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鈴木壮治の【言いたい放題】

第14回 日本の安全保障戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

安全保障戦略の第一歩

グローバルな金融そして外交などにおいて、日本政府は「受身」であり、国家意思を強烈に打ち出し、世界をリードしていこうとする気概と戦略に欠ける。世界において、軍事力が社会・経済を支えている事実から、目を逸らし、自らの軍事力を、自らの意思で、日本の安全保障に活用しない態度に、それは起因する。

以前、自衛隊の幹部に会った。その眼光は、国のために命を惜しまない決意を表わしていた。彼は「手足を縛られ、目隠しをされて、どうやって、日本を守るのか」と、正直に、自衛隊の置かれている立場を表現した。軍事国家に囲まれている日本が、その軍事力を縛ることは、「自らの軍事力を自制する自信が無く、他国の軍事的な自制を頼りとする」ことを、世界に宣言しているようなものである。これを、受身の他力本願という。自らの力を怖がり、他国の力に命運を委ねる国に、未来は無い。

冷戦体制崩壊後のグローバル時代。しかし、日本は、独自の国家安全保障戦略を持たず、日米安保の重心が、日本防衛よりも「周辺事態」に置かれ、自衛隊は米軍支援の海外活動に励む。人口に対する正規軍の数の世界平均は、1%であるが、日本の場合は、0.2%である。ちなみに、北朝鮮は5%である。日本経済の命綱である首都圏(一都六県4000万人)には、6000人の正規軍しかいない。この事実が、日本防衛における自衛隊の影の薄さを示している。

このままでは、強大な軍事力を梃子に、グローバル覇権を目指す米国に、自衛隊は「開放」され、そして、使われる。米国は、日本が、自らの意思で軍事力を使うようになることは嫌うが、米軍支援のために、自衛隊が動いてくれることは大歓迎である。冷徹な国家エゴから、当たり前のことである。それに対し、シビリアンコントロールにより、国民が、自らの軍事力を、しっかりと掴み、日本防衛のために活用することが、日本の安全保障戦略の第一歩である。

政府と国会の責任は重大である。イラクへの自衛隊派遣に際し、シビリアンコントロールの一環として、石破防衛庁長官(当時)が、福田官房長官(当時)に、準備指示を求めた。しかし、当時(2003年10月17日)は、衆議院選挙も迫っており、福田長官は、防衛庁に丸投げし、シビリアンコントロールを放棄した。武力攻撃事態法(有事関連三法の一つ)が制定され、政府が、武力攻撃を予想した時から、国会の事前承認無しで、実質的な有事体制の立ち上げが可能になった。これは、国民の代表である国会のチェック機能が後退したことを意味する。緊急事態認定を、政府に任せっきりにせず、議会が最後まで関与するドイツの緊急事態憲法を、なぜ参考にしなかったのか。議会は、自らの軍事力に対する自制の責任を持ち、積極的に関与する中で、日本の安全保障は国益のために機能するようになる。

米国と対等に

1997年の日米安保の新ガイドラインで、日本の周辺で行われる米国の軍事行動に対して、日本は、自衛隊に加え、民間企業そして地方自治体も、その後方支援を行うものとした。そして、1999年制定の周辺事態法により、日米安保の範囲が、アジア・太平洋地域に拡大し、日本の後方支援が定められた。2001年には、テロ対策特別措置法が制定され、米国の対テロ軍事戦略に協力する体制が整えられ、インド洋に海上自衛隊が派遣された。

周辺事態法の九条により、「周辺事態」に際し、民間企業と地方自治体への協力要請は可能であるが、強制はできない。しかし、「有事」であれば、強制できるとして、グローバル覇権を目指す米国の圧力もあり、2003年6月に、有事関連三法が制定された。そして、同じ年には、イラク復興支援特別措置法により、イラクの治安維持を目的に、陸上自衛隊をイラクに派遣できるようにした。

