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鈴木壮治の【言いたい放題】

第11回 日本の未来戦略

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

日本の国家としての心技体

 圧倒的な軍事力を梃子に、グローバル覇権を目指す米国と、それを抑えようという諸国。「単一性と多様性の衝突」が、これから、世界を舞台に、繰り広げられる。その大きな動きの中で、日本はどうするべきか。国家も生身である。国の心技体を充実することが、日本の明るい未来につながる。

 日本政府は、自国民を拉致されながらも、取り戻す意志と勇気、日本と日本人の誇りを守る「心」を持たなかった。拉致家族は、その愛する肉親を助けてもらうために、米国政府を頼り、訪米さえもした。心を持たない国の悲劇である。拉致家族奪回に、必死に政治が取り組めば、それを妨げる「国としての欠陥」が明らかになり、自主独立、日本と日本人の誇り・命・財産そして文化伝統を守る新憲法制定につながったと、確信する。

 国の「技」とは、国家戦略である。しかし、田中角栄以降の歴代政権は、その国家戦略を、自ら構築することなく、米国無くして日本無しの思考停止の中、米国の対日戦略なるものを、受け入れてきた。クリントン大統領の主導で1993年に始まった、日本に対する「年次改革要望書」を金科玉条にし、ブッシュ政権主導の日米投資イニシアティブを、2001年に受け入れ、小泉構造改革に、その多くを取り入れた。

 しかし、都市から得たカネを、地方に流し込む中で、利権を培って、自らの権力基盤にしてきた自民党。カネによる支配で日本を牛耳ってきた旧大蔵省・財務省なるパワーエリート。その複合体が、小泉首相が「官から民へ」と叫んでも、いともたやすく、その権力を民に渡すことはない。彼らは、一般の人々が、その権力構造に気がつき、不満を持ち始めていることを恐れ、その宥め役と、日本に圧力をかける米国への宥め役の両方を、小泉首相に、割り振ったのである。その損な役割を引き受けた小泉首相の改革は、その狭間で、中途半端にならざるを得ない。

 道路公団の改革にしても、道路をつくる会社と運営する会社を分離せず一体化し、二社の損益が統合されるようにした。さらに、道路建設のための借り入れに、政府保証が付き、道路建設への歯止めは効き難く、迫力不足の道路公団民営化になってしまった。

 地方分権も、国の財政悪化を救うための地方自治体の整理・統合であり、そこには、EUに見られる、国家意志としての地方主権を強める理念の欠片さえも見えない。本来ならば、行政サービスの60%を負担する地方自治体が40%の税しか得られないという税体系の歪みを直す税源委譲が、先に行われるべきであろう。しかし、小泉政権は、地方に対して、3兆円余りの補助金削減を突きつけ、その対処策を要求した。六つの地方が、頑張って、義務教育と治水砂防関連において、ある程度の地方の裁量権を強める税制改革案を提出した。それに、慌てふためいたのは、自民党の教育族と道路・建設族である。外交・防衛、グローバルなマクロ政策などの国家戦略の多くを、米国に任せ、ある意味「地方政治家」であったのが自民党の政治家である。地方主権への流れは、己の利権を奪われる以上に、自らの存在価値を否定されることに繋がる。危機感を強め、慌てるのも、無理もないと思われる。

