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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第6回 東日本大震災から1年を経た日本の政治と経済

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

東日本大震災に際して米欧主要紙は、日本の政治と経済さらには社会情勢について活発に論じた。その概略は本コラムの第3回と4回で紹介した。大震災から1年余りが経ち、主要紙は再び日本の現状について様々な角度から報道し、論評している。今回は論点を政治的状況、経済政策、それに今後のエネルギー政策を左右する原発再開問題を中心に主要紙の論調を見ていく。

日本の今後を楽観的に見る論調

先ず、日本経済の現状と先行きについて楽観的に論じた記事から紹介しよう。3月10日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「怒涛の津波から1年、希望と活力を求めて(A Year After Tsunami's Wrath, Searching for Hope and Resilience)」と題する記事で、陸前高田市の現状を報じるとともに、日本経済の過去1年間を振り返り、悲劇に直面した日本は戦後を思わせるような回復力と内なる強さを再発見したと述べ、次のように賞賛する。過去1年間の日本の辛苦を考えると、日本経済は比較的順調に推移している。昨年は0.7%のマイナス成長だったが、今年は2%と米国の見通しに匹敵する成長率が見込まれている。災害の後、日本の月間消費者態度指数(内閣府が全国の世帯を対象に毎月実施している消費者動向調査で発表)は急落したが、昨年3月11日前の水準に近づいている。日経平均株価も今年に入り反騰した。昨年の大災害を考えると、素晴らしい成果だ。

4月1日付英オブザーバー(ガーディアンの日曜版。ともに中道左派系とされる)の論説記事「今後10年で日本はどうなるか。それは再生の物語(What's the story of the next decade? The rebirth of Japan)」は、企業文化の見直しに迫られている日本は繁栄の道を模索する英国の教訓になる、との副題をつけ、震災1年後の日本の将来について次の通り楽観的に論じる。民主党が09年、経済政策を官僚、大企業などから国民への奉仕に見直すと公約して勝利した。国民は東日本大震災に際して、こうした民主党政権の下で危機は過去と決定的に異なった形で処理されると期待した。しかし新政権は、東京電力や官僚的な省庁、口を封じられたメディア、強力な経団連と結託して秘密主義を固守し、当時の菅首相は不的確で遅きに失した情報を流す国と企業の強固なネットワークに加担した。こうした旧態依然の現状に有権者は反発し、原発が安全性チェックのため操業を停止すると、原子力の必要性を認めながらも、地方のコミュニティは再開を拒んだ。市民運動が燃え上がり、効率的監視や情報の透明性、国際基準の導入など厳しい条件を課した。これは下からの突き上げによる良き日本的資本主義の動きである。

新たな状況に直面した民主党は改革政策だけが前進の道と改めて認識を深めたようだ。国会討論の場で、資金の流れを活性化しようと熱心に論議する民主党議員に筆者は驚かされた。これは英国と同様、日銀や財務省の忌み嫌う議論だ。日銀は最近、イングランド銀行の量的緩和の日本版拡大策を実施したが、高度成長期のような大胆さに欠けていた。日本の金融システムは機能不全に陥っている。国がリスクを取って銀行に融資を再開させなければならない。これも英国と全く同様だ。日本にはマクロ経済政策の見直しをすれば、すぐに急成長できる中堅ハイテク企業が無数にある。専門家は、LED照明や携帯電話支払いシステムなどの分野で、日本は他国より10年も先を行っていると指摘する。将来の富士通や東芝が多数存在するのだ。日本に必要なのは、硬直化する大企業に挑戦し、世界に打って出ようとする野心的な企業と、その実現を支援する新組織だ。起業精神と説明責任に富む新しい環境が、日本を第二の強力な成長期に駆り立てるだろう。アジアでは今後10年間、日本の再生と中国の退歩が語られるだろう。

批判的論調―復興の機会を生かせず低迷を続ける政治と経済

こうした見方とは対照的に、3月9日付の「1年後の日本(Japan a year later)」と題する英エコノミスト記事は、大きな被害を受けた陸前高田市の現状を、住民は数多くの不満を抱えて苛立っていると批判的視点で伝える。例えば、東北地方には約14.3兆円の災害救援復興資金が割り当てられたが、これまでは瓦礫の除去にのみ支出され、再建向けには一文も支出されていない。また小規模小売業を保護する古い法律のため、海水が混じり稲作が不可能となった水田の跡地に大規模スーパーを誘致できない一方、保護対象のはずの地元商店街は壊滅し、仮設住居の市民は近郊のコンビニまで買い出しに出かけざるを得ない。災害はすべてを変えたが、日本自身と麻痺した統治機構は例外で、指導者は危機がもたらした機会を生かせず、政治や官僚機構は政治家同士の瑣末な争いや派閥主義、お役所仕事などの欠点を露呈している。このため復興の力は衰え、災害前と同様の羨ましくもない状況に逆戻りする危険が起きていると警告する。

