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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第7回 ロンドン銀行間取引金利の不正操作問題―その概要と展望

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

国際基準金利のロンドン銀行間取引金利(London Inter-Bank Offered Rate.LIBOR)、いわゆるライボーの不正操作スキャンダルで金融市場が揺れている。事件の発端となった英バークレイズ銀行(以下、バークレイズ)では経営トップが辞任した。この問題は英米の当局が6月27日、バークレイズに2億9000万ポンド(4億5000万ドル。約360億円)の課徴金を科したと発表したことで市場を揺るがす政治的、経済的事件に発展した。ライボーにとどまらず、ユーロ圏や東京、シンガポール、韓国などでの銀行間取引金利についても当局が目下、調査を進めている。

ライボーは、70年代に銀行団が組成する国際融資とともに普及し、80年代には金利スワップ取引の変動金利として定着した。現在、ライボーに連動する金融取引は300兆ドル余りと見積もられているため、銀行や保険業界などが巨額の損害賠償リスクにさらされている。今後、こうした損害賠償をめぐる訴訟が頻発し、金融システムを揺るがす事態になる可能性がある。不正操作の防止やライボーに代わる具体案については様々な議論があるが、確固たる解決策は固まっていない。今後、日本の金融機関や機関投資家、個人などにも影響が及んでくることも十分考えられる。本稿では米欧主要紙の論調や報道を中心に、事件の概要と問題点、今後の対応を見ていく。

ライボーの現状―設定の仕組み

先ず、この問題を包括的に論じた7月7日付エコノミスト誌の記事「ライボー・スキャンダル、芯が腐った金融(The LIBOR scandal The rotten heart of finance)」を中心に事件の概略を観察する。記事は、ライボーは指定された複数の銀行団から提示されたレートを英国銀行協会(British Bankers' Association)が集計し、10種類の通貨と15種類の満期ごとに毎日午前11時に定めていると紹介する。このライボーが世界中の個人や企業による借入や貯蓄、住宅ローン、金利デリバティブなど巨額の金融商品の基準金利(benchmark)になっており、なかでも3か月物の米ドル金利が最も重要な指標だとして次のように述べる。このドル金利は現在18行からなる銀行団から、資金が必要な時に支払わなければならないと思う見込値の報告を受けて毎日設定される。上位と下位の4つの見込値は切り捨てられ、残りの平均がライボーになる。銀行団の提示金利はすべて、毎日設定されたライボーとともに公表される。

さらに記事は次のように述べる。理論的には、ライボーはきわめて正直な数値であるはずだが、それにもかかわらず不正操作の問題が浮上した。カナダ、米国、日本、欧州連合(EU)やスイスなどの監督当局が現在、ライボーやそれと同様の基準金利が20行以上の銀行により不正操作されたとの疑いで調査を進めている。この結果、銀行業界に数百億ドルの損害が発生するかもしれない。ある多国籍銀行の幹部は、たばこ業界に起きたことが銀行業界に起きていると語る。1998年、米たばこ業界は健康被害を巡る訴訟と和解の過程で2000億ドル以上の損害を受けた。シティー(City.ロンドンの金融街)における多くの慣行と同様に、ライボーも時代錯誤の遺物となっていた。多数の銀行が狭い場所にひしめき、お互いのことをよく知り、契約条項よりも信頼が重要であった時代の産物なのだ。

不正操作発生の原因

これについて記事は以下のように解説する。問題が起きた理由の第1は、銀行が実際に貸し借りする金利でなく、見込値を基礎としていたからだ。第2に、銀行はライボーの水準により損益が左右されるため、虚偽申告の誘惑にしばしば抗し難く、また、金融危機に際して高利の支払いを余儀なくされる弱体な銀行は、その事実を隠ぺいしたい誘惑に駆られることがある。07年のサブプライムローン危機により資金市場の取引が縮小し始め、ライボー見込値の設定が難しくなっていったが、バークレイズの場合、こうした状況のなかで見込値が常にライバル行よりも高くなり、低く操作せざるを得なくなった。さらに問題を複雑にしたのは、バークレイズが金利操作について米ニューヨーク連銀や英中銀が黙認あるいは示唆したと受け止めたことがある。それを示す同社のダイアモンド元会長と英中銀のタッカー副総裁との電話内容や米連銀と英中銀のやりとりが公表されている。

