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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第12回 消費増税とアベゲドン

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

日本の消費税が4月1日、5パーセントから8パーセントに引き上げられた。消費増税については、安倍首相が増税の決断をした昨年秋に第10回本コラムで一度取り上げた。しかし、増税実施に際して海外メディアは再びこの問題を多角的に論じているので、今回は続編としてその論調をお伝えする。前回同様、消費増税の経済に与える影響については、悲観的あるいは慎重な見方と楽観論とにかなり鮮明に色分けできるので、悲観論から順次観察する。

アベノミクスはアベゲドンへ変身するか

3月31日付米ビジネス・ウイークは、「消費増税に伴いアベノミクスはアベゲドンに変身するか(As Taxes Rise in Japan, Will Abenomics Turn Into Abegeddon?)」と題する特集記事で、就任以来、数々の問題を呼ぶ措置を導入してきた安倍首相は、その最も危うい日を明日(4月1日に)迎えると述べ、消費増税が回復途上の日本経済を危険にさらす可能性があると警告する。増税によって歳入は国内総生産(GDP)の約1パーセントに相当する4.5兆円増加し、政府は増大する公的債務を抑制する手段を獲得するが、一部のエコノミストは、経済は増税後にスタグフレーションに陥り、アベノミクスではなくアベゲドン(安倍首相とハルマゲドンを組み合わせた造語)に直面する可能性があると懸念していると報じる。

さらに、その予兆として記事は、前月比2.3パーセント 減となった2月の工業生産と、とりわけ賃金が低迷している現状を指摘する。賃金は過去15年間に15パーセント減少し、円安などで収益力を付けたトヨタですらこの春の賃上げを0.2パーセントにとどめており、インフレが現実となり家計の実質収入が減少するなかでの消費増税は、家計の富を直撃する恐れがあるとエコノミストは指摘していると伝える。また、政府発表によれば、2月の家計支出が2.5パーセント下落し、消費者がすでに増税前に支出削減に動いたことがわかり、意外感をもって受け止められたと報じる。

3月30日付フィナンシャル・タイムズ記事「桜の花と春らんまんの税金(Cherry blossoms and a spring-loaded tax)」も、消費増税はアベノミクスにとって最も重大な試練になり、両極端に分かれる潜在的な影響があると警告する。その悪い方の極端な例として、増税によってアベノミクスが破綻すると、成長に代わってインフレだけが進行するアベゲドンのシナリオが実現すると指摘、その可能性は低いとしても、過大な公的債務の存在を考えると、まさに悲劇的な大参事を引き起しかねないと懸念を表明する。

さらに記事は、インフレという新しい環境に即応するために必要な賃金の上昇が不十分で消費増税に対応できないと述べ、アベノミクスそのものへの疑問も起きていると指摘する。具体的には、デフレ期待払拭のために必要な追加緩和を日銀が本当に実施するかに懸念が生じており、その懸念による円高が日銀の仕事をより困難にし、株式市場の低迷をもたらし、そして、アベノミクスの成長戦略である第3の矢についての疑問、すなわち、こうした痛みを伴う対策が実際に法案として成立し得るかに投資家は疑いを強めていると伝える。

ただし、記事は増税の悪影響が過大評価されているかもしれないとし、自動車業界の賃上げは小幅だったが、公務員給与は大幅に上昇し、法人税引下げも展望されていると指摘する。最後に、アベゲドンの兆しが起きれば、日銀が国債の買い入れを増やすなどで対応するだろうが、日本経済の先行きは不透明で、消費者が8パーセントの消費税に慣れるまで、そうした事態が続くだろうと述べる。

歯止めのきかない消費増税

前回、反対論の急先鋒に立っていたウォール・ストリート・ジャーナルは今回も再度、4月1日付社説「Japan's VAT Ratchet(日本電子版:10%で終わりとは思うな―日本の消費税率)」で、アベノミクスに与える悪影響に懸念を表明する。

