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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第19回 「911メモリアル式典」から「ウォールストリート占拠」へ 〜普通に戻りたい米国民感情

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

 リーマンショックで落ち込んだ経済を回復できないままに、オサマ・ビン・ラディンの殺害に成功したものの、その後の雪崩的な中東の民主化の嵐で、利権を失うか、それとも維持・拡大できるかの分かれ目に立った米国が、新たな岐路に立たされている。こうした状況を眺め、筆者の個人的事情もあって暫く中断していた米国に関するレポートを再開したい。

 財政破綻ぎりぎりの状況で共和党勢力と交渉を続けるオバマ大統領に妙案はなさそうだ。この三年で様々な歪が浮き彫りになった米国の金融・経済制度をどうすればいいのか、百家争鳴の状況であり、一時は大旋風となったティーパーティーも大統領選挙に向けた準備が進んでいるとの情報はあるものの、このところ表立った動きはしていない。こうした中で、911テロの十周年記念式典が行われた。

「911」十周年でのけじめ

 911テロ十周年記念式典のため、三日前からマンハッタンやDCの警備は厳しくなり、マンハッタンでは9日、10日と車が部分的に大混雑をした。こうした9月11日前後の警備強化とその影響は年中行事となりつつあるが、それでも今年は通常以上であった。しかし、今年は米国民が明らかに変化をしようとしていることを各TV局が競って流していることも非常によくわかった。

 典型なのは、事件直後を除いて殆ど現在まで放映されなかった映像部分、つまり、犠牲者の家族等にとってあまりに生々しいとして、ほんの一瞬だけ報道されたままとなっていた映像を流す局、当日のライブをそのまま二時間ほど流す局、9月12日のニュースで行った目撃者等の証言インタビューを流す局など、十年前を改めて明確に見つめなおすためのニュース・特番を、あたかも各局が事前に示し合わせて報道の重なりがないように異なる内容を流しており、そこで何かにけじめをつけようという意図が感じられた(複数の社会学者もこの点を指摘している)。

 西欧に多い特徴の一つに、忘れてはならないと思うことを「メモリアル」として毎年のセレモニーを繰り返すというのがある。やや意味合いが違う場合もあるが、これは中国の古典で言えば、臥薪嘗胆に似たところがある。過去の悲しみ、憎しみ、悔しさを忘れてはいけないという思いと同時に、それに囚われていては新たな進展ができないので、その日以外は忘れようという思いも含まれている。

 そして、十周年の今回は、グランド・ゼロに概ね完成しつつある新たなビルを背景に写し出し、事件当日は赤子等だった犠牲者の家族等が正装して犠牲者の名前を順番に読み上げ、自分の担当が終わると自己紹介と思いを語る。報道では名前を読み上げるのに合わせて犠牲者の写真を写すなど、通常と違う式典の演出もあった。

 今年の9月11日は、事件当日と同じ晴れやかな秋日和だったが、今後の新しい世界を感じさせるとグランド・ゼロ周辺に集まった人が語っていた(日本人として賛同出来る内容)。何れにせよ、今回の十周年式典は、テロ当日の現実を明確に思い出し、十年後の新たな変化を同時に見て、この間の悲しみ等に別れを告げようというものなのだろう。

 メディアの問いかけは、あのテロは何だったのか、あれから十年米国民は犠牲者に報いる行動をしてきたか、と問いかけているのである。

クオモNY州知事の演説とオバマ大統領の影響度

 クオモ知事が、マンハッタンでの式典で、フランクリン・ルーズベルト大統領が1941年初に行った演説から「四つの自由」について引用し、世界の自由と安全を祈念した。ルーズベルト大統領の場合、結局はその年の12月から日本との戦争が始まり、演説の意図したこととは違う方向に暫くアメリカを向かわせることになったが、クオモ知事はそういうことのないよう注意深く前に進もうとの決意を示した。

 日本人としては、真珠湾という言葉の陰にある日本の不意打ちへの怒りというものが米国人の心の底に残っており、これと911がどうしても繋がってしまうことの残念さを感じずにはいられなかったが、米国とはこういう節目節目で頑張ってきた結果として今の繁栄があるというのを主張する国であり、これを一つのテーゼとしている国である。従って、このような演説が国民の心をとらえやすい。

