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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第六回 サブプライム問題が世界経済に影響を与える理由

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

なぜ米国の“国内問題”が全世界に波及したのか

 米国のサブプライム問題の影響で、ドイツではザクセン州立銀行がバーデン・ヴェルデンベルグ州立銀行に買収されることとなったほか、英国ではノーザンロック銀行が英政府の預金全額保証を受けることとなった。他にもウォールストリートで破綻懸念を噂される欧州の銀行がある。また、アジアでも中国建設銀行が10億ドルを超える損失計上を発表したほか、他の銀行や大手投資家も損失を被っていると指摘する話題が出始めた。こうした状況下、ポールセン米財務長官は、ダーリング英財務大臣と共同で、サブプライム問題に端を発した金融市場の混乱を収束させるために各国の協調が必要だとの声明を発表した。

 過去十年程度のグローバルな金融危機の連鎖の過程は、危機の発端となる市場に直接投資している大手金融機関の損失や株式相場急落などによる市場全般への信頼度の低下など、問題の所在が明確な中で、短時間のうちに資金がクロスボーダーで安全資産に移動するというものであった。これに対して、サブプライム問題は、米国の住宅ローン市場で起こったドメスティックな問題であるにも拘らず、じわじわと海外金融市場への影響度を強めて、米欧日の中央銀行が協調した市場対応を行ってから一ヶ月弱経っても沈静化する気配を見せず、ついに米英財務省のトップが共同声明を発表するに至るような事態となったのである。特に、英国における預金保険上限ではない全額を保護する対応などをみると、欧州の問題の大きさが懸念される。

 サブプライム問題には、その残高急拡大過程で、取引手法自体に存在するリスク管理等の問題とは別に、そのリスクが透明性のないままに世界に拡散していたという問題が発生した。そして、後者の背景には世界的な金余り現象とヘッジファンドの存在という二つの要因がある。

 欧米主要国が発表している対内外証券投資表や入手可能なヘッジファンドのデータなどをもとに、グローバルなマネーフローを試算してみると、この3年間に米国債や証券化商品を含む米国の全証券への投資額(ネットアウト後)は概ね0.9兆ドル程度から1.2兆ドル程度に増加している。地域別の特徴では、欧州が英国を中心として対米証券投資額の約半分を占めているほか、中国、香港を中心とするアジア(除く日本)が三割程度となっている。なお、日本は、三年前には一国で四分の一強あったが直近では5%程度に減少している。

 冒頭の欧州の銀行の経営問題は、このグローバル・マネーフローの変化の背景に、大手銀行や機関投資家だけでなく、比較的リスク管理能力が弱いとされる中堅銀行までもがリスキーな商品への投資ウェイトを高めていた事実を示している。

欧州を中心とした投資拡大と問題発生の背景

 この欧州の中堅銀行までがサブプライム関連商品への投資を増やした一因には、9・11テロ以降、中東のオイルマネーが米国から欧州へ資金シフトした結果として、その資金を吸収した欧州の銀行やファンドが欧州域外への投資を増やさざるを得ない理由があった。グローバルなポートフォリオ分散の観点からも、また資金需要の高まりで高収益が期待できるとの観点からも、米国のサブプライム関連が有力な投資対象の一つだったのである。対米投資全体の投資収益を増やすために、もともと投資ウェイトの高いファニーメイやフレディマックなどの政府系ローン発行機関が発行する優良物ではなく、利回りの良いサブプライムのウェイトを引き上げたのだ。欧州でサブプライム関連商品を販売している大手銀行の担当者によれば、「欧州の銀行等は、景気先行き懸念も出ていた中で、株式投資への集中度を高めるよりもリスクが小さいと判断した」ということらしいが、残念ながら、このリスク感覚が中身の不透明部分の爆発によって損失を被る結果に繋がった。彼らの投資スタンスは、相場を見ながら瞬時に資金を動かすというよりも、中長期の保有を前提としているため、問題が発生した際の動きが大手銀行やヘッジファンドに比べて遅くなる。

 一方、このような欧州の機関投資家等からの投資が増えたヘッジファンドもサブプライムへの投資を増やしていた。ヘッジファンドと言えば、高いリスク管理能力で高いリターンを求めて短期で資金を動かしているとの印象が強いが、サブプライムを証券化した商品は一旦問題が発生すると流動性が枯渇して売却が困難となる。このためロス・コントロールをしながら売却してファンドを清算する先が増えたが、これは投売りとは言ってもそれなりの時間がかかる。

 この二つの要因により、サブプライム問題がゆっくりと、しかし欧州を中心とした世界規模で広がっているのだ。

 ところが、世界の金融当局は、自国および世界の金融市場の混乱度合いの変化を明確には予想できていない。例えば、サブプライム問題が米国内でどんなに深刻な社会問題になろうとも、資金の出し手が損失に耐えられるならばロシア危機やアジア通貨危機のような状況は起こらない筈だ。大手銀行や大手ファンドが資金繰りに窮していないのもシステミック・リスクに繋がっていない理由かも知れない。また、影響が波及する動きがスローで不確実性が強い結果、各国が協調するためのリスク認識を合わせ難いのも事実であろう。しかし、この新タイプのリスクに対して、予防的な意味も含めて、協調した対応が必要なのは間違いない。

経済界2007年10月16日号 掲載分

( 2007年10月26日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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