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鈴木壮治の【言いたい放題】

第15回 日本の外交戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。 北朝鮮による日本人拉致問題に、真剣に取り組んでいる友人が、意外なことを言った。「韓国民は、拉致問題に関する日本の外務省の取り組みを、非常に高く評価しており、北朝鮮に拉致された家族を持つ人の中で、日本の国籍を取りたがっている人もいる」。多くの日本人は、日本外交を、弱腰として、非難する。しかし、何百名もの同胞を、北朝鮮に拉致されながら、何にもしない韓国の外交に比べ、日本の外交の方が、まだマシだと、韓国民は思っているらしい。しかし、本当に、日本は、外交力を持っているであろうか。それは、世界の情け容赦も無いパワーゲームにおいて、新秩序構築を主導しうる日本の強靭さへの問いかけでもある。経済力と軍事力、その二つの力を統合しない限り、国の強靭さは無く、日本外交が、世界で、リーダーシップを揮う資格は無い。

<見透かされる日本>

尖閣諸島、竹島そして北方領土と、日本は、領土問題で、近隣諸国との軋轢に悩む。その中で、外交理念を欠く日本は、国家の総合力を結集できず、その場限りの対応に追われている。毅然としない政府に愛想をつかしたのか、地方自治体が動き始めた。「竹島領土権確立島根県議会議員連盟」の議員ら35人が、「2月22日を竹島の日と定める」条例案を、議員提案した。さらに、沖ノ鳥島を管轄する東京都は、同島を島と見做さないとする中国に対し、敢然と立ち向かい、沖ノ鳥島周辺で、海水温度差を利用した発電プロジェクトを行う。幕末、欧米の列強より日本を守ったのは、独自の軍事と外交を持った諸藩の毅然とした意志と行動であった。それを想起させるのが、島根県と東京都の勇気ある行動力である。

小泉首相の靖国神社参拝に、中国と韓国は反発し、「参拝を止めろ」と言ってくる。内政干渉とも言える中国と韓国のおせっかいは、逆に、偏狭なるナショナリズムを、日本に生み出す。ようやく、世界経済の表舞台に、アジア経済が踊り出ようとしている時に、アジアの国々は、いがみ合うべきではない。また、米国、英国そしてフランスの支持も得て、国連安保理・常任理事国へ歩を進める日本の足を、中国そして韓国は、引っ張るべきではない。

冷戦崩壊の後、日本は、独自の経済と安全保障の統合理念を創りだせなかった。日本は、アジアで突出した経済力持つが、軍事的には独立しておらず、核能力も持たない。その「経済大国」と「軍事的従属国」のギャップを埋める理念が無い限り、日本は、国家運営の方向性を持たないことを、アジア諸国に見透かされ、軍事大国志向を持つかもしれない「不安定な存在」として見られてしまう。それでは、日本は、アジアの真のリーダーにはなれない。

日本のODAによる開発国への資金援助においても、経済と安全保障を統合した戦略の一環として行うべきであった。日本は、その戦略性が無く、中国が、ODA資金を他国への影響力を高めるために使うことを、看過してきた。

日本が、その誇りを取り戻すためにも、小泉首相は、今年の8月15日に、堂々と靖国神社に参拝し、霊に対し、日本が提唱する「世界の経済と安全保障の新秩序」を語りかけるべきである。それこそが、首相としての責任であり、日本外交再生の第一歩となるであろう。

その提唱に対して、中国と韓国の考えを聞き、必要ならば、三カ国で、アジアの経済と安全保障の新秩序構築の議論をすべきである。世界の注目を集める靖国神社という場で、その議論を行ってもよいのではないか。その議論の輪に、人間の安全保障と国際協調と予防的関与を骨格とする安全保障戦略を持つEUの代表にも、加わってもらっても良い。

<日米関係の算盤勘定>

外交の失敗が、戦争の勃発である。外交に、自らの軍事力の抑止効果を使えず、その結果、外交において、他国の後塵を拝し、国益を損なうこともありうる。また、外交と軍事力が切り離されると、国としての総合力が弱まる。その脆弱さが、他国の軍事的野心を助長し、自国への軍事攻撃を誘発し、追い込まれた格好で、軍事力を使うという悲劇も起こりうる。