 郵政民営化にしても、官が牛耳る金融の根幹を、民が取り戻すための改革の一環であるべきである。1992年から2002年にかけて、個人の金融資産は、284兆円も増大したが、その殆どは、国債購入に向かい、公なるものが使ってきた。「350兆円もの郵便貯金・簡易保険が、財政投融資を経由して特殊法人、非効率な公共工事への資金として流れ込むことを防ぐ」、それが、小泉郵政改革の骨子であろう。その意気や良し。しかし、旧来のパワーエリートは、全国の郵便ネットワークを温存し、郵便、銀行、保険そして証券も取り扱える総合金融機関として、蘇らせることに成功した。それをもって、郵貯・簡保が牛耳る個人の金融資産350兆円を、虎視眈々と狙う米国の金融資本に、対抗せんとしている。しかし、カネの流れを引き付けても、そのカネの運用には、優れた金融技法そして投資リスク管理能力などが必要不可欠である。日本の優れたテクノロジーとマネーを融合させ、新たなる企業を立ち上げ、それを上場させるような富の増殖に、熱心でなかった日本勢に、リスクマネーの取り扱いに長けた人材は少ない。資産の運用成績に不満を持ち、外資の投資顧問・投資ファンドへ、将来、大量な資金が流れるきっかけをつくったのが、郵政民営化であろう。

 国の「体」とは、軍事力と経済力である。特に、軍事力は、社会・経済システムを支える基礎インフラである。また、軍事と外交が連携してこそ、国家としての安全保障戦略が生み出される。しかし、戦後、日本を封じ込めようという米国の戦略により、日本は独自の外交を許されず、今日まで、来てしまった。金融経済においても、IMF、世銀を支配する米国の強い影響下にあり、円高政策を取れと言われれば、従い、市場を開放しろと迫られると、それを開け、米国の財政難を救えと言われ、米国債を買い続けている。2003年と2004年の春頃までに、日本が購入した米国債は30兆円を超す金額である。借金だらけの日本政府に、そんな余剰資金は無く、短期国債発行という借金を重ね、米国債を買ったのである。一見、立派な「体」を持つ日本であるが、それを自らの意志で動かすことができない。斯様に、日本の心技体は崩れ、国力が発揮できない悲しい状態にある。

米国の世界秩序構想に対して

 多様性を包摂する文化を持つ日本。黒白をはっきりとさせ、先制攻撃も辞さないブッシュ政権の単独行動主義は、その日本とは、肌合いが異なる。財政赤字と経常赤字を足すと1兆ドル近くになる双子の赤字。米国のメーカーは、海外へその生産拠点をシフトし続けており、米国内の製造能力の質と量とも、下降曲線を描く。一方、他を断然圧する軍事力。今を逃したら、米国主導での新世界秩序構築はできないと、ブッシュ政権が、考えてもおかしくない。相互破壊確証を崩すMD(ミサイル防御網)は、一見、受身の軍事戦略と捉えられるが、実は、世界のどこでも攻撃できるミサイル網である。しかし、軍事力を梃子に、世界秩序を構築するためには、相互破壊確証を崩壊させただけでは不十分であった。

 そして、2001年の9月11日のテロ。それを、徹底的に、戦略的に利用したのが、ブッシュ政権であった。テロの余韻が冷めやらぬ前に、議会は、ブッシュ大統領に対し、テロ撲滅のため、相手が、国、組織そして個人であろうが、軍事攻撃をできる権限を与えた。これこそが、ブッシュ政権が、9.11の結果得た最大の戦略的果実であった。いつでも、対テロを錦の旗にすれば、大統領権限で、敵に、先制攻撃できることになり、世界諸国への米国の軍事的脅威を高めることに、成功したのである。グローバルに、テロ行為を行うテロリストグループのお陰で、米国は、テロ撲滅というお題目で、軍事力のグローバルな展開を推し進めることが、できるようになった。

 その獰猛なる米国の単独行動主義に対峙せんとするEUは、2003年12月に、国際協調と予防的関与を骨格とする安全保障戦略を、欧州理事会で採決した。そして、2004年の秋に、EUは、安全保障の理念として、テロリズム、地域紛争そして国家破綻などの危険から、個人を開放する「人間の安全保障」を提唱した。それは、主権国家・米国を、民主化と市場原理により、世界に拡大しようとするブッシュ政権に対し、EUが、国際法整備・独自の軍事力構築に裏付けられた戦略的代替案として、突きつけたものである。

