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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第13回 米連邦準備理事会の出口戦略 ―注目される政策金利引き上げの道筋

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

世界の市場関係者は今、まもなく量的緩和政策を終了する米連邦準備理事会(FRB)の次の一手、すなわち政策金利引き上げのタイミングを、固唾をのんで見守っている。FRBは現在、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を「0.0から0.25パーセント」とゼロに近い金利(以下、ニアゼロ金利)で維持し、量的緩和第3弾(QE3)を10月に終了した後、政策金利を正常化すると宣言している。このFRBの超金融緩和策からの撤退戦略、いわゆる出口戦略は世界の市場や経済動向に多大な影響を及ぼす。日本銀行が異次元の金融緩和を続ける日本にとっても重大関心事である。

FRB議長の主要発言とFOMC声明文を観察する

先ず、この問題に関するジャネット・イエレンFRB議長の最近における主な発言と直近のFRB声明文を観察する。7月15日の米上院銀行委員会での同議長の証言と、8月22日に米ワイオミング州ジャクソンホールで主要国の中央銀行総裁が出席して開かれた経済シンポジウム年次総会での基調演説、そして9月17日付の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文である。

雇用市場に的を絞る議会証言:7月15日付フィナンシャル・タイムズは、イエレン議長が議会証言で米経済は健全だが、先行きには「かなりの不確定要因」があり、今年の雇用市場は際立った改善を記録したが、経済成長のペースを「注意深く見守る必要がある」と述べたと伝える。さらに議長は、雇用状況について労働参加率が人口高齢化の要因から考えられるよりも弱い状態にあると述べ、個人的意見として、労働市場における隠れたスラック(たるみ)、すなわち潜在的失業者などの存在が一因だと思う、と語ったと伝える。

利上げのタイミングについては、労働市場の改善がFRBの予想を超えたスピードで進み、FRBの最大雇用と物価安定の促進という二重の目標に収斂していく場合には、政策金利の引き上げも予想よりも早期に、かつその速度も早まり、経済の実績が失望を呼べば、金利動向も予想よりも緩和的になる可能性が大だと述べた。

こう報じた記事は、イエレン議長の警告は注意深く均衡を保っているが、今年の雇用拡大が月間23万人という早いスピードで進めば、FRBは2015年の下半期と予想される利上げを前倒しせざるを得なくなるのを明確にしたと解説する。これは同議長の6月の記者会見の内容を修正する注目すべき発言だと述べ、6月時点では、経済が予想よりも力強ければ、と景気回復に重点を置いていたが、今回は雇用に的を絞っているとし、雇用市場の力強さがFRB内の政策論議に影響を与え始めたようだと伝える。

早期利上げを示唆する基調演説:他方、8月22日の経済シンポジウムでは議長は、米経済は世界的金融危機後の低迷から著しく回復し、雇用者数も金融危機前のピークを超えたことなどを挙げ、労働市場は予想より早く改善しているとの判断を示す。そして、利上げ時期とペースについて、雇用と物価動向を見極めながら慎重に進める姿勢を明らかにする。

こうした議長の発言について8月22日付ニューヨーク・タイムズは、イエレン議長は、米経済は回復しているが、利上げの開始については時間をかけて検討する姿勢を示し、労働市場の健全性についてのさらなる裏付けを待つと表明、またインフレを含め一つの要因で回復を判断しないとの見方を強調したと伝える。さらに議長は、不確定要因があるためFRBとしては経済的裏付けが明らかになるに伴い、その姿勢を調整すると語ったと述べ、利上げは来年夏頃というのが投資家の一般的な見方だが、今回の演説でアナリストの一部は予想より早い利上げの可能性が出てきたと見ていると報じる。

8月23日付ウォール・ストリート・ジャーナルも、イエレン議長の発言の力点が微妙に変わったと指摘し、議長は労働市場がFRBの予測を超えて改善しており、これが継続すれば政策金利は予想より早期にかつ急ピッチで上昇する可能性があると述べたと伝える。特に、議長が4月にニューヨークで行った講演と比較し、前者では雇用の不足が超低金利継続の要因だと力説したが、今回はFRBの雇用とインフレ目標に実態が「想定以上のペースで近づいた」場合は、予想より早く利上げに踏み切る可能性に言及したと指摘、それはイエレン議長が労働市場のスラックが賃金の伸び悩みが示すほど存在しない可能性があり、労働市場がFRBのシナリオ通りの展開をみせていないことを認めたものと受け取れると述べ、FRBが予想より早く次の政策行動に出る可能性があると指摘する。