社説は冒頭で、消費税には上昇一方の歯止めがかけられていると警告する。1989年に初めて導入された消費税の税率は3パーセント、ついで97年に5パーセントに引き上げられ、いずれも税制改革の一環との触れ込みだったが、税法の簡素化も輸出や農家向けの優遇税制の撤廃もされないまま、増税の主な効果は景気後退と財政赤字の拡大に終わったと指摘する。そのうえで、今回の増税に際して政府は景気への悪影響を排除するため若干の予防措置を講じているが、財務省や政治家の多くはそれ以上の所得減税には余裕がないことを口実に抵抗していると批判、日本と日本の財政が本当に耐える余裕がないのは、低成長があと何年も続くことだと主張する。

アベノミクス全体に打撃を与える可能性

こう論じた社説は、消費増税は実際には現在の税金にもうひとつの税金を付加し、政治家が民間経済から資金を徴求する手段を増やすだけだと述べ、安倍首相は金融緩和と財政支出増で増税の経済成長に対する悪影響を相殺しようとしているが、それが実現しなければ、安部首相が目指す改革構想全体が打撃を受けるだろうと警告する。

日銀は追加金融緩和を即刻実施すべし

また、3月30日付記事で消費増税がアベノミクスにとって最も重大な試練になるとと警告したフィナンシャル・タイムズは、「日本こそ日銀が行動すべき時(Japan: time for BoJ to act)」と題する4月11日付論説記事で追加金融緩和の早期実施を強く促す。

記事は冒頭で、日本が直面する本当の問題は、消費増税よりもむしろ広範囲にわたる景気信頼感の欠如にあるとの認識を示す。次いで、最近のファーストリテイリングの株価やトピックスの急落に触れ、消費増税によって第2四半期の経済が縮小するのは避けられないとしても、労組によれば大企業で働く正規労働者の賃金も2パーセント程度上昇するなど、不確かながらデフレ脱却の兆しが見え始め、企業の設備投資や借入マインドも小幅ながら上向いていると指摘する。

そして、日銀は今週、景気はなお穏やかに回復していると判断し、追加的金融緩和を見送ったが、この景気判断が正しいとしても、インフレについては期待や信頼感が重要であり、日銀はこの機会を逃さず、量的緩和の追加を通じてデフレ脱却のために必要なことは何でもする姿勢を示し、投資家たちを安心させるべきだ、と提言する。

経済特区の導入に期待

また前回、慎重論を唱えていた英エコノミスト誌も「経済特区で勝負する日本経済(Japan’s economy、Out of the zone)」と題する4月5日付記事の冒頭で、増税の景気に対する悪影響に懸念を示す。特に、小売業の見通しが暗いとした日銀短観の内容を紹介し、第2四半期の経済成長率が年率で4.1パーセント縮小する可能性があるとのエコノミストらの見方を伝える。そのうえで、政府はこれまでのところ公約した構造改革をほとんど進めていないと批判し、このままでは金融緩和の他に成長推進策の追加に迫られるだろうと指摘する。

こう論じた記事は、安倍首相がすべての岩盤規制を変えると宣言し、6つの経済特区の導入を決めたことに期待を表明する。とりわけ特区の規模が国内総生産(GDP)の5分の2を占めること、特区の一部で雇用規制や大企業による農業参入規制を緩和しようとしていることに注目する。ただし、規制緩和を骨抜きにしようとする官僚の動きがあると懸念を示し、移民や法人税減税の問題で進展がないこと、東京都で雇用規制緩和が制限されたことなどを挙げ、特区構想をもっと大胆に進めるよう強調する。

増税は日本経済を頓挫させない

こうした経済の先行きに慎重あるいは悲観的な見方に対し、4月1日付ニューヨーク・タイムズの論説記事「アベノミクスを試す日本の消費増税(Japan's sale tax hike a test for Abenomics)」は先行きに楽観的な見解を伝える。筆者が豪州出身のコラムニストであることから豪州経済への影響に関心を示し、アナリストは、増税によって日本経済の成長は一時的に落ち込み、金融市場に波乱が起きるかもしれないが、豪州の第2の貿易相手である日本経済の回復を頓挫させないだろうと述べる。