 国の主権の多くを放擲してまでも、EUを創り、米国の単独行動主義を抑止しようとするEUの決意は不退転である。崩れた心技体を立て直すべき日本も、謙虚に、EUを分析し、参考になるものは、積極的に取り入れるべきである。EUは、国家主権を制限する結果、地方の力は増大し、彼らができないことを、国に委託するというシステムを持つに至った。地方と個人は、強く結びつき、そのパワーが、EUを支える強固な岩盤となった。日本の地方主権構想の参考にすべきである。

日本の未来戦略

 米国が主権国家の一つでありながら、軍事力を背景に、世界政府になることは無理であろう。日本が提唱すべきは、EU、アジアそして米国が均衡する三極体制である。そして、三極体制の構築の中で、日本は、米国と対等なパートナーシップを実現すべきである。そのためには、日本は、アジアにしっかりと軸足を置き、EUを対米外交のカードとして使い、三極の均衡体制を支える主翼になるべきである。

 日本が「居を構える」アジア諸国の協力・支援無くしては、日本のグローバルな舞台での活躍は無い。米国への従属からの脱却、中国の非礼な態度に対する毅然とした態度・行動、それらが無ければ、アジア諸国も、日本をアジアのリーダーとして認めないであろう。東アジア共同体構想が、中国から提唱され、日本でも、賛同者が増えつつある。しかし、その構想が、アジアから、米国の影響力を削ぎ、中国の力を伸ばすものであれば、本末転倒であろう。三極体制は、協調こそが、命であり、その一角を支えるアジアが、閉鎖的になってはいけない。米国,EUに対しては、堂々と挑むべきである。世界の外貨準備の半分以上を持つアジアが一致団結すれば、欧米が牛耳るIMF・世界銀行体制を崩し、グローバル金融におけるアジアの影響力を高めることもできる。

 軍事インフラは、金融経済そして社会システムを支えるベーシックインフラである。経済的な結びつきを強めるアセアンが、2020年に、アセアン安全保障共同体成立を目指すのも、当然のことである。そのアセアンに始まるアジア地域安全保障への動きを、大事に育て、アジア安全保障機構に持っていくべきである。

 三極体制構築のため、日本はリーダシップを揮うべきである。それこそが、グローバルプレイヤーとしての日本の地位を高め、米国に対してもNOと言える国にさせる。そのためには、旧連邦の国々と、経済・文化交流を通じ、連携を深めるべきである。英国は、EUとも、間合いを置き、米国の対ユーラシア大陸地政学において重要な役割を果たしている。日英は、連携することにより、対米国および対ユーロ関係で、立場を強くすることができる。また、カナダは、経済的に米国の従属国になっているが、米国に対して言うべきは言う国家であり、日本にとって、対米関係上、心強い仲間となるであろう。そして、インドは将来の大消費国家の可能性を秘め、IT技術者など、優れた知的財産を持ち、その核兵器による抑止力も無視できない。オーストラリアは、天然資源に富、十分な土地は、日本との補完関係が成り立つ。

 日本経済活性化のためには、地方と個人の自立が前提となる。田中角栄がやったような地方が甘えた地域経済の活性化ではなく、あくまでも、地方と個人が、リスクを取り、自らの才覚で、地域経済の活性化をはかるべきであろう。そのために、地方が独自に金融・経済そして産業政策が取れる「地域国家」を幾つか日本は持つべきである。外交防衛そして情報通信・金融・運輸などのグローバルハブ機能の拡充は、日本国に任せるが、それらの「地域国家」は、自由に、アセアン諸国とFTAを締結し、グローバルマーケットから資金調達を行ったりすれば良い。「地域国家」は、アジア諸国にとっても受け入れ易く、日本とアジアとの連携を進める追い風になると、信じる。

