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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第11回 緊迫する東シナ海情勢と日中、米中関係

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

沖縄県尖閣諸島の領有権をめぐり日中の対立が続くなか、中國国防省は昨年11月22日に突如、尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏(Air Defence Identification Zone. 以下、防空圏と略称)を設定すると一方的に宣言した。これにより東シナ海情勢は一挙に緊迫、日中と米中関係にも緊張が走った。主要英文メディアも一斉に懸念を表明、その意図や解決策について論じた。年末には安倍首相の靖国神社参拝が加わり、メディアの関連報道と論調は年明け後も活発に続いている。なかには、日中間の戦争を真剣に危惧する意見も見られた。以下に、そうした論調の概略を、まず防空圏設定問題に関するものから取り上げ、次いで年明け後の論調を紹介する。

防空圏設定は瀬戸際政策:防空圏は、領空侵犯後では対応が遅れるリスクがあるため防衛上の観点から領空の外側に設ける空域をいう。すでに日米韓など20数か国が設定しているが、11月25日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Beijing's Brinksmanship(日本電子版:中国の防空設定は無謀な瀬戸際政策)」と題する社説で、今回の措置が単に防空圏を通り抜ける場合にも指示に従うよう要求し、従わない場合には緊急の武力措置を取ると宣言している点が通常と異なると指摘、これは日本との緊張を高める瀬戸際政策であり、領有権問題で日本と話し合う可能性が遠のいたばかりか、あからさまな侵略行為に近付いたと非難する。

第一次世界大戦前のドイツを思わせる中国の台頭:さらに12月17日付同紙は社説「Asia's Reaction to Chinese Bullying(日本電子版:中国は威嚇行為の危険性を自覚すべき―近隣国いじめは戦略上の過ち)」で、日本政府の新国家安全保障戦略や中国防空圏内での日韓合同演習の実施、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)が首脳会議において航行の自由の重要性を確認する共同声明を発した動きなどを紹介、世界が第一次世界大戦前のドイツから学んだように強大な国家の出現は常に危険をはらむが、中国の新指導部はこの歴史を知らないとみえ、攻撃的行為が周辺諸国を反中国で結束させる自覚に欠けていると述べ、中国はこのことを早く悟るべきだと警告する。

太平洋に照準を当てる中國:また、12月2日付ニューヨーク・タイムズは「対日紛争への関心を新たにして権力の座についた中国指導者(Chinese Leader’s Rise Came With New Attention to Dispute With Japan)」と題する記事で、習主席は以前、東シナ海の海空に責任を持つ小組織の長を務め、この夏の政治局会議では海洋強国論を唱えたと述べ、これは中国にとって「海空戦略上の一大突破作戦」、すなわち中国が境界線と見做す日本の最南端から台湾東岸と南シナ海に至る島々の帯を突破しようとしていると報じた香港紙の記事を紹介する。そして、中国はもはや尖閣諸島や東シナ海の真ん中にあるガス油田だけでなく、太平洋に照準を当てていると指摘する。

日本の国家主義的動きに懸念:同紙また、11月25日付社説「中国の強制的プレー(China’s Coercive Play)」で、中国側の一方的決定は、領有権紛争の平和的解決を望むとする従来の方針と食い違うきわめて挑発的な行動だと非難、米政府は、航海と航空の自由という原則の順守と、同盟国の日本及び中国と領有権紛争を抱える他のアジア諸国を守るために立ち上がる必要があると主張する。その一方で、安倍首相がナショナリスト的外交政策を推進しているのは日米双方にとって危険だと批判、オバマ政権は日本の権益を守るとしても、中国との緊張を高めるような安倍政権の行動を導かないように注意すべきだと警告する。