さらに記事は、中銀の立場や被害者側の動きについて次のように指摘する。金融危機に際して中銀は二律背反の問題に直面する。市場には透明性が必要で、意図的な低金利の申告は認められないが、高金利下では弱体な銀行を保護するのが困難になるため、金融システムの安定確保のためには低金利が望ましい。それが中銀の立場だ。次いで、被害者側の動きとして、多彩な顔ぶれの原告が行動を起こしているとし、ライボーとリンクした貯蓄金利商品や債券の投資家、ライボーで決済されるデリバティブの購入者、ライボー設定に関与した銀行と直接取引した顧客などを挙げる。ただし、法的にも新しい問題があるため、銀行の潜在的な債務額の決定は難しい作業になると指摘、銀行に補償支払いを迫るのか、あるいは業態を慮って銀行を保護する態度を取るのか、という監督当局のさじ加減によるところが大きいとの弁護士コメントを伝える。

ライボー改革の提案

 次いで記事は解決策として、思い切った改革が必要だとして次のように二つの案を提示する。第1は、可能な場合には、実際の貸出データを基に金利を設定させることだ。ただし、取引が僅少な市場もあり、すべての基準金利を用意するには、仮定ないし予想の金利を使う必要があるかもしれない。そこで第2の思い切った改革が必要となる。銀行にはライボーを操作したい動機があるので、真実を申告するよう明確に促し、提示金利について談合する可能性を少なくする新しい仕組みが必要となる。そうした具体案として記事は、銀行団の数を大幅に増やす案があるとし、また実務上の課題として、ライボーを参照金利とする数千の契約の見直しが必要だと指摘、さらに、改革の真の障害は、好都合な現在の仕組みを変える気のない銀行にあると主張する。

6月27日付フィナンシャル・タイムズは社説「ライボーを正す(Fixing Libor)」で、ライボー設定を現実の銀行間貸出金利に基づく仕組みに変更し、見込値の提示をデータがない場合に限ることにし、さらに他のデータとのチェックや、他行の協力を得て不正操作行を特定する体制を整えるべきだと提案する。7月10日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「神秘のベールをはがされたライボー(Libor Demystified)」で、今回のスキャンダルは「貪欲な銀行家ども」をやっつけるための政治家の口実に使われたのが実態で、金融上の緊急事態に備える目的ではなかったと論じ、ライボー改革は政治的な騒ぎとは無縁に市場価格メカニズムを通して行われるべきだと主張する。さらに7月13日付ニューヨーク・タイムズは社説「当局が知っていたこと(What They Knew)」で、2007年から08年にかけての米ニューヨーク連銀と英中銀の対応を批判し、不正操作を知りながら放置したとして厳しく責任を追及している。

当局対応の現状

最近における当局の動きについては、8月9日付フィナンシャル・タイムズの報道記事「英金融サービス機構(FSA)、ライボーの解体を示唆(FSA suggests Libor should be scrapped)」が、監督機関(watchdog)のFSAがライボーとユーロ圏の欧州銀行間取引金利(Euro Interbank Offered Rate.EURIBOR)、ユーリボーの廃棄を含む抜本的見直しに着手し、不正操作に対しては刑事制裁も検討中と報じる。ユーリボーはユーロ圏の短期金融市場の指標金利で、ロンドン銀行間取引金利と同様、ユーロ圏の銀行43行が欧州銀行連盟(EBF)に申告した金利をベースに算出されている。

FSAで見直し作業を統括するマネジングディレクター、マーティン・ホイートリーによれば、見直しは主として3分野にわたると次の通り述べる。見直しは3つの重要分野に焦点を当てる。すなわち、ライボーの設定と管理に関する現在の枠組みの強化、不正操作への対応、そして株式やコモディティなどライボー以外の指標についても価格設定メカニズムの見直しの要否を見極めること、である。