以上のようにイエレン議長の利上げに対する構えは、7月の議会証言での、やや中立的な姿勢から、労働市場の改善を背景に慎重姿勢を維持しながらも早期利上げへ傾斜していく様子が見て取れる。

出口戦略の一端を明かす声明文:こうした状況のなか、FRBは9月17日に終了した米公開市場委員会(FOMC)の声明文で、利上げは経済の現状と先行きを踏まえて判断するとし、ニアゼロ金利を「相当な期間」続けるなど、超金融緩和政策からの出口戦略の一端を改めて明確にした。

この声明文について9月18日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「【FRBウォッチ】慎重ながらも出口戦略まとめる」と題する日本版記事で、FRBは未活用の労働力がかなり存在するとして事実上のゼロ金利政策を今後も続ける方針を表明し、適切な時期に利上げする手順の詳細を新たに発表、この「出口戦略」には、経済状況が金融引き締めに耐えられると判断した時点で、FRBが短期金利を操作しやすくする政策手段が盛り込まれたと伝える(注1)。

さらに、FRBは現在、保有証券で償還を迎えた分を再投資して資産規模を維持しているが、利上げ後に再投資をやめて資産を減らし始める場合でも「そのタイミングは経済見通しがどこまで改善するかによる」などと注意深く取り組む姿勢を示し、量的緩和で購入した住宅ローン担保証券(MBS)も基本的には正常化の過程では売却しない方針も打ち出したと伝える(注2)。

記事はまた、金利見通しや米経済の長期的な見通しも若干修正したと伝える(注3)。

9月18日付フィナンシャル・タイムズは「忍耐と戦うイエレン議長(Yellen fights a war against impatience)」と題する報道記事で、声明文の含意は、労働市場には潜在失業者など職を求めるものが多く未だ改善の余地があり、利上げを急ぐつもりは全くないということだ、と解説する。ただし、金利の先行き見通しを6月時点よりもかなり上方修正したと指摘し、2015年の金利見通しを1.125%から1.25〜1.5%へ引き上げたのは「相当な期間」利上げしないとの方針と矛盾すると批判する。そして、イエレン議長はこの矛盾を、「相当な期間」の意味を希薄化することで解決しようとしていると指摘、「相当な期間」を半年間と理解する市場に対し、議長は記者会見で、この言葉を機械的に解釈すべきではなく、市場には不確定要因があり、また声明文は期限について確約するものではないことを理解すべきだと述べたと報じる。さらに、市場関係者は、議長は「相当な期間」を全く無意味な言葉にしてしまい、今や我々はこの言葉を無視できるようになり、FRBは次のFOMCで、この表現を市場に影響を与えることなく削除できるようになったとし、同時に利上げの幅の見通しも過小評価するように持って行ったのだ、と語っていると伝える。

綱渡りをする議長:9月17日付ニューヨーク・タイムズ記事「利上げは急がずと発信するFRB(Fed Signals No Hurry to Raise Interest Rates)」も、FRBは予想どおり10月に債権買い取りを終わらせるがニアゼロ金利は「相当の期間」続けるとして、早期の利上げ要求を退けたと報じる。記事は、これはFRBが来年中頃まで利上げをする意思がないことを示すが、イエレン議長は、利上げは目前に迫ってはいないことと、早期に行動する可能性があることを共に強調するという綱渡りを演じ、こうした時間稼ぎによって、経済条件の改善にギリギリまで努力しようとしていると評価する。

以上のように、最近のFOMC声明文について主要メディアはいずれもFRBが利上げを急がないことを明確にしたと論評する。ただし、これはFRBが忍耐と戦い、利上げを経済が回復するまでギリギリまで待つ姿勢だとして評価する論調もある一方で、こうしたスタンスは将来の金利予想と矛盾するとの批判も見られた。同時にFRBは声明文を通じて、利上げと再投資停止とのタイミングの関係、FF金利の今後の誘導方法など出口戦略の重要問題を明らかにして、金融政策の正常化に向けてさらに前進したと言えよう。

ハト派とタカ派の論議を観察する

次に、こうしたFRBの姿勢についての主要紙の論調を、利上げに慎重なイエレン議長を支持するハト派と、早期の利上げを主張するタカ派に分けて観察する。まず、ハト派から見ていこう。