また、シドニーの野村証券ストラテジストの意見として、増税は日本経済に短期的な変動をもたらすと予想されるが、日経平均株価の下落にみられるように消費増税にまつわる不確定要因の多くは市場価格に織り込まれており、中期的には安倍首相の成長政策が効果を上げるだろうとの前向きの見方を伝える。また他のエコノミストも、消費増税は日本経済に大量の不安定要因を注入したが、増税の背景が1997年の時ときわめて異なり影響もはるかに小さいと考えられると指摘していると報じる。

さらに記事は、日本の2月の工場生産高(factory output)が予想外に減少し、事前予想のプラス0.3パーセントからマイナス2.3パーセントへと落ち込んだが、2月の失業率は3.6パーセントと1997年来の水準に低下しており、エコノミストは日本経済の健全度を測るには、動きの激しい生産活動のデータよりも労働市場の数字の方が適切だと述べていると伝え、雇用情勢の改善に注目する。

アベノミクスは生きている。

4月16日付ウォール・ストリート・ジャーナルも、「Yes, Abenomics Is Working(日本版記事:どっこい、アベノミクスは生きている)」と題する論説記事で、消費増税によって年内は経済成長が鈍化すると予想されているが、メディアの暗い報道とは裏腹に、企業の投資意欲は動き出していると主張する。

その一例として先ず賃金動向を挙げ、デフレから脱却できていない状況で100社以上の主要企業が賃上げを発表した事実を無視してはならないとし、労働市場がひっ迫するなか、賃上げは拡大すると予想する。さらに、労働市場でのもう一つ重要な変化として、「ユニクロ」が臨時スタッフ1万6000人を正社員に転換する方針を発表したことを挙げる。このほかにも、化粧品やトイレタリー市場における価格決定力の回復の兆しに触れ、消費物価が15年ぶりに持続的な上昇傾向に転じたとし、これがコストプッシュ・インフレでないのが重要だと指摘する。

また企業の信頼感向上は、設備投資の先行指数である工作機械受注が着実に上向いていることや、企業の合併が当局の前向きな姿勢もあって勢いを増してきていることにも表れていると述べ、こうした景気回復の芽生えはおおむね経済政策に対する信頼感の向上のおかげだと指摘する。さらに日本経済復活のための課題として、幅広い改革の必要性を挙げ、経済への信頼感とインフレ期待がこうした経済改革の触媒として欠かせないとし、安倍首相にはリフレ政策を実現できる最高の力があると述べ、アベノミクスの今後に期待を表明する。

結び

以上、消費増税の日本経済に与える影響についての主要メディアの論調は、実施前後は悲観的あるいは警戒的な意見が多く、アベノミクスの破綻と世紀末的なアベゲドンの到来を危惧する意見などが見られたが、その後はやや楽観的な見通しに転じてきたと言えよう。楽観論は、1997年の前回引き上げ時との経済環境の相違や今回は政府が財政金融両面からの対策を用意したこと、さらに特区構想への期待とアベノミクスがなお健在とする見方、そして最近における一部の前向きな統計データなどを論拠としている。

このなかで、とりわけアベノミクスの今後と国家戦略特区構想に対するメディアの強い期待感が注目される。アベノミクスへの期待は、「アベノミクスは生きている」というメディアの指摘に端的に示され、国家戦略特区構想への期待は、成長政策の大きな柱になるとの見方に裏付けられている。共に、アベノミクスの第3の矢である構造改革への期待感が根底にあると言えよう。また、問題点として特に民間部門での賃金引き上げが不十分との指摘が重要であろう。消費増税が実施され、インフレ目標の実現が近づく状況では、賃金の改善は不可欠である。

メディアは、次に予定されている10パーセント への消費税引き上げ問題については、未だ明確には論じていない。だが、消費税は一度導入されると上昇一方の歯止めがかかり、引下げはないとの指摘も見られた。まさしく、次の増税をけん制する意見と言えよう。もう一段の消費増税が大きな問題であることは言うまでもないが、まずは今回の増税による景気の失速とアベノミクスの破綻を防ぐことが肝要である。そのためにはメディアが指摘するように、増税後の状況を雇用情勢や統計データなどから慎重に見守り、必要であれば、追加金融緩和を含む対策を柔軟に打ち出すべきだろう。

(2014年5月14日)

( 2014年05月21日 / 前田高昭 )

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前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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