さらにライボー設定について記事は、実際の取引データと想定金利を混ぜ合わせるハイブリッド案が議論されているとし、結論として金利設定がFSAの認可など公式の規制を受ける可能性が高いと報じる。また、金利提示銀行の数を増やす場合、銀行に参加を強制できるかの問題があると指摘、提示金利のとりまとめも英国銀行協会ではなく、別の独立した商業的組織の新設が考えられると述べる。FSAは9月末までに答申案をまとめたいとしている。

8月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルも論説記事「次の金融争点は新規のライボー改善案か。(Next on Financial Front: A New and Improved Libor?日本語版:今秋は新しいLIBORの話でもちきりか)」で、この秋には、ライボー問題が夏休みを終えたトレーダーや監督当局、投資家を待ち構えていると指摘、バークレイズ銀行以外にもいくつかの銀行が課徴金の支払いに迫られ、英当局はライボーの抜本的見直しに着手すると報じる。そのうえで、ライボーが指標金利として維持される可能性が高いが、算定と監督方法について重要な修正が行われるだろと述べ、最も確率の高い解決策は、今まで通り見込コストを提示する一方、それを裏付ける実際の取引をできるだけ多数提示し、見込値の算定方法を書類で実証するよう銀行に求めるハイブリッド案だと指摘する。

記事は、さらに監督の強化も十分考えられるとし、英政府はライボー設定の監督責任を英国銀行協会から金融当局に移すのは間違いないと述べる。また米商品先物取引委員会は、バークレイズ銀行には全提示金利についての記録整備と独立監査法人による年1回の監査を義務付けており、こうした条項を他の全てのライボー提示銀行に適用すれば、有益だと提言する。

また既述の通り、米ニューヨーク連銀と英中銀の対応を厳しく批判したニューヨーク・タイムズが、8月12日付記事「ライボー事件で勢いづくウォール街の監督機関(Libor Case Energizes a Wall Street Watchdog)」で、新しい米当局の動きとして米先物商品委員会(Commodity Futures Trading Commission)の動向とゲンスラー委員長の過去の働きぶりについて次のように報じる。今後、米商品先物委員会の動向に着目する必要性を説いて注目される。

ライボー事件で、かつて昼行燈のようだったウォール街の米商品先物取引委員会が活発に動き出した。2010年7月に成立した米金融規制改革法案「ウォール街改革および消費者保護に関する法律」、通称ドット・フランク(Dodd-Frank)法により、同委員会の管掌分野が飛躍的に広がり、それまでの40兆ドルの先物取引から300兆ドルに達するスワップ市場の管理を任されることになった。ゴールドマン・サックス出身でクリントン政権下の財務省で働いたゲーリー・ゲンスラー委員長にとって、この仕事は総仕上げの機会となった。

同氏は、2009年に就任するとワシントンの政官界で様々な障害にぶつかりながら、市場に良識のある規則を持ち込もうと業界の改革に積極的に取り組んできた。ドット・フランク法の成立についても精力的に貢献し、いわば生みの親の一人と言える。バークレイズ銀行のライボー不正操作問題は委員会にとって最大の案件となった。ゲンスラー委員長は鋭意調査に取り組み、不正操作の再発防止に努力し、4年間もの調査を経て同行に課徴金を科すにいたった。

また記事は、ライボーの改善策について、申告銀行の数を増やす案には、刑事や民事の訴訟を恐れる銀行が申告を止めるリスクや、銀行団に中小の銀行が含まれてくるためライボー金利が上昇、不利益をこうむったデリバティブやローン契約の当事者から多数の訴訟が提起され、金融の安定が損なわれるリスクがあること、など注目すべき問題を提起している。

ライボー、その他の市場動向

他方、当局の動きとは別にライボーそのものは、引き続き従来の方式で英国銀行協会が毎日11時に設定し、全世界の金融商品の基準金利として使われている。しかし、銀行団がその見込値を真正に申告したとしても、ほとんど想像上の金利にとどまっていると7月14日付エコノミスト誌記事「ライボーの霧(The fog of LIBOR)」は報じ、その理由を以下の通り解説する。

