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酒井吉廣の″米国・これが真実!″

第一回 ネオコンの経済政策

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

米国の財政赤字の行方について見ておこう。米国の大統領予算管理室は、2006会計年度の財政赤字を3900億ドルと2005年度(4270億ドル)を下回る見通しであると発表している。“予想は楽観的”という基本的なバイアスがかかっていると見るのが妥当ではあろうが、2005年度が前年度比横這い圏内にとどまったことを考慮すると、これは、将来を楽観させる雰囲気を感じさせる。今回のような財政収支に変化の兆しが見られ始めた背景には、特別加速度償却制度等の効果や景気回復に伴う法人税収の増加、利子所得・キャピタルゲイン所得など給与所得以外の個人税収の増加(個人所得税の前年度比増加分の七割弱)がある。勿論、これらは一時的なものとの評価が一般的ではあるものの、財政環境が僅かながらも変化したことに間違いはない。

ブッシュ政権は、レーガン大統領以来の「小さな政府」を政策の基本としつつ、減税の一方で、医療制度や社会保障制度等の改革を推し進めているが、その過程で、クリントン大統領が達成した財政黒字を、9・11以降のテロリストとの戦争の要因があるとはいえ、既往最高水準の赤字に転落させてしまった。このため、一時的かも知れないものの、財政赤字削減に向けた光明が差し掛けていることは、二期目が始まって半年もしないうちに批判の嵐が吹き荒れたブッシュ大統領にとっては最大の朗報と言える。

米国の政治が、共和党と民主党に分かれて、保守とリベラルの対立の構図のもとに行われていることは、衆知のところであるが、経済政策面でも、これが「小さな政府」と「大きな政府」という大枠の下で長年競われてきた経緯がある。また、今回のブッシュ政権での財政収支改善は、共和党の伝統(小さな政府)だけでなく、民主党が受け継いできた発想も取り入れた政策(温かみのある保守主義<同大統領の選挙公約>)の結果でもあり、観念的に大きな枠組みで捕らえると、実はクリントン政権時に類似した面もあるとも考えられる。共和党バリバリの現政権の根底にあるものは、意外と民主党的なものでもあったのだ。

ブッシュ政権の下でテロとの戦争が繰り広げられるのを目の当たりにしている我々にとって、「ネオコン」という言葉には、政治思想、とりわけ強引な民主主義の移植というイメージがあるが、実は、この言葉はネオリベラルに対立する表現でもあり、米国内の社会経済政策全般を分析する際の言葉でも使うことが可能である。

米国では、ニューディール政策以降、民主党の下で積極財政を基本とするケインズ主義的な政策が取られていたが、一時は共和党のニクソン大統領までが「私はニューディーラーである」と公言するほど、リベラリズムが浸透していた。ここでのリベラリズムとは、高度な専門知識を有する優秀な官僚への信頼を前提として、社会・経済に対する政府の積極介入を支持する思想である。しかし、長期にわたるリベラリズムは、財政収支の継続的な悪化に伴って「行過ぎた政府の介入を招いた」と米国民世論に批判され変化する。これが、社会的福利厚生の改善を目的とした政府の介入を認めつつも、それによる民業圧迫のような悪影響を否定し、政府自体も効率的な組織になるべきだと考える、「ネオリベラル」である。このネオリベラルの説明文で、文章の前半と後半を入れ替えて、政府の介入を「制限的には」認めると修正すれば、今のブッシュ政権の政策の説明となる。ネオコンが多い同政権の政策は、実は、根底の部分ではネオリベラルを信奉するニューデモクラット達の考え方と表面的にはさほど違わないことが窺われる。実際、現在ブッシュ大統領が年金やメディケア問題に腐心しているのは、政府による国民生活支援の在り様の工夫を考えているからである。

因みに、両者の類似性は二つの理由による。第一は、八十年代のレーガン政権と九十年代のクリントン政権の経済政策を経た結果、財政収支を改善しつつ国民の福利厚生を向上する複合的な政策案が作れるようになったことである。第二は、政策如何によっては財政収支を改善させられることがわかった上下両院の議員が、自分が選挙で勝利することや、成功する政策に携わって院内での影響力を拡大すること等を目的として、ともすれば所属政党に囚われない政策本位の言動をするようになったことによる。このように両者の経済政策が本質的には似通ったものになってきていることは、過去二回の大統領選挙において僅差の違いしかなくなった理由の一つでもある。

ところが、共和党と民主党の経済政策は、直接的な目的を見る限り大きく異なっている。例えば、景気回復を減税でやるか、積極財政でやるか、というのは、全く反対の方向である。しかし、この違いを冷静にみると、景気回復のために最初に活動して貰うべき対象を企業や富裕層とするか、中間・貧困層とするかとの違いを除けば、その後の景気回復のパスは似ている。財政政策もこれと同様だ。なぜなら、実額としての税収が増えない限り、財政赤字は消えないからである。

ブッシュ政権では、既に、ハバード、マンキューという二人の保守的な発想の下での経済学者が大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を辞任している。しかし、二人が努力した結果の減税政策は、ここへ来て、イラク戦争の後始末の混乱によって苦境に立たされつつあるブッシュ大統領を助ける福音となった。大統領予算管理室は、2008年には財政赤字が1619ドルまで削減すると予想しており、一昨年の予算教書における「五年間で赤字を半減させる」との公約が十分視野に入ったことを示した。同政権の経済政策の本質的な考え方が、クリントン政権のそれと類似しているという観点からであれば、この楽観的な見通しも受け入れ易くなる。

( 2006年02月21日 / 酒井吉廣 )

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酒井吉廣 / YOSHIHIRO SAKAI
一橋総合研究所 正会員
日本銀行にて、営業局(現金融市場局)、考査局副調査役、信用機構室調査役(マクロ・マネタリーポリシー、ミクロ・プルーデンスポリシー、およびペイメント・システムの中央銀行の三機能に従事)など十五年勤務。その後、アメリカ公共政策研究所(American Enterprise Institute)に主任研究員として三年勤務。現在は、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Study)客員研究員、および関西学院大学非常勤講師。米国犯罪学会員、米国企業再生委員会会員、国際公共経済学会会員、米国リスクマネジメント協会会員。APECや日米財界人会議など欧米での講演、TV・ラジオ出演、FTやInternational Economyなどの英字新聞・雑誌への寄稿多数。「ハンドブック・CMBS(商業用不動産ローン担保証券)」(エール大学ファボッチ教授著)の翻訳を金融財政事情研究会より、「逆プラザ合意」をオーエス出版より出版。
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