 一方、オバマ大統領は、9月11日午前、ブッシュ前大統領とともにお互いの夫人を連れてグランド・ゼロを歩いたが、それ以外では、ペンタゴンでの献花の時を含めて影が薄く、TV報道も何かそれを意識しているようであった。

 アメリカが再び、数年前までの繁栄を取り戻そうとしている中で、オバマ大統領がどのような役割を演じるのかが注目される一日であった。

Occupy Wall Street

 9月11日から明確に何日経ったかがわからない状況の中、非常に自然発生的な雰囲気の中で、しかし、非常によく計画された雰囲気を感じさせる動きが、今の米国で始まっている。

 原因やその開始時期などについては諸説があるが、日本語で言う「ウォールストリートを占拠せよ」というキャッチフレーズのデモは徐々に、そして静かに拡大しているが、その実態は実は誰もつかめていない。一つだけ明確なのは、(参加者の言葉を借りると)いつの頃からか失われていた米国の良さや、アメリカン・ドリームの伝統というようなものがなくなったことへの不満、怒りが溜まっていることである。

 これに参加している某有名私立大学の教授に話を聞くと、リーダーがいないのが(少なくとも明確でないのが)このデモの特徴。民主党はこれを支援しているように見えるが、何もしていない、とのことである。実際、米国は911テロ後に経済的には非常な急成長を達成し、多くの人が好景気を謳歌した。しかし、これを継続できずに失敗した結果がリーマンショックである。その後のオバマ政権は、結果的には大手金融機関は助けたが庶民は助けていない。大手金融機関の幹部は助けたが、担当者レベルを助けていない。つまり、このデモには、全ての立場の人が参加できる資格を持っているのである。そして、唯一、大手金融機関で巨額な報酬をもらった人だけが参加できないという特徴を持つ。

 こうした事情もあって、デモの対象は政府でもありウォールストリートの大手金融機関の幹部でもある。「1%の国民が米国の富を支配している」との批判がこれに結び付く。

 最初は数百人でウォールストリートの片隅で始まった運動が、今ではマンハッタンで数千人規模、全米百の都市にも広がっているとの報道もある。

今後の動きについて

 米国の政治は、過去からの流れの上にいる人だけのものとなっている。経済運営もまた然りだ。このデモに加わっているボストン市住民の声からは、モーゲージ改革が進まないことへの不満が聞かれている。既存の銀行のローンの枠組みにいくら政府が支援金を出しても、借換え行為そのものに手数料(大金)がかかる米国の銀行ローンの枠組みでは、実際にこれを利用できる人は決して多くない(少なくとも経済的な弱者は対象となりにくい)。政府がどんなに「貴方も支援を受けられるのだから早く気付いて借換えを考えて」と叫んでも、銀行ローンの仕組みが変わらないと変化は起きないのだ。従って、デモの動きが一般大衆化して拡大しつつある点は、民主党の政策でさえ全米を助ける動きでないとの不満もあるのだ。

 一方で、共和党側は、そもそもは事業者などを支持母体としているため、ここにあまり絡めないままにある。ペリー候補もロムニー候補もその他もみな経済的な成功者だからという背景もある。

 Occupy Wall Streetは、第三の勢力を作り出す可能性もあるのだ。

 オバマ政権は、2008年の大統領選挙時に使ったテキスト・メッセージとEメール戦術で、Occupy Wall Streetを見方にしようとしつつある。同政権はこのデモの誰一人として逮捕すべきでないと情報発信し始めている。しかし、デモの当事者達は、オバマ政権が見方か敵かもまだ決めていない。

 中東の春とは違って、経済への不満、戦争で知人が死んでいくことの不満、政府の施策が一部の富裕層だけを助けることへの不満など、兎に角、不満だけを明確にしたデモは、来年に向けた大統領選挙に大きな影響を与える可能性を感じさせ始めた。

( 2011年10月24日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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