日中に協調行動を求める提案:11月26日付ワシントン・ポストは社説「中国は紛争諸島上空の防空圏を撤回すべし(China must rescind its air zone over disputed islands)」で、今回の中国政府の措置は唐突で無謀であり、領土主権の主張以外のなにものでもないと批判、偶発事故や間違いで戦端が開かれ米国が巻き込まれる危険があると懸念を表明する。さらに、かつて中国が宣言した平和的台頭(peaceful rise)とは正反対の行動であり、これを放置すれば南シナ海など他地域にも波及しかねず、最近における米中軍事関係者の協調と対話の動きが緊急度と重要性を増していると指摘、さらに次のように論じる。

中国は領海を超える防空圏設定の必要性を本当に感じるのであれば、日本その他の近隣諸国と一緒に共同の防空圏を設置し、航空データを共有するとともに、防空圏の下にある海域と諸島で起きた紛争の解決について合意すべきだろう。楽観的な目標かもしれないが、空の支配権の一方的な奪取は、波風が立たないわけにはいかないのを中国は銘記しなければならない。

11月27日付英ガーディアンも社説「日中、衝突経路へ(Japan and China: collision course)」は、日中は今や(航空機の)衝突が避けられないとされる衝突経路に入ったとし、従来は船舶による時間単位の一触即発の危機が、航空機による秒単位になると危機感を表明する。また、習主席が経済改革の推進を打ち出し、国家的論議の場で軍の比重が低下している可能性があることから、軍に対する一種の懐柔策として宣言したかもしれないと推測する。中国は特定の国を標的としていないと主張しているが、日本は尖閣を越えて太平洋への影響力を高めようとする中國の戦略の一環と見ていると述べ、唯一合理的な解決策として、台湾が昨年に日本政府と協定を結び、領有権問題を回避しながら漁場を双方の利益になるよう分割した例を挙げる。そのうえで社説は、日中は2008年に東シナ海の共同開発に合意したが、その後の対話は途絶え、両国の間にはホットラインさえ設けられておらず、日中の国民は今こそ、ナショナリスト的言動を止めて実利的な対話を進めるべきだ、と強調する。

さらに、12月26日付フィナンシャル・タイムズも社説「西太平洋でのシャドーボクシング(Shadow boxing in the western Pacific)」で、次のような解決策を提案する。第1に、日本が尖閣諸島の領有権紛争を棚上げするとした70年代の合意の存在を認め、中国は尖閣問題を国際司法裁判所に持ち込むことを提案し、判決に従うと約束する。ただし、これは実現が難しいと思われるので、第2に、両国が少なくとも首脳間ホットラインを設置するとともに、無条件で首脳会談の開催に合意すること。これについては(首脳会談を拒否している)中国の習主席に責任がある。安倍首相との会談に同意できないというなら、軍事衝突という想像を絶する手段のほかに解決策はなくなるのだ。

欧州連合と英国は毅然と対処せよ:また12月6日付同紙は、フィリップ・スティーブンス副編集長の論説記事「中国とこう付き合ってはならない苦い教訓(A painful lesson in how not to deal with China)」を掲載し、対中貿易の拡大を通じて国内経済の浮揚を狙うキャメロン英首相は東シナ海に高まる緊張について何も発言しないと批判、あわせ欧州としての対応について次のように論じる。

100人余りの財界人が同行した英代表団の訪中は、中国政府が防空圏設定を発表し、東シナ海での緊張が危機的に高まった時期と偶然一致した。しかし、英国は国連安全保障理事会のメンバーであるにも拘らず、何も発言しようとしない。キャメロン首相は訪中団のセールス活動を弱めないと固く決意しているようだ。英政府は人権問題を持ち出すことにも躊躇した。厄介な問題は米国に任せ、中国に経済的利益を求めて接近するのは、欧州の中で英国に限らないが、キャメロン氏の場合、中國に跪く言語道断な態度が際立っている。だが、こうした交渉態度からは何も得られないだろう。ある欧州高官が語ったように、中国には弱者に褒賞を与える習慣はないのだ。

