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鈴木壮治の【言いたい放題】

第13回 日本経済再生戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

 日本経済再生戦略は、中長期の視点で、米国、EUそして台頭著しい中国に負けない、逞しい日本経済をつくりあげるためにある。短期の景気浮揚策であってはならない。その戦略性が欠けたが故に、財政出動の大盤振る舞いをしたかと思えば、緊縮財政と、時の政治権力は、国民の人気取りと、日本のマネーと優れた技術を狙う米国の圧力を受け、オタオタしてきた。日本経済は、その脆弱な政治に、振り回され、虐げられて来たのである。日本経済再生戦略の本質は、日本政治再生戦略である。

国益を追求する統合戦略

 経済の問題を解決するには、経済だけの視点と、それだけを踏まえた経済再生戦略では限界がある。バブルがはじけ、10年以上も経過しているのに、日本経済の先には、明かりが見えず、三・四半期連続で、実質経済成長がマイナスになった。政治が、日本の民と官の力を、効率的に引き出す統合戦略を生み出し、企業に、ケインズの言うアニマル・スピリット(企業家精神)を蘇らせることでしか、逞しい日本経済は再生しない。アニマル・スピリットの塊であるライブドア・堀江社長によるニッポン放送株取得。その大胆な企業買収に、既存勢力が慌てふためく様は、日本経済に、弱肉強食のグローバルキャピタリズムで闘っていく逞しさが無いことを、暴露してしまった。

 米国は、冷徹な国家戦略を持つ国であり、日本に守る価値を見出すことが無ければ、米軍の兵士の命をかけてまで、日本を守ることは無い。米国は、日本の価値は、その財力・経済力にあると考え、それが弱まるようであれば、守る価値が減少すると判断する。日本の経済力が、日本の安全保障につながる冷厳なる事実は看過できない。

 米国は、他国の富、資源、優秀な頭脳・テクノロジーを、国益のために利用する国家意思と戦略を持つ。クリントン大統領は、1993年、対日金融経済戦略を練るために、政策スタッフを、国防の要・ペンタゴンに集めた。これこそ、「対日金融経済戦略を、国家としての闘い」とするクリントン大統領の強烈なメッセージであった。その米国の戦略的アプローチの前に、日本は、なすがままであった。国際金融業務を行う大手金融機関のみに適用すべきBISの自己資本規制を、日本政府は、地域金融を担う中小金融機関にも課し、中小企業そして零細企業への金融を細めてしまった。その結果、日本が生きていくために必要な珠玉のような製造技術・ノウハウを持つ中小企業が、米国資本の軍門に下ろうとしている。ジャパンマネーを、米国に欲しいままにされ、更に、日本の中小企業も持つ優秀な技術も取られ、日本は、21世紀に、どうやって食べていくのか。

 グローバル時代の日本の経済戦略は、金融・情報通信・運輸のグローバル機能の拡充、エネルギー・食糧などの戦略的確保、日本企業の競争力増強と、日本の総力を結集させ、国益を守る統合戦略であるべきである。東京湾を金融・情報通信・航空のグローバルハブにするプロジェクトの推進そして実現、さらに、天然資源確保のための開発プロジェクトへの投資、海外関連企業の買収など、やるべきことは多くある。そして、それは政治のリーダーシップを必要とする。

 また、アジア・太平洋の諸国との連携を深める努力の中で、日本経済を再生させるべきである。前述の東京湾の情報通信・金融・航空のハブ機能は、アジアのハブ機能としても活用され、その戦略的価値は高い。その早期実現のため、東京湾地域を総合経済特区として、税制優遇措置も取り入れ、海外の資本と頭脳と情報を惹きつけるべきである。

 また、日本での規制緩和が遅れ、国家戦略上大事な事業ができないのならば、他の国で、その可能性を追求すべきである。例えば、日本から、飛行機で6時間、時差が1時間の国、パプアニューギニアも、その様なチャンスを与えてくれるかも知れない。国土面積は、日本の1.5倍程もあるが、人口はたったの510万人だけである。例えば、パプアニューギニアで、株式会社形式で農園を経営し、その農産物を、日本に持ってきてもよいのではないか。大胆かつ自由な発想が、日本経済をデフレの淵から救い出す。