それは、無担保銀行間資金市場、つまり銀行が資金を融通し合うはずの市場が固く凍りついているからだ。とりわけユーロ圏では、銀行は資金をほとんど相互に貸し出していない。資金に余裕のある大半の銀行は、欧州中央銀行(ECB)に資金を預託する方法を優先し、代わってECBが資金不足の銀行に貸し出している。

つまり、銀行はお互いの業態を信用できず、余裕資金を安全なECBに預託しているのである。記事は、ECBへの預託金は無利息だが、現在8000億ユーロも積み上がっていると述べ、こうした状況のなか、銀行は特にユーロ金利の見込値を現実に支払いを迫られると思われるよりも大幅に低い水準で申告していると伝える。たとえば、スペインやイタリーの銀行は1年物の借入金利を1.1%程度の見込値で申告しているが、両国政府ですら市場での借入金利は4%から5%に上っていると報じる。

金利設定方法の再調査の動きは各国当局に広がり、東京銀行間取引金利(タイボー。Tokyo Inter-Bank Offered Rate.TIBOR)についても日本の金融庁が調査を開始していると報じられている。タイボーは指定された複数の有力銀行から報告されたレートを全国銀行協会が集計し毎営業日発表している。1995年から公表され、無担保コール市場の実勢を反映した日本円タイボーと本邦オフショア市場の実勢を反映したユーロ円タイボーの2種類があり、それぞれ1週間もの、1ヶ月〜12ヶ月物の13種類が公表されている。日本円タイボーは15金融機関、ユーロ円タイボーは14金融機関の呈示した金利から上位2行と下位2行の値を除いた単純平均により求められる。タイボーは、自らを優良銀行と想定して金利を申告するのがとされ、算出基準があいまいとの批判があり、見直しが不可欠と指摘されている。

シンガポール市場では、シンガポール通貨庁(MSA。中銀に相当)が7月初めに銀行に対してシンガポール銀行間取引金利(サイボー。SIBOR)の設定方法を再調査するよう示達したと7月25日付フィナンシャル・タイムズは伝える。サイボーは、シンガポール・ドルのライボー版で、住宅ローンやスワップ取引で利用されている。金利を提示する銀行は全部で13行だったが、最近、ローヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)が抜けたため現在は12行となった。調査の焦点は、サイボーと商業貸出の平均調達金利として銀行が用いる、もう一つの金利、スワップ出し手金利である。両方の金利ともシンガポール銀行協会が設定している。MASの責任者は、各行とも確実に市場取引の公正性を守る手続きを踏んでいることを明確にするはずだと語る。

さらに韓国でも、当局が融資金利設定の仕組みを見直すことになり、この動きをマスコミは「韓国のライボー・スキャンダル」と呼んで注目していると8月8日付フィナンシャル・タイムズが伝える。当局は、指標金利の不正操作を共謀した疑いでスタンダード・チャータード銀行の子会社を含む19の国内金融機関の検査に入ったと記事は述べ、指標とされる譲渡性の預金証書(certificates of deposit.以下、CD)金利の仕組みについて見直すことにしたと報じる。CD金利は3000億ドルに達する家計や企業の借入金に対する支払金利を計算する際に利用されているが、過去3か月間、他の金利が低下するなか、ほとんど動きがなかった。つまり、借入人は異常に高い金利を支払わされていたことになり、家計債務が可処分所得の1.5倍に達する韓国で社会的な問題となった。

ただし、多くの関係筋は、不正操作疑惑を否定し、理由として発行量が減り流動性に欠けていることを挙げる。当局は2010年以降、銀行の資金調達が短期金融商品に過度に依存するのを防止するため、CDを預貸率の計算から除外することを決定、以後大きく落ち込んでいた。ただし、専門家は当局がCD金利への影響を適切に予測していなかったとし、CD金利スキャンダルの責任の一端は、当局にあると指摘し、CD金利に代替する指標金利の開発にも後れを取ったと批判していると報じる。韓国でも、CD金利に代替する新たな指標金利の開発が喫緊の課題となっている。