3月10日付ワシントン・ポストの論説記事「昨年の悲劇を経ても停滞から目覚めない日本(Last year’s tragedy failed to rouse Japan from its stagnation)」は、日本が大災害から1年を経ても政治や経済の低迷から抜け出せていないと次のとおり論じる。筆者は日本在住の同紙元東京特派員。福島原発の放射能汚染事故に際して「なぜ私は日本から逃げ出さないか(Why I’m not fleeing Japan)」という記事を発表している。

大震災から1年の日本はなお、もがきあがいている。東北地方を襲った苦難に人びとは勇気と禁欲的態度で対処し、「絆(bonds)」が全国的な流行語となった。しかしその精神は、原子力発電をめぐる意見の対立が起きると消え失せた。ほとんどの地方政府は、放射能に汚染されていない津波の残骸ですら風評被害を恐れて引き取りを拒んでいる。絆といっても、その程度のものなのだ。全国の原発もほとんどが停止し、当局は再開をためらっている。専門家は、原発施設近くを除き健康被害は最小限に留まるとの政府説明を是認しているというのに。政治は権力闘争に精を出し、経済の基礎を築く政策を打ち出せない。消費増税案に野党は解散が先と主張し協力せず、政権内にもタイミングが悪く連立政権が崩壊するとの反対意見がある。この間、経済問題は深刻さを増し、経済協力開発機構によれば、復興費用12兆円の支出が来年から始まると政府債務は国内総生産(GDP)の227%に達する。

以上のように述べ、次のように提言する。結局、国家が公的債務のGDP比率を抑える最善の策は、緊縮策に頼り過ぎずGDPを増やすことである。とりわけ日本は、人口統計上の問題により経済実績の向上に迫られている。官民あげて人手を大はばに増やさなければ、日本は羨むべきインフラや医療制度、ライフスタイルを維持しながら、高齢者を適切に処遇できないだろう。労働人口が減少するなか、こうした人手確保には、経済の生産性と効率性を高めるほかはない。さらに記事は、具体策のひとつとして女性の就業機会の増大を挙げる。また原発危機による電力不足が経済成長の新たな足かせになったと懸念を示すが、世界を見渡すと日本ほど同胞の福祉を心配し知恵を出す国民は少なく、国民と指導者が日本を明るい未来に向けて導くのは、時間の問題かもしれないと結ぶ。

4月18日付フィナンシャル・タイムズの論説記事「コンセンサスの国で激しい議論(A shrill debate in ‘the land of consensus’)」は、日本の政治と経済の現状を鋭く分析し批判する。先ず記事は、小泉以後の日本の政治状況を次の通り論評する。

小泉元首相が去ると郵政民営化も市場指向的考え方も消え去り、小泉改革は貧富格差を拡大させたとの批判が広まった。日本は小泉以前の状態に戻ったように思えたが、最近訪日した印象では、国民の政策論議には数多くの考え方が底流にあると感じた。考え方はばらばらで矛盾に満ちてはいるが、激しく峻烈である。最近の日本で最も人気のある政治家は、既存の大政党に属さず第三極を唱える大阪市長の橋下徹だ。日本で米国の茶会党指導者に最も近い存在で、小さな政治を擁護し、官僚と労働組合を攻撃して大衆の支持を獲得している。愛国教育を主張する彼を、危険な愛国主義者と見做す者も多く、取り巻く雰囲気をヒットラーの台頭になぞらえるものすらいる。現在の政治に幻滅した人びとは、いったんは受け入れを拒否した小泉とその後継者、安倍というカリスマ的な二人の人物の混ぜ合わせた政治家として、橋下に魅力を感じているように見える。以上のように述べた記事は、原発問題が経済の危機を増幅させ、野田政権がそうした危機感の高まりを利して消費増税を実現させようとしているなどと主張する。詳細はそれぞれの項目で後述する。

原子力発電所の再開問題について

この問題に関する報道や論調はきわめて多い。以下に主要記事を日付順に観察する。まず、3月8日付ウォール・ストリート・ジャーナルは論説記事「Choosing Fukushima's Legacy(日本語電子版:福島原発の遺産を負から正に変えるには)」で、今後の日本経済に甚大な影響を与えるエネルギー問題という視点から原発政策を論じる。日本は原子力発電を再開しない場合、総発電量の3分の1を高コストで価格変動の激しい石油や天然ガスによる火力発電に頼らざるを得ず、供給ショックにきわめてぜい弱な国になると警告、米国がスリーマイル島の原発事故で学び、世界に冠たる原発国家となったように、日本も福島原発事故の教訓を生かし米国と協力して安全な原発再開を目指すべきだと主張する。