市場の力を使うべき

 日本経済の再生を考えるのに、日本からの視点だけでは、限界がある。公共工事が細り、北海道の経済が疲弊しているとよく聞く。しかし、アジア諸国そしてオーストラリアなどに住む人々から見ると、北海道は、憧れの地である。特に温泉好きの台湾の人にとって、雪景色に囲まれての温泉は、それこそ別天地であろう。既に、オーストラリア資本は、北海道好きのオーストラリア観光客のために、観光施設関連に出資している。北海道に熱い眼差しを向けるシンガポールなどのアジア諸国も、北海道でのプロジェクトへの投資に、興味を持っているはずである。

 地方分権さらには地方主権の大きな動きの中で、地方が、それなりの経済パワーを持つためにも、直接、海外の資本市場を使うべきである。北海道が、その観光資源を開発するため、国内だけで、道債を発行するのではなく、北海道が好きなアジア諸国で、債券(出来れば、プロジェクトの収益のみを返済資源とするレベニューボンドが好ましい)を発行し、プロジェクト資金を調達すればよい。

 国と地方自治体の財政再建には、市場の力が有効であり、財政に市場原理を導入すべきである。日本経済の問題の一つとして、民と官が異なる考え方とシステムで動いてしまっていることがある。この民と官の壁をぶち壊さないかぎり、日本経済の再生はない。その壁を破るのは、市場の力である。公共事業は、官が一方的に進めてきた。そこには、市場原理が入る余地は無く、公共事業の本当の価値は不問にされた。それが、経済合理性に欠ける公共事業を多く生み出したのである。公共事業の採算性・工事の仕様など、住民がチェックするのは困難であるから、それを、市場に任せるべきである。

 市場から資金を引っ張ってきて公共事業を行う際に、証券化という金融技法が使える。事業のキャッシュフローで、金利・元本を払う証券は、市場で、きっちりと吟味される。しっかりと収益の上がるものであれば、証券の買い手は、現れるであろうし、採算に問題があれば、見向きもされないであろう。その結果、公共事業に、厳しい市場原理が導入され、放漫なる事業計画は淘汰されることになる。英国では、公共事業を行う際に、ユニバーサル・テスティングなるものを行い、民間で行った方が合理的であると判断された場合、その事業を民間に任せるという方式を採っている。日本も積極的にそのシステムを導入すべきである。

証券市場の拡充

 財政政策も金融政策も限界であり、どうしたら、日本経済は往年の高度成長を取り戻すことができるのであろうか。「日本の未来戦略」で、国としての心技体を語った。日本経済に欠けるものは、「心」、すなわち、新たなるビジネスを創造しようとする企業家の強い意志である。金利をゼロにしても、また、カネをジャブジャブとマーケットに流し込んでも、受身の企業家だけでは、経済は浮揚しない。企業家精神無しでは、経済再生はありえない。そして、その企業家精神を支えるのが、株式・社債市場に流れ込むリスクマネーである。

 1992年から2000年にかけての財政出動額は100兆円もあったが、その効果は短期的であった。資産デフレからの脱却のため、日銀に、株と不動産を購入させるべきとの提言があった。しかし、それは、市場原理に反するものであり、短期的に若干の効果があったとしても、中長期で資産価格が上昇し、資産デフレから脱却する動きにはならない。やはり、企業活動が活発になり、新規事業などが生まれ、国際競争力が強まり、その結果、株価と地価が上がるのが、自然であろう。