核兵器を持つ軍事大国を隣人に持つが、日本は核による抑止能力を自らは持たない。よって、米国の核抑止能力の後ろ盾が無い限り、日本の国益は風前の灯となる。一方、米国に対する軍事的依存による米国追随も、国益を損なう。この日米関係という綱渡りの中で、国益擁護を行うという大変な役割を、日本の外交は、背負い込んでいる。

世界の国々は、安全保障と経済の最適組み合わせを模索しつつある。レーガン大統領の軍事拡大路線に経済的についていけなくなったソ連は、結局、自壊した。軍事力と経済の組み合わせの失敗は、国を滅ぼすことになる。日本は、軍事的野心を持たず、日米安保を堅守し、米国の軍事力に依存し、経済拡大に邁進してきた。それは、旧ソ連と対極の戦略である。しかし、フリーランチは許されない。

現在の米国経済は、非常に危うい状況にある。教育費と不動産価格の上昇は、経済のバブル化を正直に物語る。過去10年間で、不動産価格は、ニューヨーク地域で5倍、西海岸では3倍となり、異常な高騰としか言いようが無い。所得の伸びが無いのに、この5年間で、一家の住宅ローンの平均金額は、50%程増加し、46万ドルに達している。金利が上昇したら、大変なことになるのが、米国の家計である。

また、ヘッジファンドは、米国証券市場の取引量の55%を占める。ヘッジファンドは、自己資金に加え、金融機関からの融資を受け、証券・社債の売り買いを行っている。金利が上昇すると、金融機関への返済のために、証券・社債をマーケットで売却せざるを得ず、株価・社債の下落につながる。

また、米国の財政赤字と経常赤字を足すと、100兆円を超すまでになっている。過去、その双子の赤字金額が、GDPの7%に達すると、ドル安になった。現在は、米国GDPは、1000兆円であり、その10%に、双子の赤字金額は達している。ドルの米国への還流を確保するために、極端なドル安は回避したいのが、ブッシュ政権の本音であろう。そして、短期金利を、ユーロの金利よりも若干高い程度にして、ユーロへ流れ込んだオイルマネーを、米国へ引き付けるのが、FRB議長のグリーンスパンの金融戦略である。

しかし、ドル安になると、米国への流入資金は減る。そこで、ブッシュ政権は、強い米国を演出し、なんとか、ドル価値を維持しようとする。斯様に、米国は、軍事力を梃子にドルを支え、世界に散らばったドルを、米国に還流させることを、国家戦略として持つ。

当然、ジャパンマネーこそが、その戦略の最大の狙い目である。米国は、日本の外交と軍事力が結びつくことを許さず、また、中国などのアジア諸国が納得する「二つの力を統合させる理念」の創造を、日本は怠った。その結果、日本は、アジアにおける集団安全保障の枠組みを作り出せず、対米軍事依存から抜けられないでいる。それを、米国はつけこみ、軍事力を梃子に、日本の政治・経済に影響力を行使し、自国の利益を確保している。

米国は、自らの経済が、ある程度の余裕があった時は、日本を肥えさせ、その富をうまく使う戦略を駆使した。しかし、米国の経済は崩壊の瀬戸際に近づきつつあり、日本の金融・経済をより直接的に利用しようとしてくると思われる。究極の手段が、円のドル化による日米経済の統合であろう。それを許すと、日本は独自の金融・経済政策を取らなくなり、米国の一つの州にならざるを得ない。その道を歩むのか、それとも、独自の道を進むのか、日本は、その岐路に立ち、外交力が試されている。

<思想の対立>

第二次世界大戦後、ソ連は、軍事的には、米国に対抗できる力を持ってはいたが、経済的には、米国には太刀打ちできなかった。それでも、世界を二分する米ソの対峙・冷戦構造を現出した。これは、米国が、ソ連の共産主義という思想に振舞わされたことによる。あるいは、深読みすると、米国の軍需産業と政府が、思想対立を利用し、冷戦を演出し、軍事産業を支えたとも言える。そんなことを考えるほど、第二次大戦直後の米ソの経済力は格差が甚だしく、とても、ソ連が米国に対抗できるほどのパワーがあったとは思えない。

