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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第十回 米国経済の今後を占う“対米投資”

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

“ヘリコプターマネー”が米銀を救済した

 株式市場が軟化基調を続ける米国だが、先ごろ公表された財務省の対米ネット証券投資額(海外からの対米投資額と米国の対外投資額の差額)も「米国売り」が本格化していることを裏付ける結果を示した。これについては、昨年七月に▲975.1億ドル過去最大の減少幅を示した後、八月もほぼ同規模の減少となったものの、九、十月とかなりの増加を示したため、一段落かと味方もあった。ちょうど、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)等が米銀等の救済投資を行った時期である。ところが、十一月には再び減少に転じていたことが最近の米国財務省の発表で明らかになった。昨年末からSWFの米銀救済投資第二段とも言える動きが出てきたため、ごく直近では再び対米ネット投資データが増加に転じている可能性もあるが、こうした動きが米国の株式市場全体には殆ど効果を及ぼしていないこと、またSWFのような大規模な投資を除けば米国向け証券投資が趨勢的に減少を続けていることは間違いないであろう。

 しかし、米国経済は、少なくともマクロ指標が公表された昨年末までのケースでは引続き緩やかながらも成長を続けている。昨年夏から「近い将来リセッションが起こる」という話が繰り返されているが、これまでのところ景気は何とか持ちこたえている。流石に新年入り後の株式相場が急落を続けているため、リセッションの可能性が強まっているのは事実だが、「貯蓄率の低い米国では株が落ちれば明日から景気が悪くなる」という85年のブラックマンデー以来ウォールストリートで繰り返し囁かれてきた格言めいた筋書きが今回は現実のものになっていない。特に、新規失業保険申請件数がここまで低水準の範囲内で減少傾向を続けていることは、エコノミストの見通しがまだ簡単には実現しそうにないことを示している。米国地区連銀が1月16日に公表した地域経済報告も景気減速を示唆しているものの、後退ではないことも明らかにした。

 さて、こうなってくると今後の米国経済がどうなるかを予想することが非常に難しくなってくるが、その困難さの原因はSWF等の対米投資にあるのではないかと思われる。バーナンキFRB議長は、かつて景気対策としてヘリコプターマネーを提唱したことがある。これは、景気が悪いなら空からお金をばら撒けば誰しもそのお金を拾って使うだろう、そうすれば景気もよくなる、という発想だ。日本で言えば、公明党の肝煎りで導入された商品券の配布と同じようなもの。今回の、SWFの米銀救済投資は広義のヘリコプターマネーにあたる。

海外からの“救済投資”は日本にも入り始めた

 つまり、SWFの資金は、米国経済にしてみれば突然舞い込んできたお金であり、その資金で米銀は不良債権を償却するに十分な引当金を積んだ。一方で、米国政府は、サブプライムローンを借りた市民救済のための返済モラトリアム案のようなものを出しているが、米銀がこれに応えられるのはSWFの投資のお陰である。その結果、少なくともこれまでのところは、かなりの米市民が破産をせずに、消費を続けることが出来ている。ヘリコプターマネーは、普通の感覚ではナンセンスな発想だが、将来の株の値上がり期待があるとはいえ、SWFがこれを実質的に米国に提供してくれたのである。ドバイの港湾管理会社が米国の港湾会社に投資しようとした際や、中国の石油会社が米国の会社を買収しようとした際に反発した米国議会も今回は沈黙している。

 ところが、このごく限られた金持ちの投機のような対米投資は、経済活動の結果とは異なるものであり、他の投資家の動きを簡単に変えられるものではないため、間接的に米国経済を下支えするようになりつつあっても、未だ株式市場自体を動かすものにはなっていない。しかも、一時的な効果で終わってしまう可能性も高いため、やはり、暫くすると通常の経済理論で導けるように、リセッションがやってくるような感じがするのも事実である。

 ただ、ヘリコプターマネーの利点は、単なる時間稼ぎではあっても、その間に継続性のある市場対策や景気刺激策を打てれば、十分価値ある結果に繋がることである。しかも、SWFの資金は、九十年代までの日本の公共投資による税金の利用と異なって、国家に返済義務が発生しない。SWFは投資先の株価が上がればそのリターンを享受するだけであり、もし投資先が破綻してもそれは自分のリスクとして諦めるだけのことなのだ。米銀だけでなく、米国経済にとっても非常に有難い投資であると言えよう。

 このSWFの資金は日本にも入り始めている。しかし、米銀がたった半年で日本の十年分の不良債権処理額に匹敵する規模の引当てを積むのを支えたほどの規模には程遠い。それは、海外からの投資が日本を支配してしまうという昔ながらの国家間対立の構図で考えてしまうからだと思うが、背に腹は変えられない、と考える時期が近いのも間違いないように思う。

経済界2008年2月19日号掲載

( 2008年02月25日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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