上述した3月10日付ワシントン・ポストの論説記事「昨年の悲劇を経ても停滞から目覚めない日本(Last year’s tragedy failed to rouse Japan from its stagnation)」も原発問題に言及し、次のように日本国内の対応を批判する。全国で54基ある原発もほとんどが安全点検などで停止し、行政当局は再開をためらっている。政府は再生エネルギー向け投資計画を急ぎ検討しているが、実用までには数十年の日時を要するだろう。電力料値上げや電力供給不安が続くなか、主だった企業は海外への生産シフトを余儀なくされると警告している。放射能ヒステリー症状は国民の政府に対する信頼感の崩壊を反映しており、メディアは政府の食品や土地に対する放射性物質の監視能力に疑問を抱く国民の声を延々と伝える。嘆かわしいことだ。福島原発事故に対する政府の初期の対応は国民を欺くものだったが、信頼できる専門家は、プラント近くを除き健康への被害は最小限に留まるとの政府説明を是認しているのだ。当局への不信感が高まるなか、政治意識に目覚める国民が増えているのは長い目で見ると、建設的な意味があろう。だが、すべての原発を閉鎖管理するような無分別な考えを蔓延させる危険を増大させる。

以上のように、記事は政府の対応が国民の不信感を招き、放射能に対するヒステリー症状を引き起こしたと論断している。また、既述4月1日付英オブザーバー論説記事「今後10年で日本はどうなるか。それは再生の物語(What's the story of the next decade? The rebirth of Japan)」も、有権者が民主党政権の秘密主義に反発し、市民運動が燃え上がり、原発再開に効率的監視や情報の透明性など厳しい条件を課したとし、これは下からの突き上げによる良き日本的資本主義の発露と評したことはすでに紹介した。

4月18日付フィナンシャル・タイムズの論説記事「コンセンサスの国で激しい議論(A shrill debate in ‘the land of consensus’)」は、原発問題に関する大阪市の橋下市長の見方に言及して、次のように論じる。橋下市長は原発再開にも反対している。夏の到来を控えて原子力発電をすべて失う見通しで、エネルギー問題は大いなる不安定分野だ。原子力発電は福島原発事故前、全体の30%を占め、政府はこれを50%に高める方針だった。不安定で価格が高騰する電力は、円高や国内市場の低迷に直面する日本企業にとって大問題で製造業の海外移転が懸念され、さらに化石燃料の輸入を増やさざるを得なくなれば、経常黒字も消え去るとの不安もある。これが経済危機の懸念を増幅させている。記事は以上のように述べ、エネルギー問題が経済危機の懸念を深めていると警告する。

これに対して5月3日付ガーディアン記事『岐路に立つ日本のエネルギー政策(Japanese energy policy stands at a crossroads)」は日独英の福島原発事故への対応を比較し、ドイツの対応に活路が見出せると論じる。ドイツ政府は市民の懸念に「敏感な反応」を示し、それを独企業のチャンスに変えたと評価する一方、英国は大半の市民が再生エネルギーを選考するなか、革新的動きを封じ込め、無理な核政策を続けていると非難する。日本については、新たに実施された安全性(ストレス)テストの内容について国内で合意、承認されていないこと、地方自治体の同意が保障されなくなったことから原発再開の目途が立っていないとし、エネルギー問題の岐路に立っていると述べる。国民の節電意識やエネルギー問題への関心の高まりを評価する一方、政府は未だにポスト福島のエネルギー政策を打ち出せないと指摘する。

そして記事は、ドイツの例を推奨する。独政府は政治的混乱を引き起こすことなく、2022年までの原発全廃を決定し、これに対し二酸化酸素の排出増や電力輸入の増加、エネルギー価格の上昇などの悪影響があるとの批判的意見が出たが、すべて誤りであったと述べる。ドイツは依然として電力の純輸出国で、二酸化炭素の排出量は昨年2.4%ほど低下し、再生エネルギーの導入が2020年には35%、2030年には50%へと急増する計画で、インフラや再生エネルギー関連投資も増加する見込みだと紹介する。そして、政府の大胆な決断が独製造業と雇用改善の好機となったと述べる。ただし、それには技術の柔軟な活用やその社会的効用の柔軟な測定、さらには技術統治のプロセスの柔軟化と政策対応の正統性の確保が必要だと指摘する。

