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前田高昭の【海外メディアで読む論点・原点】

第3回 東日本大震災と日本経済

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写真は、文意と関連なく、季節の風景を入れています。ロード毎に変わりますのでこちらもお楽しみ下さい。

災害への対応の評価と激励

東日本大震災から1ヵ月半が過ぎた。この間、欧米主要紙も震災について一斉に大きく報道した。直後には、日本の対応を時に過大とも思えるくらいに評価し、復興への支援に惜しみない声援を送ったが、やがて鋭い指摘や提言、さらには批判的な論調も登場してくる。以下に先ず、そうした主要紙の論調を紹介したい。

英紙フィナンシャル・タイムズは大地震と大津波が襲った直後の3月11日付社説「自然の力に耐える日本(Japan absorbs the forces of nature)」で、日本は関東、阪神両大震災を上回る今回の災害に対して、これまでのところ賞賛すべき冷静さと克己心を以って対処していると冒頭で述べ、大災害前に抱えていた難題に加え、新たな挑戦に直面したと指摘する。人的被害は昨年のハイチやパキスタンの震災よりは少ないと見受けられるが、これは過去の災害時の教訓を生かした防災体制の成果であり、その例として自衛隊の早期出動や太平洋地域の早期警報システムによる迅速な津波警報などを挙げる。さらに、原子力発電所事故への対応も施設の閉鎖や住民の避難措置など迅速に対応したと評価、他国の震災に対する過去の日本の支援に鑑み、各国が日本に支援の手を差し伸べるのは自然だとし、日本の誇る技術力を駆使した回復力が救いだと指摘した。

ウォールストリート・ジャーナルは12日付社説「不屈の日本(Sturdy Japan)」で、8.9マグニチュードの地震に対して日本ほど備えが完全な国はなかった、との副題をつけて、日本は文字通り自然の災厄に対して、人類の創意と工業化された社会を以って立ち向かえる証人になった、と論じる。そして、日本がこれまで開発してきた耐震建築や緊急地震速報システムなどを紹介し、日本は近年、経済の停滞や無気力な政治で話題になっているが、工業大国であることには変わりなく、大震災からの復興に、その自衛力の恩恵を受けることは間違いないと主張する。

同じく12日付ワシントン・ポストは社説「胸張り裂ける日本(Heartbreak in Japan)」で、最先端のライフラインも自然の猛威の前に無力であった中、初期段階の復旧に努力する日本を見ると、賞賛と胸の張り裂ける思いを禁じえないと冒頭で述べる。だが、震源地が経済中心部や人口密集地から離れていたことが不幸中の幸いだったとし、厳格な建築法や防災体制、訓練の有無が被害を小さくしたと指摘、困難な事態に冷静かつ助け合いの精神で臨む対応は、日本社会が育んだ不屈な精神と隣人愛を思い起こさせる、と評価する。同時に、今後に予想される人的、政治的、経済的な打撃への備えを怠らないよう経験の少ない現政権に対して警告を発し、世界は震災により停滞する経済が一層弱体化するのか、あるいは再生へのショック療法になるのかに注目していると指摘する。

このほか、3月11日付米タイム誌は、「日本が世界の防災大国になった理由(How Japan Became a Leader in Disaster Preparation)」で、日本は他国に先んじて防災体制を整えてきたとし、学校や職場での定期的な防災訓練の実施、地震や津波の早期警報システム、建築法改正による建築物の耐震性強化などを紹介する。英ガーディアンは12日付の論説記事「日本に必要な指導力、菅首相は発揮できるか。(Japan needs leadership, but can Naoto Kan deliver?)」で今回の大地震は、支持率の低下に悩む菅首相と政治的、経済的に行き詰まっている日本に対して物理的な一大ショックを与え、日本にとって一つの転機になるかもしれないと説く。

復興に向けた指摘と提言

しばらくすると、以上のような同情と激励に溢れた論調に代わって、やや鋭い提言や指摘などが登場してくる。特に、原発事故と絡む自国民の安全確保や、日本と世界経済に与える災害の影響に冷静な眼を向け始める。3月14日付フィナンシャル・タイムズは論説記事「日本経済の復興への最終的道筋(How Japan’s economy will eventually rebound)」で、次のように日本経済の早期復興の重要性を訴える。日本経済の早期回復を願うのは、世界の国民も同様だ。いくつかの国の政府と国民はすでに大規模な支援に乗り出し、設備や資金、人員を送り込んでいる。これは同情だけではなく、支援側の利益という要因もある。日本は世界の経済大国で、世界貿易や国際的な資金の流れで重要な役割を果たし、国際社会での政治的発言力も強い。世界は、この重要な日本という国の経済回復の利益を共有している、と論じる。

