの問題に矮小化し、その圧倒的な軍事力で、中央アジアと中近東のエネルギー資源を押さえた。

日本は資源に乏しく、原料の輸入、工業製品の輸出というグローバルなモノの流れの中でしか生きられない。そのグローバルテロ行為を、公共空間を犯すものとして、グローバルセキュリティの視点で、それに対処しなくてはいけない。あらゆる公共空間を包摂するのが、地球環境である。そして、それを壊しつつあるのが米国である。米国は、地球温暖化を防ぐ「京都議定書」への批准を拒み、日本の5倍もの二酸化炭素を排出している。

グローバルな公共空間を犯すものとして、テロリストとそれを匿った国に鉄槌を下す米国は、地球環境を犯す自らの行為に対して、どのような言い訳ができるのか。日本が、真の米国の友人であるならば、地球環境維持のための積極的な協力を、米国に直言し、実行させるべきである。

日本のエネルギー戦略

米国のエネルギー支配より逃れ、日本独自のエネルギー資源を確保しようとして、米国により失脚させられたのが、田中角栄であった。その後の日本の政治家は、それが、トラウマになったのであろうか、勇気を持って、日本独自のエネルギー戦略を打ち出せなかった。エネルギー戦略が無いことは、日本には、安全保障戦略も無いことを意味し、国家の体を成していないことになる。

エネルギー資源の多様化と、必要とされるエネルギーを自国だけで賄える備えを持っていないと、他国の意思に、国益が蹂躙されることになる。米国にしても、中東原油への依存が、米国の「独立性」を阻害するものとして捉え、真の独立のために、犠牲を払ってまでも、中東の原油を押さえようとしているのである。

日本は、石油エネルギーからの「独立」、すなわち、代替エネルギーの開発に全力を注ぎ、また、米国のエネルギー資源飽食を牽制するためにも、地球環境への配慮を優先することを、エネルギー戦略の理念とすべきである。そして、日本のエネルギー戦略は、莫大な軍事コストと人命をかけ、エネルギー資源を確保する米国の戦略とは、対極にあるべきである。

各国は、エネルギー戦略を、総合的な安全保障に取り込んでいる。しかし、多くの国々が、バラバラに、エネルギー戦略と軍事戦略の結びつきを行うことは、危険である。エネルギー戦略を、総合的な安全保障に取り込むことは、その戦略に、総合的な視点と協調への意思を与えるものでなくてはいけない。日本は、そのようなエネルギー総合安全保障戦略を構築し、世界をリードすべきである。そうすれば、地域の安全保障共同体が、エネルギー資源確保のために協力することにも繋がり、アジアの政治的・軍事的な安定をも生み出す。それは日本の国益に適う。

 「財界」(2005年5月24日号)

( 2005年05月23日 / 鈴木壮治 )

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鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
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