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鈴木壮治の【言いたい放題】

第12回 国際金融という闘いの場

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

 日本は外貨準備を8500億ドルも有する。そして、世界に冠たる匠の国であり、その製造技術は、緻密で正確である。しかし、戦略の貧しさから、そのマネーとテクノロジーがうまく融合せず、国富の増大につながっていない。ようは、日本の金融の根幹を握る官のマネーの使い方が下手なのである。米国は、双子の赤字に苦しみながらも、しっかりと、ドルの機軸通貨としての地位を崩さず、ドルの米国への還流を見事に守りきっている。日本の経済再生のためには、経済の血とも言われる金融の再生、特に、国際金融における虐げられた状態から、日本を脱却させなくてはいけない。そのためにも、金融の根幹を官から民が取り戻す「金融市民革命」を起こし、ジャパンマネーに民の意思を反映させなければいけない。

 国際金融とは、国益がぶつかり合う、情け容赦も無い闘いの場でもある。単に、金融の世界だけで考えるのでは、国際金融を理解することはできない。国際金融とは、軍事・政治・エネルギー・情報通信などの要素が、複雑に絡み合っているものである。国家の統合戦略に長け、圧倒的な軍事力を持つ米国が、国際金融の世界において、比較優位に立つのも、当然と言えば当然である。

 米国は、「ステイトキャピタリズム(国家主導の資本主義)」でもある。すなわち、米国政府は、中長期において国益を生み出す国家戦略を構築、実行し、民間は、その大きな流れの中で、短期の利潤を追求している。日本政府は、グローバル金融の流れに翻弄されるのみであり、自国の企業・金融機関のために、有利な金融の流れを創らんとする意志と実行力に欠ける。その結果、BIS規制を安易に導入し、邦銀を弱体化させ、アジア金融における立場を弱くした。その間隙を縫うようにして、米銀が、中国の金融市場での主導権を握った。そして、中国経済の破綻前に、米銀の中国企業向け債権に、中国の中央銀行の保証をつけ、邦銀に売りつけようとしているのが、米銀である。3年程前、某米銀が、中国政府保証を頼りに、中国企業に融資したが、その企業は倒産した。しかし、中国政府は保証を履行せず、米銀は中国政府を訴えるも、中国政府には勝てず、さすがの米銀も諦めた経緯がある。中国政府保証はあてにならない、迂闊に、中国政府保証付きの債権に手を出すべきではない。

 また、日本は、中国に、毎年、何千億というODAを供与してきた。中国は、台湾を認めている中南米の諸国を、ODAのお陰で余裕ができた資金で篭絡し、台湾から中国に鞍替えさせている。台湾は、地政学的にも、日本にとって、非常に大事な国である。その台湾を、不利な立場に追い込むために、中国は、ジャパンマネーを戦略的に使っている。

 このように、日本は、自らのカネを戦略的に使わず、米国、中国などの戦略国家が、それを、自国の利益のために使っている。米国一辺倒の「日米安保は絶対であり、どんなことがあっても、日米関係を崩してはいけない」という呪縛そして中国への弱腰の外交が、日本政府から、国際金融の場で闘う意思と思考を奪い去っている。このような日本政府に、狡猾かつ大胆な国際金融戦略は望みようがない。

受身の日本金融

 日本のマネーと技術力を、国富増殖に使おうとしているのが、米国である。1984年に、日本に対して、時の大統領レーガンは、強引に、資本市場の自由化、ユーロ円市場の緩和、国債のディーリング、外銀の進出を日本政府に認めさせた。これは、日本のメーカーと競争する米国のメーカーからの「円高・ドル安」要請をきっかけとする。まず、日本の金融市場をこじ開け、円とドルの交換をより自由にさせ、円高・ドル安にもっていこうとしたのである。そして、1985年の9月のプラザ会議で、円高のトレンドを米国に日本に強いた。レーガンは、米国で人気が高いが、ソ連を崩壊させたことに加え、経済・金融「大国」である日本を牛耳り、国益につなげたことが、大きいと思われる。

 1987年、景気が良く、本来ならば、金利を上げるべきであった日本。しかし、円金利上昇によるマネーの逆流(米国から日本へ)を恐れた米国の要請を受け、日本は金利を据え置いた。それが過剰流動性を生み出し、バブルの発生とその崩壊へとつながった。その時、ドイツは、毅然として、米国の要請を跳ね除け、金利を上げ、米国のブラックマンデーを引き起こした。そして、その米国に対時したガッツと戦略性は、ヨーロッパ諸国を主導し、ユーロの創設を生み出した。

 クリントン大統領も、日本にビッグバンをやらせ、また、ブッシュ大統領も、2001年の日米投資イニシアティブにより、米国に有利な構造改革を、日本に強いている。米国は、ジャパンマネーを取り入れるのに、二つのパイプを必要とした。一つは、米国債を買わせる従来の方法。もう一つは、民間銀行を押さえ、そこを経由して、ジャパンマネーを取り込む戦略である。