ワシントン・ポストは3月16日付記事「日本は危機により生まれ変わるか(Will the crisis create a new Japan?)」は、日本政府はいくつかの政策カードを持っていると次のように指摘する。第1に、公的債務の95%はヘッジファンドではなく日本国民が保有している。政府が復興資金調達のために国債を発行しても投売りを招く懸念はなく、資金繰りに余裕がある。第2に、住宅やインフラ再建のため移民労働者の受け入れに迫られ、労働市場の開放が期待される。第3に、再建の動きが東北地方に新たな経済力を生み出し、東京一極集中の是正と経済活動の全国的展開に役立つ。第4に、現政権がこうした動きを推進すれば、民主党が自民党に代わる政党として認知され、文字通り2大政党制が成立する可能性がある。そして、日本は伝統を重んじる近代的な真の民主国家として再生できる、と期待を表明している。

高まる原発事故への懸念

原発事故に関連する報道も数多く登場する。3月14日付ニューヨーク・タイムズは「日本の多重災害(Japan’s Multiple Calamities)」と題する社説で、福島第一原発の事故に関連して米国の原発政策について触れ、米国で稼働中の原子炉は30基程度が福島原発と同型、かつ断層上や沿岸部にあり、米国も安全基準を見直す必要があると指摘する。しかし、クリーンエネルギーとしての原子力発電を支持する立場から、日本での事故について完全な資料を得た後でも、原発が価値ある方法(a valuable tool)であり得るだろうと主張、米国民は原発の安全性を知る必要がある、と力説する。

3月20日付フィナンシャル・タイムズは社説「核の確執(Nuclear frictions)」で、福島原発の安全報告書改ざん問題や07年7月に新潟県中越沖地震に見舞われた柏崎刈羽原子力発電所への対策など東京電力の原発にまつわる過去の問題や東電と当局の対応振りに触れ、当局と東電との間に癒着関係があったと指摘、その是正を要求して次のように論じる。解決の鍵は、核の規制当局と規制を受ける側の間の馴れ合いを断ち切ることにある。たとえば、両者間のハイレベルの人事交流はもっと厳しく規制すべきだ。政府はまた、知れば震え上がるので真実を打ち明けられない子供のように国民を扱うのを止めなければならない。政府が業界の首根っこを抑えて規制基準を引き上げられなければ、日本における原子力発電の将来は、暗澹たるものになろう。

こうした東電と当局の対応に対する批判は、日増しに増加する。4月19日付ワシントン・ポスト記事「初期の混乱で深刻化した核の危機(Early disorder added to Japan’s nuclear crisis)」は、東電は重要な初期対応にあたり危機の重大性を過小評価したと批判、同社の図体の大きい、トップダウンの硬直的な序列組織、社内手続きへの拘りなどのため、迅速で革新的な行動力に欠ける面があったとし、民間企業が冷却用水を放出する大型ポンプ車の貸与を呼びかけたが、即時に対応せず機会を逸したとの逸話を報じる。

4月19日付フィナンシャル・タイムズ記事「体制が生んだ東電と当局との癒着(System bred Tepco’s cosy links to watchdogs)」は、東電が悪いが、それを許すシステムが問題だとの専門家の意見を紹介し、規制当局である経済産業省傘下の原子力安全・保安院(Nuclear and Industrial Safety Agency; NISA)を政府から切り離して独立の組織にするとともに、原子力安全委員会(Nuclear Safety Commission。NSC)を前面に出すべきだと主張している、と伝える。また、政治家も技術的に複雑な問題を孕む原子力政策に関与できず、また関与したがらないとの専門家コメントも紹介、政治の介入を排除しつつ原子力擁護の大義の下で規制当局と業界が結託しているとし、民主党政権が打ち出した天下り禁止令は改革にむけた小さな一歩に過ぎないと主張する。