要するに、ドイツは破壊的な反対意見を回避しながら総合的かつ現実的なエネルギー制度を着実に築き、再生エネルギーに対する国内の支援を社会の長期的戦略目標に転換させたとし、政治的コンセンサスと意志があれば、国家のエネルギー制度に信じられないような急速な変化が起き得る、という教訓を示したとする。また、既存の有力電力会社にはエネルギー体制変革の恩恵を認める一方、エネルギー産業の発展を支配することを断念させたと補足する。これに対し英国は既存電力会社に有利な短期的な選択肢に的を絞り、社会や消費者への配慮は最小限に留めたとし、英政府には福島の機会を英国の利益に活用する想像力も能力もないと批判する。そして、日本はオイル・ショックを克服した実績を有するが、新たな試練に直面し、新たな対応が必要とされていると指摘する。ただし、日本には社会の理解があり、その社会の支援をポスト福島の機会として生かせるだろうと期待を表明する。

累積する公的債務と消費増税

原発の再開を主張したウォール・ストリート・ジャーナルは、4月3日付社説「Japan's Latest Austerity Trap(日本語電子版:緊縮財政の「わな」。 消費増税で日本の危機回避は本当に可能か)」で、野田政権が掲げる社会保障と税の一体改革については、消費増税は日本経済に致命的打撃を与えると次の通り厳しく批判する。

遂に日本の景気が回復に向かい始めた。だが政治家はこの15年間、景気が回復の兆しを見せると何度も増税を繰り返してきた。野田首相も、国民の過半数が世論調査で反対し、政府の税金の無駄使いに批判を強めているなか、消費税を現行の5%から10%へ引き上げようとしている。だが内閣府は最近、高齢化で社会保障費の増加が続くなか、消費税の倍増だけでは2020年のプライマリー・バランスの黒字化は困難との見方を示した。解決策の第一は、早急に年金給付額を削減することだ。だが、野田首相は無責任にも低所得者に対する新たな支援策を推奨している。もう一つは成長の促進だが、これは増税ではなく減税により可能となるのだ。しかも増税で消費意欲が低下すれば、国内市場に新たな停滞要因が加わり、日本企業は海外進出を加速させるだろう。日本企業はすでに高い法人税や規制の厳しい労働法などで中韓の企業との競争で力を失っている。以上のように述べた後、記事は、野田首相がやっていることは、日本を欧州の運命に近づけることだ、と切って捨てる。

「ものづくり」の伝統を基盤とする経済構造の転換

また、4月15日付ニューヨーク・タイムズ記事「製造業が衰退する日本、産業構造の変革に取り組む(Declining as a Manufacturer, Japan Weighs Reinvention)」は、日本経済の生産性や効率性の問題を産業構造の観点から次の通り論じる。日本経済は、製造業に依存する構造から柔軟でサービス型の経済への転換、すなわち脱工業化の必要に迫られている。原因は、製造業分野でのアジア諸国との競争激化、労働人口の高齢化、円高である。昨年の福島原発事故によるエネルギー価格の上昇と停電などの事態に対する懸念もこの流れを加速した。方向としては、米国をモデルとするポスト工業化経済やドイツ流のハイエンド製造業の追及が参考になろうが、日本が誇る「ものづくり」の職人気質の伝統にかかわる日本のアイデンティティが問われている。日本の工業化戦略に追随してきたアジア諸国も論議の帰趨に注目している。

こうした日本には二通りの針路が考えられる。一つは、製造業モデルへ固執すると、低コストのアジア諸国との競争により賃金や価格の引き下げが不可避となり、デフレを助長して日本経済を破壊するとし、東日本大震災は日本が米国のような柔軟でサービス型の経済に移行する好機と捉えるべきだとの見方である。もう一つは、日本での工場仕事の減少は省力化技術の成果であり、他のアジア諸国で安価に生産できる製品はテレビなどのコモディティ化した商品に過ぎず、産業ロボットや高級自転車ギアなど日本がはるか先を行っている高品質製品に特化した日本企業は生き残っている。したがって製造業を縮小するのは賢明ではないという見方である。後者の見方はさらに、日本は製造業を核とする輸出主導経済で貿易黒字を蓄積し、エネルギーや食糧の輸入に当てたり、財政赤字を賄ったりしてきたとし、製造業は金融その他のサービス産業の基盤になっていると主張する。

記事は以上のように述べ、結論を明確に示さない。しかし、他のアジア諸国が未だ追い付いていない先端的な技術を保有する日本は、製造業の経済に占める比率を米国のように極端に縮小させるのは得策でないと主張、同時に柔軟なサービス型経済への転換の必要性も説いている。因みに、米国の比率は9%で日本は70年代の35%から2009年には18%に低下していると記事は指摘する。 