以上のように述べた記事は、欧州は世界で最も豊かで強力な地域のひとつであり、現状維持をかく乱する強国の台頭について苦い体験も持ち合わせているとし、中国には今後、日米と対立する道と、その利益を守る最善策として共同安全保障に合意する道が残されていると指摘、こうした選択肢の問題について欧州は中國に対し積極的に提言すべきだと主張する。

前途に乱気流の米中関係:日中間に緊張が高まるなか、米中関係も荒れ模様と論じたのが、12月17日付ウォール・ストリート・ジャーナルの記事「Turbulence Ahead for U.S., China Ties(日本電子版:米中関係、前途に乱気流)」である。冒頭で、小平の「能力を隠して時を待て("bide our time; hide our capabilities.")」という戒めを紹介、今の政府はこの氏の忠告を忘れ去ろうとしているとし、外交政策アナリストは自信を深める中國に根本的転機が訪れたと見ていると伝え、世界の舞台で自制していた中國が行動を起こすと時が来た、と考えてきたようだと述べる。

さらに記事は、世界で最も重要な二国間関係とされる米中関係はその土台が揺らぎ始め、ショックに対して一層ぜい弱になっていると懸念を示すが、最近のカーネギー財団などの調査によれば、米中どちらの国も敵とみなす人はほとんどいないとし、調査に関わった財団上級アソシエートの、不信感が敵意に変わるのはまだ大分先だろう、とのコメントを伝える。ただし、米中関係を悪化させる最も重要な触媒として、中国と米国の同盟諸国との間の領有権紛争と中国沿岸での米軍の活動があるとし、前途に乱気流の存在をうかがわせる、と警告する。

結びその1:以上、中国による防空圏の設定に関する主要英文メデイアの論調をいくつか見てきた。いずれも今回の措置を厳しく批判する一方、建設的な解決策を提示し、具体例として、日台間の漁業協定や東シナ海におけるかつての日中共同開発の動き、首脳会談の早期開催などを改めて挙げる。中国に対する叩頭の姿勢では何も解決しないとの指摘や、第1次大戦後のドイツ台頭を挙げて中国に自制を求める提言も注目される。

今回の防空圏設定が、瀬戸際政策の性格を持つことは否定できない。中国の当面の狙いが、日本に尖閣諸島をめぐる領有権紛争の存在を認めさせることにあり、その先には習主席の言う、偉大な中華民族の復興という夢の実現があることも間違いないだろう。東シナ海と南シナ海を内海とし、太平洋地域を米国と二分する戦略である。しかし、過去においてそうだったように、世界との平和的関係なくして中国経済の発展成長は期待できず、経済発展のない政権や体制には未来がなく、メディアが指摘するように中国指導者は即刻、政策転換を図るのが最も国益に沿う道だろう。日本も中国の挑発には絶対に乗らず、同時に徒に刺激することも控えるべきだろう。

冒頭で述べたように、昨年末の安倍首相による靖国参拝もあり、その直後から新年にかけて以降、日中関係の今後についての論調が多数みられた。次に、そのいくつかを紹介する。

靖国参拝は挑発的で日本の戦略的負担に:12月27日付ワシントン・ポストは社説「安倍首相の靖国参拝は挑発的行動(Japanese prime minister’s visit to war memorial was provocative act)」で、安倍首相の修正主義的歴史観や平和憲法の改正と防衛費増額などの目標に言及し、そうした考え方の安倍氏による靖国参拝は地域の緊張を不必要に悪化させ、同首相の国際的立場と日本の安保を一段と弱める可能性のある挑発的行動だったと批判する。また安倍首相は、その軍事改革と憲法改正案に懐疑的な国民を説得するために、靖国参拝を行い近隣諸国との緊張を高めたとの見方を紹介、そうした考えは安倍政権を地域で孤立させ、米国との協調を困難にするリスクがあると警告する。

