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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第八回 昨年(2007年)は金融技術に足をすくわれた

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

逆張りプレーヤー登場でサブプライムは解決する筈だが・・・

 2008年の米国経済は、誰もが注目してきたサブプライム問題の行方に大きく左右される。昨年、本誌2007年4月19日号にサブプライム問題が予想以上に大きくなることを書いた際の読者からの反響は「悲観的過ぎる」であったが、むしろその震度は日増しに拡大し、ついには予想以上に厳しいものとなった。

 これまで投資家等からの様々な訴えに対して常に法廷で正当性を争っていた米国の金融機関が、サブプライム問題については静かに且つ自主的に引当てを積んで処理している点も、彼らが、ローン自体から証券化やデリバティブを仕組んだ商品に至るまで、逃れようのない責任を自覚せざるを得ない何かがあったということを示唆している。2007年は、ドットコムバブル以来、幾度かの調整局面を乗り越えて拡大基調を続けてきた“ウォールストリート経済”が、その支えであった金融技術に足をすくわれて一つの終焉を迎えた年であったとも言えよう。

 米国が九十年代初頭に不良債権問題で苦しんだ際には、RTC(米国整理回収会社)を設立して不良債権を買い集めて終息を図った。今回も、民間大手銀行が中心になってRTC的な機関の設立構想を発表したが、まだ実現を見ていない。また、年末12月3日にはポールソン財務長官が「支払い金利が今のままなら返し続けることが出来る借り手の金利を現状に据え置く」というプランを発表したが、それ自体も市場にはさほど効果的なインパクトがあったとは言い難い。

 この間、どのメディアもサブプライム問題について言っていることは同じ。市場の先行き不透明感が強いこと、及び米国経済への悪影響の可能性が高まっていることを繰り返しているが、なぜ先行きに明るさが出てこないかについての理由には言及していない。特に、日本では解決不可能な大問題で、しかも格付けの信憑性が失われているという主張と同時に、格付けが下がっていないのにプライスだけが下がっているとの格付けに信頼を残したままの主張も出されており、一般庶民には、何がこの問題をここまで解決困難にしているのかがわかりにくいのが実情である。

 この問題が解決に向かうかどうかは、逆張りをする市場参加者が出てくるかどうかにかかっている。従って、逆張りをする市場参加者が出てこない理由を考えれば、サブプライム問題の本質が分かり難い理由がわかる。2008年は、この逆張りの動きに注意していれば先行きを読み解くことが出来る。

 サブプライム・モーゲージ(=住宅ローン)を買おうと準備していると噂されているプレーヤーで最も有名なのはウォーレン・バフェット氏である。彼は、数ヶ月前から買い集める準備を進めていると言われてきた。しかし、現実に彼のファンドが買い始めたという声は全く聞かれない。他にも同様の動きは伺われないが、その理由はデフォルト率(サブプライム・モーゲージの返済が滞る確率)が安定しないところにある。

マネーゲームを終わらせるのはマネーゲーム

 サブプライム問題に対する米国の対応は、民間版の買取機構も政府による金利据置き措置も、どこか不良債権問題から抜け出せない時期までの日本政府の動きに似ている。つまり、思い切りが悪い結果、その効果を信じる市場参加者が少ないのだ。市場原理に合わないだけでなく、従来の市場取引慣行を緊急避難措置として大きく変換するほどのものでもないため、誰もが未だ底値が見え始めたとは思わないのである。

 一方で、米国政府が金利を据え置くとしている対象者を特定することも実は容易ではなく(「これまでは返済できていて今後も金利が据置きならば返済できる」という借り手を特定するには、本人の雇用の維持など幾つかの条件を一定にする必要があるため)、サブプライム・モーゲージのデフォルト率を確定し難いという問題があるのだ。

 更に、同じサブプライムでも、カードローンの方はモーゲージほどの深刻な状況に陥っていないことも影響している。カードローン会社は、モーゲージ会社のように無理な貸し込みをしてこなかったため、二年据え置いた後に金利が上昇する、というような仕組み商品を出している例が少ない。しかし、モーゲージがデフォルトする場合には、当然、同じ借り手のカードローンもデフォルトするだろう。つまり、モーゲージの問題がカードローンに飛び火して、これが米国の消費に影響を与えるという悪いシナリオである。ただ、この際の金融市場や実体経済への影響度は、モーゲージと同じくデリバティブを介して様々な商品になっているため予測し難い。カードローンの証券化商品は個人用に小口化されていることが少なくないため、普通の消費者、つまりサブプライムの借り手にも購入されている可能性があり、これが一段と影響度を大きくしかねない。

 米国では、モーゲージを「金利がマイナスの預金」だと表現することが比較的最近まであった。不動産という資産を所有している人が、その資産を活用したものだという発想である。しかし、この発想で無理して不動産を取得させた結果が現在である。実体経済とマネーゲームの境界を無くして問題を無限大にまで大きくするような影響を出してしまった。

 しかし、マネーゲームを終わらせるものはマネーゲームである。逆張りのプレーヤーが出てきたとき、サブプライム市場では新しいマネーゲームが始まり、相場の一方的な下げに終止符が打たれるであろう。

経済界2008年1月8日号掲載分を一部修正

( 2008年02月02日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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