早期利上げ論は富裕層のため:8月21日付ニューヨーク・タイムズは、同紙コラムニストでプリンストン大学教授のポール・クルーグマンによる「虚言を弄するタカ派(Crying Wolf)」と題する論説記事で、FRBの内部にインフレ・リスクの高まりを主張するタカ派の声が強まり、FRBに対して早急な利上げを求めており、この議論が目下、開催中のジャクソンホール会議で支配的意見となりそうだと危機感を露わにする。

そして、フィラデルフィア連銀のチャールス・プロッサー総裁の名を挙げ、インフレ・リスクを2008年に警告し、その都度見誤ってきたが、毎年同じ警告を繰り返していると述べ、それは彼だけではなく、インフレ・リスクを警告する者に共通していると指摘する。そのうえで、大した証拠もなしに、ひとつの見方に執着する人には何か特別の動機があると疑うべきで、こうした経済の俗説が性懲りもなく続くときは通常、答えは政治にあり、とりわけ特定層の利益が背景にあると断じる。

低金利は通常、富裕層が保有する債券の長期リターンの低下を意味するが、同じ債券保有者にとって短期のキャピタル・ゲインを意味してもいると述べ、金融緩和は一般的に富裕層の資産に対して強弱入り混じった影響を与えるが、実際には保守層は常に引締めを要求してくるとし、キャピタル・ゲインに対する減税要求と同じ様に、インフレ恐怖症は保守政治と固く結びついていると指摘する。そして、何年間もインフレを警告する者は、分析に基づかず政治の視点から主張するのであり、絶対に耳を貸すべきではないと強調する。

雇用なき成長:8月1日付ニューヨーク・タイムズの社説「雇用なき成長(Growth Without Jobs)」は、第2四半期の米経済成長率が4パーセントに達したとのニュースの直後、FRBは、経済は成長しても、労働市場は脆弱なままだとして刺激策の継続を宣言し、オバマ大統領も直ちに呼応する発言を行ったと述べ、確かに7月の雇用統計は雇用伸び率の減速や横ばいの民間セクター賃金、高水準の長期失業率など、こうした慎重な見方を裏付ける内容だったと指摘する。そのうえで、課題はこうした当局の雇用市場に関する懸念を好転させることだと主張する。

成長か低迷かが五分五分の経済:さらに、社説はFRBが声明で、経済が今後成長するか低迷するかは五分五分だと見ていると指摘、経済成長には健全な不動産市場、健全な不動産市場には特に若者向けの健全な雇用市場が必要だが、7月の25才から34才の若者の失業率は平均失業率を上回り、しかも大半はその教育や経験に見合っていない低賃金もしくはパートタイムの仕事に従事しており、新規住宅販売が最近急落しているのも当然だと述べる。社説は最後にオバマ大統領に対し、連邦政府契約職員の賃金と労働条件の改善に向けた大統領令を絶えず発するべきだと提言、さもないと経済の回復を五分五分とするFRBの見方も実現が危ぶまれると警告する。

イエレン議長を後押しする経済データ:さらに、ニューヨーク・タイムズは8月23日付社説「低金利が必要な理由(Why Interest Rates Need to Stay Low)」で、経済データは、利上げは早くても来年のどこかで始めるべきだとするイエレン議長を後押ししていると述べ、FRBの予想では今年の成長率は2.3パーセント程度と低迷しており、これでは雇用の質と量を上昇させるには低すぎ、利上げを正当化できないと主張する。また、成長と雇用がインフレを引き起こすかどうかも不確かだとし、インフレを起こすには、賃金が物価を押し上げるほど増加する必要があり、現在のインフレ率と生産性の伸び率を考えると、その増加率は年率で3.5パーセントを超えなければならないが、そうした増加率はありえないと指摘、景気回復が2009年中頃から始まって以降、平均時間給は年率1.9パーセント上昇しただけだと述べる。

ただし記事は、早期利上げ論は、低金利政策が長引けば資産バブルを煽ると主張しているが、確証に欠けるインフレ論義と違って、このバブル懸念は正しいと述べ、低金利は借入金に頼る投資を招き、必然的にバブル発生の条件を整えるため、株や債券、不動産などが過大評価されているとする議論は正当だと認める。

こう論じた社説は、対策として、イエレン議長やスタンリー・フィッシャー副議長が述べているように、銀行に対する規制や監督を通じて金融機関や投資家が低金利を投機のばねとして利用しないようにすることだと主張、それにはサブプライム・ローンのような無謀な融資を止めさせ、金融機関に勝手な行動を許すような複雑な取引に潜むシステミック・リスクの兆候を監視することだと主張する。