さらに12月26日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、社説「Shinzo Abe's Yasukuni Offense(日本電子版:安倍首相の靖国参拝は日本の戦略的負担に)」で、靖国参拝は中国にとっては、日本の軍国主義復活という幻想を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物になり、韓国では、政府が厳しい外交上の反応を示し、自己主張を強める中國に対処するうえで不可欠な富裕な米国の同盟諸国による協力体制に深刻な打撃を与えるだろう、と懸念を表明する。また、日本の政府高官の一部が戦争犯罪の真実に反する発言を繰り返しているのは問題だと指摘、それによって平和で自由主義的な地域秩序を推進しようとする志を同じくする諸国の力が損なわれ、日本にとって戦略上の負担になると警告する。

中韓指導者は安倍首相と対決すべし:こうした見方に対し、ニューヨーク・タイムズの「日本の危険なナショナリズム(Risky Nationalism in Japan)」と題する12月26日付社説は、安倍氏の靖国参拝の背景として、日本が実効支配する島嶼をめぐる中国の好戦的な動きが日本国民に中国による軍事的脅威の存在を確信させたこと、従軍慰安婦問題に対する日本の煮え切らない姿勢に対する韓国の継続的な烈しい批判と朴槿惠大統領の安倍氏との対話拒否が、日本国民の間に韓国に対する不信感を引き起こし、世論調査によれば、市民の半数近くが韓国を軍事的脅威として受け止めるにいたったこと、を挙げ、こうした日本の有権者の見方が、安倍氏に中韓両政府の反応を考慮せずに行動する自由を与えたと分析する。

さらに社説は、靖国参拝には3大新聞が社説で反対を表明し、天皇も同様のお立場だと述べ、安倍氏が最終目標とする平和憲法の改正には、政治的権限はないものの、天皇もこれに賛同されていない(disapproves)と伝える。したがって、中韓両国の指導者は、こうした日本の友人の存在を踏まえ、安倍氏と会談し、対決と交渉を通じて問題の解決を図るべきだと呼びかけ、安倍氏との会談を拒否すれば、安倍氏に望むままの行動を許すことになると指摘する。米政府に対しても、日本の軍事的冒険は米国の支援の下でのみ可能であり、安倍氏の政治目標が地域の利益にならないことを明確に伝えるべきだと主張する。

覇権主義的な考えを捨てよ:さらに、1月2日付英ガーディアンは社説「中国と日本は五十歩百歩(China and Japan: the pot and the kettle)」の冒頭で、日中は20世紀を東アジアでの覇権をめぐる争いで幕開けし、ともに西欧とロシアを恐れて「富国強兵」("rich country, strong army")に走り、日本は太平洋戦争、中国は内戦によって本土を荒廃させ、犠牲になった若者の霊が、日本では靖国神社、中国では中國人民抗日戦争記念館に祭られている、と述べる。

そのうえで、日本は加害者であり、その残虐行為に責任があるが、中国も中核領土が安泰であるにも拘らず、中華帝国が主権を主張してきた土地の領有権を求めてやまないと批判する。そして、安倍首相の靖国参拝に対する中国の怒りは、過去の歴史に照らしてある程度の正当性が認められるが、中国も極端とも言うべき容赦のない態度を示していると述べ、中国は挑発という言葉を使うが、尖閣諸島周辺における中国自身の集中的な軍事的活動には知らぬふりをしていると指摘する。

社説はさらに、今後の両国関係を次のように悲観的に展望する。中国は、日本の防衛力増強計画や軍事力行使の制限撤廃の動きに怒りを示すが、最近における自らの新空母の海上試運転については知らぬ顔をしている。日中両国の不安定な関係は同じ歴史的背景に起因しているが、両国共に、とりわけ中国側がその事実を理解しようとせず、また、東アジアとその領海をどの国が支配すべきか、という専制主義者の考えを捨て去ることが問題解決に必要だが、こうした解決策を認めようとしない。