むすび

以上のとおり主要紙は、復興資金の早期活用や既存法規制の緩和の必要性を説きながらも災害からの復興については順調に進んでいると評し、日本の将来については急成長できる中堅ハイテク企業が無数にあるとしてその潜在力を高く評価する。その一方で、災害はすべてを変えたが、日本自身と麻痺した統治機構は例外で、災害前と同様の羨ましくもない状況に逆戻りする危険があると警告、政治が停滞する間、経済問題は深刻さを増したと批判する。そうした政治の現状については、大阪の橋下市長の台頭に一つの焦点を当て、日本で米国の茶会党指導者に最も近い存在で、小さな政治を擁護し、官僚と労働組合を攻撃して大衆の支持を獲得していると分析する。愛国教育を主張する同氏を危険な愛国主義者と見做す者も多く、取り巻く雰囲気をヒットラーの台頭になぞらえる見方があると紹介する。主要紙がこうした警戒心を示している点に注目したい。同市長が率いる政党「大阪維新の会」はすでにいくつかの選挙で勝利の実績を挙げているが、主要紙はその政策綱領には立ち入っていない。ここでも細目には触れないが、首相公選制や日米豪同盟などの構想を掲げており、十分注視していく必要があろう。

経済問題については、主要紙は復興費用の支出による巨額の公的債務の増加や企業の海外生産へのシフト加速などの問題を改めて提起する。しかし、財政再建に向けた社会保障と税の一体改革について、消費増税は日本経済に致命的打撃を与えると批判し、公的債務の対GDP比率を抑える最善の策は、緊縮策に頼り過ぎずGDPを増やすこと、それには経済の生産性と効率性を高めるなど成長戦略が欠かせないと提言する。そうした日本経済の進路として主要紙は、米国をモデルとするポスト工業化経済やドイツ流のハイエンド製造業の追及を提示、同時に「ものづくり」の伝統にかかわる日本の誇るべきアイデンティティが問われていると指摘する。この指摘には、日本製造業の重要性を改めて強調した意義があり、起業精神と説明責任に富む新しい環境が日本を第二の強力な成長期に駆り立てる、という提言とともに銘記すべきだろう。

原発問題については、今後の経済運営に重大な影響を及ぼすとして原発再開を主張する論調もいくつか見られる。この関連で、ガーディアンが紹介するドイツの政策対応を大いに参考にすべきことは言を俟たない。日本がドイツのようにポスト福島の機会を生かせるかどうか、はまことに心許ない現状だが、それに向けてまい進する他はない。原発の全面廃止となれば、日本は化石燃料に依存する供給ショックにきわめてぜい弱な国になるとの指摘や企業の日本脱出を促すとの懸念は無視できない。問題の第一は、政府と電力会社に対する国民の不信感にある。この不信感は福島事故への政府や規制当局、電力会社の不手際な対応に起因している。まさに菅政権の対応に関する主要紙批判のとおりである。この不信感を払拭しない限り問題の解決はあり得ない。現状は、全体(国、消費者、企業など)の利益のため個(原発周辺の住民、コミュニティなど)に犠牲を求める構図となり、それを繋ぐ絆が崩壊し手詰まりに陥っているのだ。

第二は、当面の対応と中長期的なそれとを区別し、かつ柔軟な視点で対策を打ち出すことだ。ここでもドイツ政府の対応が大いに参考になろう。当面は化石燃料への依存を増やし、節電に励むほかはないが、化石燃料への依存が増大すれば、日本は経済コストや環境負荷に耐えなければならなくなる。また節電や停電となれば、企業も個人も大変な耐乏生活を強いられる。こうした事態を一刻も早く解決しなければならないのが政治の任務である。主要紙が指摘するように、日本は長期的視点から見て、技術を含む新たな問題で、またもや世界の最前線に立たされたのである。

以上のような主要紙の指摘や批判の背後には、大災害を契機に日本が停滞から抜け出すとの期待が込められている。大震災後も日本は停滞から目覚めないとの批判は、そうした期待の裏返しであり、原発再開論も新生日本の今後に思いをはせた主張である。主要紙の指摘や批判は、いずれも貴重な提言と受け止めなければならない。世界を見渡すと日本ほど同胞の福祉を心配し知恵を出す国民は少なく、国民と指導者が日本を明るい未来に向けて導くのは時間の問題かもしれない、と主要紙は期待する。日本は世界からまだ、こういう目で見られているのだ。

( 2012年05月18日 / 前田高昭 )

※記事の無断転用・掲載は、厳禁する
前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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