 それに加え、優れた技術力を持つメーカーを安く手に入れる戦略を持つ。日本の金融機関を窮地に押し込み、所有している株を安く放出させ、それを取るのである。 また、ブッシュ政権の圧力により、日本政府は、株式交換による日米間の企業買収も認め、2006年の春頃から、株式交換で、米国企業は、日本企業を買収することができるようになる。ドルを使わず、株券を刷るだけで、日本企業を買収しようという魂胆である。株価が高く、必然的に、時価総額の高い企業程、買収が有利になる。時価総額を上げるのがうまい米国企業が、優秀な技術を持つが、時価総額の低い日本企業を、株式交換で買収し、傘下に置くことは、十分ありうる話である。それを回避するためにも、ジャパンマネーを株式市場にシフトさせ、日本企業の株価を高めに持っていく国家戦略が必要である。

東京と沖縄の合体

 日本が太平洋戦争で、負けた理由は幾つかあるが、その一つに「非対称性への戦略」が弱かったことである。距離の非対称性、すなわち、日本本土から遠く離れた地で米軍と戦うよりも、日本の近海近くに米軍を呼び込み、長距離飛行が可能な戦闘機で、叩くべきであった。逆に、国力にかなり劣る日本が、太平洋広しと、戦線を広げ過ぎた。南太平洋での戦いは、米軍の死者1に対し、日本の死者10であったが、硫黄島、沖縄では、1対2になった。その結果、米国は原爆投下を決断した。

 語学力に難があり、グローバル金融マーケットで、欧米のプロと丁々発止のできる人材が不足している今、あえて、世界に出て行くグローバリゼーションよりも、世界を日本に引き付ける「日本型のグローバリゼーション」を目指す方が賢明であろう。

 戦闘における非対称性の例として、テロ攻撃がある。これは、弱い者が、強き相手の懐深く入り込み、その脆弱なところを攻撃するものであり、9.11テロが、その代表例である。経済規模の小さい沖縄のような地方自治体が、首都圏を相手にして、国際金融の役割争いをするのは馬鹿げており、逆に、得意技を持って、大きな相手の懐に飛び込むべきである。

 日本の国際金融戦略を考える際、この非対称性への視点が、必要不可欠である。日米関係には、非対称性が多く見られる。日米安保にしても、片務的であり、日本の国土が戦場になった場合は、米軍に日本に守ってもらえるが、その逆は、真ならず。日米間の金融にも、非対象性が幾つか見られる。日本は、米国の国債を買い、米国に融資しているが、建値がドルなので、貸す方の日本が、ドル(対円)の下落リスクを負ってしまっている。さらに、日本は、所有する米国債を、米国へ恐れから、自由に、マーケットで売却できない「流動性リスク」も、背負い込んでしまっている。

 その日本の米国債購入による日米間の非対称性を是正することを、日本の国際金融戦略の要とすべきである。そのためには、まず、米国債への投資を減らすことが大事である。そのためにも、ユーロ建ての債券への投資を増やし、日本の投資ポートフォリオにおけるドル建ての割合を削減していくべきである。また、アジア債券市場を一刻も早く拡充させ、米国債へ向かっていったジャパンマネーを含むアジアマネーを、アジア各国の国債、公債そして企業債へ振り向けさせるべきである。さらに、円建ての米国債の発行が、米国政府に難しければ、ユーロ、円そしてドルのバスケット通貨建ての米国債を発行させ、ドル下落リスクを軽減すべきである。

 「渦」をつくり、グローバル金融の流れを日本に引き付ける国際金融戦略を構築・実行すべきである。それを行うのは、地方自治体と民間企業との連携であるべきである。例えば、東京都と沖縄県の合体による「東京沖縄圏」を実現し、沖縄の金融特区と東京湾の金融特区を一体化させ、グローバルマーケットからのリスクマネーを、地域経済(民間企業と地方自治体)が取り込むグローバル金融のハブ機能を持つべきである。それは、結果において、東京沖縄国際金融センターになり、グローバルマーケットにおける日本の比較優位を確かなものにする。

金融市民革命

 公共工事による財政出動そして減税により、資金を民に回しても、景気の本格的な回復は望めない。預貯金として眠るジャパンマネーを叩き起こし、リスクを敢然と取りに行くリスクマネーを増殖させないかぎり、日本経済の目覚めはない。それは、金融の根幹を、国家権力から民が取り戻す「金融市民革命」でしか実現しない。その民のリスクマネーの受け皿である証券・債券市場(直接金融)こそが、民の金融インフラである。しかし、民に金融の根幹を渡したくない国家権力は、直接金融の担い手である証券会社に冷たく、山一證券を破綻に追いやったことは、記憶に新しい。個人の金融資産を、預貯金、簡易保険などを経由して、公が取り込むためには、社債・株式市場は、邪魔なのであろう。しかし、銀行からの融資に頼るだけでは、企業の資金調達に安定感が出ない。そのためにも、社債、新株の発行による直接金融市場の拡充が望まれる。そして、それこそが、前述の様な米国企業の株式交換による日本企業買収への防波堤になる。