中国の大いなる野心に注意せよ:こうした中国の姿勢について、1月10日付ロサンゼルス・タイムズは「なぜ中国は突然攻撃的姿勢に転じたか(Why the suddenly aggressive behavior by China)」と題する論説記事で、中国が経済大国になれたのは、国際的な経済秩序の利益を最大限享受したことによるにもかかわらず、なぜ今、攻撃的行動を開始したのかと疑問を提起し、次ように論じる。筆者は米共和党のシンクタンク、アメリカンエンタープライズ公共政策研究所(AEI)マリリン・ウェア安全保障研究センターのディレクター兼専任研究員、ゲイリー・シュミットである。

第1の要因として、中国専門家は軍が動いた、と答えるだろう。しかし、そうした見方を裏付ける証拠はなく、党が軍を支配下に置くという一党独裁のルールにも合致しない。このルールは党の元老といえども否定できず、習国家主席も、これに疑問を起こさせるような言動は一切していない。第2は、米国の弱体化と結びつける見解である。オバマ政権が2009年の世界的不況に際し、中国政府に協力を求めたことを中国は米国の衰退の兆しと受け止めたという見方だ。当時、米高官がG2という関係が可能だと語り、オバマ大統領が、米中関係が21世紀を形作り、したがって世界で最も重要な二国間関係になると述べたことで、米国が早々と衰退の坂を転げ落ち、中国が世界トップの座に上り詰めるのも予想より早く実現する、と中国の人たちは確信したようなのだ。

こう述べた記事はさらに、中国指導者の中國を地域において圧倒的な存在にしたいとの野心も見て取れるとし、こうした中国にとって地域への侵入者である米国は最大の障害物であり、個人と同様、国のレベルでも第1次世界大戦前夜の英独関係のように、邪魔者には経済や通商で多大な関係にあっても嫉妬心と嫌悪感を抱くと指摘する。そして、小平の、能力を隠して時を待て、という箴言はしょせん、力が付いたら行使せよ、ということを意味し、今の中国がその段階に達したかという疑問はあるが、問題はその大いなる野心であり、それを抑えるのは難しく、今後、中国政府への対処は困難を増すばかりだろう、と予測する。

サラエボの教訓を生かせ:上記記事が言及した第1次世界大戦前夜の英独関係について、1月6日付フィナンシャル・タイムズは論説記事「ミュンヘンよりもサラエボに思いをいたすべき時(Time to think more about Sarajevo, less about Munich)で次のように論じる。筆者は同紙コラムニストのギデオン・ラッチマンである。

「サラエボ」と「ミュンヘン」は、第1次と第2次世界大戦の勃発前に起こった外交危機を指し、「サラエボ」は戦争に引き込まれることへの警告、「ミュンヘン」は攻撃的姿勢に対する強硬な対応への支持を意味する。ミュンヘン危機では、英仏が独のヒトラーと対決しないという間違いを犯し、第2次世界大戦につながったとの見方が一般的だ。他方、1914年夏にサラエボで起こったオーストリア大公暗殺では、欧州は無思慮に戦争に突入したと見られている。

現在の世界では、再発のリスクは「ミュンヘン」よりも「サラエボ」の脅威の方がきわめて大きいと言える。1914年に台頭するドイツが近隣諸国と対立したように、今は台頭する中国がとりわけ日本と紛争を起こしている。このため、当時の覇権国だった英国のように、米国が日本との同盟関係によってアジアの紛争に引きずり込まれる危険が顕在化している。ミュンヘン的思考は根強く定着しているため、これを変えるには本格的な思考の転換が必要だろう。東アジアで緊張が高まり、中東で紛争が広がるなか、今年行われる多数の第1次世界大戦記念式典が何がしか役立つのを期待しよう。

日中対立の根底に国家主義:さらに1月21日付ウォール・ストリート・ジャーナル記事「The Dangerous China Japan Face-Off(日本版記事:「危険な日中の対立―アジアの大国の予測不可能な競争」)」も、日中の対立を第1次世界大戦前の英独関係に対比し、その根底に国家主義があると次のように論じる。