このように、日本は、冷戦崩壊後の国家安全保障戦略を、国民的な議論にしないまま、軍事力を梃子にして、米国主導の世界の新秩序構築に邁進する米国の圧力を受け、自衛隊の海外展開を可能にさせる一連の新法を制定した。その結果、集団自衛権の行使に関し、それらの新法と憲法との矛盾が表面化し、憲法は崩された。そして、その矛盾を正すために、憲法改正を行うというのでは、本末転倒である。

昨年秋の「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書で、例外的であった自衛隊の海外派遣を、国際平和協力活動という形で、本来の任務に格上げしようとしている。また、中東から北東アジアにかけての「不安定の孤」の安定のために、米国を中心とする諸国との緊密な協力が必要であるとしている。この報告は、米国の意向に沿ったものであり、日米安保の地域的限定をも超えている。

憲法も日米安保も蔑ろにして、米国に追従するのは、明らかに、政治の責任である。堂々と、国民に、冷戦崩壊後の日本の防衛戦略を提唱し、その実現のために、憲法第九条が障害になるのであれば、それを直すべきであったし、日米安保も、日本主導で見直すべきであった。

今からでも遅くない、国際法遵守と国際協調により、軍事的安定を目指す安全保障戦略を提唱し、米国の単独行動主義を牽制するべきである。そのためにも、日本は、自らの持つ集団自衛権の行使を可能ならしめ、米国と対等なパートナーシップを締結し、発言力を高めるべきである。そうすれば、日米主導によるアジア・太平洋の集団安全保障共同体が見えてくる。それこそ、1997年の新ガイドラインにより確認された「日米安保協力のアジア・太平洋への拡大」の真の目的であり、アジア・太平洋の経済・社会システムの安定を担保するものである。

北朝鮮に対する経済制裁

北朝鮮による拉致問題をテーマにしたテレビ番組で、ある政治家が、「拉致された日本人を奪回するために、北朝鮮を日本が軍事攻撃できなければ、米軍にでも、頼まなくてはいけない」と発言していた。それを聞いた多くの国民が、「本当にそんなことができるのか」と思ったに違いない。

米国政府は、兵員と軍事装備を、米国から戦地に送れない限り、戦争計画は承認しない。当然である。在日米軍基地は、日本周辺有事において、増援米軍の受け入れ、再編、前送のための戦略基地として機能する。米軍の援軍受け入れ・前送のために必要なインフラ(空港・港湾)を、戦争開始時期に活用し、物資と兵員の受け入れを行わないと、戦争計画は進展しない。しかし、そのインフラの99%は、民間と地方自治体が保有している。

1993年2月25日,IAEA(国際原子力機構)は、特別査察を北朝鮮に要求したが、北朝鮮は拒否し、3月12日に、NPT(核拡散防止条約)から脱退した。3月19日、北朝鮮と韓国の実務者レベルの協議が板門店で行われた。その際、北朝鮮は、「ここからソウルはそんなに遠くない。戦争になれば、ソウルは火の海になるであろう」と言い放った。それを受け、クリントン政権は、対北朝鮮攻撃を決意し、日本に、兵站関連の協力を要請した。しかし、日本は、それを可能にする法制度と有事法制が無いことを理由に断った。結局、米国は、北朝鮮に対する武力攻撃を断念した。今回、軍事的反発を生む、北朝鮮に対する経済制裁に、米国が頷かないのは、有事関連三法が制定されたが、本当に、日本のインフラ(空港・港湾)が使えるかどうかの危惧が、一つの理由であろう。

有事法の「武力攻撃事態」を拡大解釈し、実際に軍事攻撃を受ける前でも、政府が、強制的に地方自治体・民間企業に協力させられることを、多くの国民は「実感」していない。よって、拉致問題を、経済制裁も厭わない毅然とした態度で、解決するためには、そのようなインフラ(空港・港湾)を、軍事目的のために使えるように、国民のコンセンサスを取っておく必要がある。