銀行以外の金融機関への影響

影響は銀行以外の他業界にも及んでいる。7月31日付フィナンシャル・タイムズ記事「銀行のライボー関連損害額を注視する保険会社(Underwriters eye banks’ Libor exposure)」は、銀行の役員などの専門職賠償責任保険(professional indemnity insurance)を引き受ける保険会社が銀行に対する集団訴訟の動向に神経をとがらせていると伝える。今回の事件は多数の当事者が絡み、数兆ドルの規模の金融商品に影響を与え、保険業界への影響も2008年の世界的金融危機の時よりも大規模になる可能性があると保険ブローカーはコメントする。損害額については見方が分れ、アナリストは350億ドル、訴訟事件の原告側弁護士は1兆ドルと見積もる。また訴訟騒ぎは少なくとも向こう4年間は続くかもしれないと専門家は見ている。

まとめ

不正操作は、金利提示銀行がデリバティブ取引などで利益を上げるためライボーを高めに申告したことが発端になった。これが世界的金融危機以後は、業態の健全性をアピールするため低めに設定する操作に変わった。原因は、ライボーの設定が金利提示銀行の自主的な判断に任されていたことにある。特に、金融危機などで市場での取引が薄くなると、見込値の設定はますます実態から離れて行った。また、危機時には中銀などの当局が、政策上の観点から低金利の環境を歓迎するという事情が、事態を複雑にしたというエコノミスト誌の指摘も留意すべきだろう。こうした観点から、中銀当局の責任を追及するニューヨーク・タイムズの論調も注目される。

 さらに、ライボーが多様な金融商品の基準金利として使われているため、その不正操作に対する損害賠償訴訟が頻発し、銀行、保険会社などの金融機関に350億ドルから1兆ドルとも見積もられる多額の損害が発生するとされる。そうなれば金融システムの根本を揺るがす事態に発展する懸念がある。またライボーの新たな改善策や代替案を導入する場合、その前後にライボーの水準が変化することで金融商品の投資家に損害が発生し、それがまた訴訟を誘発させる可能性もあり、そうならないよう十分な配慮が必要となる。同時に、株式、コモディティなど他の価格指標の設定についても調査して改善、修正の要否を見極めるのも重要である。

改善策や代替案としては、実際の貸出データを基に金利を設定させる実勢金利連動案が真っ先に考えられるが、取引が僅少な市場もあり、すべての基準金利を用意するには、予想ないし仮定の金利を使う必要が出てくる。そこで実勢金利と想定金利を混ぜ合わせる、いわゆるハイブリッド案が有力になる。ただし、いずれにせよエコノミスト誌が指摘するように、銀行に真実の申告を促し、提示金利の談合可能性を少なくする新しい仕組みが必要である。そうした具体策として、金利提示銀行の数を増やす、ライボーの使用頻度を減らすなどの提案に加え、フィナンシャル・タイムズは他のデータとのチェックや、各行が協力して不正操作行を特定する体制を整えるべきだと提言する。また、そうした観点から、当局の監視と監督体制の強化も避けられず、米商品先物委員会を加えた体制整備が必要となろう。

ウォール・ストリート・ジャーナルは、今回の事件は銀行批判の政治材料に使われたと反論する。改革案が政治的配慮とは別に、市場の公正な運営という観点から検討されなければならないことは事実であり、その役割を担う金融監督当局には厳正な対応が欠かせない。また、危機時において中銀がジレンマに陥るというエコノミスト誌の指摘も当たっている。それだけに中銀には責任ある適正な舵取りが求められる。

不正操作の影響は世界の金融市場に広がり、日本やシンガポール、韓国などアジア諸国に及んでいる。保険業界にも波及し、金融システム全体への悪影響が懸念されている。機能不全に陥っている金融市場もある。一刻も早い改革案の策定が求められるなか、FSAが中心になって、具体案を9月中にまとめることになった。この案にはハイブリッドの改善策に加え、当局や第三者機関による監視、監督体制の強化、さらには、好都合な現在の仕組みを変える気がない、とされる銀行に対する何らかの業務規制も盛り込まれると見られる。FSA案が示されれば、他の市場でのモデルにもなると考えられ、その動向を注視し、然るべき時期に再度、この問題を取り上げたい。

( 2012年09月14日 / 前田高昭 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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