日本と中国は現在、国力の強盛期(periods of strength)にあって世界経済の牽引役を担っている。両国が同時に強国であるのは新しい現象であり、今後何10年間にもわたって予測不可能な形で展開する可能性が高い。両国とも指導者は就任したばかりだ。習近平国家主席は、中国の現在の優位性を生かし戦時中の屈辱を晴らす使命感に燃え、安倍首相は再起する中国を見て経済停滞からの脱却にまい進している。共に国内で力を持ち、大胆な経済改革を進めている。両国は経済では相互補完的だが、政治で引き離されている。両者を経済改革に駆り立てているのは、ナショナリズムだ。

日本に国家主義的動きの自制を求める声:こうした状況のなか、1月19日付英ガーディアンは社説「日中の緊張、危険な国家主義の太鼓(Sino-Japanese tensions: the dangerous drum of nationalism)」で、安倍首相の言動を国家主義的として次のように自制を求める。

安倍首相は首脳会談の開催を中韓両国に呼びかけたが、両政府とも安倍氏がクリスマスの翌日(Boxing Day)に靖国神社を参拝したことで会談を拒否した。実際、靖国参拝は世界的な反応を引き起こした。中国は、安倍氏が日本を世界平和の脅威になりかねない方向に導いたと非難し、韓国は怒り心頭に発し、シンガポールは遺憾の意を、そして最大の同盟国、米国すら失望を表明した。

安倍氏の批判派は、靖国参拝の理由について次のように解説する。彼の言動は国家主義者の行動パターンに従っている。安倍氏は、日本は戦争について十分謝罪していると考え、従軍慰安婦については前回の政権時代に強制されていないと述べている。それ故、昨年12月には新国防戦略を承認し、様々な先端的兵器の購入を計画、さらに新年の演説で、平和憲法の主要条文を改正すべく国民的議論を呼びかけた。

これに対し、安倍氏支持派は、彼の政策は日本が直面する安全保障上の脅威という文脈で理解しなければならないと語り、中国の国防予算は日本をはるかに凌駕し、指導部は国民の目を国内問題からそらせるために反日感情を利用していると指摘、さらに核武装する北朝鮮の存在や米国の国力減退なども挙げて擁護する。

こう述べた社説は最後に、安倍首相に対し次のように国家主義的言動の自制を求める。自国の安全保障上の脅威に直面する日本に、それに対処する権利がないと主張する者は少ないだろう。それにしても、緊張が高まる東シナ海には、偶発事故を起こせる役者がいくらでもいる。こうした状況の下で国家主義を高めれば、どちらの国も後戻りがいっそう困難になるばかりだ。

アルマゲドン(最終戦争)を避けよ:日中間の緊張は戦争へエスカレートしかねないとして最も深い懸念を示したのが、1月23日付フィナンシャル・タイムズの社説「戦争へ漂流する東シナ海情勢に終止符を(End drift to war in the East China Sea)」である。社説は先ず、中国による防空圏の設定、安倍首相の靖国参拝と世界経済フォ−ラム(ダボス会議)での日中対立を第一次世界大戦前の英独関係にたとえた発言を挙げ、日中は東シナ海で高まる紛争の可能性を弱める努力を怠っていると批判する。

さらに安倍首相について、靖国参拝は避けるべきだったうえに、最近における集団的自衛権をめぐる憲法改正の動きはタイミングが悪いと指摘、中国の軍事力増大に懸念を表明しているが、日本の自衛隊は中國に対しなお技術的優位を維持していると述べる。中国についても防空圏設定は危険な挑発行為だと批判する。そのうえで、日中は挑発行為を止め、アルマゲドン(最終戦争)を避ける道を探るべきだと訴え、ホットラインの設置や首脳会談の実現を提唱、米国に対しても日中首脳会談の実現を外交課題の中心に据え、中国には日本に対する侵略行為があれば、日本を支援すると明確に警告すべきだと主張する。

