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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第九回 大統領選挙の年は景気刺激効果が強いが・・・

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

サブプライム問題の影響で経済効果に変化?

また四年に一回の大統領選挙の年が来た。しかし、今回の選挙は、「また」という言葉を使うには、従来とは異なることが多い選挙となっているが、中でも、これから注目すべきなのは、そのスケジュールである。

 米国の大統領選挙は、夏までに予備選挙を行って各党の候補者を一人に絞り、秋からは11月の本選挙に向けた選挙運動となる二段階方式である。ところが、今回は予備選挙のスケジュールが前倒しになり、この原稿を書いている時点で既に二州で各候補者の争いの結果が出ている。また、二月五日のスーパーチューズデーには、共和党では代議員合計2345議席の半分弱である1081議席の行方が判明するほか、民主党では全4040議席の過半を占める2075議席の行方が決まる。今年、この日が「スーパー・デューパー・チューズデー(超大型の火曜日)」と呼ばれる理由である。そして、活発な予備選はその後も前倒しで続き、3月11日には両党とも大統領候補が実質的に決まる筈である。つまり、ワシントンに桜の花が咲く前に、大統領選挙は実質的に本選挙入りすることとなる。

 さて、ここで注意すべきは、大統領選挙の年は四年に一度の政治による景気刺激効果の強い年である点だ。この年は、各候補が巨額な資金を使って選挙戦を展開するが、これはちょっとした不況であれば吹っ飛ばすほどの威力を持っている。極端に言えば、四年に一度のお祭りの経済効果である。ところが、3月上旬(もしかすると2月上旬)で大勢が決まってしまうと、この経済効果の勢いが落ちる懸念がある。実際、どの候補も既に資金の半分から三分の二を使っているが、春先に候補者が絞られるため、その後の資金使用量は従来より少なくなるだろうと予想されている。経済指標のイメージで言えば、1〜3月に予備選効果で増加した資金量が、4〜6月には要因剥落で減少するというものである。サブプライム問題の実体経済への影響が予想される中で、従来とは異なる大統領選挙の経済効果の変化の可能性は金融政策当局やエコノミストにしてもマイナスの不確定要因として無視できない。

資金力や政策に加え候補の“背景”が焦点に

 こうした中で、2002年に成立したマッケイン=フェインゴールド法(新選挙資金規正法)の影響で、企業献金等への規制が強まっており、これまた経済効果への影響としてはマイナスに働く気配となっている。これまでの企業献金は、子供や親戚の名前を借りてマル優枠(三百万円まで無税の優遇措置)を不正利用していた80年代までの日本の定期預金のようなものであった。つまり、個人に一人当たりの寄付上限があるため、この規制を潜り抜けるため、ファンドレイザー(大統領候補者のために資金を集める人)が赤ん坊からお年寄りまで、極端な話、道端を歩くホームレスの名前まで借りて資金を寄付して貰うということをしていた。企業側も、支援した候補者が大統領になった時の見返りの政策を期待してお金をばら撒く。ところが、今回は、寄付の際に、個人の資金であることを宣誓すること、クレジットカード利用の場合は本人のものであること、および寄付をする権利のある者(米国市民か永住権を持つ者)かどうか等の確認が義務付けられた。

 これらは、後で検査当局がチェックするため、各陣営とも真面目に基本的には自主チェックしているが、現実には、二歳の子供が寄付していた例や、共和党員の従業員がある民主党候補に寄付するために黙って名義を使われていた例など、様々な問題が摘発されている。これは、企業だけでなく、全ての圧力団体について同様の扱いとなっている。

 ところで、1月3日のアイオワ州党員集会と同8日のニューハンプシャー州予備選挙の結果をみると、共和党は全候補者の中で最後に名乗りをあげたハッカビー候補と、集金不足で一度は選挙戦離脱を検討したマッケイン候補がそれぞれ勝利し、本命の一人と目されたロムニー候補が苦戦を強いられている。また、保守的な州だとして活動が活発ではなかったジュリアーニ候補の動きも注目されており、混戦模様だ。一方、民主党は、実質的にオバマ候補とクリントン候補の一騎打ちの様相を呈してきた。しかし、両党とも、まだまだ誰が各党の正式な大統領候補にノミネートされるかは不確実である。

 特に、今回のもう一つの特徴は、有力候補が、黒人(オバマ)、女性(クリントン)、モルモン教徒(ロムニー)、イタリア系移民(ジュリアーニ)、元牧師(ハッカビー)、過去最高齢(マッケイン)など、エドワード候補を除けば、これまでの米国の伝統を受け継ぐ血統ではない点だが、これも、最後の最後に誰を大統領にするか、という点で様々な意見が出てくる波乱要因を孕んでいる。お金の力に勝るものが影響することも十分ありうる。アイオワ集会での敗北の後に女性の弱さが出たと批判されたクリントン候補のようなパーソナリティが今後の選挙戦や資金集めにも影響するだろう。

 従って、今回の米国大統領選挙は、資金力や政策力に加えて、各人のバックグラウンドが大きく左右する可能性がかなりあり、別の意味で興味深いものがある。経済効果的にはやや期待の薄い選挙だが、政治ショーとしての面白みは前回より遥かに大きそうである。

経済界2008年2月5日号掲載

( 2008年02月12日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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