 先日、財務省の役人が、日本国債売り込みのため、米国の機関投資家を訪ねた。しかし、冷たく「GDPの160%もの公的債務を持つ日本の国債は買えない。まだ、経済が活性化してきたヴェネズエラの国債の方が魅力ある」と言われたそうだ。しかし、米国と違い、国の財政赤字は、殆ど、日本そのもので賄っている、自信を失うことはない。日本に活力を与えるのは、新世界秩序を構築し、世界安定のための主翼ならんとする日本の強い国家意志である。そして、それは、官に牛耳られた金融と政策を民に開放し、民に、日本の未来を創らせることでしか、実現できない。

「財界」(2005年2月22日号)

( 2005年02月23日 / 鈴木壮治 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
鈴木壮治 / SOJI SUZUKI
一橋総研 統括責任者
株式会社日本リスク管理研究所・代表取締役
NPO法人・新日華産業技術フォーラム・理事
財団法人・日本科学振興財団・理事
一般社団法人・日中文化経済交流発展基金会・理事
日本ラオス文化経済交流協会・理事

静岡県浜松市出身。米国ペンシルヴァニア大学・大学院ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得後、1975年 三井物産入社(化学プラント部)同社で2年間の米国研修を経て、1987年シティバンク入社。デリバティブ・ヘッジファンド担当のアシスタント・バイス・プレジデント。1989年からはチェースマンハッタン銀行のバイス・プレジデントに就任。その後、1996年に株式会社日本リスク管理研究所設立・代表取締役就任。現在に至る。共著に『宣戦布告「NO」と言える日本経済』(光文社)、『国家意志のある「円」』(光文社)、『アメリカ信仰を捨てよ』(光文社)、『「日本浮上」プロジェクト』(ブックハウスジャパン)などがある。
 バックナンバー
■第1回 いまこそ改革に民の力を
■第2回 グローバル時代の機密費とは
■第3回 構造改革特区の問題点
■第4回 闘う気があるのか、日本経済
■第5回 イラク・フセイン政権崩壊に思う
■第6回 沖縄金融特区構想
■第7回 国際金融から、日本の大戦略を考える
■第8回 李登輝氏と会い、憲法を考える
■第9回 北朝鮮と日本の防衛
■第10回 グローバル時代の安全保障
■第11回 日本の未来戦略
■第12回 国際金融という闘いの場
■第13回 日本経済再生戦略
■第14回 日本の安全保障戦略
■第15回 日本の外交戦略
■第16回 日本のエネルギー戦略
■第17回 日本の都市革命
■第18回 郵政民営化と国家安全保障
■第19回 日本の情報通信戦略
■第20回 未成熟な政治マーケット
■第21回 日本を守るのは国民
■第22回 今こそ議論すべき「日本の核抑止力」
■第23回 日米FTA・日中FTAの可能性を問う
■第24回 目覚めよ、日本国民!
■第25回 安倍首相の突然の辞任と日本の安全保障
■第26回 日米関係再構築と環境安全保障戦略
■第27回 グローバル時代の集団的自衛権構想
■第28回 「NOと言える日本」からの脱却とグローバル経済安全保障
■第29回 武士道の倫理は、米国の力と資本の論理を超える!
■第30回 オバマ・アメリカに対して
■第31回 政治を取り戻せ日本!
■第32回 安全保障問題と日本
■第33回 新自由主義を超える日本の心
■第34回 WIKILEAKSの「国家機密漏洩」を考える
■第35回 今望まれるインドとの戦略的連携
■第36回 東日本復興の理念「フクシマ・コンセンサス」
■第37回 日本の共同体思想が世界経済を救う
■第38回 欧米危機から学ぶ「国家と企業の連携」
■第39回 日本よ、デフレ脱却のモデルとなれ
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■第43回 日米原子力協力協定更新と電力システム改革
■第44回 「2020年東京オリンピック開催危機」打破のための日本の安全保障戦略
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■第47回 安全保障法制考究と日本の安全保障
■第47回 安保法制そしてアベノミクスで日本を守る!
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