日本の集団的自衛権行使を擁護する声:上記の日本の防衛をめぐる問題について、2月5日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「普通の国、日本の防衛(Defense of a Normal Japan)」と題する社説で、次のように安倍首相が推進する集団的防衛権の行使容認論を擁護する。

社説はまず、日米安保条約によって米軍は日本が攻撃を受けた際には防衛義務を負っているが、日本は憲法9条の解釈によって米国が(例えば、北朝鮮からミサイル)攻撃を受けても支援できないという不合理があると指摘する。次いで集団的自衛権は、独裁政治の脅威に直面する民主主義を団結して防衛するうえでも重要だと主張し、アジアの安保体制は米国を軸として張り巡らされてきた2国間の協定や有志国連合、つまりパックス・アメリカーナの体制で維持されてきたが、中国の台頭もあり、欧州の北大西洋条約機構のような集団安保体制の構築が必要になっていると訴える。

そのうえで、日本が普通の国として他国と同盟関係を構築できるようになれば、こうしたアジアの安保体制に役立つと期待を示し、アジアには欧州の独仏協定のような経済や安全保障に関する組織を拡大させる軸となるものがなく、それに最も近い東南アジア諸国連合(ASEAN)も実効性に欠けていると指摘、日本を核とする民主国家の団結が独裁主義の中国の侵攻を防ぐより効果的な対抗勢力になると論じる。

そして、安倍首相が日本を地域において指導力を発揮できる普通の国にしようとしているのは賞賛に値すると評価し、最後に日本は過去70年間、平和に貢献し、過去の行動を償ってきたと述べ、近隣の民主主義の安全を確保するため責任を果たす時が来た、と主張する。

結びその2:以上見てきたように、主要メディアは日中紛争が戦争にエスカレートする可能性を想像以上に深く懸念し、対話による事態の打開を強く求めている。確かに当面はそれ以外の方策は見当たらない。第1次世界大戦前の英独関係を例に挙げる見方が再浮上したが、これもそうした危惧を反映したものと言えよう。だたし、当時の英国は世界の覇権国であり、当時の英独を現在に置き換えれば、米中になり日中ではないだろう。むしろ、米国は世界の超大国として日中紛争の仲介者の役割を果たせるはずである。主要メディアの一部が米国に外交力発揮を期待するのも、そのためと言えよう。ただし、中國が自己主張を強める背景として指摘されたように、このところ米国の影響力低下への懸念が深まっている。日本による集団的自衛権の行使を米メデイアが歓迎するのも、そうした文脈でとらえる必要があろう。

また、過去2回の世界大戦を振り返り、ミュンヘンよりもサラエボの教訓を生かすよう呼びかける提案も注目される。確かに、東シナ海では一発の銃弾を放った無名の兵士が戦端を開く役者になりかねない状況にあり、サラエボ的な戦いへの漂流は絶対に避けなければならないのは、言うまでもない。同時に、野心に富む今の中國には叩頭の姿勢が通じないのも事実であろう。ミュンヘン的宥和政策では何も得られないばかりか、その再現に結びつきかねない。今は、サラエボとミュンヘンの双方の教訓を生かすべき時ではないか。

さらに安倍首相の靖国参拝以後、日本に対し国家主義的言動の自制を求める声が高まってきたことも見逃せない。中国が反安倍の一大キャンペーンをグローバルに展開している影響もあると思われるが、まさに、日本にとって戦略的負担になっていると言えよう。こうした熾烈な外交情報戦という冷戦状態の中では、既述のとおり、相手の挑発的行為には絶対に乗らないよう留意するとともに、挑発的と誤解されるような言動を避け、国際世論を引き付けておくのが最善策と言えよう(2014年2月17日)。

( 2014年03月01日 / 前田高昭 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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