こうした議論は、東電解体論や、さらには原子力兵器の開発疑惑にまで発展する。4月19日付ウォールストリート・ジャーナル日本語版「東電は必要なら破綻も−電力会社は銀行ではない」は、東電のあり方について、さらに突っ込んだ議論を展開する。政府は福島第1とその他の原発も含む廃炉費用や被害者への補償費用を東京電力がいかに調達するかという問題への対応に迫られ、金融市場の沈静化のため東電救済計画を検討しているが、それは最悪の選択肢で、必要とあれば東電を破綻に直面させるべきだ、と主張する。政府が検討中と伝えられる保険機構の設立は、すでに米国の規模を上回っている原発事業者向けの民間強制保険を拡大するもので、98年に実施した経営が悪化した銀行の救済方法と類似しているが、東電は銀行と根本的に相違するとして反対を表明する。そして、東電は、世界最大手のエネルギー取引会社であった米エンロンと同様に考えるべきで、エンロン破綻は混乱を引き起こしたが、システム全体を不安定化させることはなかったと指摘、東電は法の適用を免れるほど重要な存在ではないと断定する。

原発事故との関連で、一つ注目すべき報道がある。4月19日付人民日報の「米メディア:日本には民用プロジェクトを軍事転用する伝統がある」と題する日本語電子版記事である。日本の著名なジャーナリストが米メディアに発表した記事を紹介する形で、東日本大震災発生後、福島第1原発の放射能漏れに関する日本政府と東京電力の説明は矛盾だらけで、しかも外国の救援隊を原発内に入れることを拒んだと指摘し、その上で、同原発には人に知られたくない秘密があり、それこそ極秘の核兵器開発計画かもしれない、と報じたのである。さらに、日本人ジャーナリストのコメントとして、日本には一貫して民生用プロジェクトを軍事転用する伝統がり、1994年に当時の羽田首相が日本に核兵器製造能力がありと認め、安倍晋三元首相も日本は北朝鮮の核の脅威に対処するため核兵器を発展させることができると表明した、などと伝えている。

サプライ・チェーン断絶の影響

大災害と原発事故、電力不足によるサプライチェーン断絶に関する報道も多い。3月16日付ニューヨーク・タイムズの「日本企業の長期操業休止でサプライチェーンに懸念発生(Long Pause for Japanese Industry Raises Concerns About Supply Chain)」は、巨大地震と津波により日本企業の生産が長期間停止するため海外の顧客や取引先への部品供給のサプライチェーンに重大な懸念が生じたとし、日本が誇る「ジャスト・イン・タイム」が「ウエイト・アンド・シー」に変わったと伝える。実例として、米GMは、トヨタのプリウスに対抗して開発した最新鋭のハイブリッド車、シボレー・ボルトの生産が日本からのトランスミッション供給不足のため休止に追い込まれたと報じる。

さらに、3月22日付ワシントン・ポストの「米に反響する日本の大惨事、経済や当局、個人に及ぶ(Japan's catastrophe resonates at economic, regulatory and personal levels)」は、GMの米ニューヨーク州バッファローにあるエンジン工場の労働者が日本からの部品の供給不足によりレイオフされることになったと伝える。また、3月28日付フィナンシャル・タイムズ記事「車の部品、素材、日本の余震で打撃(Car components hit by Japan aftershock)」は、コンポーネント不足でプジョー・シトロエンやジャガー、GMオペルなどが減産に追い込まれたと報じる。

日本政府や企業に対する批判的論調の登場

日本に対する批判的報道も目始めた。3月31日付ウォールストリート・ジャーナルの論説記事「日本再生の先頭に立て、菅首相(Lead Japan to Recovery, Mr. Kan)」で、被災地訪問が遅れている菅首相に対する日本国内の批判、特に災害対策の態勢作りや原発事故への対応振りなどへの国民の不満を紹介する。ただし、同紙は阪神大震災後の自民党政権の取組と比べて民主党政権はうまく対応しているとし、特に諸外国の援助を迅速に受け入れたことを評価する。そして、今後の課題として、電力不足とそれによる景気減速への対策など経済の建て直しが急務とし、国民の多くが復興のための増税を支持しているが、増税は企業の競争力を奪い、個人消費の落ち込みを招くとして、むしろ被災地への投資や地元起業家を奨励する優遇税制を導入すべきだと提言する。