 日本経済にとって、個人の資産効果に多大な影響を与える株価は、重要である。「新会社法」の制定により、来年の4月より、日米の企業間でも、株式交換により、企業買収ができる寸前までいった。しかし、外資による買収への準備が必要ということで、その実行は1年延びた。しかし、どっちみち、時価総額の低い企業は、株式交換による買収攻勢に晒されることなる。その対処策のため、株式市場を活況にし、日本企業の株価を高める「国家戦略」が必要とされる。ドイツは、何年か前に、株を勤労者世帯が購入できるような支援策を、国家戦略として実行し、株価を上げ、海外企業によるドイツ企業買収攻勢をやわらげた。他山の石とすべきである。

 今年は、株価を支える動きが顕著になる予想される。5月のペイオフ解禁(無利子の決済性預金のみ全額保護)により、多くの人々は、預貯金を、株式投資にシフトする可能性が強い。七大銀行グループの不良債権の割合が、2004年9月の中間決算では4.6%と改善され、2002年3月期末で8.4%であった不良債権の割合が半減した。銀行のリスク資産である保有株式も、企業との持ち合いを解消し、2004年9月末の大手四大銀行グループの保有株式の金額は、2002年3月末に比べ、9兆円も減り、金融機関のリスクに対する抵抗力が増した。これらは、株式市場を支えるものになるであろう。この機会を逃さず、リスクマネーを引き付ける証券市場の充実を、国家戦略として推進すべきである。

資本主義の歪みを是正せよ

 ライブドアによるニッポン放送株の取得での問題点は、資金を潤沢に持っている外資(リーマン・ブラザーズ)が、限られたリスクテイクで、巨額な利益を得ることである。転換社債型新株予約権付き社債の引受に際し、ライブドアの堀江社長から借り受けた株を売り、株価の下落リスクをヘッジする。そして、自らの売りで株価が下がった時に、市場価格より10%低い株価で、新株への転換を進め、株を返す取引である。株価が高い間に、株の空売りをしておけば、株を安く転換し、それを返すことにより、儲けることができる。リーマンが、全ての社債を、新株に転換し、市場で売却し、利益を確定することができず、ある割合の社債を持ち続けるリスクもある。しかし、個人投資家は、リーマンが享受する利益は得られず、単に、株価の下落リスクを背負い込むことになる。

 これこそが、現在の資本主義の問題点である。カネを持てば持つほど、投資技法に長けた人材が集まり、さらに、情報をより早くキャッチし、リスクを「弱者」に押し付けながら、巨額の利益を得ることが可能になるのである。米国の貧富の差は、このようなリスクとリターンの正常なトレイドオフが機能しない資本主義の歪みから、生じている。

 これは、2年程前の、三井住友フィナンシャル・グループとゴールドマンサックスとのディールにも見ることができる。三井住友フィナンシャル・グループが、約1500億円の普通株への転換権付き優先株を、ゴールドマンサックスに買ってもらった。その際、三井住友フィナンシャル・グループが、その見返りにつけた条件は、年率4.5%の配当に加え、優先株取得より、2年間経過すれば、取得時に比べ、株価が下がった場合、転換株価を1/3にまで下げることができる。誤解を恐れずに言えば、米系のヘッジファンドが、三井住友フィナンシャル・グループの株を売り浴びせ、しこたま儲けた後、ゴールドマンサックスは、優先株を、当初の転換価格の1/3で、普通株に転換させることができる条件であった。

 国有化を恐れ、米国資本に圧倒的に有利な条件を押し付けられた経営陣に、それが、資本主義を歪め、一般株主としての国民の利益を軽視したことへの自覚はあるであろうか。そして、小泉政権は、なぜ、ここまで、三井住友フィナンシャル・グループを追い込み、日本にとって屈辱的なディールを看過したのか。

 世界最大の外貨準備を持ち、米国に次ぐ経済大国である日本は、資本主義に責任を持つ。ライブドアによるニッポン放送買収における資本主義の歪みを抉り出し、それを正す中で、日本は、グローバルな時代の健全なる資本主義を生み出すべきである。預貯金に眠るジャパンマネーを叩き起こし、外資の独壇場を許さないリスクマネーにさせることで、その道は開かれる。

 「財界」(2005年4月5日号)

( 2005年04月02日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
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