利上げは急ぐべからず:8月26日付ワシントン・ポストも社説「利上げを待てるFRB(The Federal Reserve can wait to act on interest rates)」で、利上げは急ぐべきではないと主張する。社説は、長引くニアゼロ金利は貯蓄者を犠牲にし、資産価格をゆがめるなどの問題点があり、タカ派が主張するようにFRBは超低利政策のメリットがしぼむ前に利上げに動くべきだが、問題は、そうした時期にすでに到達しているかどうか、だとし、イエレン議長の眼を曇らせる不確定要因は、タカ派の眼も曇らせると指摘する。そして、今はインフレもインフレ期待も低い一方、高い失業率の痛みも感じられるが、利上げの時期をめぐる論議ではしばしば、そのタイミングが数か月早いか遅いかに過ぎないという事実が忘れられているとし、FRBはいつまでも先延ばしはできないとしても、検討する時間は十分あると主張する。

以上のようにハト派は、タカ派が過去の過ちから学習せず、富裕層の利益を代弁していると批判、さらには失業率や雇用、賃金、インフレ動向、経済成長に関連するデータや不動産市場の動きなどを踏まえて、早期の利上げには慎重であるべきだと主張する。さらには、利上げ時期の問題は実際には数か月間早いか遅いかの議論であり、十分時間をかけて検討すべきだとする意見もある。また、超金融緩和策によるバブル発生のリスクを指摘し、対策として、銀行に対する規制や監督を強化する、いわゆるマクロ・プルーデンス政策の推進を挙げる意見も注目される。次にタカ派の主張を見ていこう。

利上げは雇用と経済成長を促進する:8月1日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「雇用と米連邦準備理事会(Jobs and the Fed)」と題する社説で、ニアゼロ金利政策は経済成長につながらなかったとし、その早期離脱が望ましいと概略次のように論じる。

イエレン議長は、経済成長を加速するにはニアゼロ金利を今後数か月間もしくは数年間続けることが必要だと主張する。しかし、ニアゼロ金利政策は資金配分の決定をゆがめたり、過剰な銀行準備預金を生み出したりしたが、大方が期待したような融資増大に結びつかなかった。ニアゼロ金利離脱は決して時期尚早の金融引き締めを意味しない。むしろ銀行貸出を促し、貨幣の流通速度を速めるかもしれない。早期に金融正常化へ回帰することで、FRBは雇用と経済成長を促進できるかもしれないのだ。

一筋縄ではいかない利上げ:こう述べたウォール・ストリート・ジャーナルは、7月14日付記事「For Fed, Raising Rates Won't Be Easy(日本版記事:一筋縄ではいかないFRBの利上げ)」で、FRBは市場を動揺させずに利上げができたらと願っているが、これほど大量な資金を銀行システムに注入した後の利上げは容易ではないと次のように論じる。

かつてFRBは、公開市場操作を通じて銀行システムから準備預金を吸収して金利を引き上げたが、この従来の利上げ手法はもはや機能しなくなった。FRBが巨額の米国債と住宅ローン担保証券を買い入れた結果、銀行の所要額を上回る超過準預金が2兆5000億ドル以上も銀行システムに溢れ、FF金利の誘導目標を設定し、公開市場操作を通じて目標を達成するまで準備預金を調整するのが無理になったからだ。

政策金利変更の可能性:記事はこうした状況から、FRBは誘導目標とする短期金利を変更するとの観測が浮上したと次のように伝える。一つは、各銀行がFRBに預けている準備預金に付ける現在0.25%の金利がある。もう一つは、FRBが昨年から試行しているリバースレポ・ファシリティで用いる金利だ。これは現金と引き換えに債券を貸し出すオペレーションである。しかし、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によれば、いまのところ政策担当者は「FF金利が引き続き役割を果たすべきだ」と考えている。その理由は、誘導目標を変更して資金調達コストの引き上げ過程をさらに複雑にしたくないこと、FF金利が金融市場に深く浸透していることなどがあろう。また誘導目標を危機以前の特定金利とする慣例に戻るよりも、引き続き金利の範囲(rate range)とすることを望む政策担当者が多いのも議事録で明らかになった。これは準備預金残高がこれほど高水準な場合、金利を特定して目標にする難しさを示すものだ。

同紙はさらに、FOMC声明文を受けて発表した9月18日付の社説「イエレンの裁量(Yellen's Discretion)」の冒頭で、バーナンキ前FRB議長が始めた債券購入はまもなく終了し、イエレン議長は何時、どのようなペースで利上げを開始するかを決めなければならなくなると述べ、われわれの主張は、早期に正常な政策に戻って金融の不確定要因を減らすことにより、FRBは経済成長を加速できるということだと再度強調する。