3月25日付米ビジネス・ウイークの「沈黙するトヨタ、パナソニックの経営陣、震災懸念で株価は下落(Toyota, Panasonic CEOs Silent as Quake Concerns Hurt Shares)」で、日本の大手企業が被害状況について十分に情報を開示していないと批判、次のような専門家のコメントを紹介する。「日本では、社長は従業員のために会社を経営するという考え方がきわめて強い。それで、こうした事態になると社長は、投資家はどうでもよい、などと発言するのが珍しくない。欧米では、企業の株主と情報開示に対する責任感が強いと語る」

見方が分かれる円売り協調介入の効果

先進7カ国(G7)は3月18日、大震災後の日本に対する支援策の一環として、円が前日に1ドル=76.25円の歴史的底値をつけるとそれまでの方針を転換して協調介入に合意、日銀とともに米英加の中央銀行がいっせいに円売り介入を実施した。介入後の円は、ドルやユーロに対して弱含みで推移し、一時、対ドルで7%強も下落した。

4月6日付ウォールストリート・ジャーナル記事「有効だった円介入(Yen Intervention Paying Off)」は、こうした円の動きを踏まえて、円の協調売り介入が成功だったと述べ、円が今後、どこまで下落するか、と問題提起し、次のように報じる。円は4月初旬、欧州中銀の利上げ観測を背景にしてユーロに対しても11ヶ月ぶりの安値を付け、過去2年間にわたり強含みで推移してきた円が遂に転換期を迎えたとの見方が関係者の間に強まった。介入成功の理由の一つは、将来の介入を警戒するトレーダーが円高に上限を設定したことがある。これにより個人投資家などが安心して円キャリー取引を復活し、円売りに出た。もう一つの要因は、核の恐怖と電力不足により日本経済を取り巻く条件が悪化し、製造業と輸出産業が打撃を受けたことがある。

ただし、同紙は、円介入の成否は長期的に観察する必要があるとし、昨年9月の日銀による単独介入の数週間後には円が介入前よりも上昇した例や、日本の持続的な貿易黒字により円は対ドルで80円以上の円高になる可能性を予想すべきだとするドイツ銀行の見方を紹介する。また、スタンダード・アンド・プアーズは2011年の日本経済の成長率を1.9%から0.7%へ下方修正したが、12年には日本経済は校型に回復し、ドルは1ドル=90円台にまで上昇すると見ているとし、こうした円安は、震災で大きな被害を受けた日本企業を支援すると予想している、と報じる。

その一方で、円高は膨大な復興需要を持つ日本にとって不利との論調もある。3月25日付ウォールストリート・ジャーナルの「Let Japan Be Land of the Rising Yen」(同紙日本語電子版「円高は日本を救う」)は、G7による円売り協調介入は日本に打撃を与える政策になると以下のように主張する。日本は復興のため多くの物資を必要としている。このため食品や建設資材などの日本向け供給を増やすことが重要になる。円高は輸入コストを下げ、製品やサービスを日本に入りやすくする。介入は円の調整速度を緩やかにし、相場のボラティリティーを下げるが、今は調整を早めて日本に物資が入るのを早めることが重要だ。ボラティリティーの急上昇は相場が適正な水準を見つける過程の一部であり、そのボラティリティーを下げることは結局相場安定を遅らせる。さらに中央銀行は、介入は外貨準備高の増加に繋がるとして、介入を正当化しようとするが、今の日本はドルやユーロ建て資産を必要としていない。日本には巨額の円建て資産があり、今はこの余剰資産を使うべき時である。

これに対し、3月17日付フィナンシャル・タイムズの論説記事「円介入(Yen intervention)」は、先ず17日に1995年の最高値を更新した円は、日銀の過去30年間の実質実効相場平均値からみて妥当な水準であり、不当な高値ではないと指摘する。その上で一日に3%以上も上昇した円の変動はあまりに急激であったとして、与謝野・経済財政担当大臣の、円急騰は日本の保険会社ではなく投機筋による円買いに原因があるとの談話を引用し、市場の懲戒と日本の国家的緊急時への対応として必要であったとして、G7による協調介入の決断を容認している。