同じ価値観、思想を持つ国に対して、軍事的に対峙し、軍事力を行使することは考えられない。現在の日米両国は、民主主義、自由市場経済など、多くの価値観と思想を共有しており、危険な国家間の対立の可能性は少ない。よって、米国に対して、強く言えるのが日本である。それなのに、経済・金融そして安全保障の問題において、一方的に、米国に追従しているのが、日本である。逆に、その点を良く分かっているのが、欧州であり、イラクへの軍事侵攻に対しても、堂々とドイツとフランスは反対した。反対したところで、致命的な米国との対峙は有り得ないことを分かった上での、反対である。あの英国でさえ、EUの対中国武器禁輸解除を支持し始め、米国の単独行動主義の世界戦略に対して、独自の外交戦略を取ろうとしている。

やはり、米国と対峙する可能性が最も高いのが、共産党独裁を維持する中国であろう。民主政治を旗印にする米国と、共産党独裁を頂く中国との思想対決こそが、世界のリスクである。他国との軍事的緊張を和らげ、経済拡大に専念したいのが、中国の本音であろう。よって、中国は、厄介者の北朝鮮などのために、米国との関係を悪くしたくはないであろう。しかし、米国は、中国に対する警戒心を弱めることはなく、ライスが国務長官に就任し、中国への牽制は、より強まったと考えるべきである。また、ライス国務長官が、圧制国家としてミャンマーを挙げたことは、明らかに、ミャンマーに影響力を持ちたい中国を意識してのことであろう。よって、中国は、本音に逆らうような格好で、その共産党独裁を守るために、米国を視野に、軍備の増強に励んでいる。よって、中国の潜水艦の日本領海侵犯は、米国への軍事的牽制であろう。

台湾へ向けての中国の中距離ミサイルは、700基を超え、その射程には沖縄も入っている。そして、今年の3月には、全国人民代表大会で、台湾の独立を阻止する「反国家分裂法案」の審議を開始した。その攻撃的な中国が東アジア共同体構想を提唱している。それに対し、日本は、どのようなアジア外交戦略を持っているのか。日本の経済力と軍事力を統合的に結びつける理念とグローバルな視野無くして、中国の外交戦略を超えることはできない。

<経済と軍事を結ぶ理念>

グローバル化の流れが強まる中、民主主義、市場原理、人権重視そして環境保護などの普遍的価値が世界を覆っていくと思われる。国々が、共通の価値観を持つことにより、戦争・地域紛争のリスクが減っていくのが、望ましい。しかし、隔絶した軍事力を持つ米国は、米国の価値観を、短期間で腕力でもって世界に広めようと、単独行動主義に走り、軍事危機を高めている。そして、多くの国々が心配するのは、日本の経済力と軍事力が米国により分断され、その結果、日本の確固とした国家意思(外交戦略)が失われていることである。日本のバラバラにされた経済力と軍事力が、米国のグローバル覇権に利用されていく様は、アジア諸国などの他国には、はっきりと見えている。

EU、アジアそして米国が均衡する三極体制を推進するために、日本は、自らの経済力と軍事力を統合し、独自の国家意思と戦略を持ち・実行することを、世界に知らしめるべきである。そして、軍事力を経済・社会システムを支える基礎インフラとして、位置づけるべきである。その理念の萌芽は、1960年代の佐藤政権の日米協力による太平洋新時代の構想に見ることができる。しかし、その構想は、基礎インフラの軍事力は米国に任せ、日本は経済・文化のみを担うというものであった。

1970年代の最後の政権を担った大平首相は、それを一歩進めんと、世界を一つの共同体として捉え、経済、文化そして外交に防衛力も加えた「総合安全保障体制」を提唱した。まさしく、グローバルな時代の到来前に、日本が持つべき外交理念を打ち出したものである。今の日本に、求められるものは、その総合安全保障の枠組みに、軍事力を取り込む体制を樹立することである。日本は、その体制(経済・社会システムの基礎インフラとしての軍事力)の中で、経済と軍事を結びつけ、軍事大国化を恐れるアジア諸国を納得させるべきである。

国の外交は、徹底した国益重視の意思のみが担うものである。そこには、他国への余裕ある態度を示す美辞麗句はいらない。そして、外交戦略には、グローバルかつ長期の視点が必要不可欠である。日米安保を機軸に、ロシア、インド、中国そして台湾を含むアジア諸国を取り込む「集団安全保障体制」構築を、日本外交は目指すべきである。その一歩は、自ら、日本の経済力と軍事力を結びつけ、日本の総合安全保障能力を高めることから始まる。

 「財界」(2005年5月3日号)

( 2005年04月28日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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