 また、官が使うマネーにも、民の意志を反映させるべきである。一橋総合研究所が提唱する「税の民主化構想」が、その一つである。納税者である民が、所得税の1%の使い方を決めるというものである。現在は、国民から徴収した所得税の全ての使い方を、国が決めている。我々は、その中の1%の使い方を、国民が決定すべきであると提言する。その1%を、どこに使うかは、国民の勝手である。使ってもらう先を、福祉施設、研究機関、NGOさらには自衛隊と、自由に決めることができる。これこそが、税の民主化への第一歩である。

 米国では、公会計に、「意思決定有用性アプローチ」を適用させようとしている。これは、「情報利用者の意思決定のために、情報を提供するのが、会計の目的である」と規定される。企業に対して株主、融資者は、事業リスクや信用リスクを取って、資金を提供している。しかし、納税とは、国家による強制であり、そこには、国民の自発的な意思はない。よって、「意思決定有用性アプローチ」が適用される根拠が薄いとされている。しかし、我々が主張するように、所得税の1%の使い方を納税者が決めるようになれば、公会計に「意思決定有用性アプローチ」が、必要不可欠になる。そして、その行き着く先は、官がどのように、民のマネーを使い、国のバランスシートを管理しているかを明白にする「国としてのALM(資産・負債の総合管理)」の確立である。そして、そのALMに対して、民は堂々と関与すべきである。その一つが、我々の提唱する民間主導の第二の会計検査院の創設である。それは、国のALMに基づく、予算策定、実行そして評価のプロセスを、民に知らしめる。さらに一歩踏み込んで、予算政策の代替案も積極的に打ち出すべきである。この知的パワーこそが、真の構造改革を実現させる。

 米国は、民の知を政策に反映させるメカニズムを持っている。それが、米国の知のダイナミックスさを生み出している。国内政策評価に強い米国のシンクタンクで有名なのが、アーバン・インスティチュートである。米国の凄さは、そのような政府の政策を評価するシンクタンクを、政府自ら創設したことである。アーバン・インスティチュートは、ジョンソン大統領が、1968年に創設した。ジョンソン大統領は、偉大な社会の建設を目指し、福祉、住宅そして都市政策に巨額の予算をつけた。しかし、それらの政策が功を奏さず、60年代の後半に都市部で黒人暴動が起こってしまったのである。それに疑問を持ったジョンソン大統領が、その政策失敗の原因究明のために、あえて、民間のシンクタンク・アーバン・インステイチュートを設立したのである。

 国民のカネを牛耳る官は、民が知恵をつけ、意思を持ち、自らのカネを縦横無尽に使い始めることを恐れてきた。しかし、今や、企業は当然、個人も、国を超え、グローバルマーケットに直接アクセスできる時代になった。官より金融の根幹を民が取り戻し、ジャパンマネーに勇気と知恵を吹き込み、グローバル金融を動かす存在に育てるべきである。

「財界」(2005年3月8日号)

( 2005年03月07日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
 バックナンバー
■第1回 いまこそ改革に民の力を
■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
■第5回 イラク・フセイン政権崩壊に思う
■第6回 沖縄金融特区構想
■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
■第13回 日本経済再生戦略
■第14回 日本の安全保障戦略
■第15回 日本の外交戦略
■第16回 日本のエネルギー戦略
■第17回 日本の都市革命
■第18回 郵政民営化と国家安全保障
■第19回 日本の情報通信戦略
■第20回 未成熟な政治マーケット
■第21回 日本を守るのは国民
■第22回 今こそ議論すべき「日本の核抑止力」
■第23回 日米FTA・日中FTAの可能性を問う
■第24回 目覚めよ、日本国民!
■第25回 安倍首相の突然の辞任と日本の安全保障
■第26回 日米関係再構築と環境安全保障戦略
■第27回 グローバル時代の集団的自衛権構想
■第28回 「NOと言える日本」からの脱却とグローバル経済安全保障
■第29回 武士道の倫理は、米国の力と資本の論理を超える!
■第30回 オバマ・アメリカに対して
■第31回 政治を取り戻せ日本!
■第32回 安全保障問題と日本
■第33回 新自由主義を超える日本の心
■第34回 WIKILEAKSの「国家機密漏洩」を考える
■第35回 今望まれるインドとの戦略的連携
■第36回 東日本復興の理念「フクシマ・コンセンサス」
■第37回 日本の共同体思想が世界経済を救う
■第38回 欧米危機から学ぶ「国家と企業の連携」
■第39回 日本よ、デフレ脱却のモデルとなれ
■第40回 グローバル濁流へ対峙する「新国家主義」
■第41回 アルジェリアの悲劇 − 問われる日本国家の国民を守る力
■第42回 ユーラシアのエネルギー地政的「周辺国家」からの脱却
■第43回 日米原子力協力協定更新と電力システム改革
■第44回 「2020年東京オリンピック開催危機」打破のための日本の安全保障戦略
■第45回 尖閣諸島・北方領土に繋がるウクライナ危機
■第46回 地方創生と脱国家時代のナショナリズム
■第47回 安全保障法制考究と日本の安全保障
■第47回 安保法制そしてアベノミクスで日本を守る!
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