インフレ対応に後れを取る懸念:9月1日付フィナンシャル・タイムズの論説記事「成長減速の可能性を無視するFRB(Fed ignores likelihood of weaker growth)」は、FRBの成長率と失業率の見通しには矛盾があり、金融政策はハト派に過ぎると批判、FRBがインフレへの対処に後れを取り、市場に混乱をもたらす可能性があるとして早期利上論を主張する。

記事は、米経済の長期の潜在成長率に限界があることが明らかになってきたと述べ、その理由として第1に、労働市場のダイナミクスと人口構成の変化を挙げ、65才を迎える人口の増加と、90年代と2000年代の出生率低下に伴う労働市場への参入者の減少によって、今後10年間の米労働者数伸び率は精々0.5%と予想する。第2に生産性の問題を挙げ、設備投資が少ないため労働者1人当たりの生産高が近年、ジリ貧状態にあり、成長に必要な資本支出の劇的な増加も新技術の開発も期待できない現状、米経済は過去50年間の平均労働者当たりの生産高伸び率1.5%を再現できれば幸いというべきだとし、労働者数の伸び率0.5%と合わせて将来の米国内総生産(GDP)の平均成長率を年率2%と予測する。

そのうえで、FRBの経済見通し、特に失業率の見通しがあり得そうもないくらいに保守的で、金融政策は不相応にハト派的だと批判する。その一例として経済見通しについては、FRBは実質成長率が現在と2016年の間に年率3%程度に回復すると予想しながら失業率は6.2%から5.3%へと0.9%しか低下しないと見ていることを挙げ、これは理解に苦しむと述べる。その理由として、2009年10月にピークを付けた失業率が経済成長率は年率で2.2%にとどまるなか、年率で0.8%低下したと指摘する。また金融政策については、2016年末までのFF金利を2.5%と長期的な金利目標の3.75%よりはるかに低い水準で想定しているのも理窟に合わないと批判する(注:ただし、注3のとおりFRBは9月17日付FOMC声明文で、2016年の実質成長率については2.6・2.9%へと下方修正し、FF金利見通しについては2.75〜3.0%へと上方修正している)。

こう論じた記事は、FRBはいずれハト派的なトーンを修正せざるを得なくなろうと述べ、市場に対し、不相応な金融緩和政策が予想を上回るインフレや予想より早期の利上げという事態を招き、市場に混乱をもたらす可能性があると警告する。

以上のようにタカ派は、ニアゼロ金利政策が経済成長につながらなかったと指摘し、こうした超低金からの早期離脱こそ経済成長と雇用の促進を促すと主張、さらに政策金利の変更の可能性も提言する。また、FRBが不相応な金融緩和政策を取り続けていると批判し、市場に混乱をもたらす可能性があるとの懸念を表明、早期利上げの必要性を訴える。

中立的視点からイエレン議長を支持する意見:以上、ハト派とタカ派の意見を見てきたが、中立的な視点からイエレン議長の姿勢を支持する論調もある。

9月18日付フィナンシャル・タイムズは「正常化への円滑な道筋を示すイエレン(Yellen charts a smooth course to normality)」と題する社説で、中央銀行の任務は最適の金利設定だけでなく、混乱の種を捲かないことだとし、その意味でイエレン議長が利上げは統計データ如何だと語ったのは正しく、試練は利上げを始める来年に訪れるだろうと指摘する。FRBは今週、金利見通しについて若干ながらタカ派スタンスを示し、来年末のFF金利見通しを1.25%程度に引き上げたとし、これは米経済が緩やかながら成長を続け、失業率も6.1%から2015年中頃までに5.5%程度に下がり、インフレも2%以下にとどまるとの見通しを想定していると見られるが、下振れリスクが大きいと警告する。

そのうえで、FRBは米経済の回復について一貫して過度に楽観的だったと懸念を示し、来年の成長率も昨年予想の3.25%から2.8%へ下方修正し、今年の見通しも下方修正することになろうと述べる。さらに、労働市場の力強さについても見方が分かれているとし、失業率の改善とともに賃金上昇によるインフレが予想より早く到来し、利上げが早まる可能性があると指摘する。そして、このように不確実な要因を考えると、データ次第では予想より早期の金融引き締めがあり得るとするFRBのスタンスは合理的で正しいと述べる。