結び

以上、多重災害という厳しい状況の中で主要紙は先ず、日本社会の特質として克己心、不屈の精神、隣人愛、冷静さを取り上げ、これが今回の大震災の現場で遺憾なく発揮されたと評価する。その一方で、震災被害の潜在的な大きさに警告を発し、今後の早期復旧努力を促すとともに、経験の少ない菅政権に不安の念を表明している。同時に、これが現政権、ひいては低迷する日本にとって起死回生の機会になるかもしれないと提言する。さらに、日本経済の早期回復の重要性を訴え、これが東京一極集中の是正や労働市場の開放への契機になり得るとし、民主党政権が適切に対応すれば、二大政党制への道筋もつけられると期待を示す。

以上のような主要紙の論調は、災害の被害があまりにも甚大でその規模すらも未だ予測がついていない現状、日本への激励として心強い。しかし、同時に主要メディアは、菅首相に積極的な行動を促し、原発事故に関連して電力業界と政府の癒着の是正を求め、さらに、日本企業の経営者の投資家に対する情報開示の姿勢も批判する。こうした提言や批判には、政府、業界はもちろん、われわれ国民も耳を傾けなければならないだろう。

復興が進む中、気がかりは原発事故の収拾である。主要紙も原発事故の帰趨にも強い懸念を示している。原発事故が日本だけの問題でなく、世界に与える影響が大きいだけに、これは当然といえるだろう。日本政府は指導力を発揮して諸外国の協力も得て迅速果敢に取り組む必要がある。幸い、米仏など最先端の技術を保有する各国も支援に乗り出している。クリーンエネルギーの寵児である原発の今後の成否を決する今回の事故は、人類が総智を傾けて対処し、その体験を人類共通の財産として蓄積しなければならない挑戦である。東電解体論や日本による核兵器開発疑惑は、一つの極端な見方といえるかもしれないが、こうした意見や疑惑が主要メディアに登場することを十分念頭に置いて、日本政府は今後の問題に対処する必要がある。

日本企業の長期にわたる営業休止がサプライチェーンに打撃を与え、グローバルな生産に異変を引き起こした。日本経済は規模で中国と僅差の世界第3位となったが、サプライチェーン危機に象徴されるように実質的には質量とも世界第2位の経済大国であることに変わりはない。はからずも大災害はそうした現実を明らかにしたといえる。日本には、その自覚と責任感が求められている。日本経済の早期回復を願う声は、日本がこのまま沈没することへの恐怖の表れに他ならない。

主要国政府が大災害に直面した日本に対する支援を最も迅速かつ真摯に表明した行動が、円高是正に向けた協調介入であった。だが、円高是正は日本の輸出産業を支援して復興に役立つという主張と、復興のために物資の輸入を必要とする日本には円高是正は有害という主張が対立して提示されている。それぞれに、それなりの論拠があるといえるが、WSジャーナル記事が指摘するように、短期的な効果だけで判断すべきではなく、長期的な視点から吟味する必要があるであろう。ただし、過度の相場変動の回避や投機的動きの懲戒が急務であったことは間違いなく、4月14日に開かれた主要7カ国(G7)財務相・中銀総裁会議も協調介入が円相場の急激な変動の抑制に役立ったという見方で一致した。だが、現在の円相場が円高であるという認識が共有されたわけではないことを日本は銘記すべきであろう(2011年4月26日)。

( 2010年04月26日 / 前田高昭 )

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前田 高昭 / TAKAAKI MAEDA
日本翻訳協会会員、日本英語交流連盟会員、バベル翻訳大学院(USA)プロフェッサー
東京大学法学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東銀リース(株)に勤務。銀行では内外拠点で広く国際金融業務に従事。アジア、中南米、北米(ニューヨークに6年半)などに在勤。東銀リースでは中国、香港、インドネシア、フィリピンなどでの合弁企業の日本側代表、また国内関連会社の代表取締役社長を務める。リースは設備・機械・プラントなどの長期金融を業とし、情報機器、船舶、航空機などが代表例。現在はバベル翻訳大学院(USA)で国際金融翻訳講座を開講するほか、バベル社翻訳誌「リーガルコム」の「World Legal News」欄に毎号寄稿。同誌を承継したWEB版「The Professional Translator」に現在、定期寄稿中。訳書に「チャイナCEO」(共訳)ほか。米英ジャーナリズムのアジア、日本関連記事を翻訳、論評する「東アジア・ニュースレター」をメルマガに連載中。
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