北朝鮮に対し、経済制裁を発動する際、日本政府は、北朝鮮の対日軍事攻撃(正規軍によるテロ行為を含む)のリスクを、国民に説明する義務を持つ。そして、北朝鮮の軍事攻撃に対し、自衛隊と在日米軍との軍事協力体制を説明し、民間と地方自治体の協力を確保しなくてはいけない。その際、独自の安全保障戦略と国家意思により、拉致された同胞を北朝鮮から救うが、米軍の協力も必要であることを、国民に理解してもらわなければ、その同意は得られない。その政治的勇気が、国家安全保障を国民的な議論に格上げし、憲法改正への大きな動きを創る。

中国に対して

日米両国は、2月19日の2プラス2(安全保障協議委員会)の後、共通の戦略目標を打ち出した。台湾海峡問題そして北朝鮮問題と、東アジア地域の安全保障に言及するのは当然である。中国への直接的な対峙につながるような表現は無いが、「台湾海峡問題の平和的解決を促す」のように、共通戦略目的の多くは、中国を十分に意識してのものである。

1月13日に公表されたCIA報告では、「2020年の世界の強国は、米国、中国そしてインドとなり。米国は、テロとアジア経済に脅かされて、次第に、世界最強の立場を失いかねない。イスラム世界は、団結して、西側の価値観に挑んでくる。また、日本は15年以内に危機に瀕し、大国のレベルから遠くなる。一方、インドと中国は巨大な政治力と軍事力を保持する」としている。日本に関しては過小評価過ぎるが、米国のアジア重視が良く伝わる報告である。

米国が、そのアジアでの影響力を手放すことはありえない。また、中国のアジアでの覇権は決して許さないのが、ブッシュ政権である。そのブッシュ大統領は、2002年の秋、「潜在的な敵国が、アメリカを凌ぐ、もしくは、同等となるために、軍備を強化することを思いとどまらせる」と言い切り、米国に挑戦する覇権国家を許さないとした。その敵性国家とは中国である。そして、インドをカードとして使い、その中国の野望を押さえようというアジア戦略を、米国は持つ。しかし、インドは、国際政治において、自主独立の路線を歩んでおり、また、米国と組むか、中国と組むか、どちらが、長期的な国益につながるかの判断が難しく、そう簡単に、米国の対中国カードにはならないと思われる。

日本の安全保障のため、アジアにおける中国の覇権は断固阻止すべきである。世界の国々は、自国の利益を最大にするための安全保障と経済の組み合わせを模索している。日本と中国の関係もその一つである。領土問題など、日中間の政治的・軍事的緊張が高まる中、二国間の貿易量は、日米を抜き去った。日中間の安全保障と経済の組み合わせは落ち着かず、しばらく、漂流せざるを得ない。

圧倒的な軍事力を持ち、2000発もの核弾頭を中国に向けている米国を、中国は恐れている。そして、日本と中国が経済的な結びつきを深めるに従い、安全保障の面でも協調することを、米国が好まぬことを察知している。中国の知恵は、対日ナショナリズムを放置することにより、日中間の政治的・軍事的緊張を維持し、米国の疑心暗鬼を避けようとしている。それを、日本は分かった上で、中国を取り込んだ安全保障戦略を構築すべきである。

海千山千の中国に対しては、大胆な戦略でいかないかぎり、相手にはされない。まず、日本は、ロシアおよびインドとの軍事的協力関係を深め、米国の中国封じ込めに協力する。さらに、EUの超国家組織運営を、中国に良く理解してもらい、中国分裂後の落としどころ「中国合衆国」への具体案を持ってもらうようにする。

 そして、新たな国連の中核となるべき日本、米国、ロシアそしてインドによる地域安全保障共同体を構築し、中国が受けざるを得ないエネルギー・食糧戦略を含んだ統合的戦略(安全保障と経済の組み合わせ)を、中国に提案する。そして、我々は、民主化した「中国合衆国」を仲間になるための条件とする。米国の単独行動主義を抑え、中国のアジア覇権を阻止し、将来の新国連への道筋をつける、この戦略こそ、日本が主導すべき安全保障戦略である。

 「財界」(2005年4月19号)

( 2005年04月15日 / 鈴木壮治 )

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鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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