結び

以上、主要メディアの論調をいくつか見てきた。ハト派は、雇用情勢や物価動向について慎重に配慮するイエレン議長の政策運営を評価し、また検討する時間は十分あるとして利上げは急ぐべきではないと主張する。あるいは、タカ派は富裕層の特定利益を代弁していると批判する。これに対し、タカ派はニアゼロ金利の短所を指摘し、雇用と経済成長促進のため早期の金融正常化を訴え、あるいはインフレ対応の遅れと市場に混乱を与える可能性に懸念を示してFRBの政策運営を批判する。また、FRBが超金融緩和によるバブル発生の懸念から銀行に対する規制や監督を強化すべきだとのハト派からの主張や、政策金利変更に関するタカ派からの提言なども注目すべきだろう。いずれにせよ状況は複雑で、FRBは臨機応変の対応をとると明言しており、その意味で、データ重視を強調するイエレン議長を支持する論調には、それなりの説得力がある。当面は経済データの動きを注視していくことが肝要であろう。

今回は量的緩和策終了後の金融正常化プロセスのうち、政策金利引き上げ問題に焦点を絞ったが、課題はそれにとどまらない。FRBは現在、市場の資金量を保つために満期が到来した保有証券を国債などに再投資しているが、これを何時、どのようなペース停止し、市場から混乱なしに流動性を吸収していくのか、また、FRBが保有する巨額の長期国債に発生するキャピタル・ロスや長期金利上昇の景気回復に与える負の影響という問題もある。主要メディアは今のところ、こうした問題についてあまり論じていないが、今後の重要問題として注視する必要があろう。とりわけ、多額の国債その他の債券を抱えた日銀にとって避けて通れない問題であり、FRBの対応は注目すべき先例となる。

(注1)記事によれば、声明文は利上げがこの出口戦略の第1段階にあたり、「経済状況と見通しによって正当化される」ことが大前提だと強調し、利上げ後は主に銀行がFRBに預ける超過準備預金の金利水準を動かし、政策金利であるFF金利を目標とするレンジに収めるようにするとしている。さらに、出口戦略についてイエレン議長は、オーバーナイト物FF金利は今後もFRBの政策意図を市場に伝える主要な金利だと述べ、最初の利上げを行う場合、FF金利の目標範囲を引き上げるが、(従来の公開市場操作ではなく)主に超過準備への付利によってFF金利を目標範囲へ誘導していくとし、FF金利を確実に目標範囲にとどめる一助として、リバースレポ金利を活用する意向だと伝える。

(注2)記事は、11年当時の出口戦略では利上げの前にまず再投資を停止するとしていたが、今回は利上げを先行させる一方、再投資停止に慎重になったと述べ、それは市場への潤沢な資金供給を続ける狙いの他に、金利上昇時にMBSなどを拙速に手仕舞うとFRBが実質的な売却損をかぶる恐れが強いことも背景にありそうだと報じる。また、9月17日付ブルームバーグ記事「FOMC:低金利『相当な期間』維持表明〜出口戦略で新指針」は次のように伝える。イエレン議長によると、FOMCはまず、FF金利の誘導目標を引き上げ、その後、償還を迎えた保有債券の再投資を停止し、「段階的かつ予測可能なやり方」で資産保有を縮小する。イエレン議長は4兆4200億ドルに膨らんだバランスシートの縮小を急いでいないとも述べ、「効率的かつ効果的な政策実行に沿った最低水準」に保有額を縮小するには「2010年代の終わり」までかかる可能性があると語った。

(注3)記事は、金利見通しで表示方法が少し複雑になったとし、従来は、15年末が1.25%、16年末は2.5%といったように特定の水準を示していたが、これが0.25%幅の範囲で示されるようになり、最新の見通しでは、15年末のFF金利は1.25〜1.50%、16年末は2.75〜3.0%、17年には3%を上回る水準を予想していると伝える。また、米経済の見通しを次のとおり下方修正したと報じる。経済成長率を14年は2〜2.2%、15年は2.6〜3%、16年は2.6〜2.9%、17年は2.3〜2.5%とし、16年までの見通しを6月の前回見通しから全て下方修正したと伝える。なお、17日付ブルームバーグは、FOMC参加者の長期成長率予測(中心傾向、以下同じ)を6月時点の2.1〜2.3%から今回、2〜2.3%へ変更し、失業率は15年末5.4〜5.6%、16年末5.1〜5.4.%、17年末4.9〜5.3%と予測していると報じる。

( 2014年09月24日 / 前田高昭 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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