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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第五回 サブプライムの次は医療・保険問題

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

健康保険への未加入率15.8%とバカ高い医療費

8月28日に発表されたセンサス(政府の人口統計調査部門)では、2006年には健康保険への未加入者が47百万人を越え、未加入率も15.8%と前年より0.5%ポイント上昇したことがわかった。うちヒスパニックと黒人が約半数を占める。サブプライム問題が本格的に表面化して米国経済の先行き悪化を予想する人の割合が七割を超えた米国で、今、最も国民の関心が高まっているのが健康を維持するための医療コストの高さと、それをカバーする健康保険への加入問題である。

米国では、診察と簡単な治療で二万円を超えるケースや初診料だけで五万円を越えるケースがよくある。また、医者の知名度や技術力への評価によって、これより遥かに多い金額がかかる場合がある一方、逆にもっと少ない額で済む場合もある。重い病気で入院した場合に数百万円の請求を受ける事例も決して少なくない。しかも、癌を治す治療に対しては更に高額の費用がかかる。近年、日本からも治療を受けるために渡米する事例が増えているが、ある病院の癌治療では五千万円のコスト負担を事前に承諾しなければならないというケースも存在している。要するに、米国は医療先進国である一方、医療コストがバカ高い国なのである。

米国では三億人を超える人口のうち、企業に勤める人の多くは企業が加盟する医療保険に入っているが、この割合は米国民全体の六割弱となっている。また、高齢者向けのメディケアおよび貧困者向けのメディケイドという二つの公的医療保険が存在し、この三つのどれかに加盟している人口が二億人を越える。残りの一億人弱が、個人で保険会社と契約しているか、どの保険にも加入していない人である。冒頭の15.8%とはどの健康保険にも加盟していない人の割合だが、大学や民間調査機関の統計では未加入者が11百万人とか39百万人などというデータもある。この間、センサスが示す47百万人のうち75%は健康保険に加盟することが出来る人達だ、とする分析もあるため、健康保険未加入者の人数の信憑性や、その規模ほどに社会問題として大きいのかとの疑問は常に残るものの、米国で健康保険に加入していない人が多いのは事実である。

個人で健康保険に加入しない人が多い背景には次のような事情がある。8月22日、メガライフ、ミッドウェストナショナル、チェサピークライフの三つの保険販売会社を傘下に持つヘルスマーケット保険がマサチューセッツ州検事総長によって訴えられた。同社は全米44州で65万人の加盟者を持つが、現在までに36州で訴訟を起こされている。その理由は、販売時の説明と異なって、医者にかかった時や、薬を処方された時などの基本的な医療コストさえもカバーしないため、となっている。

プラン次第では非常に儲かる医療保険ビジネス

米国では、他にも似たような状況にある保険会社が存在するが、これが意味するものは、個人で保険に加入しても必要な医療コストをカバーしないとの見方が貧困層を中心に定着していること。つまり、彼らが個人で加入する保険はベーシックなタイプであるが、それでは日本と異なって、基本的に一定の範囲内にある医療費の七割を公的保険で支払ってその残りを民間保険でカバーするような仕組みとなっていない米国では不十分なのである。従って、契約する保険のランクを引け上げる必要があるが、このための保険料負担はかなり大きくなる。一方、福祉先進国である米国では、万一の場合には救急外来に駆け込めば、どんな貧困者でも治療を受けることが可能である。このため、結果的には保険に加入せず病気が重くなってから救急外来に駆け込む方が得だとの判断が成り立つ。

因みに、保険業は保険加入者の医療支払をカバーする割合が減れば減るほど儲かる仕組みであり、米国ではプランの作り方一つで非常に儲かるビジネスだとされている。ヘルスマーケット保険の場合、医療保険利用者のために支払った金額が年間保険料収入の47%と、大手保険会社平均の75%を大幅に下回り、特に儲かっていることがわかる。三つの子会社は昨年プライベート・エクイティ・ファンドに買収されたが、これにより保険の世界にもファンド資本主義が入り込み、一段と利潤追求の姿勢が強まるのだろう。実際、一連の訴訟に対して同社は、保険加入により良好な治療を受けて病気や怪我を克服した事例を集めて公表するとともに、新規の保険加入者には同社から電話をして内容の承諾を受ける作業を始めた。これは、証拠主義の経営で後々の訴訟回避に役立つ。一方、保険のプランは、普段は病気と無縁な人にとって内容が難解なため、特に高等教育を受けていない貧困層にとって電話での説明に承諾することはリスクが高く、今後、問題が混迷する可能性さえ出てきたのである。

こうした状況下、健康保険問題は大統領選挙の目玉となりつつある。共和党候補では、マサチューセッツ州に皆保険を導入したロムニー前知事が全米にも皆保険を導入することを提案したほか、ジュリアーニ前NY州知事は保険加入促進のための税控除を提案している。民主党は、オバマ上院議員を始めとした多くが皆保険の導入を政策提案として掲げている。

ただ、保険料負担の問題は、仮に政府が税金で賄う場合であっても、全国民を対象とすると非常に重くなる。このため、どれほど効果的な制度が創り出されるのか注目されるところだが、学者等の専門家の殆どは懐疑的である

経済界2007年10月2日号 掲載分

( 2007年10月04日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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